リミックスのマエストロ砂原良徳が語る東京事変「噂のミックステープ」(後編)

初のオールタイム・ベストアルバム『総合』を発表した東京事変。その生産限定盤のスペシャル特典に、「噂のミックステープ」と名付けられたカセットテープが封入されているのだが、収録されているリミックス音源を手がけたのが、まりんこと砂原良徳だ。昨年は、自身の記念碑的作品を20年振りに“最適化”した『LOVEBEAT 2021 Optimized Re-Master』発表、フジロックにはMETAFIVE(砂原良徳×LEO今井)として出演、さらにDJで最終日のクロージング・アクトを務めるなど、精力的に活動を続けている彼にインタビューを実施。前後半に分けてお届けする。後半は、リミックスそのものや劇伴、そしてパンデミック下の活動について聞いた。

前編の記事はコチラ

インタビュー・文:山口哲生
撮影:笹森健一

リミックスにおけるゴールや正解は何処にあるのか

砂原良徳

──砂原さんのところにリミックスの依頼はかなり来ると思いますが、お話を受けたときに、やってみようと思う決め手みたいなものはあるんですか?

自分ができそうだなということと、リミックスを依頼してくれた方のリスナーに対して、自分がおもしろいことをできるかどうかというのはあると思いますね。今回の東京事変に関しては、成熟したリスナーから音楽を最近聴きはじめた人まで結構レンジが広いと思うんですよ。なので、玄人っぽい人とか、テクノっぽいものが好きな人とかもいるのかなと想像しました。なんとなく。無責任に(笑)。

──まずリスナーの方に何ができるのかを考えられるんですね。

僕のリスナーも聴いてくれるとは思うんですが、主に聴くのは東京事変のファンの人たちなので。そういう人たちに対して、自分のアプローチがおもしろいと思ってもらえるかなという想像はもちろんしますね。頼んでくる人たちは、おそらく自分たちのリスナーに楽しんでもらいたいとか、驚きみたいなものがあればいいなと考えているんじゃないかなと思うので。

──いつもリミックスをされるときは、作業し始める最初の段階からゴール地点まで見えているんですか?

そこはもちろん。だから、ゴールに行くためのプロセスを作っていくというか。たとえば、作曲者がいて、プログラマーがいて、エンジニアがいて、マスタリングエンジニアがいて。それが全部分業だったら、みんながそれぞれゴール地点を考えるわけですけど、それが必ずしも一致しているとは限らないんですよ。この人はこっちに行きたい、この人はあっちに行きたいっていう。それでゴールに着いてみたら、誰も行きたい場所じゃなかった、とか(笑)。

──はははははは(笑)。

そういうこともたまにあるので。だから、僕の音を聴いて、「良い音ですね、どうやったらこういう音になるんですか?」って質問されるんですけど、別に何か魔法を使っているわけじゃなくて。ひとつひとつのプロセスがゴールに向いているということが大事なんですよね。好きな道具や使い方はもちろんあるけど、この機材を使えば良い音になるわけじゃないし、こうすれば良い音になるわけでもない。曲を作るときにキーを決めるところから決まってきますからね。あとは、どういう音を「良い音」とするのかという、その人の感性が大事。そこがズレていたら、何を買っても何をやってもダメなので。音が良い/悪いということに、絶対的なものはないんですよ。おいしいとか、おしゃれとか、美人とかと同じ。だからすごく難しいですよね、そういう意味では。

──あくまでも自分の基準を持っていないと、良いと思うものがわからない。

それと、「これが良い音だ」という自分の感性を、自分が本当に信じているかどうか。だから、スポーツ競技みたいな点数がはっきりしているものは、ラクでいいなと思いますね(笑)。音楽は何が勝ちで負けなのか、よくわからないから。

──砂原さんが良いリミックスだなと思う傾向みたいなものってあるんですか?

いろいろありますよ。リミックスも正解がひとつじゃないので。たとえば、オリジナルができていなかったことを、本当はこうしたいんじゃないかなっていう方向に追い込んだものとか、歌は全部残しているんだけど、全然違う曲になっていて、しかもちゃんと成立しているものとか。あとは、曲が持っているイメージの一部分だけを拡張して、それで全体を覆ってしまうとか。

──アイデアの勝負というか。

そうですね。僕はだいたいいつも直感で、こうしたらおもしろいんじゃないかなというのが、パっと思いつくか、思い浮かばないかというのを大事にしてます。思い浮かばないときは大変です(笑)。リミックスはある意味、これをやったらいけないということがないですから。それこそ90年代にリミックスバブルみたいな時代があったんですけど、李博士(イ・パクサ)のポンチャックのリミックスの話が来たときに、スタジオを借りてもらって、ドラムもギターもベースも全部自分で演奏したことがあって(笑)。

──へぇー(笑)!

打ち込みは1個もなく、スタジオにたまたまマリンバがあったから、それも入れてみたりとか。李博士はストレンジなおもしろさがあったから、テクニックが無くてもおもしろくなるというか、とにかく一生懸命やって、そのままの一生懸命さが伝わったらさらにおもしろいんじゃないかなと思ってやってみたんですけど、それでもそこそこまとまっちゃうんですよ。そんないい加減なことすらありというか、成立してしまえばなんでもいいっていう。でも、そんなことをやってたなぁ……(笑)。

──現在のお話もいろいろお聞きしたいです。昨年は『LOVEBEAT 2021 Optimized Re-Master』を発表されましたけども、現在の作業としては、ご自身の新譜を作ろうかと考えているところもあるんですか?

まだ新譜には取り掛かっていないんですが、作業しているものはありますね。あとは、定期的にマスタリングをやったり、DJもやったり。後まだ言えないこともあります(笑)。

音と説明のスキマや余地

──常に手と頭を動かしているという。あと、「シュガー&シュガー」(NHK Eテレ)の『シュガシュガ選曲歌劇場』(編集部注:映画、ドラマのような映像の中で流れている音楽を変えることで見ている側の印象がどう変わるかを、実際に同じ映像に様々な選曲家が音楽をつけて実験するという番組コーナー)に何度も出演されていましたけども、第17回放送の「街でのすれ違い」の選曲が印象的でした。 あのアイデアもパっと浮かんだんですか?

最初に映像を観たときに、映像を作った人の意図を感じたんですよ。(編集部注:街中で若い男女がすれ違おうとするが同じ方向に動いてしまい、なかなか上手くいかず最後にやっとすれ違うという15秒ほどの映像)おもしろい映像にしているから、おもしろい音を選曲者から引き出そうとしているなと思って、いや、その手には乗らないぞという話ですよ。

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