ジャパンカップ初騎乗、そして2024年に向けて【藤田菜七子 2024年1月号 連載】

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※本記事はTV Bros.2月号YouTube特集号に掲載したものです。

 

「ウインエアフォルクでジャパンカップに登録しようと思うんだけど、どう思う?」

 根本康広先生が、普段と全く変わらない声で、まるでいくつかある伝達事項のひとつのような感じでおっしゃったのは、朝の調教を終え、厩舎に戻って週末の競馬について、あれこれ考えているときのことでした。

 フランスの凱旋門賞、アメリカのブリーダーズカップクラシック、イギリスのチャンピオンステークス……世界中のホースマンが注目するレースと肩を並べる、日本が誇るレースですから、嬉しくないはずがありません。

 驚いたかどうか聞かれると、そこはビミョーです。フルゲートは18頭。サークル内では、今年のジャパンカップに出走する馬は少なそうという話が出ていましたし、根本先生も、「チャンスがあるようだったら」とおっしゃっていたので、“もしかしたら”という気持ちは持っていました。

 ただ、登録を済ませたときの出走馬決定順は補欠2番手の20位。レースを回避する馬が2頭出なければ、夢はただの夢で終わってしまいます。

「出られたらいいなぁ」

 それが正直な気持ちでした。

 夢が現実のものとして迫ってきたのは、それから数日後です。

 最終追い切りを終え、記者、カメラマンの方に囲まれ、会う人ごとに「おめでとう!」「頑張ってね」という言葉をかけていただき、徐々にいい意味での緊張感が身体の隅々まで浸透していった感じです。

 レース前々日に行われたウエルカムパーティーに出席するために私が選んだのは、可愛がっていただいている女性の厩務員さんからプレゼントしていただいた花柄の黒いドレスに、ボレロ風の黒いジャケット。普段、履き慣れないヒールの靴が気になり、歩き方がややぎこちなかったような気もしますが(笑)、“ちょっと大人の藤田菜七子”を演出できたような気がします。

 そしていよいよ、レース当日です。

 パートナーのウインエアフォルクに騎乗させていただくのは、今回が7度目。性格も理解していますし、作戦はひとつだけ。4月16日に福島で乗せていただいた奥の細道特別(2勝クラス)で勝ったときのように、“後ろで脚を溜め、最後の直線に賭ける”というものなので、あれこれ悩む必要もありません。前日はぐっすりと眠り、朝もいつもと同じルーティンです。

 返し馬では、馬も人もやや緊張が昂りましたが、ゲートに入る段階では落ち着いていて、満員のスタンドを見上げる心の余裕もありました。これまで何度も海外のレースに乗せていただき、JRAのGⅠレースで騎乗機会をいただいたのも、2019年のフェブラリーステークス、高松宮記念に続き、これが3度目。培ってきたたくさんの経験のおかげです。

 結果は……15着。前半は、パンサラッサが作ったハイスピードのペースについていくのがやっとで、そこで脚を使ってしまったため、最後の直線を迎えたときには、もう余力はわずか。それでも最後の最後まで、懸命に走ってくれたウインエアフォルクには感謝しかありません。

「頑張ったね」「お疲れさま」と声をかけ、最後に一言、「ありがとう!」とたてがみをやさしく撫でる私に、「お前もな」という返事が返ってきたような気がします。私の耳には、そう言っているように聞こえました。

 イクイノックスの走りは、次元が違いすぎて、残念ながらレース中は感じることが出来ませんでしたが、レース後、ビデオを繰り返し見て、その呆れるほどのすごさにため息を吐いていました。

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