【2023年11月号 爆笑問題 連載】『来季の巨人は「アベノミクス」』『約束』天下御免の向こう見ず

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※本記事はTV Bros.12月号コミックアワード号掲載時のものです

<紙粘土・田中裕二>
来季の巨人は「アベノミクス」

原辰徳監督の後を継ぐ阿部慎之助新監督。2年連続Bクラスの巨人を建て直すことができるか、大注目だ。阿部と言えば現役時代は巨人の正捕手。そのころからアベノマスクだったんだと今思う。

<文・太田光>
約束

 白髪で白い長い髭の杖を持った老人は、砂漠に立ち、目の前に広がる海をじっと見つめていた。
 深い皺がいくつも刻まれた顔。その目は悲しみに満ちていた。
 服は汚れ、所々破けて、老人が長い間旅を続けてきたことを物語っていた。
 老人は、目を閉じ、耳をすます。
 海の向こうから時々、ドーン、ドーンという爆撃音と、ダダダダッという銃撃音。同時に叫び声が聞こえた。
 悲鳴のような女の声。子供が泣き叫ぶ声。恐怖や苦しみを感じた男達の絶叫。誰かを脅すような怒声。それに混じって様々な声が聞こえてくる。
「ここは俺達の場所だ」「いいや、俺達が先にいた」「ケケケ」「ルールを破ったのはそっちだ!」「違う、お前達の方だ!」「うるさいニャぁ」「ここから出ていけ!」「お前達こそ出ていけ!」「ふニャぁ」……。
 時々ノイズのようなヘンテコリンな声が聞こえて邪魔だった。
 老人は眉をひそめる。そしてゆっくりと目を開けると、目の前の海にプカプカ浮かんでいるのは、奇っ怪な白い小さな動物だった。
「ケケケ、お前、こんニャ所で、のんきだニャぁ」
「ん?……ネコ?」
「フギャ! 失礼ニャ! おれはネコじゃニャイ、ウサギだニャ!」
 それは耳が長くてウサギのようだが、顔は完全にネコのウサギネコだ。
 よく見るとウサギネコは、小さなサーフボードに仰向けに寝て、サングラスをかけていた。
「暑くて死にそうだニャ」
 老人はウサギネコを無視し、再び目を閉じ、海の向こうの声を聞こうとした。
 爆撃、銃声、絶叫……。
「ケケケ、お前っていつまで歩いてるんだニャ?……何百年?……いやいや、何千年かニャぁ? いつまでたっても目的地に着かニャイニャぁ……ケケケ」
「うるさい! お前なんぞに何がわかる」
 老人は吐き捨てるように言った。
「わかるニャ。おれはずっとお前を見てきたニャ」
「私を見てきただと?」
「ケケケ、そうだニャ」そう言うとウサギネコはサーフボードの上に立ち上がってサングラスを取った。
「こう見えてもおれはお前より長く生きてるんだニャ」
「何?」
「ケケケ、驚いたか? おれは人間の空想のニャかの架空の生き物だニャ。最初の人間がリンゴをかじったのと同時に生まれたニャ。わかるか? おまえより前だニャ」
「まさか、そんなこと、神は……」
「ケケケ、その神とかいうやつはおれのことは知らニャイニャ。おれを作ったのは人間だニャ……それにしてもお前たちは、笑ったことニャイのか?」
「何だと?」
「ケケケケ、いつもそうやって深刻そうニャ顔ばっかりしてるニャ。お前も、お前のあとの預言者も、その後の預言者も……ニャにがそんニャに辛いんだニャ?」
「それはこの世界が……」
「ニャンだかニャぁ……おれを作った人間は、どんな状況でもたまには笑ったりするニャ。そうじゃニャきゃおれは生まれてニャイ」
 ウサギネコは空想した。
 崩れて瓦礫になった家の近くで、コップや瓶に砂を入れたり出したりしながら遊んでいる少女達。サイレンが鳴り、空ではミサイルをミサイルが撃ち落としている下の家。シェルターになっている部屋で、テレビゲームをして遊ぶ小さな兄弟。子供達は笑っていた。
「おまえ、どうするつもりだニャ?」
「何?」
「お前のせいだニャ。今の状況……」
「私のせい?」
「そうだニャ。お前の言う神が誰とでも同じ約束をするからこうなってるんだニャ。大混乱だニャ。悲惨だニャ」
「約束……」
「ケケケ、いつまでそこでボーッとして立ってるつもりだニャ?」
 海の向こうから、爆撃と銃声と叫び声が聞こえている。
「どうするんだニャ? 救うのか? 戒めるのか?」

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