TV Bros.WEBで毎月恒例の映画の星取りコーナー。今回はあのマフィアの人生をたどる『ギャング・オブ・アメリカ』を取り上げます。
星取り作品以外も言いたいことがたくさんある評者たちによる映画関連コラム「ブロス映画自論」も常設しておりますので、映画情報はこちらで仕入れのほど、よろしくお願いいたします。
(星の数は0~5で、☆☆☆☆☆~★★★★★で表記、0.5は「半」で表記)
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<今回の評者>
柳下毅一郎(やなした・きいちろう)●映画評論家・特殊翻訳家。主な著書に、ジョン・スラデック『ロデリック』(河出書房新社)など。Webマガジン『皆殺し映画通信』は随時更新中。
近況:リンゼイ・グレシャムの『ナイトメア・アリー』(ハヤカワ・ミステリ文庫)を翻訳しました。ミルクマン斉藤(みるくまん・さいとう)●京都市出身・大阪在住の映画評論家。京都「三三屋」でほぼ月イチのトークショウ「ミルクマン斉藤のすごい映画めんどくさい映画」を開催中。6月からは大阪CLUB NOONからの月評ライヴ配信「CINEMA NOON」を開始(Twitch:https://twitch.tv/noon_cafe)。
近況:映画評論家。12/19(日)、ロフトプラスワンWESTで「ザ・ベストテン!2021」。12/26は大阪十三シアターセブンで『新しい風』上映後、中村祐太郎監督とトーク。ぶった斬り最新映画情報番組「CINEMA NOON」最新回はYouTubeチャンネルでご覧ください。地畑寧子(ちばた・やすこ)●東京都出身。ライター。TV Bros.、劇場用パンフレット、「パーフェクト・タイムービー・ガイド」「韓国ドラマで学ぶ韓国の歴史」「中国時代劇で学ぶ中国の歴史」「韓国テレビドラマコレクション」などに寄稿。
近況:韓国コミック界の鬼才チェ・ギュソク(『地獄が呼んでいる』原作ほか)の「沸点」を遅まきながら購入。じっくり読みます。
『ギャング・オブ・アメリカ』(Lansky)
監督・脚本/エタン・ロッカウェイ 出演/ハーヴェイ・カイテル サム・ワーシントン ジョン・マガロ アナソフィア・ロブ ミンカ・ケリー デヴィッド・ジェームズ・エリオット ダニー・A・アベケイザー デビッド・ケイド シェーン・マクレア ワス・スティーブンス ジェームズ・モーゼズ・ブラック アーロン・アバウトボール ジョエル・ミカエリーほか
(2021年/アメリカ/119分)
●作家のデヴィッド・ストーンは、「俺が生きているうちは、誰にも読ませるな」という条件のもと、伝説のマフィア、マイヤー・ランスキーの伝記を書くことになり、インタビューを進める。半世紀以上に及ぶ壮絶な抗争を経て巨万の富を築くに至ったランスキーだが、彼に捜査の手が伸びていることを知ったストーンは、ある決断を迫られる。監督・脚本のエタン・ロッカウェイの父が実際にランスキーにインタビューを行っている。
2/4(金)より、新宿バルト9 ほか全国公開
© 2021 MLI HOLDINGS, LLC ALL RIGHTS RESERVED.
配給/アルバトロス・フィルム
柳下毅一郎
経済ヤクザの自慢話
マイヤー・ランスキーの自己宣伝的伝記映画。突っ込むべきところを突っ込まず、すべてを「二〇世紀の闇」で終わらせてしまうなら、わざわざ映画を作る意味は……監督の自己承認欲求じゃああまりにつまらないね。
★★☆☆☆
ミルクマン斉藤
「私はギャングか? 汚れた顔の天使だ」
ランスキーを描いた映画は何本も観てきたが、本作の彼はとにかくビジネスライク。商売人として極めて有能。クールを極めた晩年の彼を演じるのに知性が顔に溢れてるハーヴェイ・カイテルはまさに適役で名言も続出する。しかしユダヤ人としての矜持が何より重いのが本作のキモかな。
★★★半☆
地畑寧子
人生はグレーの濃淡
邦題はチープだが、作品は骨太。余韻たっぷりのハーベイ・カイテルの妙演が効いている。ユダヤ系の犯罪者として生きた、ランスキーの達観が心に響く。CIAのもみ消しに至るまで米国の暗部が皮肉に描かれているのもいい。
★★★★半
気になる映画ニュースの、気になるその先を!
ブロス映画自論
柳下毅一郎
あけましてウォーターズ
取り掛かってからはや数年、長らく抱え込んできたジョン・ウォーターズのヒッチハイク本こと『ジョン・ウォーターズの地獄のアメリカ横断ヒッチハイク』(国書刊行会)がようやく出版された。待たされただけの甲斐はあった、と思ってもらえる本になったはずだと珍しく自負している。いや、本当に面白いので。
出版に合わせてウォーターズの過去作の上映会があったので、今年最初、正月一日からジョン・ウォーターズの『マルチプル・マニアックス』を観に行った。一年の計は元旦にあり、という意味では今年はディヴァインがロブスターに襲われるかのような一年になるのだろう。なんと素晴らしいことだろうか。
『マルチプル・マニアックス』は『ピンク・フラミンゴ』前の、ウォーターズ最後の自主制作映画である。あらためて見て、ディヴァインが教会で祈るシーンの執拗さに驚かされた。これはやはりウォーターズが宗教の軛を逃れるために作った脱洗脳映画なのだなあ。ウォーターズですらそこまで縛られていた、というのが逆説的に教えてくれるキリスト教の凄みである。そういうわけで今年は『ピンク・フラミンゴ』公開五十周年。あけましてウォーターズおめでとう!
ミルクマン斉藤
イグアナが落ちてきた日。
2月1日あたりのこと。フロリダ州南部の気温がとんでもなく低くなり、アメリカ気象局が発令したのがなんと「イグアナ落下注意報」。果たして、木の上で眠っていたイグアナが動けなくなって、ばらばらと落下して地面に散らばってたというのだが、実際に映像観ると確かに白目剥いて凍りついてる。こういう話を聞くと、どうしてもポール・トーマス・アンダースン『マグノリア』のラスト、無数のカエルが空から降ってくるシーンを思い出すのだが、これも実際に起きうる事象であるのは有名なこと。それじゃ面白くないのでもういっちょ連想したのがギリシャの異才マイケル・カコヤニスの『魚が出てきた日』だ。離島に不時着した戦闘機に搭載された放射性物質でもってラスト、大量の魚が海に浮いてくるオチはタイトルからしてネタバレ同然、観たつもりになってる人も多いかも。でも、さほどソフィスティケーションされてるとは言い難いドタバタと、当時として近未来をイメージしたトンデモ衣装(監督自ら担当)、007で有名なモーリス・ビンダーのスマートなタイトル・デザインとミキス・テオドラキスの素晴らしすぎるサントラがごちゃまぜになり、結果として最高度の成果をもたらしてはいないにしろ、なんだか魅力的な作品なのである。
地畑寧子
岩波ホールで鑑賞した『芙蓉鎮』
映画ファンにとっての最近の衝撃は、岩波ホールの閉館だろう。かくいう私も鑑賞や取材で何度もお邪魔した思い出深い映画館である。そして中国映画に目覚めた場所でもあり、『芙蓉鎮』(87年)の上映には何度も足を運んだ。舞台は文化大革命。主人公の玉音は、成功した商売人だったため、つるし上げに遭う。彼女は家も仕事も財産も夫も失うが、同じくつるし上げに遭った右派の書田を心の支えに、13年の混乱を生き抜く。道路の掃除人にされても、こんな不条理はいつかは終わると見越しているような書田のおどける姿やそれに微笑む玉音の場面、労働改造所に送られる書田が“豚になっても生き抜け”と玉音に言い残す場面は、今も目に焼き付いている。監督は第三世代の謝晋。同時期に第五世代の張芸謀監督や陳凱歌監督などの傑作も上映され大いに刺激を受けたが、文革前を知る世代とそうでない世代の時代感、人間描写の違いをぼんやりと感じている。それから早(たった)20年。中国はハリウッド映画の資金源となり、人民解放軍の俳優がハリウッド映画に出演し、地元でもブロックバスター映画が続々。台湾の俳優が中国映画に出演し問題になった時代が嘘のような変容である。とはいえ、このところコロナ禍の封鎖を破った人たちが並ばされ反省文を読まされているのを目にすると、まだまだ理解できない中国を痛感する。
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