海外遠征、そして肌で感じた凱旋門賞【藤田菜七子 2023年11月号 連載】

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※本記事はTV Bros.12月号コミックアワード号に掲載したものです。

 

 コロナ禍で閉ざされていた海外への扉が再び開き、私の心にも新しい風が吹き込んできました。緊張もするけど、同時に、ワクワク、ドキドキするようなあの感じ。ジョッキーになってよかった。頑張ってきてよかったと思える瞬間です。

 招待していただいたスペインの『セカンド・インターナショナル・チャンピオンシップ・ジョッキーズ』から始まった夢のような2週間の馬旅。まずはカタール経由でスペインへ。トランジットを含めると、ほぼ丸一日の空旅です。時差ボケはすぐに解消(ちなみに、日本に戻って来た時は、3〜4日、時差ボケに悩まされました)。レース前日は騎乗する3頭の馬と、「よろしくね」と挨拶を交わし、調教師の先生から指示を仰ぎ、サルスエラ競馬場の芝コースを自分の足で1周。芝の状態を確かめました。

 コースは日本の競馬場と同じく楕円形ですが、坂の位置が日本とはやや異なります。「そうか、ここに坂があるんだ」「コーナーはこんな感じなのか」などとブツブツつぶやきながら歩くのは、いつものこと。大事なルーティンです。

 夜は、出発の数日前にふと目が止まり、思わず買ってしまった細かい馬柄のドレスに身を包んで、ウェルカムパーティーに出席。肝心のレースは、3戦して4着が最高と、19年にスウェーデンで行われたウィメンズジョッキーワールドカップに続く海外Vとはなりませんでしたが、考えていた競馬は出来たし、自分の中にまたひとつ引き出しが増えたのは大きな成果でした。ひとつだけ悔いが残っているのは、食べたいと思っていたパエリアを食べる機会が1度しかなかったことです。もっといろんなお店で、いろんな味のパエリアを食べたかったのですが……それだけは残念です(笑)。

 次に訪れた“競馬の聖地”フランスのシャンティイ競馬場は、とにかく驚きの連続でした。

 端が見えないほどの直線コースにも感動しましたが、自然に囲まれた芝コースは、ハロン棒もラチもなく、ただただ圧倒的な広さ。しかも、その調教所に行くまでの道は、坂、また坂で、気分としてはほぼ山登りです。

 リップサービスだとは思いますが、凱旋門賞を2度制した世界最高峰の元名トレーナー、ジョン・ハモンドさんから、「来年は8月くらいに来たらどうかな。その時期ならレースでの馬も用意出来るよ」と、かけていただいた言葉は、飛び上がりたくなるほど嬉しい最高の言葉でした。

 フランス、サンクルー競馬場で騎乗するチャンスをくださったのは、犬塚悠治郎オーナーと、現地で開業されている小林智調教師です。お2人をはじめ、今回お世話になった方たちには、もう、感謝の言葉しかありません。本当にありがとうございました。

 結果は、13着。レース直前、小林先生から「着を狙うなら無理しなくてもいいです。でも勝ちに行くならリスクを背負ってでも逃げてください」と告げられ、「勝ちたいです!」と答えた通り、スタートダッシュからハナを主張。後続がついて来たため、頭に思い描いていた単騎の大逃げとはならず作戦は萎んでしまいましたが、リスクを背負って勝負に出たことは、私の財産になりました。

 さぁ、そして、海外遠征のラストを飾るのは、『凱旋門賞』です。

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