押井守のサブぃカルチャー70年「和製SFの巻」【2021年2月号 押井守 連載第14回】

前回に続き、日本のSFをテーマにした今回。『空母いぶき』の総括にはじまり、自身の作品でのキャスティングでの苦労、好きな和製SF作品などを語ります。そしてどうやら、ようやく前フリが続いていた円谷プロダクションの話題につながることに…!
取材・構成/渡辺麻紀

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映画というのはとても即物的なものなので、
観た瞬間、画に違和感があったら、そこでアウト

―― 一向に円谷プロダクションに行き着かない押井さんの連載ですが、前回は『ミステリー・ゾーン』(1960~1964年)からなぜか『空母いぶき』(2019年)の話にワープしちゃいました。今回は『いぶき』についておうかがい出来れば……というのもこの実写作品の脚本を書いたのは、押井さんが『パトレイバー』(1988年~)シリーズ等でずっと組んでいた伊藤和典さんだからです。

麻紀さんの言う通りの映画だったよ。麻紀さんも伊藤くんが脚本だから観たんでしょ?

――おっしゃる通りです! ということは押井さん、理詰めで進んでいる最初のうちは『パト』っぽくて面白かったということですよね? ヘンな女子や、ヘンなコンビニのオヤジが登場しなければ、日本では珍しいポリティカルサスペンスになったと思いません?

そんなところです。ヘンな女子やヘンなコンビニのオヤジがいなければなかなかの作品ですよ。

――あのふたりは伊藤さんが入れたんですかね? 横やりによって入れなきゃいけなくなったのなら、伊藤さんは悔しがったのでは?

まあ、伊藤くんはもめごとが嫌いだから、そういう場合は闘わずに受け入れるんです。
こういう映画の場合、舞台を現場だけに絞って、タイトに創り上げればいいと私たちは考えるけれど、会社の上の人たちは違う。かわいい女の子が欲しいとか、もっと日常を入れろとか、そういうふうに考える。『いぶき』の女の子とコンビニのオヤジはその結果です。

――ホント、もったいないですよね。

コンビニの店主のようなキャラクターを、いぶきの自衛隊員が守っているというつもりなんだろうけど、いりません。自分たちは命をかけて戦争を始めたのに、日本人は1ミリもそれを知らないという表現のつもりなんだろうけど、それがコンビニの店長である必要もありません。女の子もそうです。空母になぜ乗ってなきゃいけないの?

――若いのにキレ者のジャーナリストという設定でした。そうはまるで見えないのが問題だったんですが。

見えませんし、いりません。最初は、この部屋から出てはダメと言われてそこにいるだけ。その後にはある役目を担うのだけれど、少なくともあんな若い子である必要はない。あれだったら『沈黙の戦艦』(1992年)のストリッパーのおねえさんのほうがマシです。彼女には必然がありましたから。
『いぶき』におけるコンビニ店長やジャーナリスト女子は、足でまといというか“映画まとい”でした。

――私が邦画を観てよく思うのは、今回のような脇キャラに、CMに出ているようなタレントをキャスティングしたからって動員が増えるんだろうか、という疑問なんですよ。たとえ増えたとしてもちょっとだけですよね? それとも、そういうタレントが出ることでTVやネットが取り上げて、映画の宣伝機会が増えるからとか? 

そういうことは、プロデューサーが判断する場合が多い。私の某作品のときも、もっと有名な女優を出せと散々言われたから。

――有名なって誰ですか?

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