PEARL CENTERインタビュー「ニュートラルであるということ」

2019年に解散したPAELLASのボーカルだったMATTON、YOUR ROMANCEのボーカルであるinui、トラックメイカーとしても多方面で躍動しているTiMT、やはりPAELLASの元メンバーでサンプラーを担当していたmsd.から成る4人組。彼らPEARL CENTER は、2021年の東京でバンドとして生きていくことのロマンを、音楽的にもマインド的にも体現しようとしている。初のフルアルバム『Orb』の完成直後にMATTONとTiMTが語ってくれた。

 

取材&文/三宅正一 撮影/堀哲平

──PEARL CENTERはMATTONさんがフロントマンを務めていたPAELLASの活動中から結成していたそうですが、当初は遊びで集まったというニュアンスが強かったんですか?

 

MATTON 自分がメンバーに声をかけたんですけど、ただ楽しくやれたらいいよねというよりはちゃんとバンドを動かすつもりではいました。でも、当初は音楽的にもっとインディーライクな方向だったんですね。

TiMT 最初はね。自分が最後にバンドに入ったんですけど、最初はインディーライクなものを指向するバンドでしたね。今では真逆な感じですけど。

MATTON 当初はバンドというイメージではなかったんです。基本的にメンバーの4人はいるけど、そこにいろんなミュージシャンがたまに入ってくるようなイメージもあって。

TiMT ちょっとコレクティブ的なね。

MATTON そう。ただ、それが難しいことは始動してみてすぐにわかった。

TiMT それぞれが別のメインの活動がある中で、ユルくつながり続けることは一番難しいというか。

MATTON そういう流れの中で最初はインディーっぽい曲を作っていたんですけど、曲を作り始めてわりとすぐに、それこそ当時僕がやっていたPAELLASより開けてるというか、(サウンドプロダクションが)緻密でありながら間口の広い音楽を目指せるなと思ったんです。僕自身はPAELLASの活動も並行して続けるつもりではいたんです。でも、解散という結論に至った。PAELLASは自分がバンドのブランディングをしていたわけではなかったんですけど、間口の広い音楽をやれると思ったときにPEARL CENTERとPAELLASの差別化を考えなくてもよくなったし、思考が自由になれたんです。

 

──4人のメンバーそれぞれが異なるキャリアを歩んできた中で、間口の広い音楽を作れるということがPEARL CENTERのキーワードになっていった?

 

MATTON そうですね。あとはやっぱりそれぞれ別の活動をしてきたメンバーなので、最初から各々のキャラクターと役割分担を考えて声をかけたところもありますね。彼ならこれができる、自分の持っていないこういう部分を出せるフロントマンがもう一人いてもいいな、とか。そういうところが原始的なバンドの始まり方とはちょっと違うかもしれないですね。

 

──それぞれがコンポーザーになれる中で、誰かがイニシアティブを握るというよりは、あくまで4人が共鳴したポイントで曲を作り上げる感じですか?

 

MATTON そのときのベストを探ってる感じですね。わりとそういう話し合いは何回かしましたね。

TiMT 各々のパートが完全に決まってるわけではないので、ほっとくとバランスが崩れる瞬間があるんです。トラックに関していえば基本的に僕が組んでそこにmsd.くんのギターが乗ってくるんですけど、自分ももともとギターを弾いていて。今は基本的にギターで曲を作ってます。

 

──TiMTさんはヒップホップのトラックメイカーとしても活動していますが、PEARL CENTERではギターで曲を作ってると。

 

TiMT ヒップホップのトラックメイクを始める前はずっとギターを弾いていて。それもあってmsd.くんの輝くところをどう作れるかということも考えるし、最近になってボーカルの2人に関してもそれぞれの声をどう棲み分けてどこで美味しく聴かせられるかというバランスをイメージしながらトラックを組めるようになってきました。PEARL CENTERをやるまではいわゆるポップミュージックと呼ばれるような曲を作ったことがなくて。作曲は基本的にサンプリングでビートを組んでいたんですね。Mimeというもう一つ別にやってるバンドで曲を書くこともあったんですけど、そこまで楽器を弾いてトラックメイクする経験はなかったんです。

MATTON そういう意味では最新のパワーバランスで作った曲はまだないよね。今後作り出す曲からだよね。

TiMT そうだね。なので、この『Orb』というフルアルバムに入ってる楽曲は、時系列には結成からの2〜3年でできた曲をピックしたり、誰かの衝動でできた曲もあれば、アルバムのために新しく作った曲も混在しているんです。

 

──今後、サンプリングでPEARL CENTERのトラックを作ってみても面白いかもしれないですよね。

 

TiMT 振り返ってみれば最近サンプリングで曲を作ってないな。PEARL CENTER以外でも作ってない。制作環境も前はサンプリングで曲を作ることに最適化した機材に囲まれていたんですけど、環境が変化していった中でサンプリングで作る発想はなくなっていきましたね。でも、たしかにサンプリングでPEARL CENTERのトラックメイクをしても面白いかもしれない。

 

──別のインタビューを読んで“ニュートラル”という言葉が出ていたのが印象的だったんですけど、PEARL CENTERの核心はまさにそこだと思うんですね。バンドでありながらプログラミング要素が高く、2020年代の同時代性に富んだ音楽像をまといながら、80年代や90年代の香りもする。浮遊感に富んでいるけど、ドープになりすぎずに最終的には開けている。このサウンドに日本語の歌が乗っているという意味でもそう。こういうバランスはメンバーの世代的な感覚も影響していると思いますか?

 

MATTON 世代はすごく大きいと思ってます。ちょっと話は遡りますが、前作『Humor』(2020年4月リリース)のときは、現行の海外音楽の要素と自分たちのルーツである80年代の洋楽や90年代のR&Bの要素、そこにもう一つJ-POPの要素がある中で、一番J-POPの比重が高かったと思います。「これはラルクだ」って言いながら曲を作ってたり(笑)。

TiMT 「これはB’zだ!」とかね。音像的にも今回のフルアルバムとは違っていて。

MATTON そういう感覚は世代の影響があると思いますね。たとえばいま20代の子たちが広末涼子とかラルクのTシャツを着てたりするけど、あれって自分たちとはちょっと違う感覚で楽しんでると思うんです。

 

──リアルに通ってないからこそ遊びのアイテムにできるというか。

 

MATTON そうそう。リアルタイムで知らないからこそクールに思えるみたいな。そういう視点もありつつ、この『Orb』というフルアルバムは意図的にもう少しJ-POP的な比重を減らしたところがありますね。後悔しているわけではないけど、『Humor』は音像的にもデカいライブ感を意識したところがあった。でも、『Orb』は一日のサウンドトラックとして聴けるテンション感にしたいと思ったんです。必然的にJ-POPの要素は減ったけど、間違いなく要素としては存在していて。そこを混ぜてやらないと現行のポップスや80年代の洋楽と一線を画せなくなるので。2021年に日本人が鳴らす音楽という意識も強く持ってますね。

 

──PEARL CENTERの曲からはポジティブなイメージとしての東京の情景が浮かぶんですね。さらに、リリックのジェンダーレスな趣も印象的で。ラブソングを想起させる描写が多いけれど、ただ単に男女のストーリーを浮かばせるものではない。

 

MATTON そこはすごく意識してます。自分の出身地ではないけど東京で暮らしてる感覚がそこには影響していると思うんですね。いくらSNS上の議論や問題提起が活発になっているからといっても、ジェンダーの問題などは地方に住んでいるとまだなかなか肌感覚ではリアルに感じられない面もあると思うんです。自分たちの親世代は偏った考え方を持ってる人も多いと思うし。自分が上京したときにバイト先や周りの友だちにジェンダー的にストレートじゃない子もたくさんいたので。そういう人たちと身近に交流してきた中で、“僕”という一人称が歌詞に出てきたからといって必ずしもその相手が彼女とは限らないし、その相手がたとえば娘や息子にも思えるように受け取ってもらってもいいようにという意識で書いてますね。

 

──そういう視座もPEARL CENTERというバンドの性格自体に大きく影響しているように思います。

 

MATTON 今の時代はラッパーがアイコンになりやすいし、若い子が沸き立つ理由もすごく理解できるんですね。モラル的に正しいかどうかは置いておいて、自分の考えをストレートに曲の中で言い切ったりするから。だから、バンドやポップス寄りのミュージシャンのほうが一言ひとことを発するときにいろんなことを気をつけてると思う。SNSでも「こんな投稿していいかな?」とか悩んだり。それって若い子から見たらカッコいいとは思わないはずだし、自分自身も「こんなに気にしながらものを言わなければいけないのか」って思うときもあります。とはいえ、一人の人間としてこの社会に生きてる中で無視できないことはいっぱいあるし、無視することに無理があるとも思う。さらに僕らは年齢的につなぎ目の世代だからこそ意識しなきゃいけないと思うこともあるし。つなぎ目の世代である自分たちはバンドに心をつかまされた世代でもあって。だからこそバンドにロマンを感じるんだと思います。何か欠けてる人たちが集まって、がんばってそれを一つの集合体にしようとする。やっぱりそのロマンが好きなんですよね。

TiMT バンドをやってる人たちはそういうロマンを楽しんでる人たちだよね。だからこそ、自分たちなりのロマンを見せてバンドの醍醐味もこれから見せていかないといけないなとも思いますね。

 

PEARL CENTER●元PAELLASのヴォーカルMATTON(マットン)、YOUR ROMANCEのヴォーカルのinui(イヌイ)、chelmicoの鈴木真海子も参加するPistachio StudioのクルーでもあるトラックメイカーTiMT(ティムト)に、元PAELLASのmsd.(マサダ)を加えた四人組。2020年4月にデビューEP「Humor」をリリース。 2020年6月から3ヶ月連続でコラボレーション・シングルを配信リリース。SIRUPをメンバーに擁するSoulflexを皮切りに、AAAMYYY、Kan Sanoとのコラボレーション曲をリリースし、大きな話題を集める。
2020年にはバンドにとって初となるワンマン・ライブを渋谷WWWにて開催し、ソールドアウトという結果と共にそのライブ・パフォーマンスも高い評価を獲得し、今年3月に開催されたSIRUPによるライブ企画「channel 02」にも出演し、Soulflexとのコラボ曲「Mixed Emotions」を初披露。また、そのファッション性の高さからCOENやジャーナルスタンダード、Y’sといったブランドとのモデルやコラボレーションも行うなど益々その注目度を上げている。

0
Spread the love