『犯罪都市 THE ROUNDUP』映画星取り & ジェームズ・ガン起用で変わるDCコミック!【2022年11月号映画コラム】

TV Bros.WEBで毎月恒例の映画の星取りコーナー。11月は韓国で大ヒットしたマ・ドンソク主演のクライムアクション『犯罪都市 THE ROUNDUP』を取り上げます。

『ブロス映画自論』では、ジェームズ・ガンのDCスタジオ共同会長&共同CEO就任のニュース、イギリス新首相就任で思い出したあの映画『パラレル・マザーズ』も公開中のペドロ・アルモドバル監督の先駆性についてなどなど……今月もバラエティ豊かにご紹介!

(星の数は0~5で、☆☆☆☆☆~★★★★★で表記、0.5は「半」で表記)

星5つが続出!『RRR』映画星取り【2022年10月号映画コラム】
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<今回の評者>
渡辺麻紀(映画ライター)
わたなべ・まき●大分県出身。映画ライター。雑誌やWEB、アプリ等でインタビューやレビューを掲載。ぴあでは『海外映画取材といえばこの人! 渡辺麻紀が見た聞いた! ハリウッド アノ人のホントの顔』ベストカーWebでは映画などに登場する印象的な車について解説するコラムを連載中。また、押井守監督による『誰も語らなかったジブリを語ろう』『シネマの神は細部に宿る』『人生のツボ』等のインタビュー&執筆を担当した。
近況:相変わらず韓国ドラマにハマってます。

折田千鶴子(映画ライター)
おりた・ちづこ●栃木県生まれ。映画ライター、映画評論家。「TV Bros.」のほか、雑誌、ウェブ、映画パンフレットなどで映画レビュー、インタビュー記事、コラムを執筆。TV Bros.とは全くテイストの違う女性誌LEEのWeb版で「折田千鶴子のカルチャーナビ・アネックス」を不定期連載中。
近況:昔は冬も素足だったのに、なんかスース―して膝から寒さを感じる。膝からって老いなのかとフと考える今日この頃。

森直人(映画ライター)
もり・なおと●和歌山県生まれ。映画ライター、映画評論家。各種雑誌などで映画コラム、インタビュー記事を執筆。YouTubeチャンネルで配信中の、映画ファンと映画製作者による、映画ファンと映画製作者のための映画トーク番組『活弁シネマ倶楽部』ではMCを担当。
近況:『窓辺にて』『恋人はアンバー』の劇場パンフレットに作品評を寄稿しております。

 

『犯罪都市 THE ROUNDUP』

監督/イ・サンヨン プロデュース/マ・ドンソク 出演/マ・ドンソク ソン・ソック チェ・グィファ パク・ジファン ホ・ドンウォン ハジュン チョン・ジェグァン
(2022年/韓国/106分)

●韓国・衿川(クムチョン)署強力班に犯罪者の引き渡しのためにベトナム行きの任務が命じられる。向かったのは、強引な捜査で世間の目を集めがちな型破り刑事マ・ソクト(マ・ドンソク)と頼りない班長チョン・イルマン(チェ・グィファ)。そこで明らかになったのは、冷酷な凶悪犯罪者カン・ヘサン(ソン・ソック)の存在とカンが起こした誘拐事件だった。

11月3日(木・祝)全国公開

©ABO Entertainment Co.,Ltd. & BIGPUNCH PICTURES & HONG FILM & B.A.ENTERTAINMENT CORPORATION 
配給:HIAN

 

渡辺麻紀
主人公も悪役も魅力的!

武器がマチェーテやナイフなので、アクションがめちゃくちゃ痛い。にもかかわらずマ・ドンソクの武器はでっかい身体と怪力。マチェーテVS素手というありえない構図でガンガン攻めまくるのだ。そんななか、癒しになるのがマ・ドンソクの余裕あるキャラクターと、彼が醸し出す笑い。ヴィラン役のお兄さんのサイコっぷりが突き抜けていて強い存在感。この手の作品のお約束「いい映画は悪役が魅力的」をちゃんと守っています。こういう韓国映画を観るたびに、なんで日本で作れないんだろうと思ってしまいますよ。
★★★★☆

 

折田千鶴子
マブリーというジャンル確立

続編である本作も含め、L・ニーソンやJ・ステイサムと同様、既に“マブリー映画”というジャンルを確立。分かっちゃいるけど止められない的、安心・定番の面白さ。マブリー演じる刑事の怪物っぷりもより強まった印象で、もはやスーパー・パワー級。でも、肉体がリアルな存在感ゆえに血がたぎる系の興奮もお約束。また悪役が狂っていて(しかも外見はクール)憎々しく、ゆえに爽快。エンドクレジットのNG集的な舞台裏にも爆笑。その姿が微笑ましく、やっぱりマブリーに💛
★★★半☆

 

森直人
都市型アクションの王道的傑作

めちゃめちゃ面白い。2017年の前作『犯罪都市』は肉弾戦メインの「That’s マブリー映画」だったが、今回はがっつりカーアクションにも展開して、ホーチミンシティーの都市空間を存分に活用したアクション設計が冴えまくる。『フレンチ・コネクション』や『ポリス・ストーリー/香港国際警察』などの歴史的名作に迫る水準。そして鬼畜サイコパスな悪役のソン・ソックが良し。『孤狼の血 LEVEL2』の鈴木亮平的な快演(怪演)!
★★★★★

 

気になる映画ニュースの、気になるその先を! ブロス映画自論

渡辺麻紀
ジェームズ・ガン起用で変わるDCコミック!

最近のもっともホットなニュースといえば、我らがジェームズ・ガンのDCスタジオ共同会長&共同CEO就任だろう。彼がメジャー監督になったのは、DCのライバルでもあるマーベルの『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』の大ヒットからだったが、これでマーベルとは完全に手を切ったことになる。
彼が今回の決断を下した理由のひとつには、過去のSNSでのヤバめのジョークが掘り起こされ、ディズニーによって『~ギャラクシー3』の続編監督を解雇されたこと(があるだろう)。後日、出演者やファンからの嘆願によって復帰したとはいえ、おそらく本人はディズニーとやって行けそうにない自分に、改めて気づいた(のではないか)。……だってR指定の映画、絶対に作らせてくれないもん。
そういう揺れる心を抱えていた(だろう)とき、彼のまえに現れた(と思われる)のが「R指定? もちろんOKです!」と言ってくれる(と考えられる)奇特なスタジオ、ワーナー・ブラザースとDCコミック。その証拠に同社で作った『スーサイド・スクワッド』は堂々たるR指定映画だったからだ。これは、興行的には思ったほどの数字をあげることは出来なかったが、クオリティ的、ガン的には最高の悪党映画。数字だけを見ることなく、ちゃんと能力でガンに白羽の矢を立てた(に違いない)新生ワーナー&DCには期待しかない。ガンくん、その名の通りガンガン行ってください!

ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー|映画|GYAO!ストア

折田千鶴子
この首相がすごい!

世界各国で政治の長が交代したり、居座ったり、なんだかんだと慌ただしく暗い世相を反映したニュースが続く。中でも1カ月半という最短記録を更新、世界中が“え、一体、何だったの!?”と首を捻ったトラス氏に代わり、リシ・スナク氏が新首相となったイギリスのドタバタは飛びぬけて騒がしい。そもそもジョンソン前々首相がいきなり(に見えた)離反され、追い出された(ように見えた)こともビックリだったが、彼を率先して突き上げ、その割にトラス氏に敗れたスナク氏が、改めて新首相に選ばれるなんて、経済政策云々の理由はあるにせよ、どのプロセスも“マジで!?”とツッコミを入れた人は多いに違いない。誰が首相になっても茨の道だと分かってるし、どんなに嫌われても断固として信念を貫き通したサッチャー元首相の映画でも振り返ろうかと頭によぎりつつ、それより瞬時に思い付いちゃったのが、この映画。ベタですが『ラブ・アクチュアリー』。
クリスマス映画の定番としても取り上げられることも多い本作で英国首相を演じるのは、なんと麗しのヒュー・グラント! 腰を振り振りダンスしながら首相官邸を巡り、職務中に新人スタッフに一目惚れし、クリスマスにはその彼女とデート。いい加減なところも含め、思い出すだけで胸が高鳴る。こんな人が首相だったら毎日政見放送見ちゃうな。こんな風に軽~く政権運営出来ちゃう時代が来ればいいなと叶わぬ願いを込めつつ、やっぱ『ラブアク』最高!

ラブ・アクチュアリー|映画|GYAO!ストア

森直人
アルモドバルの先駆性

『犯罪都市 THE ROUNDUP』と同じ11月3日(木・祝)の公開作に、スペイン出身の世界的巨匠、ペドロ・アルモドバル監督(1951年生まれ、71歳)の新作『パラレル・マザーズ』があります。ちなみに同監督の短篇『ヒューマン・ボイス』も同時公開。
1980年代から活躍するアルモドバルは非常に多作の監督であり、近年も2年に1本くらいのペースでどんどん新作を出してきます。今回はライフワーク的な主題である「母の物語」に回帰。同じ日に母となった2人の女性の数奇な運命と特別な絆を描きます。
ファンからすると「毎度おなじみ」なアルモドバルの世界。ただ同時に、いきなりシングルマザーになることを決意する2人の女性の姿や、ジェンダーレスあるいはボーダーレスな愛の形、女性たちの相互扶助的なコミュニティの可能性など、言わばMeToo以降の今っぽい主題や問い掛けが詰まっている映画なんですよね。
もしこれが新人監督の作品だったら、めちゃめちゃびびるはず。画面構成も異常におしゃれだし、「なに、この監督!?」って思う、確実に。
そう考えると、我々はアルモドバルの映画に対して、ものすごくぜいたくになっているんだなあと改めて感じ入りました。例えば『オール・アバウト・マイ・マザー』って「女だけで生きていけます」宣言映画の元祖と言える名作ですが、あれ1999年だから!
そんなアルモドバルの偉大なる先駆性と、ベテランらしい円熟の両方を感じる『パラレル・マザーズ』。要は文句なしの一本。おすすめです。

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