新人騎手のデビューで思い出す7年前の卒業式【藤田菜七子 2023年2月号 連載】

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1月15日にスタートした小倉競馬も、今週末、2月25、26日で一旦終了です。約1ヶ月半の小倉滞在…朝の調教に乗る回数は美浦にいるときより多いくらいですが、移動がない分だけ体への疲労度は少ないし、コロナ禍ということもあって、街に出ることもほぼなく、頭の中は競馬で埋め尽くされていたような気がしています。

ここまでの成績は、40鞍に騎乗して、1着1回、2着3回、3着4回。「あそこの判断は間違いだったね」「位置取りが悪いよ」…などなど厳しい叱咤激励の中にも、「いい判断だったと思うよ」「いい騎乗だった」と言っていただけるレースが確実に増えていて。昨年、ゼロから新しい藤田菜七子を目指し、奮闘努力中の私にとっては、力をもらった1月半でもありました。

とはいえ、“1着以外は、2着も、3着も、シンガリ負けも同じ”と言われる勝負の世界で生きている以上、もっと勝ちたかったし、勝てるレースもあっただけに、正直悔しいです。

残り2日間…騎乗依頼をいただいた馬は全部勝つつもりで臨み、藤田菜七子はここにいるぞ! という結果を残し、春競馬に向けて弾みをつけたいと思います。

中でも、「今度こそ!」と力が入るのが、自厩舎、根本厩舎の所属馬、名馬エルコンドルパサーの血を受け継いだ3歳の男の仔、アイファースキャンです。

入厩時は、どこかふわふわした感じで、2走目まではレースでも幼さが目立つ馬でしたが、今年小倉に来て一変。素直な性格に加え、走りにも力強さが生まれ、未勝利を抜け出すのは時間の問題というところまで来ています。

1月21日の小倉3Rダート1000mで4着。続く1月29日の小倉3Rダート1000mで2着。“次こそ!”と気合も新たに臨んだ前走2月12日の小倉3Rダート1000mでは、スタート直後につまずくというアクシデントに見舞われました。

距離1000mのレースでの出遅れは、ほぼ致命的です。乗っていた私も、思わず、「うわっ!」と叫んでいました。

こうなると、もう覚悟を決めるしかありません。後方で脚をため、最後の直線勝負にかける――残された道はそれだけです。

私の気持ちが馬に伝わったのかどうか、それは馬に聞いてみるしかありませんが(笑)、道中、我慢に我慢を重ねた彼は、そのエネルギーを直線で一気に爆発。メンバー最速の上がりタイムで、2着に食い込んでくれました。彼と共に挑むのは、2月26日小倉最終日に行われる3R3歳未勝利戦で、前3走と同じダート1000mのレースです。

花粉症が気になる季節になりましたが、お近くにお住まいの方は、ぜひマスク着用で小倉競馬場に足をお運びください。

 

そして、今回はもうひとつ、みなさんにお伝えしたいことがあります。

競馬学校を卒業した6人…石田拓郎(いしだたくろう)、河原田菜々(かわはらだなな)、小林勝太(こばやししょうた)、小林美駒(こばやしみく)、佐藤翔馬(さとうしょうま)、田口貫太(たぐちかんた)が、3月から新人ジョッキーとしてデビューすることになりました。

私は32期生で、6人は39期生…私はすでに、若手限定のレースには乗れなくなっていますし、地方競馬との交流競走シリーズである「ヤングジョッキーズシリーズ」への参戦資格も無くなっているので、「もう新人じゃないんだ」というのはわかっているつもりですが…それにしても、時間の経つ速さには驚かされるばかりです。

――7年前の今頃、私は何を思っていたんだろう?

卒業式を終え、ムチの贈呈式があって…あとは、デビュー戦を待つだけ。ワクワクする気持ちもありましたが、日増しに高まる注目度の高さに怯える自分もいました。

卒業式を迎える前は、同期生6人の中のひとりだったはずなのに、16年ぶりに誕生したJRAの女性騎手というだけで、卒業式でも、鞭の贈呈式でも、フラッシュの光を浴びて…。胸の中には、どうしていいのかわからないし、どういう顔をすればいいのかわからないし、この先どうなっちゃうんだろうという不安が渦巻いていました。

あれから7年。

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