おとどちゃん連載・16「Seaside Daydream」

今年で創業91周年! 高知県桂浜にある小さな水族館から大きな声で、いきものたちの毎日を発信中!

広報担当・マスコットキャラクターのおとどちゃんが綴る好評連載第16回は、“ハマスイの小栗旬”こと名物飼育員・盛田のおんちゃんの近況。おんちゃんの著書は、Amazonでプレミア価格に高騰しております(マジ)。

以前のお話はこちらから。

漫画家「羽海野チカ」の代表作「ハチミツとクローバー」は、美術大学を舞台に描かれた青春群像劇だ。作中に登場する美大生「森田」は、とにかく自分の欲望に忠実でめちゃくちゃな性格のくせに、こと美術に関しては天才的な才能を持っている。

私は「盛田のおんちゃん」と初めて出会った日、このキャラクターのことを思い出した。そうしておんちゃんと過ごす日々の中で、舞台や見た目こそ違うが、欲望の奴隷で天才肌な異端児「盛田」は、まさに「森田」だと感じるようになった。

ある日のこと。ベテラン飼育員が、数十枚の写真とともに一冊のファイルを事務所に持って来た。色褪せ、日焼けして年季の入った若草色のファイルの表紙には、「海辺の白日夢」と手書きで記されている。背表紙にも、同じく「海辺の白日夢」と、レトロな字体で書かれた新聞の切り抜きが貼られていた。約六十ページに及ぶそれは、二十五年ほど前に盛田のおんちゃんが高知新聞で連載していたエッセイ風小説をまとめたファイルだった。

平成八年一月一日から掲載が始まった「海辺の白日夢」は、三カ月間まいにち続き、連載終了後のあとがきでは「原稿ノイローゼだ!」と、堂々たる文句が見出しを飾っていた。その後、「海辺の白日夢」は、一冊の本にまとめられ、ひたむきな青春記として出版された。北海道で生まれた彼は、子どもの頃から魚が好きで、水族館で働くのが夢だったという。その一方で小説家もめざしていて、過去には「第十三回潮賞」を受賞している。

「文学は娯楽である」というのが信条だそうで、そういうところも天才たる所以だと思う。実に憎い。夢を叶える才能を開花させ、天才と呼ばれる誰しもが陥るのであろうスランプもしっかりと遊戯する。

二度の結婚と離婚を経ている彼は、還暦を前にして、重い病気に身体を蝕まれ、今では二日に一度の人工透析が人生のパートナーとなっている。

桂浜水族館のスタッフたちは、だいたいみんなご近所さんだが、私が一番おんちゃんと家が近い。そのため、週に二日、水族館でアルバイトをしているかたわら、ペットシッターの仕事もしている彼が、お客さんから預かった犬と散歩しているところによく鉢合う。あまり体調が芳しくなさそうな日に、よぼよぼの老犬と歩いている姿は、「犬を散歩させている」というよりは「犬と散歩している」といった方がしっくりくる。

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