つやちゃん×藤谷千明 今夜はGAL’S TALK 〜002ギャルと歌姫〜

気鋭の書き手・つやちゃんと、TV Bros.連載「推し問答!」でもおなじみの藤谷千明による、ギャル対談。
ふたりが交互に「ギャルと○○」なテーマを持ち寄り、交代でテキストを執筆。
前回は「拡散するギャル」、今回のテーマは……?

 

今回の書き手/つやちゃん

 

“拡散するギャル”というテーマで、お互いのルーツをたどりながら『小悪魔ageha』や『LARME』に至るまでギャルの変遷を追った前回。近年、世の中で色々なギャル像が入り乱れる中で、二人はそれぞれ考えるイデアとしてのギャルのイメージを「IWGPのころの矢沢心」「安室ちゃん&あゆ」と宣言しました。メイクや服装は「強め」で、性格は奔放。恋愛はするし相手に振り回されることはあっても基本スタンスは「媚びてない」という当時の矢沢心、そしてさまざまなスタイルに容姿を「変身」させていくあゆ。

では一方で、安室ちゃんのギャル性とは一体どういったものだったのでしょうか。安室ちゃんは90年代の元祖コギャルとしての象徴でありながら、実はその後あゆとは全く違った形で活動を展開していきます。00年代には加藤ミリヤや西野カナといった面々もデビューし、アーティストが楽曲やファッションを通してギャル像を形成していった時代がありました。

というわけで、今回は“ギャルと歌姫”というテーマ。安室ちゃんの大ファンだという編集部Kさんも今回はヒートアップ! 夜がふける中、止まらないGAL’S TALKをお届けします。

 

つやちゃん×藤谷千明 今夜はGAL’S TALK 〜001拡散するギャル〜

 

 安室奈美恵、浜崎あゆみ、華原朋美という歌姫が活躍した時代

 

つやちゃん 90年代のギャルに最も大きな影響を与えた安室ちゃんは、元々Janet JacksonやTLCなどアメリカの現代的なR&Bが大好きでしたよね。当時の安室ちゃんというとなぜかBurberryのミニスカートとルーズソックスばかりがフォーカスされますけど、実際は70年代のサーフファッションから来るヘルシーな肌見せとか、R&B/ヒップホップのファンキーなコーデも多かった。ただ、別にR&Bやヒップホップが当時ギャルにすごく聴かれていたかというと、そんなこともなかったと思います。渋谷を中心としたストリート系のメディアではトランスやハウスとあわせてR&Bやヒップホップもプッシュされていたと思いますが、普通に王道のJ-POPがかなり強い時代でもありましたね。


藤谷 そうですね。当時の邦楽シーンといえば、97年にCDシングルの売上が、98年にCDアルバムの売上がピークを迎えたそうです。今、Wikipediaで確認したんですけど! いわゆる「CDバブル」の時期です。92年に通信カラオケも登場し、日本全国にカラオケボックスが出来ましたよね。私が中学生くらいの頃には、もうカラオケは子供でも遊べる場所になっていたと記憶しています。そこで歌われるのは当然J-POP。CDバブルとカラオケブームを背景にしたJ-POP人気。安室ちゃんの曲もその中のひとつだったはず。だから、大多数のギャルを含めた若者たちはそういった海外の目線までは捉えてなかったと思います。これは、ギャルでもなければ安室ちゃんとあゆの熱心なリスナーでもない「お茶の間の人」の意見です。今日は「お茶の間の人」としてコメントするつもりです(笑)。

 

つやちゃん 藤谷さんが資料として持ってこられた『ストリートニュース』99年5月号を見ているとR&Bやヒップホップ、ハウスがけっこうなページを割いて紹介されていますけど、渋谷のかなり最先端のカルチャーという気がする。確かにダンサーやDJといった人たちを中心としたストリート文化が強かった時代だとは思いますが、そういう磁場がありながら、全国的に見るとカラオケでTKプロデュース曲を歌うという景色が無限に広がっていましたよね。もちろん、この号にも掲載されているDOUBLEや宇多田ヒカルといったところから和製R&Bというのが人気を拡大していって、この後ヒットチャートとストリートカルチャーがつながっていくことも起こるわけですけど。

藤谷 90年代の渋谷といえば、当時地方在住の高校生の私からみても「最先端の音楽の街」というイメージもありました。とはいえ、「なんか大きなCDショップやレコードショップがたくさんある」くらいの曖昧なものですけど。そんなCDショップも、今ブロスでやってる連載「推し問答」で話題に出たように、メンズ地下アイドルのオタクから「地獄のトライアングル」になってしまったのですが…。話がそれました。そして、前回は安室ちゃんとあゆの名前がでましたが、もう一人、朋ちゃん(華原朋美)の存在も欠かせないなって。TKプロデュースの時代…。

 

つやちゃん   あー! 確かにそうですね。

 

編集部(K)  当時の自分の感覚では、ガーリーが好きな子は朋ちゃん派で、 ギャルっぽい子は安室ちゃん派で、ヤンキーっぽい子はあゆ派でした。平均的に三人とも好かれてたんだけど、なんとなく趣味嗜好で分かれてたかなという印象です。

 

藤谷 ただ、99年に朋ちゃんは入院報道が出ましたよね。当時の週刊誌やワイドショーは今に輪をかけて容赦がないので、小室さんとの破局だったり、休養中の姿だったりをセンセーショナルに報道していたことが印象に残っています。そして、それに前後して98年にCDデビューしたのがあゆですね。さっき、あゆのWikipediaを見たんですよ。今日はずっとWikipedia見ているな? そこで、「浜崎の歌詞は哲学的で、人々の心を救える影響力があり圧倒的支持を得た」という「要出典」がすぎる一文が目に入りました。そう、あゆといえば歌詞、そして彼女はデビュー以降一貫して歌詞を手掛けている。朋ちゃんも安室ちゃんも少なくともシングル表題曲は小室さんの作詞でしたよね。そして、TKプロデュースの中で、もうひとりのギャル的存在・HITOMIはシングル表題曲の作詞を手掛けています。もうこれは完全に印象論なんですけど、なんか、HITOMIのほうが自由な感じがしません? そして、朋ちゃんも安室ちゃんも、TKプロデュースから離れたシングル曲は、本人作詞なんですよね。前回つやちゃんがおっしゃっていた「ギャルの自立心、エンパワメント性(のイメージ)」とつながる話かもしれない。

 

つやちゃん そこは符号しますよね。つまり、作詞を自分でやるあゆと、音楽性含めアーティスト活動の全体をセルフプロデュースしはじめる安室ちゃんというのが、「自分で何でもやるぞ」というギャルの形に影響を与えた部分はあるのでは?ということですね。

 

藤谷 そういう感覚がある一方で、初期の「egg」に関わるなどギャル文化に関わりの深いカメラマン・編集者の米原康正さんのインタビュー記事を読むと、当時はみんなが安室ちゃんの真似をしていたのではなく安室ちゃんが街の女の子を参考にしていた、つまり相互に影響を与え合う関係だったという話もありますよね。私はこれを「米ちゃん史観」と呼んでいます。

 

つやちゃん 確かに、以前対談させてもらった時も米原さんはそうおっしゃってました。

 

編集部(K)  安室ちゃんって初期は『ポンキッキーズ』とか『THE 夜もヒッパレ』とかバラエティ色強い番組にも出ていて。その後の、カリスマ像だけを知っている人たちが憧れる感じの安室ちゃんとはまた違ったイメージだった気がします。あゆは、『未成年』に出ていましたよね。女優をやってた子が急に歌手デビューして最初はそんなにパッとしなかったけど途中からすごく売れたみたいな感じだったから、あゆも最初からギャルのカリスマという感じではなかった。だから、あゆも今の若い子が見ている姿はちょっと違っていて、もうちょっとあかぬけない感じというか……。

二人 分かる。

 

つやちゃん あゆは、そのちょっとしたあかぬけなさも含めてカッコいいという。

 

藤谷 あゆの『未成年』出演は、「あの子ちょっと可愛いね」ってクラスで少し話題になったくらいの印象でした。その後「あの歌姫が実はあのドラマに!」みたいにお宝映像、ゴシップ的な扱いに近かったかも。安室ちゃん主演の映画『That’s カンニング! 史上最大の作戦?』ってありましたよね。ああ、90年代の映画の話、無限にしてしまう。90年代は『HEY HEY HEY!』や『うたばん』のようなバラエティ色の強い音楽番組全盛期だったので、安室ちゃんもかなり気さくな表情も見せていたように記憶しています。そんな芸能界的、バラエティ的なイメージもあった時期から、徐々に00年代以降は本格派アーティストにシフトしていったというのがお茶の間から見ていた私の印象です。


つやちゃん 安室ちゃんは沈黙して多くを語らないことでカリスマ化していった人ですよね。音楽番組でも徐々に喋らなくなっていって、ライブでも一切MCをしないスタンスというのが語られるようになった。初期はもうちょっとあどけない少女のような印象だったけど……まぁ、メディアに対する不信感みたいなものがどんどん強まっていった人ではあるので。

 

安室ちゃんの数ある魅力のなかでも、ストイックに自分のやりたいことを突き詰める路線へシフトした功績は素晴らしい

 

藤谷 お茶の間から観ていると、ストイックさが強調されていった印象があります。ちなみに、つやちゃんは、安室ちゃんのどういう点がギャルとして好きなんですか?

 

つやちゃん まず、あれだけのスターで求められるものも多かったであろう中、ストイックに自分のやりたいことを突き詰めていく路線へシフトしていった点です。03年のアルバム『STYLE』以降、音楽的にもファッション的にもより一層B-GIRLギャルとして変化していったじゃないですか。一度あそこで、かなりクールな辛めのギャルに振り切ることでギャルの振れ幅にB-GIRLを加えたのは、かなりの功績だと思います。セールスはやや落ち込みましたけど、次作の『Queen Of Hip-Pop』では程よく甘さも戻しながら彼女の中でのベストなバランスを見つけて、少しずつ支持を回復していった。

 

編集部(K) 「Baby,Don’t Cry」(07年)で再びセールスが回復した感があります。

つやちゃん そうですね。お茶の間的にはベビドンで復活して、その後はカリスマ化してライブの評判がどんどん口コミで広がり、そのまま人気がピークのまま引退まで突っ走っていった。それもあって、10年代に「今のこの安室ちゃんのスタイルの原点って『STYLE』とか『Queen Of Hip-Pop』の頃だよね」ということに皆が気づいて、当時の作品が見直されていきました。「ようやくあの頃の安室ちゃんが評価された!」と思ってすごく嬉しかったんです。自分の中では安室ちゃんに本格的にのめりこむきっかけは『STYLE』や『Queen Of Hip-Pop』だったから。当時のアメリカ南部を中心としたR&B/ヒップホップのトレンドを、新たなプロデューサー陣と一緒にめちゃくちゃ巧く取り入れていたのがもう本当に本当にエキサイティングだった。

 

藤谷 それはなんとなく分かります。00年代前半の安室ちゃんは、リアルタイムではなく後から評価された形ということですよね。

 

つやちゃん そう。当時の安室ちゃんは、現行の評価はなかなかついてこず、再評価という形だった。R&B/ヒップホップのコアなリスナーはまだまだ今よりも選民思想が強かったし、そういったコミュニティからも正当に評価されていたとは言い難いと思います。でも再評価されるに至ったのは、音楽がそうやってチャート的に苦戦していた時代も、ファッションアイコンとしてはパワーを落とすことなく『vivi』とか『WOOFIN’  girl』とかに出続けていたからですよね。しかも、ギャルアイコンというよりは『sweet』とかにも出ることでもっと大きいファッションアイコンとして居続けた。このあたりは、さすがスターとしての力だと思う。

 

藤谷 『WOOFIN’ girl』(当然『WOOFIN’ 』もですが)を発行していたシンコーミュージック・エンタテイメントは音楽雑誌がメインの出版社というのも大きいのでしょうか。そして、あゆと安室ちゃんの「ギャル性」というべきものの違いって、どんなところにあるんでしょうね。

 

つやちゃん ヘアメイクをずっと担当していた中野明海さんの話では、安室ちゃんは常に「自分の趣味をわかってくれて、もっと専門的なことを知っている人に任せたい」と考えていたそうです。つまり、安室ちゃんの好きな軸としてあるR&Bや西海岸のギャルファッションといった好みをちゃんと理解したうえで、最先端の動向や深い知識・腕を持ち合わせている人を側に置きたいということ。それはすごく安室ちゃんっぽい。対してあゆは、前回も言った通り、色んなスタイルをとっかえひっかえ自由に試していくじゃないですか。わりと二人は両極端なんですよね。つまり、ギャル像というものを洗練させていった安室ちゃんと、広げていったあゆという解釈。だからこそ、00年代のギャルは奥行きという点、広さという点、どちらもこの二人によって推し進められたと思うんですよ。

 

藤谷 確かに、あゆって、そういった意味では「洗練」されていないかもしれない。もうちょっと俗っぽくてガチャガチャしてる。そこが魅力でもある。私、00年代の安室ちゃんは「なんだか〈本格派〉になったな〜」と遠くから眺めていた感じで、あゆは友達がカラオケで歌っていたこともあって、身近に感じていました。

 

つやちゃん あゆは天才肌というか、やっぱりころころ「変身」していくんですよね。安室ちゃんの方がもうちょっとレンジが狭くて、ビターなギャルとスイートなギャルという二軸はあるんだけど、その間を絶妙に調整しながらギャル性を深めていく感じ。あゆはもはや調整とかじゃなくて、失敗もいとわずにガーンって振り切るじゃないですか。「やってみた!」みたいな(笑)。だから、たまにちょっととんでもない方に転んだりもする。そこは、安室ちゃんにはないあゆの潔さ。

 

藤谷 あゆの名前を冠したパチンコ台が出るくらいの思い切り。しかも、シリーズ化されています

 

編集部(K) 今思うと、あゆの方がファッションはドラァグな要素があったのかなと思いますよね。

 

つやちゃん そう思います。あゆの方が、キャンプなけばけばしさがある。

 

あゆの持つ「病み」イメージが後の『小悪魔ageha』的なファッションや精神性へ繋がっていった

 

藤谷 あゆの場合は、そこから『小悪魔ageha』的なファッション、精神性にもつながっていくわけじゃないですか。冒頭でつやちゃんは安室ちゃんのファッションをヘルシーと言いましたけど、あゆはどこか影がある、言ってしまえば「病んでいる」イメージ。それがage嬢のロールモデルにもなっていったのだと思います。
そうだ、つやちゃんに聞きたいことがひとつあったんです。「小悪魔ageha」のキラキラを通り越してギラギラした独特のデザインって、プリクラやデコカルチャーが背景にあったと思うんですが、その一方で「Bling Bling」の影響はあったのでしょうか。ギャル男やお兄系ファッションには間違いなくあると思うのですが。

 

つやちゃん age嬢の直接的なルーツではないかもしれないですけど、元をたどるとギャルのルーツの一つにLAカルチャ―は間違いなくあるので、あの辺のヒップホップ/R&BのBling Blingな要素は遠い親戚くらいの距離感ではつながっていると思います。というか、もともと日本人は侘び寂びの反動として金閣寺を建てるくらいBling Blingなトーンも大好きな民族なので……。でも、あゆのヒョウ柄ド派手なルックから、さくりなの金髪盛りヘアまで、なぜか派手さと健康的なメンタルはトレードオフのような関係であるという不思議。

 

藤谷 一方の安室ちゃんはご自身やご家族の報道は色々ありましたが…当時の週刊誌やワイドショーは容赦がないので…(2回目)。ただ、彼女自身が打ち出しているものは、ヘルシーでストイックだったはず。自身のキャラクターや物語ではなく、ダンスや歌といったあくまで自身のスキルで成立するパフォーマンスを武器にしていた。

 

つやちゃん 安室ちゃんは、やっぱりアメリカのダンスカルチャーがルーツだからでしょうね。あゆは日本特有の消費社会的なダウナーさがあって、それが同じく日本特有の「病み」にもつながっていると思います。


編集部(K) 00年代に、携帯の待ち受けにプリ画を使うのが流行ったじゃないですか。あゆの歌詞を使ってた人は多かったけど、安室ちゃんはあゆに比べるとあまり見なかったですよね。

 

藤谷 確かに。あゆの切ない歌詞を待ち受け画面にしていた人は多かったですね。速水健朗『ケータイ小説的。』でも指摘されていますが、『恋空』などに代表される00年代的ケータイ小説の背景には常に浜崎あゆみがいるんですよ。ギャル/ヤンキー・病み・ケータイ小説はゴールデントライアングルなので。そこにはデートDVや性暴力も含めた若い女性が抱える主に恋愛関係の傷があったわけですが。それを受け止めていたのがあゆだったわけで。そこから「着うた」ブームからカナやん(西野カナ)やミリヤ(加藤ミリヤ)が出てきたという認識で合ってるかしら。この一連の流れを指して「ギャル演歌」という言葉も生まれました。ただ、カナやんのライブを一度みたことあるんですけど、MCが曲の印象と違ってめっちゃ陽気で驚いた記憶があります。

 

編集部(K) 西野カナの時はモテブームがすごくて、ギャルも原宿も何もかもが「モテ系」に食い荒らされた時代がありました。『CUTiE』が西野カナを表紙にしてモテ系になって、その時私は『Zipper』編集部にいたんですけど、何とか耐えた。だから、原宿系にとってもギャル系にとっても、西野カナは何か別の勢力を運んできた人って感じがしていました。

 

藤谷 ありましたね、『CUTiE』に付録がついて表紙が『sweet』みたいになった時。たしか、09年にFOREVER 21が原宿に上陸するなど、ファストファッションが盛り上がる時期とリンクしてて、原宿系や青文字系は不遇感があったというか…(当時、ファッション雑誌にいたKさんの表情を確認して、納得する)。きゃりーちゃん(きゃりーぱみゅぱみゅ)の登場で原宿が再発見される前夜というべきか。そして、猫も杓子もみんな「モテ系」の時期でもあり、東京ガールズコレクションでは、お客さんが全員(言い過ぎ)あのデニムのちっちゃいのジャケットを花柄のワンピースの上に羽織って、麦わら帽子を頭にちょこんと乗せていた時代! ロールモデルはカナやん(西野カナ)だったかと。

 

つやちゃん 当時、自分は安室ちゃんもあゆもミリヤもファンの実体を感じられていたんですけど、西野カナはいまいちつかめなかったんですよね。熱狂的なファンが周りにいなくて、皆なんとなく西野カナみたいな恰好してなんとなく聴いてなんとなくカラオケで歌っていた感じがする(笑)。

 

藤谷 ちなみに、ミリヤについてはどういった感じで捉えていたんですか?

 

つやちゃん ミリヤは、あゆの「病み」への共感に近い聴かれ方をしていた。ミリヤ好きな人って、ミリヤがめちゃくちゃ大好きじゃないですか(笑)。会いたくて会いたくて本当に震えていたのは、西野カナのファンよりもミリヤのファンだった。

 

藤谷 たしかに、私もやたら湿度の高い恋愛をしがちな女友達から、ミリヤの歌詞について力説されたことがあります(笑)。ミリヤの曲が自分の恋愛にいかにスイングしているかといった感じで…。これも私やつやちゃんの周りだけかもしれないけど、カナやんという存在はもう少しカジュアルに親しまれていた印象があります。そもそもニックネームが「カナやん」ですし。現在は無期限の活動休止中ですので、やはり御本人は大変だったのかもしれませんが。


編集部(K) だから、最近サブカル系の方たちの間で西野カナを再評価するような動きがちょっとあるんですけど、当時を知る身からするとあまりピンと来ないんですよね……。そう考えると、皆それなりに再評価という形で今の若い子に語られているんだけど、安室ちゃんってそういうのを全然見ない気がします。音楽的に心酔している人はいるんでしょうけど、カルチャー面で語る人がほとんどいない。

 

藤谷 カナやん再評価の兆し!? それも楽しそうだから、ぜひとも盛り上がって欲しいですね。安室ちゃんが語られない問題、あると思います。それは共感ベースの語りではないということですよね。安室ちゃん側も、おそらく共感の優先順位は低いように見えます。ほかにも、歌詞から自身の内面を考察…みたいなことをしにくいじゃないですか。だから「内面」を語りづらいんだと思う。

 

ギャル史において川瀬智子がめちゃくちゃ重要なんじゃないかと思うんです(つやちゃん)

 

つやちゃん 安室ちゃんはやっぱりリアリティを感じづらいんでしょうね。それで言うと、私はギャル史において川瀬智子がめちゃくちゃ重要なんじゃないかと思うんです。Tommyは、Tommy february6とTommy heavenly6で、派手な金髪や濃いアイメイク、猫耳、メガネコーデみたいなギャルの特徴を打ち出しながら、甘辛テイストをさらに両極端に引き延ばしていきましたよね。あれって、すごく作り込んだ世界観だったじゃないですか。Tommyは、いわゆる変身というギャルの要素を持ち合わせながら、自分の好きなことを突き詰めていくことでそこに初めてファンタジーを持ち込んだんですよ。しかもちょっと根暗なところは、その後に来るギャルとオタクの異種配合を先取っていた気もします。

藤谷 Tommyは原宿系のテイストも入っていますよね。

 

つやちゃん そうなんですよ。だから、ギャルとギャルを周辺とする色んなものに通じる要素を果てしなくたくさん持っていたのがTommyだという解釈です。派手さ、甘辛ミックス、変身、実は根暗……あと、ダルそうですよね。そこもギャルっぽい。

 

二人 なるほど~。

 

つやちゃん そして、ピンクと黒の色使い!安室ちゃんが『Queen Of Hip-Pop』などでやっていた甘いピンクと辛い黒という掛け合わせを、あそこまで完成度高く自分の表現に昇華していったのは本当にすごい。Tommyってあまりギャルの文脈では語られないけど、定義を拡張させた存在としてギャル史の系譜に位置付けられるべきだと思う。

 

藤谷 Tommyのメイクやファッションには、ダークというかゴス感もあったし。そうだ! HYDEとK.A.Zのユニット、VAMPSの主宰する『HALLOWEEN PARTY』という大規模ハロウィンイベントでもTommy february6は常連でしたね。イベント出演者で結成された「HALLOWEEN JUNKY ORCHESTRA」にも参加しています。

 

編集部(K) Tommy heavenly6はゴスですね。Tommy february6は、原宿っぽさとギャルっぽさがある。

 

藤谷 つーちゃん(益若つばさ)の歌手活動、Milky Bunnyってあったじゃないですか。たしかデビュー曲「Bunny Days♥」はカジヒデキとの共作ですよね。あの活動はTommyに近いものを感じていました。そして世界観は、のちのEATMEにもつながっているんじゃないでしょうか。

編集部(K) Tommyは安室ちゃんのスピリットを引いているとも思いますか?

 

つやちゃん う~ん……スピリットを引いているかというとそれはまたちょっと違うかも……。

 

藤谷 安室ちゃんのスピリットを継いでるアーティスト、フォロワーと呼べる存在っているんでしょうか。これもまたお茶の民からすると、視界に入ってこないんですが。例えばK-POPのフィールドとか。そのあたりの知見もお伺いしたいです。

 

編集部(K) 韓国アーティストで考えると、IUちゃんがそれに近い存在だと言われていたりもしますよね。「国民的」「カリスマがある」という意味で。でも存在感というとちょっと違う。IUは女優もやるし、作詞作曲も行うので。

 

つやちゃん XGのCHISAちゃんが安室ちゃんに憧れているとかはありますけどね……でも、グループだとちょっとまたニュアンスが違うし……。

 

編集部(K) 活動が長くて、〇〇期という形でスタイルも変わってるから、人によって好きな時期の安室ちゃんが違ったりもする点も難しいんでしょうね。

 

藤谷 〇〇期というのも、記号的、コスプレ的に変わっているんじゃなくて音楽性に基づいて変わっている。話せば話すほど、不思議な存在ですね。

 

編集部(K) 絶対に前髪作ってくれなかったし。寄り添う感じというよりは、孤高な感じでした。

 

藤谷 (前髪…?)

 

つやちゃん ごく稀に前髪ウィッグをつけてくれる時もありましたが、ダンスに集中するためなのか、基本的には作らなかったですよね。そういうところも含めてやっぱり孤高のアスリートっぽいし、色々な想いを飲み込んで外には出さずストイックに努力していくという点で、浅田真央とかに近いんですよね。チャラついてないし。

 

編集部(K) 確かに、浅田真央も功績含め皆すごいのは知ってるけど、内面を語りづらいところがありますよね。というか、軽く語っちゃいかんという感じ。でも自分は、安室ちゃんについては息子の誕生日のバーコードのタトゥーを入れたりするところはやっぱりちょっとヤンキー要素を感じてもいました(笑)。あのシールは流行りましたけど。

 

 藤谷 私はお茶の間のなので、当時「そんなことを!」と驚きました(笑)。でも、90年代のコギャルに最も影響を与えたのは、間違いなく安室ちゃんのはずなのに、今そのフォロワーもいなくて、あまり語られていないというのは本当に不思議ですね。マクドナルドのCMのエライザはじめ、90年代の社会風俗としての安室ちゃんの記号は色んなところに流用されているはずなのに。ところで、あのエライザ、メイクの感じや色白な肌はあゆっぽいかもしれない。ギャルのキメラ感がありますよね。

つやちゃん あれは謎のキメラですよね(笑)。

 

編集部(K) あゆは共感して一緒に泣く、みたいなところがありましたけど、安室ちゃんは異性に媚びないというスタンスが強くありましたよね。今のAwichやちゃんみなにもつながるところ。

 

藤谷 安室ちゃんは「カッコいい」んですよね。もちろん他の人たちも「カッコいい」部分はたくさんあるけど、安室ちゃんはヘルシーでタフで、「カッコいい」が全面に出ているイメージです。

 

つやちゃん だから、一部のK-POPのエンパワーメントな側面とも繋がる部分はあると思います。

 

藤谷 ところで、この企画のきっかけである「今ギャルはどこにいる?」という疑問ですけど、最近流行りの音楽…(ざっくりとした40代お茶の間の民の認識)、例えばハイパーポップ系の現場にはギャルっぽい子はいないんですか?

 

つやちゃん 純粋なギャルはほとんどいないです。そこに近いシーンだと、PINKBLESSっていう二人組が意識的にギャルをやっているけど、ちょっと例外かも。ギャル成分20%くらいの人であればたくさんいて、皆色んなルーツの一つにギャルがあるという感じ。もう少しヤンキー寄りのギャルになるとヒップホップの現場に多くて、それこそPOP YOURSにはたくさんいました。そしてもうちょっとインフルエンサー系ギャルみたいな感じになるとBLACKPINKのライブにはたくさんいた。でも、aespaやRED VELVETのライブにはまだインフルエンサー系ギャルはほとんどいなかった。

編集部(K) そうそう、K-POPの現場はあまりギャルはいないですよね。

 

藤谷 今はもう音楽性とファッションがそんなに紐づいていないのかしら。色々な音楽現場に色々なギャルがいるってコト…?

 

編集部(K) 音楽とファッションが深く結びついていた時代は終わったのかもしれないですね。

 

つやちゃん 例えば戦慄かなの×かてぃは二人でやってるけど、戦慄かなのはケンモチヒデフミと組んでエッジィなクラブミュージックに夢中な一方で、かてぃはロックをやり続けている、みたいな。そもそも聴いてる音楽もやる音楽も違う二人が、ああやって組んでカリスマになったりする時代。だから、10年代以降のギャルは、以前のJ-POPだR&Bだクラブミュージックだっていう時代とは比べ物にならないくらい色んな音楽が入ってきてカオスになってるんですよね。ヴィジュアル系もアニソンもボカロもロックも入ってきていて。

 

藤谷 かなのちゃんもかてぃちゃんも、世が世ならギャルと呼ばれていたかもしれないですけど。それを全面に出している印象はないですしね。
そうだ、前回ヴィジュアル系のファン…バンドギャルのファッションにギャル的要素が流入してくる話をしたじゃないですか。00年代序盤にCECIL McBEEを着たバンドギャルたちがあらわれたと。さらに大阪を中心にJESUS DIAMANTEをまとって頭盛々な勢力も登場して、そこからageha的な文化とつながる土壌があったのかなと…。2010年前後にはVホス系という言葉も生まれましたし…。そしてそこで流れていた音楽はおそらくJanne Da Arcのyasu率いるAcid Black Cherry…。
そこから紆余曲折を経て地雷系に繋がって、最終的にshibuya109にも地雷系と推し活の店が増えて、もはやLIZLISAとMARSの区別がつかなくなった…(個人の感想です)。もう、すべてのカルチャーの境界が曖昧なのかもしれない。109に推し活バッグ売ってるんですよ。ここは池袋か? もうなにもわからない。

 

つやちゃん では次回は、今に至る「わからなくなりはじめた」ギャルについて語りましょうか。今回は安室ちゃんはじめ歌姫という切り口で主に00年代のギャルを語れたので、次は10年代に勢力を拡大する「病み」とギャルについて話しましょう!

 

 

つやちゃん●文筆家。音楽誌や文芸誌、ファッション誌などに寄稿。著書に、女性ラッパーの功績に光をあてた書籍『わたしはラップをやることに決めた フィメールラッパー批評原論』(DU BOOKS)等。2022年~オルタナティブな美の在り方を考える活動『コスメは語りはじめた』を共同で発起。

 

藤谷千明(ふじたに・ちあき)●1981年、山口県生まれ。フリーランスのライター。高校を卒業後、自衛隊に入隊。その後多くの職を転々とし、フリーランスのライターに。ヴィジュアル系バンドを始めとした、国内のポップ・カルチャーに造詣が深い。さまざまなサイトやメディアで、数多くの記事を執筆している。近年はYoutubeやTV番組出演など、活動は多岐にわたる。著書に 『オタク女子が、4人で暮らしてみたら。』(幻冬舎)。共著に 『アーバンギャルド・クロニクル「水玉自伝」』(ロフトブックス)、 『すべての道はV系へ通ず。』(シンコーミュージック)などがある。 Twitter→@fjtn_c

「推し問答!〜あなたにとって推し活ってなんですか〜」連載中!

 

 

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