押井守のサブぃカルチャー70年「石ノ森章太郎の巻 その2」【2020年10月号 押井守 連載第6回】

連載第6回となる今回のテーマは、前回に続き「石ノ森章太郎」。『009』が大好きすぎる押井さんだが、いつの間にか話題は『攻殻機動隊』にそれてしまい、制作秘話を明かしつつ、ガンオタ魂に火がついてしまう…。
取材・構成/渡辺麻紀

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ガジェット系の理屈を映像化するのは大きな課題
『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』のときは…

――前回に続いて石ノ森章太郎の『サイボーグ009』(1964年~)についてです。

日本人はサイボーグに抵抗がないからね。『エイトマン』(1963~1965年)、『009』、『仮面ライダー』(1971年~)……改造人間大会ですよ。改造人間に抵抗がないのは日本の文化の特徴と言ってもいい。

――ということは、西洋の人たちは抵抗がある?

宗教的、倫理的な問題があるから。人工臓器の問題にしても日本人はわりと平気なようだし、基本的に日本人は身体をいじくることに抵抗がない。それで日本のヒーローにサイボーグ系が多いんです。
これは考察に値する問題だと思うよ。だって純然たるロボットのヒーローとなると『鉄腕アトム』(1952~1968年)くらいなんじゃないの? 人間が操縦している『鉄人28号』(1956~1966年)や『マジンガーZ』(1972~1973年)等を別にするとね。等身大のヒーローはイコール、サイボーグなんですよ。
そういう先鞭をつけたのが石ノ森。ちゃんとサイボーグのボディの設計図もあって本格派っぽかった。加速装置とかもね。

――奥歯がカチっと鳴るんですよ。あれはかっこよかった。

そういうガジェット系に、ちゃんと理屈を通すのが映像化するときは大きな課題になるんです。
わたしも『攻殻』(『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』<1995年>)のとき、光学迷彩の表現でとても悩んだからね。理屈はわかる。でも、それをどうやって視覚化するのか? 実はいろんな方法を使っていて、光学迷彩シーンはカットによって方法が違っているんです。どうやっても自分が考える光学迷彩のイメージにはならなくて、最終的には光の屈折感で表現するしかなくなった。

――プレデター方式ですね。

そうです。今だと全部CGで出来るんだけど、当時は全部をCGでやるととんでもなくお金がかかったから、実は2カットしかデジタルは使ってない。あとはすべてマスク合成です。光学迷彩を喜んだのは欧米人のほう。日本人は忍者がいるから、そんなに驚かなかった。

――「隠れ身の術」とか呼んでる、消える忍びのワザですね。

忍者の場合はちゃんとした説明はいらないだろうけど、SFはそうはいかない。
わたしがもっとも考え込んだのは、漫画では顔まで消えてしまうところ。それってどういう理屈なの? 体をスーツで覆ったように、顔もすべて覆うわけ? わたしはそれでは説得力がないと思い、紗のマスクを着けたんですよ。迷彩が解けるとき、一緒に消えるんです。レンズのないゴーグルをなぜつけるかと言えば、透明人間と同じで、目が見えなくなるから。レンズのないゴーグルは無人機の発想と同じだよね。光学迷彩を着た素子がビルから飛び降りるとき、顔を隠すのは、自分で自分の存在を消し去るという意味だったんです。
光学迷彩は視覚化する上でとても苦労したものの、誰もそれについては尋ねてくれなかった。だから、ここで言ったのが初めてですよ。観客は肝心のところを見てくれないんだなーって思っちゃうよね。

――そうかもしれませんね。インタビューしていても、すっごい些細なことでも、それに気づいてくれてありがとうと異常に喜ぶ監督っています。それを聞いて、監督にとっては重要だったんだって気づくくらいで。

同じ『攻殻』でバトーが車から降りた瞬間にホルスターに手をかけて、真っ先にやった動作を憶えてる?

――もちろん、憶えてません。

あの数秒のシーンにも、わたしのガンオタとしてのこだわりが詰まっているんだけど、それに気づいてくれたのはどこかのお笑い芸人だけだった。バトーは車から降りた瞬間、いつでも撃てるようにデコッキングレバーを戻しているの。それも、手元も見ずに、ごくごく自然にやっている。手が勝手に動いているかのようにね。それはすべてわたしが指示して描かせたんだから!
実は『攻殻』は銃器に関してはマニアックな作品。あえて言わせてもらうと、画期的な作品だったんですよ。銃器設定をあれだけ細かくやった初めてのアニメーションだと言っていいと思う。今はもう、結構やるようになったけれど『攻殻』当時はずさんだった。極端なことを言えば、リボルバーとオートマチックの差もわからない人間がやっていたからね。シングルアクションとダブルアクションとか、知ってる人のほうが少ないくらいだった。ましてやデコッキングレバーなんて。

――もちろん、わかりません。

だよね……それを説明しだすと時間がかかっちゃうから割愛するけど、そのお笑いのおにいさんはきっとガンオタなんです。偶然見たWOWOWの放送で、そのシーンを見てシビれたと言っていたから。彼だけだからね、気づいてくれたのは! 光学迷彩に関しては誰も気づいてくれなかったんだから!

――すみません! でも今、ここで言えましたが、それじゃダメですか?

あのさー……だから、映画のディテールっていつもそうなんですよ。こちらが100も200も考えて忍び込ませるのに、気づいてもらえるのは10くらい。じゃあ、そんなことやらなきゃいいという人もいるけど、そうするとツルツルのリアリティもヘチマもない映画になっちゃう。サーの映画を観てれば分かるでしょ? 『ブレードランナー』(1982年)なんてディテールの塊じゃない。

――『ブレラン』はディテールのみと言ってもいいくらいですもんね……って押井さん、『009』の話です。じゃあ、『009』の映像版はどうだったんですか?

東映動画(現・東映アニメーション)が作った劇場版(『サイボーグ009』<1966年>)が最初の映像化ですよ。TVシリーズはそのあとだから、通常とは逆の順番だった。
ただし、この劇場版が酷かった。劇場に詰めかけたファンは大激怒ですよ。なぜかと言えば、お子様向けに作っていたから。当時の東映動画といえば、もれなくお子様向けだったんですよ。ふざけんなって、みんな大ブーイング。そのあとも長編(『サイボーグ009 怪獣戦争』<1967年>)が作られたけれど、まあ1作目よりはマシになった程度。この辺は『009』の黒歴史。わたしたちが望む『009』は(高橋)良輔さんがサンライズで作ったTV版(『サイボーグ009』<1979~1980年>)まで待たなきゃいけなかった。

――それはかなり時間がかかってますね。

でも、待ったかいはあった。良輔さんの『009』はめちゃくちゃかっこよかったから。良輔さんらしい『009』でありつつ、石ノ森のテイストも十分に残していた。このシリーズは伝説になっているくらいだからね。
そのあと、テレビ東京でオンエアされたバージョン(『サイボーグ009 THE CYBORG SOLDIER』<2001~2002年>)は、とことん原作に忠実にやっていた。絵柄までそっくり。わたしはチラっと見たけど、原作まんまで動かしましたというだけの作品。石ノ森のキャラクターを寸分たがわず再現して動かせば、ファンはみんな大喜びすると思ったんだろうけど大間違い。やっぱり時代のニーズに合わせないとダメなんです。いまだにでっかいボタンが並んだ制服に、3メートルはあるマフラーをなびかせるというのはナシですよ。神山(健治)もかなり苦労していたからね。

――押井さん、あの神山さんバージョン『009 RE:CYBORG』(2012年)ですね。これについては、いろいろと語りたいんじゃないでしょうか?

だってあれはほら、最初はわたしがやることになっていたんだから。

――はい、その続きは次でお願いします!

<解説>
『サイボーグ009』が好きすぎる押井さんのお話第二弾をお届けします。お子様向けに作られた劇場版に大きなショックを受けた押井さんはこのとき中学3年生くらい。すでにSF者としての道を歩み始めていたので、さすがにお子様仕様では許せなかったようだ。劇場版2作は長編とはいえそれぞれ60分程度。『東映こどもまつり』枠で公開された。TVシリーズでは高橋版のまえに1968年に放映された東映動画バージョンもある。こちらは全26話でモノクロ。高橋版は全50話、カラーで作られた。

<プロフィール>
押井守(おしい・まもる)●1951年東京都生まれ。映画監督。大学在学中より自主映画を制作。1977年、竜の子プロダクション(現・タツノコプロ)入社。スタジオぴえろ(現・ぴえろ)を経てフリーに。主な監督作品に『機動警察パトレイバー the Movie』(1989年)、『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』(1995年)、『イノセンス』(2004年)、『スカイ・クロラ The Sky Crawlers』(2008年)など。また、近著に『誰も語らなかったジブリを語ろう』、『シネマの神は細部に宿る』、『押井守の人生のツボ』(すべて東京ニュース通信社刊)など。

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TV Bros.編集部
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