今回、星取りレビューでピックアップするのは『フェラーリ』。『ヒート』などで知られるマイケル・マン監督がアダム・ドライバーを主演に迎え、フェラーリ社の創業者エンツォ・フェラーリを描いた物語です。
(星の数は0~5で、☆☆☆☆☆~★★★★★で表記、0.5は「半」で表記)
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<今月の評者>
渡辺麻紀
わたなべ・まき●大分県出身。映画ライター。雑誌やWEB、アプリ等でインタビューやレビューを掲載。ぴあでは『海外映画取材といえばこの人! 渡辺麻紀が見た聞いた! ハリウッド アノ人のホントの顔』を連載中。また、押井守監督による『誰も語らなかったジブリを語ろう』『シネマの神は細部に宿る』『サブぃカルチャー70年』等のインタビュー&執筆を担当。最新刊は『押井守のサブぃカルチャー70年 YouTubeの巻』。
近況:カーテンを新調したら部屋が明るくなり、お家時間が快適になりました。あとはアレを替えればパーフェクト!
折田千鶴子
おりた・ちづこ●栃木県生まれ。映画ライター、映画評論家。「TV Bros.」のほか、雑誌、ウェブ、映画パンフレットなどで映画レビュー、インタビュー記事、コラムを執筆。TV Bros.とは全くテイストの違う女性誌LEEのWeb版で「折田千鶴子のカルチャーナビ・アネックス」を不定期連載中。
近況:意外に感動&感涙しちゃった『ブルー きみは大丈夫』のパンフレットに寄稿。産んだばっかと思ってたら、双子兄弟がもう高校生ですよ!! いつの間に!?
森直人
もり・なおと●和歌山県生まれ。映画ライター、映画評論家。各種雑誌などで映画コラム、インタビュー記事を執筆。YouTubeチャンネルで配信中の、映画ファンと映画製作者による、映画ファンと映画製作者のための映画トーク番組『活弁シネマ倶楽部』ではMCを担当。
近況:今月の推しに取り上げた『エンドレス・サマー』の他、『アンゼルム “傷ついた世界”の芸術家』『大いなる不在』等のパンフに寄稿しております。
『フェラーリ』
監督:マイケル・マン 脚本:トロイ・ケネディ・マーティン 原作:ブロック・イェイツ著「エンツォ・フェラーリ 跳ね馬の肖像」 出演:アダム・ドライバー ペネロペ・クルス シャイリーン・ウッドリー パトリック・デンプシーほか
(132分/2023年/アメリカ)
●イタリアの自動車メーカー・フェラーリ社の創業者エンツォ・フェラーリを描くドラマ。1957年、59歳のエンツォは愛息を前年に亡くし、社の共同経営者である妻ラウラとの関係は冷え切っていた。さらに、愛人とその息子との二重生活が妻の知られるところとなり、フェラーリ社は業績不振で倒産寸前、他社からの買収の危機に瀕していた。公私ともに窮地のエンツォは再起を誓いイタリア全土1000マイル横断のロードレース「ミッレミリア」に挑む。
TOHO シネマズ日比谷ほか全国公開中
渡辺麻紀
マンらしい男性像
最近、映画では不調としか思えなかったマイケル・マンがやっと復活。彼の宿願だったとも言える伝説の男の生きざまをパッショネイトに描いてくれていた。個人的には一度もかっこいいと思ったことのないアダム・ドライバーを大変身させ、とてもクール&ホットな男に仕上げているのにも驚いた。レースシーンにはスピード感のみならず美しさもあり、マンのレース愛を感じることが出来たのも嬉しい。女優陣ではフェラーリの妻に扮したペネロペさんがマンらしいキャラクター。彼の愛人はごくごく普通であまり面白みがなかったが。
★★★★☆
折田千鶴子
味わい深そうな趣はあり
A・ドライバー、イメージをガラッと変えてアダルティーなムードがカッケ~!! とはいえ“え、ここで終わり!?”をはじめ、小さく肩透かしを食らいつつの展開が続く。『フォード vs フェラーリ』の青春感&アドレナリン噴射を期待すると180度反対。だって描かれるのは59歳時。その暗い1年を照射するとは渋好みマイケル・マンらしいが、妻(亡き息子)と愛人(幼い息子)を巡る愛憎が太い軸となり、業績不振挽回&会社の運命を賭けるレース部分も、チームの面々の描き込みも微妙に食い足りない。女たちとの愛憎も今一つ心にグッと入り込まずじまい。
★★★☆☆
森直人
悲劇の色合いが濃い
主演のアダム・ドライバーがほぼ全編陰気で沈鬱な顔をしている。史実としては『フォード vs フェラーリ』の前日譚に当たる物語だが、レース映画というより、帝国崩壊の危機に晒された「王」としてのエンツォ・フェラーリを描くもの。特に父親としての不全感が強調され、『ゴッドファーザー』ではないがイタリアオペラ的な叙事詩の匂いもありつつ、やたら低温なトーン。高速で走る車のシャープな官能性はいかにもマイケル・マン監督らしいが、それでも一般公道を競走場にしたミッレミリアの歴史的な事故シーンの凄惨さがとりわけ印象に残るのだ。
★★★★☆
<今月の推し>
渡辺麻紀……『恋するプリテンダー』コンビ
ハリウッドの推しはなぜかこのふたり。
いまハリウッドで大ブレイク中なのはシドニー・スウィーニーとグレン・パウエルの『恋するプリテンダー』コンビ。この作品が大ヒットしたからか、ふたりの出演作が目白押し。スウィーニーはジェーン・フォンダの『バーバレラ』のリメイクでなぜか主演。パウエルは8/1公開の『ツイスターズ』に出演し、9/13公開の『ヒットマン』では主役。リメイク版『バトルランナー』ではシュワルツェネッガーの役を演じる。その魅力は『~プリテンダー』を見ればわかる! といいたいが、それがまるでわからなくて……。
折田千鶴子……『時々、私は考える』
生きづらくも日々の愛しさよ
メッチャ好き。心の琴線に触れまくり。小さな港町の中小企業で働く不器用女子が、転職して来た中年男性との交流きっかけで、会社でも地域社会でも少しずつ交流していく姿を描く。ってホントそれだけなのに、輪がほんの少しずつ広がっていく感じにワクワク、ちょっと服装に気を遣ったり、小さくときめいたり、ちょっと傷ついたりを繰り返す日常がじんわり愛しい。小さな幸せが詰まった逸品! 主演&製作D・リドリーが素晴らしい。
監督:レイチェル・ランバート 主演・プロデュース:デイジー・リドリー 出演:デイヴ・メルへジほか (93分/2023年/アメリカ)
●人付き合いが苦手なフランは、会社と家を往復するだけの静かで平凡な日々を送っている。唯一の楽しみは空想にふけること。ある日、新しい同僚ロバートとの出会いをきっかけに、日々がきらめきはじめる。
7月26日(金)より新宿シネマカリテほか全国順次公開
森直人……『エンドレス・サマー デジタルリマスター版』
サーフトリップの眩い原点
サーフィン界隈の文化に興味がなくても、映画マニアならぜひご覧いただきたい。もともとインディペンデント、というより自主映画として始まったのがサーフフィルムというジャンルだ。本作では3人のカリフォルニアボーイ(監督+主演2人)が最高の波を探してアフリカやオーストラリアまで世界一周の旅に出る。この青春の記録が自主上映で話題になり、劇場公開されたのが1966年。イノセンスのきらめきが刻まれたロードムービーだ。
製作・監督・撮影・編集・ナレーション:ブルース・ブラウン 出演:マイク・ヒンソン ロバート・オーガスト(90分/1964年/アメリカ)
●26歳の映画監督ブルース・ブラウンが21歳のマイク・ヒンソン、18歳のロバート・オーガストの2人のカリフォルニアン・サーファーとともに波を求め世界を巡る。
7月12日(金)新宿ピカデリーほか全国公開
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