おぼん・こぼんに見る老コンビの花道&『スターダスト』映画星取り【2021年10月号映画コラム】

TV Bros.WEBで毎月恒例の映画の星取りコーナー。今回はデヴィッド・ボウイの伝記映画『スターダスト』を取り上げます。
星取り作品以外も言いたいことがたくさんある評者たちによる映画関連コラム「ブロス映画自論」も新設しておりますので、映画情報はこちらで仕入れのほど、よろしくお願いいたします。

(星の数は0~5で、☆☆☆☆☆~★★★★★で表記、0.5は「半」で表記)

<今回の評者>
柳下毅一郎(やなした・きいちろう)●映画評論家・特殊翻訳家。主な著書に、ジョン・スラデック『ロデリック』(河出書房新社)など。Webマガジン『皆殺し映画通信』は随時更新中。
近況:四年ぶりに金沢に行きました。

ミルクマン斉藤(みるくまん・さいとう)●京都市出身・大阪在住の映画評論家。京都「三三屋」でほぼ月イチのトークショウ「ミルクマン斉藤のすごい映画めんどくさい映画」を開催中。6月からは大阪CLUB NOONからの月評ライヴ配信「CINEMA NOON」を開始(Twitch:https://twitch.tv/noon_cafe)。
近況:映画評論家。ぶった斬り最新映画情報番組「CINEMA NOON」最新回はYouTubeチャンネルでご覧ください。

地畑寧子(ちばた・やすこ)●東京都出身。ライター。TV Bros.、劇場用パンフレット、「パーフェクト・タイムービー・ガイド」「韓国ドラマで学ぶ韓国の歴史」「中国時代劇で学ぶ中国の歴史」「韓国テレビドラマコレクション」などに寄稿。
近況:現在発売中の『スパイ映画大解剖』(サンエイムック)に寄稿。007の一部分、韓国、中国のスパイ映画を担当しました。

 

『スターダスト』

監督/ガブリエル・レンジ 脚本/クリストファー・ベル  ガブリエル・レンジ 出演/ジョニー・フリン ジェナ・マローン デレク・モラン アーロン・プール マーク・マロンほか
(2020年/イギリス・カナダ/109分)

  • デヴィッド・ボウイの若かりし日の姿や、別人格「ジギー・スターダスト」誕生の裏側など、世界が知る「デヴィッド・ボウイ」になる前の彼を描く伝記映画。3作目のアルバムをリリースした24歳のボウイはイギリスからアメリカに渡り、初の全米プロモーションツアーを開始するが、自分が世間に知られていないこと、時代が自分に追いついていないことを知る。

10月8日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国公開
©COPYRIGHT 2019 SALON BOWIE LIMITED, WILD WONDERLAND FILMS LLC
配給/リージェンツ

 

柳下毅一郎

曲を使わずにボウイを語る実験映画か
しかしボウイは「仮面をかぶりたい」と言ってるんだから、『世界を売った男』が精神病院に入っている兄を歌ったものだ、って解釈はボウイの意に真っ向から逆らうものなんじゃなかろうか。
★★☆☆☆

ミルクマン斉藤

何の変哲もないロードムーヴィ。
それほどデヴィッド・ボウイに詳しくはないのだが、似てる似てないは別として、ここまでカリスマ性皆無ってことはないだろう。音楽的にも多大な影響を受けた解離性同一症の兄の血を受け継いでいるのではと怯え、やがてジギーという別人格を生み出すまでを描くという意図は判るが、大半はあまりに凡庸なドサ回り映画。
★☆☆☆☆

地畑寧子

デヴィッド・ボウイの陰
メタメタな米国行きのくだりが必要以上に長いせいかうす~い味わい。この米国での認知の低さもジギー・スターダスト誕生の要因らしいが、しっくりこない。自身の繊細さ、優しさはよく表現されてはいるのだけれど…。
★★☆☆☆

 

気になる映画ニュースの、気になるその先を!
ブロス映画自論

柳下毅一郎

大蔵映画契約書問題

〈シナリオ〉誌2021年10月号、日本シナリオ作家協会ニュース中に「大蔵映画契約書問題を語る」と題した座談会が載っている。2018年、荒木太郎監督、荒木太郎・いまおかしんじ脚本のピンク映画『ハレンチ君主 いんびな休日』が直前で公開中止となり、そのまま封印されてしまった事件があった。それ以降、大蔵映画は監督相手にきわめて厳しい契約を求めるようになったのだという。2019年公開の『ツンデレ娘 奥手な初体験』の脚本家、井上淳一は、自分のあずかり知らぬところで第三者により印税額まで勝手に決めた契約が結ばれていたことを知る。驚いて契約書を取り寄せてみたところ……これはもはやホラー映画である。大蔵が求めた契約書には、ことこまかに「扱ってはならない」テーマが書かれているのだが、読んでいくと本当にこれで映画が作れるのか不安になってくるほどである。かつてピンク映画は「女の裸さえ出ていればあとはなんでもいい」と言われ、それを逆手にとった若松孝二や足立正生らがほかでは決して作れない傑作を生み出してきたものだった。ピンク映画が死んだと言われて久しいのだが、この契約書を見たとき、あるいはピンクは本当に死んだのだろうかと思われた。

 

ミルクマン斉藤

おぼん・こぼんに見る老コンビの花道。

『水曜日のダウンタウン』が二週続けて放送したおぼん・こぼんの仲直り大作戦FINAL。両者の家族を巻き込んで……というか、こぼんの娘さんの結婚式を和解の場にしてしまおうというハタ迷惑の極みのような、あの番組らしい悪趣味企画だったが(なんせ要らぬ火を点けて関係を悪化させたのは『水ダウ』そのものだし)結果的には不覚にも感動してしまい、10月7日からの浅草東洋館での興行も満員御礼になったというから見事に再ブレイクを果たしたと言っていいだろう。共に大阪人でありながら、僕が認識したときにはすでに浅草芸人。タップダンスやジャズナンバーをネタに取り入れるスタイルは、考えてみればオールドスタイルな、アメリカン・ヴォードヴィリアンへの憧れからであったろう。そこで思い浮かんだのが、まさにそうした喜劇人コンビの最後の花道を描いた『僕たちのラストステージ』(2019年)だ。無声期の大スターであったローレル&ハーディが、すでに過去の人となって久しい1950年代にイギリスでツアーを…と言えば聞こえはいいが、いわばドサ回り。おぼん・こぼんとは違って基本的に仲はいいが、激しく口論してしまうこともある。しかしステージに上がると長年培った芸は流石なものでロンドンの大劇場でカムバックしてしまうのだな。

おぼん・こぼん | 一般社団法人 漫才協会

 

地畑寧子

兄弟の交流にも感涙『玆山魚譜』

デヴィッド・ボウイに良かれ悪しかれ影響を与えていたのは、異父兄テリだが(『スターダスト』にも)、『玆山魚譜(チョンサンオボ)』(11月19日公開)の主人公、チョン・ヤクチョンは、天才学者である弟チョン・ヤギョンの学究、思想に影響を与え、かつ心の拠り所でもあったようだ。チョン・ヤギョンは、世界遺産・水原華城の設計でも知られる、朝鮮王朝第22代正祖(イ・サン)の腹心だった。ただ彼が先取した西学(洋学)は、天主教(カトリック)とも重なり、天主教が、朝鮮王朝の母体である朱子学とは相反するものだったことから、正祖の死後粛清の憂き目にあった。『玆山魚譜』でもこの時代背景と兄弟が別々の僻地に配流されるくだりが簡潔に描かれている。二人が書簡に記した詩の往復で、互いの安否を確かめる描写が心に染み入る。作品の肝は、チョン・ヤクチョンが聡明な漁夫チョンデと知識の交換を経て、魚類図鑑「玆山魚譜」を完成させるまでだが、その過程で描かれるヤクチョンの時代先取の言動、人間力、両班になったチョンデが遭遇する政の腐敗、世の不条理は、分かり易く、かつ深い。監督は『王の男』のイ・ジュニク。他作品でもモノクロームを採用しているが、今回は水墨画の如く美に特化。イ監督の知性に改めて感服する秀作だ。

映画『玆山魚譜』公式ページ

 

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TV Bros.編集部
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