覚悟の函館挑戦【藤田菜七子 2023年6月号 連載】

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JRAには、北から札幌、函館、福島、新潟、中山、東京、中京、京都、阪神、小倉と全部で10の競馬場があります。

日本騎手クラブ関東支部に所属している私のホーム競馬場は中山と東京の2つで、第2のホームがたくさんの勝ち星を挙げさせていただいている新潟と福島です。

この4つの競馬場に限って言うと、足を踏み入れたことのない観客スタンドを除くと我が家のようなもので、どこに何があり、この通路を行けばどこに出るのか把握していて、新人の頃と違って迷子になることはありません(笑)。

週末、美浦トレセンから競馬が開催されている中山競馬場、東京競馬場への通勤手段はマイカー。新人時代は、JRAが用意してくれたタクシーに分乗していましたが、免許を取得してからは自分でハンドルを握っています。

ちなみに、新潟は新幹線を利用しますが、福島は車で移動することがほとんどです。自分で運転をするのは嫌いじゃないというか、むしろ好きな方です。その時の気分で、好きな曲を聴いたり、ラジオを聴いたり…ドライブ気分を楽しんでいます。

レースのこともあれこれ考えることはありますが、夢中になりすぎて運転が疎かになると危険なので、まずは安全第一。競馬のことはあえて考えないようにしています。

とはいっても、やっぱりレースで勝利を挙げることが出来た日と、勝てなかった日とでは、ハンドルを握った時の気分も違います。勝てなかった日は、疲労感が2倍、3倍、5倍くらいに感じられるので、運転するときは余計に気を遣っている感じがします。

 

新幹線移動の中京、京都、阪神の3場は、関東と比べると気分的にはちょっとだけアウェー。特にデビューしたての頃は、心のどこかで、“お邪魔しています”と思っていたような気がします(苦笑)。

切符を手に座席番号を確かめてシートに腰を下ろしたら、あとは駅に着くまで、ひたすら読書。最近のお気に入りは東野圭吾さんですが…駅に着いた後も続きが気になってしまい、あっという間に読み終えてしまうのが悩ましいところです(笑)。

 

JRA最南端の競馬場、ファンも熱い、競馬も熱いと言われる小倉競馬に初めて参戦したのは、デビュー2年目の2016年2月でした。リルティングインクをパートナーに、この年の1勝目を挙げたときの嬉しさは、今でもはっきりと覚えています。

それに比べると、日本最大の馬産地、北海道とは、なぜか縁が薄く…。札幌競馬に初参戦したのは、『2019ワールドオールスタージョッキーズ』のときで、函館は競馬学校3年の時、厩舎実習のため1ヶ月ほど滞在したきり、今年まで一度もありませんでした。

北海道の魅力は、なんといっても食べ物です。ジンギスカンにカニ、ホタテ……この時は、ジョッキーになったらまたすぐに味わえると思っていたのに……目論みは、大きく外れてしまいましたが(苦笑)。

デビュー8年目にして、記念すべき函館競馬の初参戦を果たしたのは6月11日。自厩舎・根本厩舎に所属する3歳未勝利馬アイファースキャンに騎乗するためでした。

未勝利クラスを卒業しないとJRAで走ることが出来なくなる未勝利馬にとって、この時期何より大事なのは、とにかく勝つことです。惜しい競馬の2着では意味がありません。

デビューしてから8戦、そのすべてで手綱を取り、性格もクセも走り方もわかっています。体調はいい状態をキープ。ダート1000mはベストとはいえませんが、小倉で2着3回と対応できています。

「函館で使ってください」

根本先生、中島稔オーナーにお願いして実現した今回の函館挑戦は、覚悟を持っての騎乗でした。

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