当連載「押井守のサブぃカルチャー70年」が、押井さんがYouTubeを語る連載と化して早8回目。押井さんがよく見るという食べ物系YouTubeチャンネルの話題を通して、YouTubeに見える「幸福」と「食」について考察します。
取材・構成/渡辺麻紀
<新刊情報>
加筆&楽しい挿絵をプラスして待望の書籍化!
『押井守のサブぃカルチャー70年』が発売中!
当連載がついに書籍化します。昭和の白黒テレビから令和のYouTubeまで、押井守がエンタメ人生70年を語りつくす1冊。カバーイラスト・挿絵は『A KITE』(1998年)などを手掛けた梅津泰臣さんが担当し、巻末では押井×梅津対談も収録。ぜひお手に取ってみてください。
押井守/著
『押井守のサブぃカルチャー70年』
発売中
発行:東京ニュース通信社
発売:講談社
カバーイラスト・挿絵:梅津泰臣
文・構成:渡辺麻紀
全国の書店、ネット書店にてご購入いただけます。
YouTubeというのは個人のメディア。だから、個人が透けて見えてこないと面白くない
――前回は「たっちゃんねる」について語っていただきました。今回は、同じく食べ物系チャンネルの「ニカタツ」ですね。
ニカタツBLOGは二階堂達也という男性がやっているのでニカタツ。これが本名なのかは知らないけど一応、そう名乗っているよね。週に2、3度アップしていて、すでに300ぐらいあげているから、本職の傍らユーチューバーしているという感じじゃないかな。私はこれが本職だと思っているんだけどさ。サラリーマンだとこの頻度は難しいんじゃないのかな。
栃木や群馬にも行っていて行動範囲は広い。おそらく東京在住だと思うけど、真相はわかりません。顔を出していて、自宅も出ていたけど、どうも自宅は嘘っぽいんだよ。
――爽やかな感じの人ですね。押井さんはどういう経緯でこのチャンネルを知ったんですか?
偶然です。たまたま見て面白かったので見るようになった。印象がよかったのは、あまり喋らないところ。ほとんどがテロップで、ときたま喋るだけ。そこがまず気に入った。
――凄く大盛りのご飯食べてますね。漫画に登場するカリカチュアされたようなご飯。これを全部、食べちゃうんですか?
そうです。しかもとてもきれいに食べる。蕎麦やうどんの麺類をすするときも途中で嚙み切ったりせずに食べる。もちろん、ほぼ完食ですよ。ラーメンのスープもすべて飲み干す。白いご飯が大好きで、ご飯のおかずにラーメンを食べたりスパゲティを食べたり、果てはピザも食べるから。
――ラーメンライスというのは普通ですが、スパゲティやピザでライスというのは聞いたことないですよ。
ニカタツさんは何でもご飯のおかずにする。チャーハンをおかずにご飯を食べるくらいだから。「このチャーハンはおかずになる。ライスが欲しいな」と言って食べるんです。彼の頭のなかには多分、おかずとご飯という組み合わせしかないんだと思う。最後はチャーハン丼と言って、ライスにチャーハンをのっけて食べる。
――そ、それは凄い(笑)。
手でお茶碗やどんぶりをもって食べると、美味しさが三割増しになるという持論が彼にはある。だから最後は、ちゃんと手にもって食べるために自分でどんぶり飯を作るんですよ。ラーメンのときは、野菜の残りをご飯にのっけて食べるし、ときにはそのスープを入れてお茶漬けというかスープ漬けにして食べる。
いつも大盛りご飯というわけじゃなく、4つのお茶碗にわけて頼むときもある。ひとつのお茶碗はラーメンの具材をのせて食べ、もうひとつはスープをかけて、もうひとつは煮卵と海苔みたいな感じで味を変えてご飯を楽しむんです。どうも卵と海苔の組合せが好きみたいで「これが一番美味しいんだ」って。
――サイトの扉が煮卵ですが、それは卵好きだから?
とにかく卵が大好きなんだよ。煮卵なんて3、4個じゃ満足できなくて、7個、8個食べる。回転寿司に行ったときも、「何を食べようかなー」と言いながら結局、食べたのは卵だけ。卵だけ30貫ぐらい食べる。ニカタツさんは白いご飯と卵が大好きなんです。あとはひき肉料理も好きだよね。「ひき肉料理に外れナシ」という名言もあって、ハンバーグとか麻婆豆腐とか、かなり食べてるよ。
まさに糖質と脂質、美味しいものはこのふたつで出来ているということを証明するかのようなメニューですよ。
――でも、当人はほっそりしてますよね。小ぎれいです。
あれだけ食ってるのに、一体どこに収まっているんだと言いたいくらい太ってないし、健康的っぽく見える。
――食べ方が変わっているというかユニークなんですね。
ラーメンの場合は、まず麺を先に食べちゃって、残ったスープでどんぶりを作る。麺は伸びるのが嫌なので先に食べるんです。そういう意味では理に適っている。
ほら、「三角食べ」というのがあるじゃない? ご飯や汁物、おかずを交互に食べる食べ方。普通の食べ方だよね。でも、ニカタツさんはそんなことしない。ひとつずつ殲滅して行くんです。麺は延びるから先に殲滅させ、煮卵は大好きだから先に食べる。ドリンクもご飯と一緒に飲むんじゃなくて、最後に一気飲み。水とかウーロン茶を、食事をすべて食べ終わったあとに一気にゴクゴク飲む。「これが爽快なんだ」って。この人なりの食べ方があり、その理由もはっきりしているんです。
しかも低予算なんだよね。B級グルメ……というか、普通の人にとっては「グルメ」じゃないかもしれないけど、自分なりの「B級グルメ」を追求して大体、3000円以内。たっちゃんねるは必ずビールを飲んでいたし、それなりに高い店でも食べていたから1日の食べ歩きだけで2万円くらいは使っていた。でも、ニカタツさんはどう見ても3000円以内。酒は一切飲まず、ひたすら食べまくる。その低予算のなかで、どれだけ自分が幸せになるのかを追求しているんです。
――ということは、ニカタツさんも幸福論ですか?
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