𠮷田恵輔×岸井ゆきの『神は見返りを求める』SP対談「演技している姿をモニターで観ながら『やっぱり華があるな』と思った」

2014年公開の映画『銀の匙 Silver Spoon』から約8年。出演作のオファーが絶えない人気実力派に成長した岸井ゆきのと、『ヒメアノ〜ル』や『空白』でますます評価を高めた𠮷田恵輔監督のタッグが再び実現した。6月24日に公開を迎える映画『神は見返りを求める』だ。 

        

本予告

本作は「YouTube」を題材にした𠮷田監督のオリジナル作品。「神」のように優しいサラリーマン・田母神(演:ムロツヨシ)は底辺YouTuber・ゆりちゃん(演:岸井ゆきの)と出会う。再生回数に伸び悩む彼女を不憫に思った田母神は見返りも求めず彼女のYouTubeチャンネルの運営を手伝うようになり、さまざまな企画動画を投稿するも依然として動画再生数は横ばいのまま。そんなある日、ゆりちゃんは人気YouTuber・チョレイ(演:吉村界人)、やり手のデザイナー・村上アレン(演:栁 俊太郎)に出会い、彼らの協力によって制作した過激な動画が大バズり。YouTuberとして大きく知名度を高めたゆりちゃんは、次第にチョレイやアレンと行動を共にするようになり、田母神を邪険に扱い始める……。  

        

TV Bros.WEBでは今作を3日連続で特集。1日目に岸井ゆきの×𠮷田恵輔監督による対談、2日目は栁俊太郎、3日目は吉村界人の単独インタビューを公開する。6月24日という梅雨時期に公開される今作にちなんで、それぞれの「雨」にまつわるエピソードを展開。岸井ゆきのと𠮷田恵輔監督の対談では、即興芝居を積極的に取り入れた『神は見返りを求める』の舞台裏トークと共に、俳優と監督という異なる視点から語られる映画・ドラマの撮影現場の“雨”にまつわる裏話をお届けする。 (インタビューの最後には直筆サイン入りポラの抽選プレゼント企画も実施中。詳しくは【プレゼント情報】欄をご覧ください。)

取材・文/SYO
撮影/倉持アユミ

■『神は見返りを求める』3日連続特集

DAY1 岸井ゆきの×𠮷田恵輔監督
DAY2 栁俊太郎
DAY3 吉村界人

岸井ゆきの(きしい ゆきの)
●1992年、神奈川県生まれ。2009年デビュー後、テレビドラマや映画、舞台等で幅広く活動。2017年、初主演した映画『おじいちゃん、死んじゃったって。』でヨコハマ映画祭最優秀新人賞を受賞。2019年、 映画『愛がなんだ』で第11回TAMA映画祭最優秀新進女優賞並びに、 第43回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。現在、ドラマ『パンドラの果実~科学犯罪捜査ファイル~』(日本テレビ系)に出演中。

𠮷田恵輔(よしだ・けいすけ)
●1975年生まれ、埼玉県出身。東京ビジュアルアーツ在学中から自主映画を制作し、塚本晋也監督作品の照明を担当。2006年に『なま夏』を自主制作し、「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭」ファンタスティック・オフシアター・コンペティション部門のグランプリを受賞。2008年には小説『純喫茶磯辺』を発表し自らの手で映画化する。近年の監督作品に『ヒメアノ〜ル』(2016)、『犬猿』(2018)、『愛しのアイリーン』(2018)、『BLUE/ブルー』(2021)などがある。

                                

YouTube撮影シーンはほとんど即興芝居?


――本作、個性的な登場人物たちによる非常に生っぽいやり取りが印象的でした。 

𠮷田:ムロさんは割とルックスも含めてバラエティ色が強いじゃないですか。キャラクターっぽく見えちゃうところがあるけど、俺はこの映画では生々しくしたくて。(岸井)ゆきのはどっちもできちゃうぶん、ムロが隣にいるとムロにつられる可能性がある(笑)。 

だから、ふたりの周りにはなるべくポップな人を連れてこないで、パッケージとして生々しくみられるようにはキャスティングしました。 

――田母神やゆりちゃんだけでなく、様々なキャラクターが作品の中で変貌していきますよね。そのグラデーションはどうやって調整していったのでしょう。 

𠮷田:すべての作品で登場人物の感情は変わっていくもので、それをパートごとに撮らなくちゃいけない。いつも順撮り(脚本の順番通りに撮影すること)できるわけじゃないから調整は慣れてはいるけど、クランクインの3日間くらいは「俺は合ってるのかな?」って不安だった。実際撮り始めると楽しくなっちゃうんだけど(笑)。 

本当に真っ暗ななか手探りでやっているし、役者もどうして来るかわかんない。だからこそ今回は、上手い役者しか呼んでいないんですよね。「俺が思ってるより芝居がでかいけどこれが正解な気がしてきた……」って納得させられる技量を持った人たちだった。 

岸井:いやでも、最初の3日間くらい「自由演技で」しか言ってないですからね(笑)。最初のアパート内でYouTube動画を撮るシーンなんか、台本上はインサート(別の映像を後から挿入すること)になっているので、セリフは「×××……」状態でした。セリフがないまま、追加のセリフが来ることなく初日を迎え、「じゃあYouTubeのシーンを撮るから自由演技で! よーい、はいっ!」って(笑)。それで「不安だった」はないです(笑)。

𠮷田:(爆笑)。でも俺は実際にやるわけじゃなく、演技を観て正解かどうかを決める役割だから(笑)。 

岸井:レバーを食べるシーンも、ムロさんと竹とんぼをやるときも全部自由演技でした(笑)。

𠮷田:ひどいときなんて、犬にかまれたりボルダリングするやつはほぼスタッフで撮ってしまって、編集した映像を観て「自分がやってる風に話してみて」ってお願いして……。 

岸井:アフレコの時ですね。しかもそこもセリフが用意されていないから全部自由演技でした(笑)。

𠮷田:でも、ゆきのは「エチュード(即興演技)は苦手」と言いつつ、やるとうまい。俺は本編の中にエチュードっぽいシークエンスを入れるのが好きなんだけど、「これエチュードでしょ」とバレる時が結構あって。明らかに生々しくなりすぎちゃったりするんだけど、ゆきのがやるとそこらへんがうまくなじむんです。これはみんながみんなできることじゃない。 

例えば今こうやって3・4人で話してると、言葉が被っちゃったりすることってよくあるじゃないですか。それがひとつの生々しさだと思って好きなんだけど、セリフが用意してあるとなかなかそうなりづらい。あと、どうしても即興ってなると役じゃなくて自分自身で喋っちゃったりするものだけど、ゆきのの場合はそういうことがないから俺は昔から信用していて。 

台本で全部コントロールするより、その場のシチュエーションだけ決めるほうが臨場感が生まれるんですよね。是枝裕和さんの『誰も知らない』なんか、全部エチュードで撮っているんでしょ? 

岸井:でもそれは子どもだけで、大人はセリフがあるはずです。「ここを右に曲がって見えたものに対してリアクションして」みたいな形式と聞きました。 

――是枝監督は子役には「口伝え」方式を用いられていますよね。 

岸井:そう聞きました。 

𠮷田:俺も今回はその方式を……。「レバー食べて感想言って」って(笑)。 

――(笑)。いやしかし、すべてが順撮りではなくキャラクターが豹変する様子を見せてしかも自由演技が多いというのは、演じるうえでは非常に難易度が高いのではないでしょうか。 

岸井:最初のほうに楽しいシーンを結構撮れたんです。それが大きかったと思います。本編では数分ですが、ムロさんとふたりでYouTube動画を作るシーンは何日かかけて撮りましたね。足つぼバドミントンもやりましたけど2秒ぐらいしか使われていないです……(笑)。 

𠮷田:苦労したのに……(笑)。 

岸井:そういった経験をムロさんとできたので、「こんなはずじゃなかった」という気持ちが強かったですね。本当に嫌いたいわけじゃなく、「嫌いだし臭いしムカつくし消えろ!」と思っているんですけど、楽しい思い出が近くにあって悔しかったですね。「昨日とても楽しかったのになんでこんなケンカしてるんだろ?」という私自身の感覚が力になった気がします。 

𠮷田:ゆきのが演技している姿をモニターで観ながら「やっぱり華があるな」と思った。馬鹿っぽいことをやっていても、それこそ何気ないただパソコンを観ているだけでも絵になるというか、フォトジェニックなんですよね。お芝居が上手い人だったら小劇場を探せば死ぬほどいるけど、そこに観る者を惹きつける“華”もってなると本当に限られていて。 

今回はゆきのの色々な表情が撮れたから、俺からするとキュンキュンするし、ゆきののおかげで説得力が生まれたシーンもたくさんあるし、やっぱり選ばれる人だと思う。それは努力というよりももって生まれたギフトのようなもので、やっぱり監督をやっていてゆきののような人に出会ったら「いい! 撮りたい!」と感じると思う。しかも迫力もあるからね。 

岸井:ありがとうございます! 照れますね(笑)。 

           

アシスタントで参加した
塚本晋也監督『六月の蛇』の撮影現場の思い出


――今作は6月24日公開ということで、「雨」にまつわるトークテーマを用意しております。おふたりが「雨」で連想する映画はありますか? 

岸井:タイトルに雨が入っている作品だと、ジェイク・ギレンホール主演の『雨の日は会えない、晴れた日は君を想う』です。 

𠮷田:俺はもう雨といったら塚本晋也監督の『六月の蛇』。全編じっとりとした雨が降り続ける映画ですが、俺はその撮影現場の雨降らしに関わっていたんです。水道の位置から全部調べてロケ地のマップを作らないといけないし、塚本組の「雨」ってこっちでいう「台風」だから(笑)。スタッフも4人くらいしかいなくて、てんやわんやでしたね。 

俺は照明もやっていて、晴れた場合は天気雨になってしまうからリアリティがない。だから太陽がビルの陰に入る時間帯を全部計算して、「晴れた場合はこの時間帯だったらなんとか行ける!」みたいに提案していました。26歳くらいの時ですね。 

岸井:雨降らしといえば、いま撮っている羽住英一郎監督のドラマ『パンドラの果実~科学犯罪捜査ファイル~』がすごいです。なにせ『海猿』のチームですからね。ウエットスーツを着せられて目も開けてられないくらいの土砂降りの中、当然セリフもうまく言えなくて。口を開けたら雨が入ってきたりもして(笑)。「大丈夫ですか?」と聞いたら羽住さんはニッコニコで「カッコよかった!」って言ってくれました(笑)。 

𠮷田:楽しそう(笑)。 

岸井:楽しかったです(笑)!

𠮷田:雨降らしって面白いよね。『六月の蛇』も全編雨降らしだったし地獄を見たけど(笑)、ヴェネツィア国際映画祭で賞を獲るまでになったわけだし。 

岸井:でも、全編雨降らしってすごいですよね。『ノマドランド』でのマジックアワーでの撮影みたいですね。 

𠮷田:そうだね。自分の本だと、「雨でも可」みたいに書いています。感情的に雨天決行シーンでOKのシーンを作っておくと、天気予報で「この日は雨」となったときに「じゃあこっちのシーンの撮影に変更しようか」ができる。東京での撮影だと仕込みが大変だけど、地方での撮影だとキャストもスタッフも全員泊まってるし割とスムーズに変更できる。 

岸井:『愛しのアイリーン』のときの雪は、本物ですか? 積もっているタイミングを狙ったんですか? 

𠮷田:そうそう。こればっかりは雪が積もってないと駄目だという状況で、スタッフが「絶対に積もっている場所を見つけました!」と探してきてくれた場所に行ったら日本三大豪雪地帯みたいなところで、雪が2メートルも積もっていて(笑)。初日ホワイトアウトしちゃって、モニターが白しか見えなかった(笑)。 

――『神は見返りを求める』はロケ撮影のシーンが結構多いですよね。 

岸井:多いですね。でも2日くらいしか天候で撮れない日はなかったと思います。 

𠮷田:道の駅みたいなところで「クソ天気いいな」って言うセリフがあるシーンが、どん曇りで(笑)。3時間ぐらい我慢して晴れるのを待ってたんだけど、「駄目だね……」ってなった(笑)。 

岸井:目に見える世界が全部雲で覆われていたんです。「駄目に決まってる!」って状態でした(笑)。でも助監督が「あと5分で晴れます!」って主張していました(笑)。 

𠮷田:雨雲レーダーを見ながら「僕のところでは雲一つないです!」って言ってるけど、実際の空は曇天。後から予報が30分ズレていたことが分かったという……(笑)。 

岸井:その日は撮れなかったので、でっかい白菜だけお土産に買って都内に帰りました(笑)。 

後日晴れたタイミングで同じシーンを撮り直したときに、「やっぱり曇りだと実感がこもっていなくて、うまく言えてなかったな」と思いましたね。 

𠮷田:「クソ天気いいな」って、言葉遣いは悪いけどテンションが上がっていてノリで言っちゃったみたいなセリフだから、余計にね。あのときは鬼ヶ島みたいな禍々しい空だったから、そりゃあワクワクできない(笑)。 

岸井:本当に。クソ天気いいときに撮り直せてよかったです(笑)。 


【映画情報】

神は見返りを求める

2022年6月24日公開

■出演:ムロツヨシ 岸井ゆきの
若葉竜也 吉村界人 淡梨 栁俊太郎
田村健太郎 中山求一郎 廣瀬祐樹 下川恭平 前原滉

■監督・脚本:𠮷田恵輔

■主題歌:空白ごっこ「サンクチュアリ」 挿入歌:空白ごっこ「かみさま」(ポニーキャニオン) 音楽:佐藤望

■企画:石田雄治 プロデューサー:柴原祐一 花田聖

■撮影:志田貴之 照明:疋田淳 録音:鈴木健太郎 美術:中川理仁 装飾:畠山和久 編集:田巻源太 ■VFXスーパーバイザー:白石哲也

■衣裳:松本紗矢子 ヘアメイク:杉山裕美子 
■スクリプター:増子さおり 
■音響効果:渋谷圭介 
■キャスティング:川口真五 
■助監督:松倉大夏 
■制作担当:森田勝政 

■音楽プロデューサー:杉田寿宏 
■ラインプロデューサー:島根淳 
■宣伝プロデューサー:宇佐美梓 

■配給:パルコ 
■宣伝:FINOR 
■制作プロダクション:ダブ


【プレゼント情報】

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