裏切られた映画たち(仮)【2023年11月号 押井守連載 #4『オンリー・ゴッド』】

“裏切られた映画たち”とは、どんでん返しなどではなく、映画に対する価値観すら変えるかもしれない構造をもった作品のこと。そんな裏切り映画を語り尽くす本連載。今月は、ニコラス・ウィンディング・レフンとライアン・ゴズリングがタッグを組んだサスペンス『オンリー・ゴッド』!
なお、この記事は『TV Bros.』本誌12月号(発売中)でも読むことができます。
過去の連載はコチラから
取材・文/渡辺麻紀
 撮影/ツダヒロキ

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TV Bros.WEBの人気連載『押井守のサブぃカルチャー70年 YouTubeの巻』が12月28日(木)発売決定!

“わたしはYouTubeという窓を通して、現代社会の在り方がわかるようになった――。”

1951年生まれの監督・押井守がハマったというのがYouTube。
“いま”が凝縮した動画を視聴しながら気づいたその面白さ、そこから垣間見えた現代社会の状況、今を生きる人にとっての「幸福論」、そしてYouTubeというメディアとは一体何なのか?
TV Bros.WEBで好評を博した連載に加筆して待望の書籍化です!

◆カバーイラストは、人気アニメーター&監督の梅津泰臣描きおろし
◆聞き手・構成・文/渡辺麻紀

タイトル:『押井守のサブぃカルチャー70年 YouTubeの巻』
著者:押井守
発行:東京ニュース通信社 発売:講談社
全国の書店、ネット書店にてご予約いただけます。
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『オンリー・ゴッド』:映画における「説得」とは――? 

――今回は『オンリー・ゴッド』(13)です。ニコラス・ウィンディング・レフンによる異色のクライムサスペンス……と言っていいんでしょうか。

間違いなく異色だよね。でも、その前に彼の前作『ドライヴ』(11)について話しておかなきゃいけない。

――『ドライヴ』は、車の整備工&映画のスタントマン&逃がし屋をする青年が、同じアパートに住む母子を好きになり……というお話は普通なんですが、変わったムードがある映画でした。

変わったムードというのは、ロサンゼルスを舞台にしていながらヨーロッパの香りがしたからだよ。なのでハードボイルドではなくノワールだし、漂うのはフランス映画の香り。舞台や出演者、メインの要素はアメリカ映画にもかかわらず、アメリカ映画にはなっていない。格調高く、ノワールが文芸に近づいたような映画になっている。

――ハードボイルドとノワールの違いってどこにあるんですか? 前者はアメリカ生まれで、後者はフランス生まれという認識くらいしかなくて。

ノワールにはモラルがあるんです。主人公が自分のモラルを守って闘う。だから自己献身や自己犠牲、自己奉仕等のニュアンスが強くなる。ちょっとマゾヒスティックなんだよね。一方、ハードボイルドは、もっとポジティブでタフ。主人公も自己肯定的でアクティブなんですよ。

――そう言われると、『ドライヴ』はノワールですね。いや押井さん、『オンリー・ゴッド』ですよ。

いやいや、そんな匂い立つ情緒的な『ドライヴ』の監督が、どんな作品を撮ったんだと思ったら、ヘンタイ丸出しの娼婦殺しから始まる映画だった。これはまさに「裏切られた!」じゃないの!

――そこなんですか!

もうひとつ、私が勝手に思い込んでいて「裏切られた」というのもある。実は『ドライヴ』の監督と『メッセージ』(16)の監督を同一人物だと思い込んでいたんです。名前を覚えられない……。

――ドゥニ・ヴィルヌーヴですね。『DUNE /デューン 砂の惑星』(21)の監督。

そうそう。二人の作品は雰囲気や世界観の持ち方も似ているし、暴力になるとどちらも結構、エグいでしょ。だから勘違いしちゃったんだよね。

――ということは、押井さんのなかにはニコラス・ウィンディング・レフンという監督の名前は存在してなかったわけですね。

『DUNE』のときにやっと、『ドライヴ』と『オンリー・ゴッド』は違う監督の作品だと認識した(笑)。

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