オカモトレイジ(OKAMOTO’S)、Yohji Igarashi、宮崎敬太 presents「レイジ、ヨージ、ケイタのチング会」16

Kカルチャーに造詣の深い2人がサウンドの面からK-POPを分析しつつ、トラックメイカーYohji Igarashiと共に元ネタを探りながら理解を深めていこうという企画。前回、NewJeansのあまりのブームに、距離感を測りかねているという話題で〆ましたが、7月のカムバックを経て、チング会メンバーの心境に変化が…。(こちらの対談の収録は7月末に行われました)

 

発売中のTV Bros.10月号と一緒に読めば、ますます理解が深まります!

 

取材&文/宮崎敬太

 

これまでの連載はこちらから

 

250に中田ヤスタカを感じるんですよ

 

ライター宮崎敬太(ケイタ) この記事が出る頃にはもう古い話題かもしれないけど、NewJeansの新譜について。前回も言ったけど、俺はケーポ古参勢を気取って今回のカムバには乗らないつもりだったの。「SuperShy」のMVが一発目に出た時も最初は「ふーん……」って澄ましてたし。けど、なぜかもう一回観たくなる。麻薬みたいな映像なんだよ。構図、動き、色使いとか、観ていて気持ち良くて「あのシーンかっこよかったな。もう一回観たいな」と思うともうハマってる。あとレイジくんがDJで「ETA」をかけてくれたのもデカかった。あれで俺の矮小なプライドは完全に打ち砕かれたね。

オカモトレイジ(レイジ) ケイタさんが「次のカムバには乗らない」とか言ってめんどくさかったから爆音で「ETA」を聴かせて黙らせてやりました(笑)。

Yohji Igarashi(ヨージ) 「ETA」はヤバかった。

 

ケイタ 初めて聴いたとき(Major Lazer)「Pon De Floor」が元ネタだと思った。

 

レイジ もっと直接な影響を感じる曲があるんですよ。Debonair Samirの「Samir’s Theme」。つい最近もDJでがっつり繋ぎました(笑)。ティザーであのシンセが鳴ってたから、「あ、これやるんだ」って。

 

ヨージ 近年流行ってるジャージー・クラブ/ボルチモア・ブレイクスですよね。2008年頃からDiplo周辺のDJたちが流行らせたんですよ。

ケイタ そうなんだ……。この前、別媒体で「ATTENTION」とかを作ったトラックメイカーの250(イオゴン)さんにインタビューしたんだけど、彼はDiploのレーベル・MAD DECENTに影響を受けているらしくて、どこが好きか聞いたら「ヒップホップがコアにありつつ、いろんなジャンルのいろんな音をミックスしていくところがおもしろい」と言ってたんだよね。「なるほど!」と思った。

ヨージ それはめっちゃわかりますね。MAD DECENTの初期はこんな感じのサウンドが多かった気します。あと今回のEPを聴いて、NewJeansのシグネチャーといっても過言じゃないサウンド感が確立されていると思いました。

ケイタ それはコード進行的なこと?

ヨージ コード感も含めた全体的な音作りですね。ちょっとマニアックな話になっちゃうんですけど、まずNewJeansって大体どの曲もパッドシンセが鳴ってるんですね。

レイジ パッドっていうのは浮遊感あるシンセ音の名前です。「OMG」とか「Cookie」とか「Super Shy」とかで鳴ってるファンって音のことだと思ってください。

ヨージ うん。あとはキックとベースのアタック(※最大音量を指すDTM用語)のバランスが絶妙なんです。あんまりキックとベースに境目がないというか。おそらくすごくディケイ(※音の減衰を指すDTM用語)の短いキックを使っていて、アタックのインパクトはあるんだけど、ベースの鳴りは邪魔しないようになっている。逆にベースはディケイ長めでグルーヴをしっかり作っていて。

レイジ たしかに「ETA」のベースはずっとブーンッって鳴ってるだけだもんね。

ヨージ そうそう。しかもベースの音色も柔らかいんだよね。普通はもうちょっと歪ませて“やおや”(※リズムマシン・TR-808の俗称。1980年に発売されYMOが使用して人気になった。現在はソフト化され、DTMで使用できる)的な音にするんですよ。

ケイタ つまりシンセ音だけでなく、ベースやドラムも柔らかい質感の音で、しかもグルーヴがあるってことかな?

レイジ そうそう。いわゆるトラップ以前の作り方なんですよ。トラップを通ってるトラックメイカーは大体みんなベースとキック、あるいは両方を歪ませるんだけど、250はそうじゃない。

ケイタ 250さんは2010年代半ばくらいから、自分のソロアルバムを制作するためにトレンドと距離を置いてたんだって。普遍的な作品にしたかったから。だからおそらくトラップは通ってないと思う。それに「一番影響を受けたプロデューサーは?」って質問したら、食い気味に「ドレー」って答えてくれたし。超信頼できる人だなって思った。

レイジ その感じ、めっちゃわかるっすね。250が2016年にBoAの「두근두근 (Pit-A-Pat)」って曲をリミックスしてるんですよ。もろシグニチャーのコード進行なので検索してほしいです。普通にYouTubeにあるから。

 

ヨージ 2016年の曲なのに抜け感が絶妙だよね。

レイジ そうなんだよね。こういうの聴くと根本が全然変わってない。俺は250に中田ヤスタカさんを感じるんですよ。自分の明確なスタイルがあって、トレンドと距離を置くけど、いつもかっこいいっていう。

 

ミン・ヒジンは自分で盛り上げたY2Kを自分で終わらせようとしてる

 

レイジ 今日、来る前にNew Jeansの『Get Up』を買ってきました。

ヨージ なんかいっぱいある……。

ケイタ ハニとミンジのBunny Beach Bag ver.と、THE POWERPUFF GIRLS X NJ Box Ver.が2種類。

レイジ とりあえず売り場にあるやつを一個ずつ買ってきました。開封の儀式しましょう。……あ、これハニver.にはハニの写真しか入ってないんだ。トレカもハニだ。なるほど、ランダムじゃないから積まなくて良いんだ。NewJeansはそういうとこも変えてきてるんだね。てか、なんか風景の写真が入ってるんですけど、これ何……?

ケイタ たぶんMV撮影地の写真だと思う。(ハニver.に入ってる)この赤い電車は「Hurt(250 Remix)」に出てくるんだけど、メンバーが撮ったものみたいで。

ヨージ この赤い電車は名鉄ですね。てことは、名古屋なんだ。

レイジ やば、何それ。もうメンバーすら写ってないとか新しすぎる(笑)。

ケイタ あとさ、俺、パワーパフガールズを知らないんだけど、このコラボはそんなにすごいことなの?

 

レイジ 乱暴に例えるなら、アメリカのセーラームーンみたいな感じです。

ヨージ カートゥーンネットワークで放送されてたから、僕も小学生の時に普通に観てましたよ。“2000年代”って感じ。

ケイタ そうなんだ! この頃は俺もう大学生くらいだったから全然知らなくて。

ヨージ すっごく端的に言うと、女の子が憧れる女の子って感じ? 悪者を倒したり、人命救助とかした後に、メンバー同士で洋服を買いに行ったりするんですよ。

ケイタ えーっ、面白い! たぶん日本のNewJeansおじさんの中にも「パワーパフガールズ……。はて?」って人が少なからずいると思うんだよね。めちゃスッキリしたわ。そういう意味ではコラボ相手として完璧だね。

レイジ ホントそうなんすよ。もう世代の子たちを狙い打ちしたレベル。しかもiPhone、McDonald、Coca-Cola、LEVI’Sと次々とCMに起用されたりキャンペーンに出たりしていて。そのうちMARVELに出るんじゃないですかね(笑)?  あとやっぱアメリカなんだなって思った。

ヨージ たしかに全部アメリカの企業だもんね。

ケイタ 今までのK-POPはまず日本に進出して、日本語盤でもしっかりマニーメイキンして、そこから欧米へ、ってのが活動のセオリーだったけど、いきなり飛び越えた感あるもんね。前にレイジくんが言ってたけど、(NewJeansディレクターの)ミン・ヒジンはK-POPのスタンダードを根底から変えちゃおうとしてるんだね。

レイジ そういう意味ではミン・ヒジンは自分でめちゃくちゃ盛り上げたY2Kを自分で終わらせようとしてるんだと思います。

ケイタ どういうこと?

レイジ 俺、「純恋歌」が真剣に好きすぎて、前にHAN-KUNさんと「純恋歌」について話し込んだことがあって。曰く「純恋歌」は純愛ブームを終わらせるつもりで作ったらしいんですよ。あの頃って「冬ソナ」が日本に入ってきて、日本で純愛がめちゃくちゃ流行ってたみたいで。

ケイタ ああ、確かにそんな空気感はあったね。

レイジ 一般的には純愛をテーマにした作品がすごく多かったみたいなんです。湘南乃風はあえてそのブームに乗っかって、あえてド直球の「純恋歌」を作ったって。「純恋歌」はいまだに定番曲じゃないですか。そういう意味でめちゃくちゃ貴重な話を聞けたと思ったんです。俺はミン・ヒジンもそれくらいの気持ちでNewJeansを作ってる気がする。

ケイタ 確かにド直球のY2Kをここまで完璧に作り込まれると、他のグループはY2Kをやりづらいよね。どうやったって「NewJeansっぽい」ってなっちゃうし。

レイジ つまり俺たちはNewJeansとミン・ヒジンにしかお見せできない世界に連れていかれてるってことなんですよ。

ヨージ 前回からの伏線回収すな(笑)。

 

Yohji Igarashiは頑固一徹

 

ケイタ そういえばヨージさんがYohji Igarashi&JUBEE名義でリリースした「SWAG feat. 森(どんぐりず)」がめちゃくちゃかっこよかったんだけど。

ヨージ え、突然。

ケイタ まじでかっこいいと思った。ビッグビートっぽかったり、サイケトランスっぽかったり、全体的に90’sのレイヴミュージック感があるんだけどまんまじゃなくて。あのへんの音って一歩間違うとかなりダサくなると思う。その本当にギリギリのラインを攻めてると思った。チャラいのにオシャレでインテリジェンスもある音楽っていうか。言語化が難しい。でもそういうとこがヨージさんっぽい。JUBEEさんと森さんとの相性も最高だった。

 

 

ヨージ ありがとうございます、それ全部書いといてください(笑)。

レイジ この記事が出る頃にはツアーも回ってる感じかな?

ヨージ そうだね。この名義で「electrohigh」ってEPを出して、その後に北海道、京都、福岡、名古屋、大阪とかに行く感じ。

ケイタ JUBEEさんとのユニットは前回話してたkZmさん主催のイベント「Jungle Clash*」がきっかけ?

ヨージ いや、その前からJUBEEとEPを作ってたんです。むしろ「Jungle Clash*」はkZmがJUBEEに声をかけて、JUBEEが僕を指名してくれた感じ。

レイジ ジャンクラ(Jungle Clash*)面白そうだよな……。そういえばヨージってRave Racersのメンバーなの?

ヨージ メンバーではないね。呼ばれたらDJするし、仲も良いけど。なんか僕はクルー的な動きができない人間なんですよ(笑)。

レイジ 頑固一徹的な。

ヨージ そうそう。普段は柔らかいというか、まあ人当たりは良いほうだと思うんです。なのに制作に入るとやっぱり拘り強くなっちゃうから、きっとグループ的なところに属しちゃうと僕に対して「えっ、キモッ」ってなっちゃう人が絶対出てくるはず(笑)。だから基本は1人ですね。

レイジ そんなヨージを俺はYAGIのDJとしてコーチェラに連れて行くつもりです(笑)。

ケイタ ヨージさん、コーチェラに合いそう。

ヨージ いやいやいや。見合うDJじゃないと出られないですよ、あそこは。

レイジ 俺、普通にヨージが作ったEDMとかワブルベースのアルバム聴きたいけどね。

 

LDHという会社が作り上げた日本人ダンサーの歴史

 

レイジ この間、LDHの「BATTLE OF TOKYO」を観てきたんですよ。もうね。感動して泣いちゃいました。

ケイタ ごめん、勉強不足で全然知らない……。オフィシャルサイト見たらCGアニメが出てきたけど。アニメなの?

レイジ アニメもあるんですよ。ただちょっとね、説明できないんです。コンセプト盛り盛りすぎて。メタヴァースとかも出てくるし。GENERATIONS、BALLISTIK BOYZ from EXILE TRIBE、RAMPAGEとかが、「BATTLE OF TOKYO」の世界ではAstro9とかROWDY SHOWGUNみたいな名前なんです。それでダース・ヴェイダーみたいなやつと戦ってるんですよ。

 

ヨージ なんかすごいことになってるね。

レイジ ほんとそうで(笑)。超東京ってとこが舞台なのね。「HiGH&LOW」の感じもあるし、「TOKYO TRIBE」の感じもあるし……。で、4時間くらいライブしてるんですよ。

ヨージ えっ? アニメ映画の話してんじゃないの?

レイジ いや、アニメでもあって……。マジで説明できない。あれをライブイベントって言っていいのかな? 演劇的な要素もあるし。会場はさいたまスーパーアリーナで。

ケイタ えっ?

レイジ そうなんです。3DAYS公演でパンパン。俺は何の知識もないまま観に行って、なんか戦ってることだけはかろうじてわかったけど、4時間アゲアゲの曲が延々と繰り広げられてて、合間にアニメが流れたりするんですよ。

ヨージ つまりLDHのアーティストがパフォーマンスするイベントって認識で良いわけ?

レイジ でもね、超東京で散々壮大な戦いが繰り広げられて、Astro9とかROWDY SHOWGUNとかがダース・ヴェイダーみたいなやつを倒すんですよ。そしたら、急に地球がぐるっと回る映像が出てきて超バンコクに世界になるんですよ。マーヴェルのマルチヴァース的な感じで。

ケイタ なんかLDHってすごいな……。

レイジ そこからタイのアーティストが出てきてライブするんです。まんまリック・ロスみたいなF.HEROってプロデューサーがすごくて。タイってすごいヒップホップが人気あるんですよね。「ローリング・ラウド」も開催されたじゃない?

 

ヨージ でさ、さっきからずっと気になってたんだけど、どこで泣くのよ?

レイジ あ、ここネタバレになるから、嫌な人は読むのやめてください。まあそういう内容でもないんだけど。……いろいろあって最終決戦のシーンになるんです。どうなるのかなって思ってたら、シンプルなダンスバトルだったんですよ。あんだけ大風呂敷広げたのにも関わらず。

ケイタ あー、なるほど。

レイジ そう。その展開に俺はHIROさんが作り上げたLDHという会社のダンサーに対する歴史みたいなものを感じちゃったんです。だって曲がBell Biv DeVoeの「Poison」とかなんですよ。ふたりが思ってる以上にシンプルな、いわゆる1対1のクラシックなダンスバトルで。それを観てパンパンのさいたまスーパーアリーナから大歓声が上がってるわけ。ロックで言ったら、今の時代にビートルズと同じ格好した4人組が出てきて、「A Hard Day’s Night」のジャーンってギターを鳴らして、大歓声をあげさせるようなもんなんですね。その土壌を90年代から日本に脈々と作り上げてきたことに俺は泣いちゃったんだよね。

ヨージ なるほど。そりゃすごいわ。

レイジ うん。シンプルにすごいダンスバトルでさ。それまでの盛り盛りの設定が逆におまけになっちゃったんだよ。韓国のアイドル文化的なダンスのカルチャーもあるけど、LDHはそもそも目指してるところが全然違うんだなって痛感させられた。それによくよく考えると、俺がK-POPにハマったきっかけが、ニュージャックスイングじゃないですか。

ケイタ そうね。SHINeeの「1 of 1」。

 

レイジ LDHに三代目 J Soul Brothers from EXILE TRIBEっているじゃないですか。あのJ Soul Brothersって、もともとはJapanese Soul Brothersという名前で、ボビー・ブラウンが名付け親なんです。で、ボビー・ブラウンのバックダンサーのチームの名前がSoul Brothersで。

ヨージ LDHはニュージャックスイングの正当な歴史から脈々と繋がってるってことだ。

レイジ そうそう。俺もそこまで詳しいわけじゃないんだけど、ニュージャックスイングにハマった時にちょっと調べて知ってさ。なんかそれこそこの前のRed Velvetじゃないけど、俺はLDHにギターウルフ的なものを感じたんだよね。

ケイタ  話し始めた時はどういうことになるのかと思ってたけど、めちゃくちゃ良い着地だった(笑)。俺らは世界中のいろんなカルチャーが好きで影響を受けてるけど、シンプルに日本人だから日本のカルチャーもしっかりリスペクトしてくべきだよね。

 

オカモトレイジ●1991年生まれ、東京都出身。ロックバンドOKAMOTO’Sのドラマー。2010年CDデビュー。幅広い音楽的素養を生かし、DJとしても活動中。ファッションモデルとしての活動やMVのプロデュースなど、クロスジャンルな活躍で現代のカルチャーシーンを牽引。その活動の勢いは止まることを知らない。

Yohji Igarashi●トラックメイカー、DJ、プロデューサー。主なプロデュース作にHIYADAM、新しい学校のリーダーズ、Daokoなど。

宮崎敬太●音楽ライター。オルタナティブなダンスミュージック、映画、マンガ、アニメ、ドラマ、動物が好き。

0
Spread the love