オカモトレイジ(OKAMOTO’S)、Yohji Igarashi、宮崎敬太 presents「レイジ、ヨージ、ケイタのチング会」11

オカモトレイジ(OKAMOTO’S)、Yohji Igarashi、音楽ライター・宮崎敬太のチング(友達)同士による、K-POPをサウンド面から深掘りしていく連載。Kカルチャーに造詣の深い2人がサウンドの面からK-POPを分析しつつ、トラックメイカーYohji Igarashiと共に元ネタを探りながら理解を深めていこうという企画。

昨年末〜年明けにかけて、韓国ではもちろん、日本でも人気が爆発しているNewJeansについてがっつり語ります!

 

取材&文/宮崎敬太

 

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なんで今みんなNewJeansにハマってる?

 

ヨージ:今日は珍しくレイジが寝坊という(笑)。こんな機会は滅多にないので、レイジが起きるまで今日はケイタさんにK-POPの基本的なことを教えてほしいです。

 

加藤(チング会担当編集):レイジくんが起きるまで、進行で入らせていただきますね。ヨージさんの耳にも、NewJeansは普通に届きました?

 

ヨージ:届きまくってます(笑)。リミックスとかもSNSにいっぱい上がってるじゃないですか。

 

加藤:あれはオフィシャルなんですか?

 

ケイタ:ほぼ全部ブートですね。オフィシャルのリミックスは「Hurt (250 Remix)」のみ。ちなみに250(イオゴン)さんは「Attention」「Hype boy」「Ditto」のプロデューサーです。

 

 

NewJeans (뉴진스) ‘Hurt (250 Remix)’ Special Video

 

ヨージ:ということは別にアカペラやインストが配布されてるわけじゃないってことですよね。なのにあんないっぱいブートのリミックスが出てるのはすごいと思う。

 

加藤:自然発生的に?

 

ケイタ:そうなんですよ。

 

ヨージ:NewJeansはDJやトラックメイカーに今めちゃくちゃ刺さってる感じします。僕、実はなるべく自分からK-POPを聴きにいかないようにしてて。そのほうがこの連載でも、傍観者としての意見を言えるし。でもNewJeansは無視できない勢いで耳に入ってくるんですよね。クラブでもめちゃめちゃかかる。

 

加藤:たしかにわたしの周りでもこれまでK-POPを聴いてなかった人たちがどんどんNewJeansにハマってる気がします。

 

ヨージ:ですよね。レイジやケイタさんたちはNewJeansがデビューした時にめちゃくちゃ騒いでたから、僕はてっきり世の中もそういう感じだと思ってたんですよ。でも今なんですね。ブートでリミックスを作るカルチャーも、昔と比べたらここ数年はそんな盛り上がってない印象でしたけど、僕が知らないだけでK-POPにはそういうムーブメントがあったりするんですか?

 

ケイタ:全然ないよ。

 

加藤:ですよね。なのにSNSですっごいリミックスを見かけるからオフィシャルでいっぱい出してるのかと思っちゃったんですよ。

 

ヨージ:思うに、NewJeansにはDJやトラックメイカーに刺さる何かがあるんですよ。そうじゃないとこんな感じにならないと思います。

 

ケイタ:同じ理由かわからないけど、実は藤原ヒロシさんもNewJeansにハマってるんですよ。年末に取材する機会があったから「NewJeansのどこにハマったんですか?」って聞いてみたら、90年代のR&Bっぽいからと言ってた。「Attention」を聴いてジャネット・ジャクソンやSoul II Soulを思い出したみたい。シンプルなヒップホップ的トラックで、ヴォーカリストが自由に歌を展開させていく感じが良いって。

 

加藤:それって前回レイジくんが言ってたルセラ(LE SSERAFIM)の「ANTIFRAGILE」の構造の話に似てますね。K-POPのテンプレ構成じゃない、みたいな。

オカモトレイジ(OKAMOTO’S)、Yohji Igarashi、宮崎敬太 presents「レイジ、ヨージ、ケイタのチング会」10

ケイタ:まさにそうです。むしろNewJeansはもっとシンプル。あとヨージさんがよく「キワキワな音」っていうじゃない? あれってちょっとでも(音の)組み合わせ方を間違えるとダサくなっちゃうって意味ですよね?

 

ヨージ:ですです。

 

ケイタ:これはレイジくんが前回言ってて「なるほど」と思ったんだけど、キワキワな表現って作り手がコンセプトを理解してるか否かだと思うんだよね。NewJeansに関しては、これまでリリースされた楽曲群を聴く限り、90年代の現代的再解釈がコンセプトだと思う。そこがNewJeansに携わるすべてのクリエイターに共有されてるから、アウトプットにまったく迷いがない。そこがあの異常な完成度に繋がってると思う。ヒロシさんは「NewJeansは楽曲の完成度が高すぎてリミックスが難しい」と言ってた。

 

加藤:じゃあなんでみんなリミックスを作ってるんですかね?

 

ケイタ:それでも(リミックスに)トライしたくなるくらい曲が良いからじゃないかな。それこそK-POPのテンプレ構成じゃないっていうのもデカいと思う。K-POPを聴かない人にとっては、歌い上げパートなんて癖以外の何物でもないだろうし。あとは「Ditto」ですよね。トレンドのジャージークラブじゃないですか。「これなら俺も好きって言える」ってなったんだと思う。この状況ってf(x)が2015年に「4Walls」を出した時にも起こったんですよ。

 

 

f(x) 에프엑스 ‘4 Walls’ MV

 

ケイタ:この曲が出て「K-POPにもおしゃれな曲があるんだ」って認識がすごい広まったんです。それこそファッション系やサブカル系の人たちがすごい反応して。当時の俺はそういう人たちを「己の無知を棚に上げて何様? 何目線? 超うざいんですけど」と思いっきり見下してた。

 

ヨージ:コッワ(笑)。

 

ケイタ:もちろん今は全然そんなこと思ってないよ(笑)。あの頃は頭が固かったんですよ。ただ今思うとBTSの「Dynamite」や「Butter」の大ヒットも根本にあるのは同じ要因な気がする。

 

加藤:というと?

 

ケイタ:僕らはもう慣れちゃって麻痺してるけどK-POPのテンプレ構造って、普通に音楽が好きな人にとっては癖が強すぎる気がするんですよね。だから最初BTSがアメリカのビルボードチャートに入ってきた時も、一般的な音楽好きは「はっ? K-POP? どうせファンの集団投票でしょ?」みたく思ってたと思う。でも「Dynamite」も「Butter」もテンプレ構造を採用してない。K-POPの根本にあるのはうまい歌とうまい踊りじゃないですか。そこに癖のない、シンプルに良い曲が投入されたら、かっこいい音楽になるに決まってる。うるさ型の洋楽好きたちも「これは良いね」と受け入れざるを得なかったんだと思う。

 

HYBEはK-POP界のLVMHグループなんですね

 

ヨージ:ちなみにこのf(x)の新曲はどんな感じなんですか?

 

ケイタ:今は活動してないんだよね……。明確な解散宣言はなかったと思うから事実上の空中分解……。

 

ヨージ:え、なんで?

 

ケイタ:この話はいろんな要因が絡んでるんだけど、ひとつは中国人のメンバーがあまりグループとしての活動に参加できなくなったこと。もうひとつは7年目の壁を乗り越えられなかったから。

 

加藤:f(x)レベルでもダメだったんですね……。

 

ヨージ:「7年目の壁」とは……?

 

ケイタ:最近はどうかわからないけど、K-POPのアイドルってデビューすると一般的には事務所と7年間の専属契約を結ぶんですよ。

 

加藤:事務所は練習生時代に投資したお金をその7年間で回収するシステムなんです。最近では契約期間はグループや会社によってまちまちと言われているようですが。ちなみにNewJeansは最初のシングルの売り上げでいきなり回収できちゃって、最近「人生初のお給料で家族にプレゼントを買った」みたいなインタビューが出てました(笑)。

 

ケイタ:これは良くも悪くもなんですけど、韓国ってまだ芸能界の歴史が浅いんですね。だから日本から見るとアイドルたちの労働環境は極めてブラックで、雇用形態もグレーなところが多いと言われてるんです。一部の超人気アイドル以外はお金もあまりもらえてないみたい。

 

ヨージ:なんか悪徳インディー芸能事務所みたいな感じですね……。じゃあ中国人のメンバーはなんでf(x)の活動に参加できなくなったんですか?

 

ケイタ:参加できなくなったというよりも、中国が韓国よりも遥かにギャラが高いから、自然と母国での個人活動が増えちゃったの。そしたらグループとしての活動がだんだん減って、そのまま契約満了を迎えちゃった感じ。そのf(x)を手がけてたのが今NewJeansを手掛けているミン・ヒジンというクリエイティヴ・ディレクターなんです。

 

ヨージ:あ、つながった(笑)。

 

ケイタ:最近知ったんですけど250さんはオフィシャルで「4 Walls」のリミックスを作ってたんですよ。ヒジンさんとはこの頃から繋がってたみたい。

 

 

f(x) – 4 Walls 250 Remix

 

加藤:f(x)もヒジンさんもNCTやRed VelvetがいるSMに所属していたのですが、ヒジンさんは会社を移って、今はHYBE所属なんです。HYBEはちょっと前からいろんな中小事務所を吸収合併してるし、優秀なクリエイターがHYBEへ移籍している事例も多くて。K-POPって事務所ごとにカラーがあるから、古くから応援してる人たちの中には、そういう(各事務所のカラーが消えてしまうような)やり方にネガティブな感情を持つ人もいるみたいですね。

 

ケイタ:そこは難しいですよね。嫌だと思う人の気持ちもわかるし。ただヒジンさんに関して言うと、SMを退職した後にHYBEからオファーがあったようです。

 

ヨージ:HYBEはK-POP界のLVMHグループみたいな感じなんだ。

 

ケイタ:うん、それが超的確な例え。

 

出る杭をフックアップしてきたZeebraさんのヤバさ

 

加藤:HYBEは、韓国の無名でも才能ある若いクリエイターを積極的に起用してると聞きますよね。そういう風通しの良さは日本にないので私たちも見習いたいですよね。

 

ケイタ:ほんとそうなんですよ。日本の広告とかって、20年くらい前からずっと同じって感じがする。ライター的な目線で言うと、キャッチコピーのテイストも古い。いかにも「おじさん」がやってそう。まあ俺もおじさんなんだが……。

 

ヨージ:クリエイティヴに関しては、日本だと出る杭は打たれるイメージあります。

 

加藤:社会的に権力を持ってる50代前後の人たちはかなり厳しい時代を生き抜いてて、良くも悪くもパワフルなんですよ。で、ヨージさんとか20代〜30代前半の若い人たちはそこと相容れない価値観で生きてる。30代後半〜40代半ばの私たちは、その狭間の世代。どっちの気持ちもわかるけど、どうしようもないからかなり苦悩してます。そのへんはSTUTSさんが主題歌をやってた『エルピス』ってドラマでも描かれてましたよね。いわゆる「おじさん」問題。

 

ケイタ:うん。俺は「おじさん」の当事者だからわかるけど、あの人たちは20世紀の感覚のまま生きてるんですよ。上の世代がそうだったからって。しかもそういう人に限って、下の意見を聞く必要のない地位にいる。でも2020年代って、フェミニズム、ダイバーシティ、リベラリズムが前提となった世界じゃないですか。20代の子と話してると、そういうのを感覚的に理解してるのがわかる。「おじさん」たちにとっては、何を言ってるかさっぱりわかんないから、そういうこと言う人はめんどくさいと思う。じゃあ若い奴じゃなくて、知ってる「おじさん」同士で仕事しようとなってるんだと思う。

 

ヨージ:そういう意味ではZeebraさんの存在はデカかったと思いますよ。あの人は若くて才能ある人を常にチェックして、積極的にフックアップし続けてたじゃないですか。上の人間が若手をフックアップするのがかっこいいって認識を当たり前にしたというか。いま日本でヒップホップが流行ってるのはZeebraさんが上と下を絶妙な距離感で常につないでたからだと思います。

 

ケイタ:うわっ、そうだ。BADHOPも、ANARCHYも、MSCも。ヤバッ。そこ、全然気づいてなかった。韓国だとIUとか、BTSのRMがそういう存在っぽいんですよね。年齢は全然若いですけど。トップの人たちが意識的に構造を変えてる。HYBEという会社の実情はそこまで知らないけど、外から見る分には韓国の芸能界の構造を改善しようとしてるように思えるんですよ。日本ってそういうのあんまないじゃないですか。あってもすごい規模が小さかったり。

 

加藤:ちなみにヨージさん、BTSもルセラもHYBE所属なんです。

 

ヨージ:そうなんだ! 全然知らなかった(笑)。もう最強じゃないですか。BTSも曲が普通に良いですもんね。

 

ケイタ:そうなんだよね。最大手であるHYBEが一番過激なことしていて、かつ利益も出してるっていうのはすごいと思う。日本って今めちゃ景気悪いけど、韓国だって経済が絶好調なわけじゃないじゃん。手堅く稼ぎたいなら、テンプレを作ってシステム的に固定ファンから搾り取れば良いと思うんだよ。でもK-POPはそこで満足しないんだよね。だから常に新しいことが起こる。そこが面白い。これはUSのヒップホップにも通じると思う。トップアーティストがゲームチェンジャーになるというか。きっとZeebraさんは常にそういうバイブスなんだろうな。まじかっけえな。

 

ヨージ:HYBEみたいな会社が音楽業界で力を持ってるのはすごく良いことですよね。

 

ケイタ:ほんとだよね。雇用云々という面は日本の芸能界がすごいと思うけど、クリエイティヴ面ではもっと変わっていかないとここまま緩やかに死を迎えると思う。

 

レイジ:今起きました!!!!!!!!! ホントすいません!!!!!!

 

この年末年始でK-POPの潮目が変わった気がする

 

加藤:ということで、レイジくんはこのままリモート参加でお願いします(笑)。

 

ヨージ:めっちゃ寝起きじゃん。顔むくみすぎ(笑)。

 

レイジ:目覚ましをかけ忘れました……。くそー。自分にムカつく。みんなに会いたかったー。NewJeansのシーズングリーティングとか持って行きたかったんですよ。てか、ヨージ、「OMG」聴いた? ちょっと聴いてもらいたいんだよね。

 

ケイタ:じゃあ俺が好きなプラクティスバージョンで見てもらいましょう。

 

 

NewJeans (뉴진스) ‘OMG’ Dance Practice

 

ヨージ:パッと聴きは普通だけどトラックがめっちゃ複雑だね。いろんな要素が入ってる。

 

レイジ:そうなんだよ。最初のハイハットがドリルで、リズムパターンは普通のR&B。途中からUKガラージの感じになったり、ダンスセクションではジャージークラブっぽいけどもっとK-POPっぽいバスドラのパターンになったり。これはすごいですよ。

 

ヨージ:サンバっぽいカウベルも印象的だったな。

 

レイジ:おそらく世界中の人がどっかしらで親和性を感じるように工夫したんだと思う。

 

ヨージ:詰め込みまくってるのに普通に聴こえる。

 

ケイタ:それは前回の「Feel My Rhythm」みたいな感じ?

 

レイジ:いやあれとは違うんですよ。「Feel My Rhythm」はトラックメイカー的なマニアックな視点だったんですけど「OMG」はもっとわかりやすい。

 

ヨージ:しかもサビは意外にもトラップじゃない? なのに超最先端に思えちゃう。もしNewJeansが次の曲で普通のトラップをやったら、僕は「あ、これが最先端なんだ」って思っちゃいそう(笑)。この「OMG」にはそれぐらいの説得力がありますよ。

 

レイジ:でしょ?

 

ケイタ:俺、NewJeansはちょっと引いた目線から応援しようと思ってたけど「OMG」で完全に沼った。振り付けとかもめちゃくちゃ最高なんだよね。キメキメな動きだけじゃなくて、ちょっとコミカルな要素もあって。スタイリングも完璧だし。この前、人気歌謡の衣装でうさぎちゃんのカスタムジュエリーを着けてたんですよ。かっこよすぎて超ぶち上がった。

ヨージ:NIGO®️さんが着けてそうなブリンブリンを着けてたってことですか? それはかっこいいな。やりたいことやってるって感じしますねー(笑)。

 

レイジ:あれめっちゃ欲しい(笑)。「OMG」も好きだけど、俺は「Ditto」に夢中ですね。

 

 

NewJeans (뉴진스) ‘Ditto’ Performance Video (Fix ver.)

 

ヨージ:NewJeansの曲ってウワモノは基本ずっと同じ感じがループしてる。この「Ditto」もそうだし、さっきの「OMG」も。従来のPOPSだったら、サビでストリングスとかを足しちゃってたと思うんですよ。でもNewJeansはリズムだけで我慢してる。そこが面白い。DJたちにぶっ刺さってるのもそこだと思う。リズムの動きは派手だけど、歌とウワモノはメロウで。その分離した感じが今っぽい。

 

レイジ:そこがSo So Defなのよ。

 

ヨージ:あー。だからレイジは最近So So Def聴き直してたんだ。

 

加藤:So So Defとは……?


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