第45回 アストロサイダー第2回定例報告

 はい! 『球神転生』の2巻が出たので! 1巻が出たときに書いたことと概ね同じことを今から言います! 
 この世界には『アストロ球団』(原作/遠崎史朗 作画/中島徳博)を人生の最上位概念に置き、『アストロ球団』内で起こったことはすべて歴史的事実に基づいた絶対的なものであるという前提で現実の認知を歪めて正気を保つ側の人間、すなわち「アストロサイダー」と呼ばれる者たちがおり、このコラムもそういう人間によって日々「アストロ球団みたいな要素があるかどうか?」を基礎として「野球に野球じゃないものが出る現象」を正当化しています。
 さらにそこに「お父さんが輪転機に巻き込まれてぐっちゃんぐっちゃんになる要素がないか?」「隻眼のキャラが残った眼も潰されて笑い者にされる要素がないか?」「殺し屋の卒業試験で殺した相手が大切な人だった要素がないか?」「どう考えてもラストバトルまで活躍するはずの重要な仲間キャラを5秒で殺す要素がないか?」「泣き虫のいじめられっ子が自分の中の鬼を自覚する要素がないか?」「片平巡査が後日インタビューに答えるタイプの要素がないか?」「自然現象を素手で制圧するタイプの強さの見せ方をする要素がないか?」などの基準がプラスされてこのコラムでの取り扱い作品が毎回決まっているわけですが、皆さん『球神転生』2巻読みましたか!? 
 この巻では“アストロ球団みたいなもの”の重要な要素の一つ、「常軌を逸した空中戦が繰り広げられる野球」が展開されており、腕を支柱にして大螺旋大車輪で上昇してスーパーハイジャンプを見せたり、キャラ同士が互いの足裏を蹴りあって真上に向かって無限に駆け上がっていく多段式ロケットなど、マンガでスポーツを描く際に推奨されている技術である「遠心力と重力は比較的無視しやすい物理法則」という常識に真っ向から取り込んでいるので好感度極大。
 またこの巻では「神の設計ミス」を利用したトリック、つまり「マウンドとバッターボックスとの間に18・44メートルの間隔さえ空けてしまえば、投げられたボールがキャッチャーミットに収まるまでに誰が何を考えているのか? にだけ意識が向いてしまい、野球に何を混ぜても正当な対決に感じてしまう」という人間の脳のバグを完璧に使いこなし「野球VS剣道」「野球VSゴルフ」「野球VSボウリング」「野球VSフィギュアスケート」が何の違和感もなく成立しているのも見どころです。
 さらに巻末おまけでは「自然現象を素手で制圧するタイプの強さの見せ方をする要素」として、作中最強キャラが竜巻に野球で勝利しており、これは「範馬勇次郎が急に出てきて一方的に強さを見せつけるだけの回の要素」を100%満たしています。読みましょう。


ジェントルメン中村『球神転生(2)』(小学館)

  

 勇次郎の話が出たのでそのまま刃牙の話をしますが、『漫画 ゆうえんち ‒バキ外伝‒』6巻のゴブリン春日のエピソードで片平巡査が後日インタビューに答えるタイプの要素と泣き虫の覚醒がおなか一杯レベルに使われつつ「夢枕獏キャラのヤバ可愛い口調」を満たしているので、これこれ! プロレスラーの怖さってこれ! となる。

原案/板垣恵介 原作/夢枕獏  漫画/藤田勇利亜 『漫画 ゆうえんち ‒バキ外伝‒(6)』(秋田書店)

 今月の暴力新刊としては『アマチュアビジランテ』『日本統一 ‒序章‒』が最高で、『アマチュアビジランテ』には「顔が一緒の暴力兄弟が出てくるマンガは面白い」(『TOUGH』シリーズ『殺し屋イチ』など)という、人間の本能に刻まれたエンタメ要素があります。

原作/浅村壮平 漫画/内藤光太郎『アマチュアビジランテ(1)』(講談社)

原作/本宮泰風  漫画/たーし 『日本統一 ‒序章‒』(少年画報社)

  

 ということで『ザ・キンクス』2巻ですが、SNSでも話題になった「ラジオの回」と「映画館の回」も収録されており、「人に話せるオチがあることだけが人生の充実ではない」ということが分かるし、「意味を持たせようと思ってやっていないことが、後で勝手に言語化されて自分の一部になる」という経験は、その瞬間に自分では気づけない静かな分厚さの部分だなーと思います。大推薦。

榎本俊二 『ザ・キンクス(2)』(講談社)

  

げきが・うるふ●マイナーマンガ紹介ブログ・なめくじ長屋奇考録の管理人&特殊出版レーベル・おおかみ書房編集長。ベアトラップギャラリー、「忍極ポップアップストア」「久正人展」「劇光仮面展」と予定ぎっしりです。詳細はhttps://www.beartrap8833.com/にて。

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TV Bros.編集部
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