推し問答!【3人目:メンチカオタク Kさん後編】「推しとオタクとドラマと部活」

様々な人に「推し」や「推し活」について語ってもらう「推し問答!~あなたにとって推し活ってなんですか?」、第3回のゲストはとあるメンズ地下アイドルを推している成人女性のKさんです。なお、この記事は後編になります。

 

取材&文/藤谷千明 題字イラスト/えるたま

 

前編はこちら

 

人気投票で推しを上位にしたい、チャートの上位に入れたい、喜ぶ顔がみたい。CDを買ったり、サブスクを繰り返し再生したり、推しの名前をツイートするためだけのアカウントを取得したり、協力することが増えた気がします。うーん、これは、部活? 部活といっても色々ありますが、ではKさんは部活に何を求めているのでしょうか?

 

AKB48のオタク時代は「大きなオタクという群れの1人」という意識。メンチカは「個」

 

藤谷 「団体戦」化、「部活化」しているように感じています。もちろん、学校や職場、家族とは別の空間、課外活動として「部活みたい」というのは昔からありましたよね。KさんはAKB48を応援していたとおっしゃっていましたが、その頃と今の違いはありますか?

 

Kさん アケカス(AKB48グループのオタクのこと。限りなく蔑称ですが、当事者が自虐的に使うことも)だった頃のほうが、アイドルと距離があった気がします。同じ部活・団体戦といっても、「みんなで頑張って総選挙で推しを上位にしよう!」みたいな。「オタク」が「個」ではなかったんですよね。

 

藤谷 個?

 

Kさん 「オタク」というひとつの群れの中にいたというか。認知をもらっていたとしても、そもそもファンの分母が大きいからか、「大きなオタクという群れの1人」という意識があった。メンチカは「個」なんですね。

 

藤谷 なるほど。それ以前は2.5次元舞台のキャストを推していたのですよね。2000年代の2.5次元舞台、2010年代のAKB48グループ界隈、そして2020年代のメンチカのファンダムを見ていて、オタクの変化は感じますか?

 

Kさん 昔の2.5次元舞台では接触はそこまで多くはありませんでしたね。謎のペラッペラの2千円くらいするポストカードを買ったらチェキが1枚撮れる。接触はその10秒のみ、みたいな(苦笑)。その後ドラマきっかけでAKB48に行きました。AKB=握手会のイメージを持っているかもしれませんが、世の人が思うほど握手できないんですよ。今はどうかわかりませんが、私が行っていた頃は。

 

藤谷 「握手会の会場が幕張メッセ」みたいな時期ですよね。

 

Kさん そうそう。だからそんなに握手券も枚数とれないですし。なんだろう……、結局「ドラマ」に惹かれたんです。AKB48にはドラマがあった。ドキュメンタリー映画もあったじゃないですか。

 

藤谷 私も映画は観に行きましたし、当時話題になりましたね。

 

Kさん そういった「大きなドラマ」に自分が少しでも関われるかもしれないという。推しの、アイドルとしての彼女のドラマの、ひとつのパーツになれたかもしれないという夢ですね。

 

藤谷 外からみていると、「握手会でマンツーマン」というイメージがあるけれど、Kさんにとっては、「個」ではなく、ドラマのいち部分としての一体感が魅力だったという理解でよろしいでしょうか?

 

Kさん 私が推しにハマったきっかけは、総選挙前の音楽番組なんです。選抜の子はきちんとした衣装を着ている。でもそれ以外の子は既製品のポロシャツとチェックのスカートだった。「露骨!」と思ったし、それをカメラがばーっと映していく、そのときに推しは選抜外だったんですけど、弾けるような笑顔で歌っていて。「どうしてそんなに笑顔でいられるの?」と、前編で話した「街灯」ではなく、本当の「光」に見えたんです。その強さに心打たれて、次の日に投票券のついたCDを買いにいきました。

 

藤谷 早い。

 

Kさん 私たちが彼女を推すことで、総選挙で上位になったり、「Mステ」でカメラに抜かれる時間が1秒でも増えてほしいと、心から思っていました。今は卒業してご結婚もされているけれど、ずっと幸せでいてほしいです。

 

藤谷 メンチカの場合は「個」になって、演者とファン、あるいはファン同士の話になってしまうということ?

 

Kさん そうですね。いつも一緒に通ってた友達グループがあったんですけど、1人がガッチガチにリアコをこじらせてしまったんです。それで「もうこれ以上ライブに通うと、本当にあなたたちにも嫌なことを言っちゃうから、一回休みたい」と言い出して。でも私たちは「これまでずっと一緒に応援してたのに、そんなのないよ!」と泣いちゃって、本当に思春期の部活みたいになってしまって……。

 

「まだ人間の心があるうちに降りたい」

 

藤谷 お友達は「推し疲れ」「燃え尽き症候群」みたいな状態だったのでしょうか。

 

Kさん ライブの招待特典ってあるじゃないですか。

 

藤谷 「ライブに友達を●人連れてきたら推しとプリクラがとれます」みたいなシステムのことですよね。

 

Kさん そう、20人集めたら二時間デートみたいなのがあって。あっこういうことをするのはまた別の界隈なんですが……うちの場合は人数集めたら特別なライブに招待とかなんですが…。

 

藤谷 最近そういった過剰サービスを行っていたグループのメンバーが逮捕されたという報道もありましたね。全部が全部そういったことをしているわけではないのに、同じ「メンチカ」としてイメージが悪くなってしまう側面もある。だからこそ「メンチカと呼ばないで」という人たちが出てくるわけで。

 

Kさん そうですね。でもきっとサービスとしてそれが提示されたら「がんばっちゃう」んじゃないかなと思います。ファンが頑張ってるのを示したくなるというか…あと単純に人を集めないとサマにならないライブで大体行われるんです。私たちも自分の推しのアニバーサリーライブの招待は死ぬ気で人を集めたんですけど、友達はそれをやった日を最後に「しばらく休みます」と。「燃え尽き症候群」というよりは「これ以上性格を悪くしたくない」というか。メンチカにいると性格が悪くなっちゃうんですよ。

 

藤谷 メンチカに限らず、狭いファンダムで相互監視状態になってしまうと心がささくれだってしまうことはありますね。

 

Kさん 「まだ人間の心があるうちに降りたい」と……。

 

藤谷 推し活をこじらせることで、タタリ神になりたくない的な。

 

Kさん でも3ヶ月で戻ってきました。

 

藤谷 1クールだ。

 

Kさん (笑)。

 

銀座のあの書店の写真集発売イベントとかでめちゃくちゃ高速で流される接触がしたい

 

藤谷 前編で「売れる人が好き」とおっしゃっていましたが、そういうポジティブな精神を持った人に惹かれるのでしょうか。たとえば、反対に売れると離れちゃうというか、「ずっとオタクの手の届く場所にいてほしい」という人もいますよね。「売れてほしい」のモチベーションはどこにあるんでしょうか?

 

Kさん コロナ禍以前にも舞台関係の仕事をしていたんです。そこで才能はあるのに、それを伸ばすことができない子たちも少なからずいて。極端な話、売れないと「顔がいいだけの手に職のない若者」になるだけじゃないですか。そういうケースを何人も見てきました。

 

藤谷 推し活ブームといいつつ、労働環境は厳しいものがある。それはエンタメ業界全体の構造の問題なんでしょうか。

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