『どうする家康』久保史緒里インタビュー 演じることで気づいた五徳の「優しさ」

現在放送中の大河ドラマ『どうする家康』(NHK)。常に危機的状況に立たされ「どうする?」と判断を仰がれる主人公・徳川家康を松本潤が演じる今作。『リーガルハイ』『コンフィデンスマンJP』などの名作コメディで人気を博した古沢良太が脚本を手がける。
                                     

家康の人生において重大な事件のひとつ「築山殿事件」の始まりを描く第24回の放送を終えた今、この事件のキーパーソンとなる五徳を演じる久保史緒里へのインタビューを公開。

         

織田信長の娘である五徳は、徳川家康の嫡男で岡崎城の城主・松平信康のもとに嫁ぐも、父である信長から徳川家を監視を命じられるなど織田・徳川、両家の間に立たされる人物。第24回までの振り返りとともに彼女自身の五徳の解釈と撮影場場でのエピソードを、大河ドラマ初出演となる今作の想いとともに語ってもらった。(24回までのネタバレを含みます。)

取材・文/編集部

【Profile】
久保史緒里(くぼ・しおり)
●2001年7月14日生まれ、宮城県出身。2016年、乃木坂46の3期生オーディションに応募し、デビュー。2017年からはファッション誌『Seventeen』の専属モデルに。現在、ラジオ『乃木坂46のオールナイトニッポン』のメインパーソナリティも務めている。最近の舞台主演作に『夜は短し歩けよ乙女』『桜文』など。映画『探偵マリコの生涯で一番悲惨な日』が6月30日に公開予定。

                          

威厳のある五徳を好演「“怖い”と思われると嬉しいと思ってしまいます」


──はじめに今作への出演が決まった時のお気持ちを教えてください。

今作で五徳を演じる俳優を探されているなかで候補の一人として私の名前を挙げていただいていると聞いていて。NHKに何度か伺い、プロデューサーさんの前でお芝居をさせていただいたのですが、正直に言えば、大河ドラマの出演経験もない自分にこの役が決まるとは思っていませんでした。

だからこそ、良い意味でリラックスしてお芝居を思い切りできた感触があって。その場でいただいた台本から五徳の人物像を読み取ったお芝居を「思い切りできた」と思っていたのですが、正式に五徳役が決定のご連絡をいただいた時はすごく震えました。

──五徳をどのような人物だと読み解いたのでしょうか?

自分だけで勉強していた時に、史料では夫の信康(演:細田佳央太)、姑の瀬名(演:有村架純)とは不仲であったことを含め、あまり「良い」とはされていないことが目に入ったこともあり、私もはじめは五徳にそのような印象を持っていました。ですが、役が決まった後、今作のプロデューサーさんや演出を務められる方々とお話しさせていただいた際に「五徳はきっと優しい人だったと思うんです」とおっしゃったんです。 

私は「五徳が優しい」というその言葉を飲み込むのに時間がかかっていて、家で台本を読んでいてもその「優しさ」を掴めず、そんな気持ちのまま現場入りすることになったのですが、撮影現場で徳川家を演じるキャストの皆さんとお話しさせていただくことで自分の中で五徳の優しさが浮き彫りになって。解釈の余地があったからこそ「もしかしたら五徳はこんなことを考えていたのかもしれない」と思えるようになり、五徳の優しさを徐々に理解できるようになりました。とはいえ五徳は「信長の娘でもある」というプライドを持ちあわせているキャラクターだから、その優しさは伝わりづらい。難しい部分でしたが、表面上では分からない五徳の内側にある優しさは演じる上でも強く意識していたことです。

──久保さんが演じる大人になった五徳が初登場したのは第17回「三方ヶ原合戦」でした。ご自身では初登場のオンエアをどのようにご覧になりましたか?

初登場の回ではテレビの前で、放送が始まる前からドキドキしながら待っていました(笑)。幼少期の五徳(演:松岡夏輝)は物語には登場していましたが大人になった五徳が登場するということは物語が築山殿事件へと近づいている前触れでもある。五徳というキャラクターの役割の重大さを感じていたことも緊張に繋がっていたんだと思います。

──大河ドラマの出演ということもあり今作出演の反響は大きいのでは?

そうですね。もともと父が私の名前にも「史」を入れるくらいの歴史好きで、私が小さい頃から地元の東北にある歴史スポットへとよく連れていってくれていたんです。今作の出演を伝えた時も、とても喜んでくれて。親戚からも「観たよ!」と両親に連絡が来るようで、山形に住む祖母は私が画面に映るたびに泣いているらしく「そんなに喜んでくれているんだ!」と嬉しくなりました。

グループでも同期の向井葉月ちゃんはメンバーの出演作をいつもチェックしてくれているのですが今回も「いつ登場するの?」と聞いてきて、オンエアされた後には「かっこよかったよ!」と連絡をくれました。また先日開催された齋藤飛鳥さんの卒業コンサートにグループの卒業生の生駒里奈さんが来てくださったのですが、その際に「大河すごいね!」とお声がけくださったこともすごく嬉しかったです。

──第20回『岡崎クーデター』では徳川家に謀反を起こした家臣・大岡弥四郎(演:毎熊克哉)を捕らえた後に「この者たちをしかと処罰なさいませ。この上なくむごいやり方で」と史実でも伝えられる“鋸挽きの刑”(※1)を五徳が冷酷な表情で提案するなど残忍な面を見せました。ほかにも姑である瀬名にも「私は織田信長の娘じゃ!無礼者!」と怒鳴るシーンなど、五徳には織田家のDNAを色濃く感じる威厳を感じました。家康の人生を大きく変えてしまう『築山殿事件』が起きる要因の一つでもある五徳は信長の権威を笠にきて威張っていることもあり、はじめのうちは視聴者に怖がられる、あるいは嫌われかねないのかな、と。久保さんは視聴者の反応をどのように受け止めていますか?

五徳が「怖い」と思われることは「織田家の血が流れている」ということでもあって、そう思われるのは嬉しく思ってしまいます(笑)。

家康の人生を追う今作において築山殿事件はとても重要な事件で、ご覧いただいている方でもその顛末を知っている方が少なくないと思います。その事件の渦中にいる五徳は『どうする家康』という物語においてどのように描かれるのか、どのように関わったとされるのか──物語においても注目ポイントではないのかなと思っています。この物語をご覧いただく方が五徳を観て「何を考えているのだろう?どう動くんだろう?」と思わせられるように、五徳の動きや考えが読みづらいことが物語をより面白くさせるのではないかなと思っていて。演じる上でも徳川家でひとりで嫁いできた五徳が醸す織田家の空気、ある意味では「異質さ」が伝わるように意識していました。 

現段階(取材時は第20回オンエア直後)では、お市様(演:北川景子)のように五徳にも織田家としての高いプライドや威厳、気の強さが見えているのかと思いますが、ここからどのように徳川家に馴染んでいくのかが物語のポイントの一つでもあります。だからこそはじめのうちは五徳が悪女のように見られることは嬉しいと思ってしまいますね(笑)。

※1 通行人に竹の鋸(のこぎり)で首を挽かれる刑。

──第22回『設楽原の戦い』では五徳は父親である織田信長から「(嫁ぎ先の徳川家を)しっかり見張っておけ」と顔を掴まれながら脅されます。これまでの放送でも岡田准一さん演じる織田信長が画面で見ていて恐怖を感じるほどのお芝居で、あのシーンは織田信長の娘にも容赦のない恐ろしさが表れているシーンの一つですが…。率直に言って、あのシーンの岡田さんは撮影現場でもやはり怖かったですか?

あはは(笑)。岡田さんはとても優しい方で、あのシーンのリハーサルでも「ごめんね、嫌だったら言ってね」と気遣っていただきましたが、やはり現場では「敵わない」と思わせられる存在感と威厳を感じました。あのシーンの撮影前には(羽柴秀吉を演じる)ムロツヨシさんから「(怯える反応の)準備をしなくても大丈夫だよ〜」と言ってくださったのですが、今振り返っても素で怖がることができた感があります(笑)。

織田軍と徳川軍の間に立っている五徳ですが、あの段階で五徳の気持ちは徳川家へと傾いていたと思うんです。そんなタイミングで信長から「見張っておけ」と脅されてしまう。その言葉を受けた五徳が動いたことが築山殿事件へと繋がる。歴史を動かすきっかけとなる大事なシーンにおいて、五徳が「はい」と言わざるを得ない感情を岡田さんが引き出してくださったと思います。また父娘である信長と五徳ですが、五徳にとってはあれが「織田家」という家族の形でもあって。そんな難しい家族の形を表す上でも大事なシーンだったと思います。

──第24回「築山へ集え!」では瀬名と信康が武田勝頼の腹心である穴山信君(梅雪/演:田辺誠一)と手を組もうと動いていることを知った家康が二人のいる岡崎城へ向かいます。その際に五徳は家康に「このことを父に伝えねばなりませぬ。でもしとうありませぬ!五徳は信康様のことをお慕い申し上げております」と伝えることで共に岡崎城へと向かうことを直談判します。信康との喧嘩も多かった五徳の想いが初めて明らかになるシーンでしたが、五徳はいつから徳川家へと心が傾いた、また信康を慕うようになったと考えていますか?

現場でも五徳が徳川側に気持ちが動いたのはいつからなのか、キャストの皆さんとお話ししていたんです。有村さん含め皆さんと意見が一致したのは第21回で五徳が瀬名さんから「そなたも三河のおなごであろう」と叱責されるシーンでした。その場では幼さやプライドが邪魔をして「私は織田信長の娘じゃ!無礼者!」と怒鳴ってしまいますが、その言葉はきっと五徳の心に響いていて「松平信康の妻」ということを強く自覚するようになったんだと思います。

徳川家に嫁いだばかりの五徳は「織田信長の娘」であることにプライドを強く持っていたけど、徳川家とともに時間をともにしていくうちに「信康の妻」であることを同じくらい誇りに思うようになっていきますが、信長から「見張れ」と言われたことでまた織田側へと気持ちが傾いてしまう。そんなふうに気持ちの揺らぎが大きい五徳ですが、両家の間に立たされていたからこそ状況を客観的に見ることができたと思うんです。そして織田家とは大きく異なる徳川家を見ているうちに徳川家の家族の在り方に憧れを抱くようになる。そのなかで信康との子を身籠り、自分にも家族ができる中で「家族を守りたい」という想いが強くなり、決意が固まったんだと思います。五徳が「家族」に強いこだわりを持っていたことに徳川の皆さんと過ごすうちに気づいて、演じる私自身も「五徳は寂しかったのかもしれない」と現場で改めて気づきました。

「信康を慕っている」という想いも、喧嘩をしつつも五徳は心優しい信康と接することで妹の亀姫(演:當真あみ)や母である瀬名のために危険を冒しても誰かのために行動を起こせるような、自分に持っていないものを持つ部分に強く惹かれていたんだと思います。

              

松本潤&有村架純との撮影エピソードを語る
「その瞬間は泣きそうになるくらい嬉しかったです」


──五徳にとっては姑にあたる瀬名とのシーンも多い印象があります。役としては対立しているような関係でしたが、有村架純さんの現場の印象はいかがでしたか?

役柄の関係もあり「お話しできるのだろうか?」と思っていたのですが、リハーサル初日に有村さんから「初めてだと緊張するよね〜、私も最初はそうだったんだ」と声をかけてくださいました。現場でご一緒するときも、いつも声をかけてくださったり緊迫したシーンが長時間続いた時にはリフレッシュするためにスタジオの外へと連れ出していただいたり。そんなお気遣いをいただいたことは嬉しくもあり、支えでもありました。

──最後に松本潤さんの印象について教えてください。久保さんがパーソナリティを務めるラジオ番組『乃木坂46のオールナイトニッポン』(ニッポン放送)でも松本さんのことを皆さんが「殿」と呼んでいるなど現場でのエピソードをお話しされていましたが、他のキャストの皆さんへのインタビューを聞いていても劇中同様、舞台裏でも松本さんは慕われていることを感じます。久保さんから見て、松本さんが現場で座長として慕われる理由はどんなところにあると感じましたか?

殿は演者・スタッフ、分け隔てなく誰にでも声をかけてくださる方でした。初めてご一緒した日に殿は私のお芝居をご覧いただいていたみたいで「お芝居のトーンが素敵ですね」と言ってくださいました。撮影現場では空き時間に演者の皆さん同士で写真を撮ることが流行っていたのですが、殿は私が有村さんとお話している様子を遠くから撮影してくださいました。私にとって今作は初めて参加する大河ドラマということもあり現場でも凄く緊張していて、自分から周りの方々に話しかけることがあまりできなかったのですが、殿は私と「写真」という形でコミュニケーションを取ろうとしてくださって、撮影期間中はとても救われていました。            

一番嬉しかったのは殿が「家族写真を撮ろう」と提案してくださった日があったんです。そのシーンには信康さん、瀬名さん、亀姫も揃っていて。本編とは関係ないことだったのですが、私は「(織田家から嫁いできた五徳を演じる)私が徳川家の家族写真に入っていいのだろうか?」という気持ちがあって。そんな、ある意味では引け目のようなものを感じていましたが、殿は私を家族写真の真ん中に入れてくださいました。その時に改めて「私、徳川家の皆さんのことが大好きだな」と感じて。その瞬間は泣きそうになるくらい嬉しかったです。

松本潤さんが撮影した徳川家の家族写真はこちら↗︎


■放送情報
大河ドラマ「どうする家康」
NHK総合ほか 
毎週日曜 午後8:00~8:45


関連記事

与田祐希&畑中翔太が『量産型リコ』を語る─本誌アザーカットを先行公開!

乃木坂46・久保史緒里が語る、萩原利久とは【映画『左様なら今晩は』SP対談】

久保史緒里・萩原利久

関連キーワード

0
Spread the love