賞レースで優勝しまくりたい!                  【「これからの芸人百景」第21回天才ピアニスト】

注目のお笑いコンビを紹介する『OWARAI Bros.出張版これからの芸人百景』第21回は、『女芸人No.1決定戦 THE W 2022』でチャンピオンとなった天才ピアニスト。2022年には、同称号に加えて、『NHK上方漫才コンテスト』でも優勝。2023年には、『第八回 上方漫才協会大賞』を受賞された。社会人経験のある二人は、好きなことを仕事にすることに喜びを感じながらも、成功するための努力を惜しまず、仕事がない時期は1日3回集まってネタ合わせ、2020年からは毎月の単独ライブで新ネタを作り続けてきたという。

 

企画・編集=竹村真奈
撮影=大槻志穂
取材・文=高本亜紀

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集客に苦労した単独ライブも今では満席に

――『THE W』(日本テレビ系)優勝後、一番大きかった変化を教えてください。

竹内知咲(以下、竹内) 以前に比べると、東京に来る機会はめっちゃ増えましたね。

ますみ ライブのお仕事も増えましたし、全国ネットのネタ番組に出られるんはめっちゃ嬉しいです。

竹内 確かに嬉しいな。あと、ライブに出たときに(観客が)知ってくれてそうやなっていう空気を感じられるのもありがたいです。劇場モニターの出番前に出る紹介画面に(獲得した)タイトルが出るのも心強いですし。

ますみ 単独ライブのチケットも完売しやすくなりました。我々は毎月、単独ライブをやっていて。ゲストさんに来ていただいているので、その方々のお力をめちゃくちゃ借りてはいるんですけど、以前は半分とか3分の1しか埋まらへんときもあったのが先行の抽選でハズれたと言われるようになったんです。

竹内 以前やったらありえへんかったね。ネタを観たいって思っていただけてるのは一番嬉しいです。単独ライブはもう2年続けてるんかな?

ますみ そうやね。2020年の『THE W』後からやってるから。

――単独ライブはネタを強化する目的で始めたものだったんですか?

竹内 その年『THE W』決勝に上がれなくて。次点やったっていうのを聞いて、本気でもっとネタを磨いてこうかなと。

ますみ 我々は大阪のよしもと漫才劇場所属で「Kakeru翔」っていう芸歴9年目以下のカテゴリー(2023年2月現在)にいるんですけど、バトルライブであまり勝てなくて。上位を取らないと劇場の出番が少なくなるのに下から数えたほうが早いくらいのランクで、舞台数が極端に少なかったんです。それに、新ネタを出す機会もなかったので。

竹内 単独をやって、一気に新ネタをおろそうと決めました。ただ、集客が悪いと(劇場サイドから)今後のことを考えましょうかって言われてしまうので、毎回必死でしたね。

ますみ 最初の1年くらいはいっつもヒヤヒヤでしたけど、今はありがたいことに満席なんです。

――新ネタをおろす場を得たことによって、賞レースでも結果を残せるようになったということですよね。

竹内 そうですね。コンビによると思うんですけど、私らはバーっと一気に作って間引いて好きなネタだけを育てる方法が量産型のスタイルに合うてるなと思ってます。毎月、単独ライブをやってたおかげで『THE W』の決勝に行けたので、今後も続けてやっていきたい。何より私ら的に一番楽しいライブですし、新ネタ1本をおろすだけではやられへんようアホっぽいネタもできるのがいいんですよ。

ますみ そういうものをテレビの1~2分のショートネタコーナーで出せたりするので、単独での経験が活きてるなってめっちゃ思いますね。あと、漫才劇場へ観に来てくださるファンって10~20代が多いんですけど、我々の単独は30代から70代くらいの方まで観に来てくださってるんですよ。そういう方々って本当に面白くないと笑ってくださらないので、ためになるというか。自分らの単独なのにちゃんとスベるときがあって。

竹内 え、どうしたん? 単独やんな? ってなるとき、あるよな。

ますみ うん、エグい(笑)。そういうしっかりジャッジしてくださるお客さんに来ていただいているのもありがたいですね。

ラジオを聴いて好きになってくれた方が多いのも嬉しい

――ラジオ(※Radiotalk『天才ピアニストの深夜おでん』は1度の配信が12分で構成されている)も毎日配信されてますよね。

竹内 内容が薄いときもめっちゃあるんですけど、ファンのみなさんと賞レースに向けて思っていることを共有できたりもして。12分間だけですけど、リスナーさんが私ら二人と喋ってるような親密さを感じてもらえるツールになれていたらいいなと思ってますね。

ますみ ただね、(話題が)捻り出せないときもあって。タクシーの中で録ったりすることもあるし(笑)、この前は新幹線の車両と車両の間でもトライしました。ぐわーっていう音が入って、さすがに無理でしたけどね。

竹内 駅構内で立ちながら録るかってなったけど、視線が気になってやめました。けど、これからも続けたいなと思ってます。ラジオは今後もやっていきたい仕事のひとつで、この前は『オールナイトニッポンzero』(ニッポン放送)をやらせてもらえたんですよ。

ますみ ラジオトークを始めてすぐ、KBSラジオで番組(『天才ピアニストと澤武の せやけどアレやね』)が決まったのもめっちゃ嬉しかったですね。『THE W』を観てファンになりましたと言ってくださる方と同じくらい、もしくはちょっと上回るくらい、ラジオを聴いて好きになってくれたという方が多いのも嬉しいです。

――元々、別のコンビで解散を繰り返した末に結成されたそうですが、一番しっくりきた理由は?

竹内 芸人になる前、ますみちゃんは看護師、私は教師をやっていて。仕事への取り組み方でバチッと合ったのが一番ですね。それまでの解散も、そこが原因になることが結構あったんです。

ますみ 入学した時点で6年くらい看護師をやってたんで、周りと温度差がめちゃくちゃあったんです。例えば、NSCの授業が終わって何時から何時までネタ合わせしようって決めてるのに、当時の相方に「ごめん。誰々とご飯行く約束したからこの時間まででいい?」とか言われて……え、どっち優先なん? ネタ合わせやからいいよって言ってあげられるけど、これが仕事やったらどうすんの?って思ったり、意識の持ち方の違いで腹立つことがめっちゃあったんです。

竹内 自分が厳し過ぎるんかなって思うこともあったんですけど、(ますみと出会って)こんくらい本気でやらなあかんよなと思いました。例えば、毎日ラジオも始める人は多いんですけど、途切れる人も多いんですよ。

ますみ 今日は何々のために休みますって……。ほんまになかったか? 12分。12分くらい携帯触ってたやろって。我々も食事取りながら、録ったりしてますし。

竹内 おかきの音が入ってるときもあるんですよ。

賞レースで優勝しまくりたい

――それもまた、自然な感じでいいですよね。それにしても、二人ともすごくストイックだなと。

竹内 それまでやってた仕事を辞めてまで始めたくらい好きなことなんやから、一生懸命やるのは当然というか。早く芸人として世の中の役に立てるようになりたいっていう気持ちが強かったのもあります。

ますみ 今みたいに仕事を毎日いただけてないときは、週1回とか2週に1回のライブしか仕事がなくて。それも自分らでお金を払って出てるものですし。

竹内 オーディションやからね。

ますみ それを仕事とするならば、空いてる時間は1日3回集まる時間を設けてました。我々、行きつけの公園があったんですけど。

竹内 公園を行きつけとはあんまり言わんけどな?

ますみ (笑)。お互いの家の間にあった行きつけの公園で、まずは朝8時から10時まで1セット、次は13時から16時まで。お金もないので、その間はアルバイトして、次は22時から深夜0時までとか1日3セット。

竹内 強豪校の部活みたいな感じですよね。

ますみ 二人で会ってネタ合わせしてました。普通に喋ってる時間も余裕で長かったんですけど。

竹内 その時間も別の機会に活きてましたし、とにかく会って喋ってましたね。

――価値観の合う相方と出会えてよかったですね。

竹内 ほんまにそうやと思います。

ますみ がんばるのは当たり前やと思ってるので。ほかのコンビが全然やってないのとか見てても、どういうつもり?って(笑)。

竹内 うちらががんばってるっていうより、みんな、どういうつもり? いつ売れるつもり?ってな?

ますみ 誰かにやれって言われて芸人をやってるわけじゃないから、ネタ合わせの機会は自分で設けないとって。やから、(芸人仲間の)遊びに行ってるとかここに今いますみたいなインスタのストーリーとかTwitterのつぶやきを見ると、余計に燃えますね。

竹内 ただ、私らって遊んでなさ過ぎて、トークのネタがないっていう問題点がありまして。

――例えば今の楽しみはなんですか? お忙しそうなのでプライベートはどうしてるのかなと。

竹内 いやあ、ないですね。

ますみ ほんまにないです。朝早い日が多いんで、家に帰って風呂入って寝てるだけで。

竹内 仕事で溜まったストレスを仕事で晴らすサイクルなんで、いつか限界が来るとは思ってますけど……趣味もないしな。

ますみ 私は映画を観に行くのがめっちゃ好きなんです。あと、車の運転も好きなんですけど、時間がなくて行けてないですね。

――今は仕事に打ち込むときなのかもしれないですね。今後の目標は?

ますみ 賞レースでたくさん優勝してる女性はあんまりいないので、優勝しまくるのはひとつの目標ですね。

竹内 私らは漫才もコントもやってるんですけど、例えば月に6ステあるとして、両方やってると3回ずつしかできない。けど、漫才しかやってない人は6ステ全部で漫才できるんで、私らは出遅れてしまうんですよ。やから、意識的に舞台数も増やしていきたいですね。賞レースは勢いも大事なので、今の流れを途切れさせないようにしたいですし。

ますみ 実力もそこまで伴ってるわけではないですけど、賞レースを獲ってる人って3~4年くらいの間でがーっと獲ってはるイメージがあるので、運がぐっときてるこの1~2年に攻め込みたいですね。で、全国ツアーでぱっとチケットが売れるような、ネタを観に行きたいって思ってもらえる芸人になりたいですし、なんばグランド花月の舞台には立ち続けたい。NGKは知名度と面白さがないと出られない劇場なので。

竹内 めっちゃやり甲斐のある劇場ですね。もちろん知名度でウケが変わるところもあると思うんですけど、NGKでの間の取り方、体の向け方があるんと思うんで身につけていきたいなと。もちろん、若手の劇場へ、笑いの最先端を観に来ている人たちにもウケる存在でもずっとあり続けたいなと思ってます。

天才ピアニスト
竹内千咲(1992年1月28日生まれ、京都府出身)とますみ(1987年4月28日生まれ、奈良県出身)。2016年結成。2022年『NHK上方漫才コンテスト』『女芸人No. 1決定戦 THE W』優勝、2023年『第八回 上方漫才協会大賞』受賞の経歴を持つ。YouTube『天才ピアニスト公式チャンネル メゾン・ド・ラブ』配信中。

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