高畑充希「“閉じていた頃の自分”を思い出しました(笑)」 映画『浜の朝日の嘘つきどもと』【2021年9月号映画特集】

自身の出自でもあるミュージカル女優として、来年夏に念願の『ミス・サイゴン』のヒロイン・キム役が決定している高畑充希。今年だけで主演/ヒロインを務める映画の公開が3本、ドラマが1本と、まさに全方位抜けなし。そんな高畑が、『百万円と苦虫女』『ロマンスドール』などの監督タナダユキと、初顔合わせとなる『浜の朝日の嘘つきどもと』(9月10日公開)で主演を務めた。30歳を目前に控えた高畑に、現在、そしてこれからを語ってもらった。

取材・文/折田千鶴子 撮影/ツダヒロキ

ヘアメイク/小澤麻衣(mod’s hair)

スタイリスト/菅沼愛(TRON)

 

『浜の朝日の嘘つきどもと』

脚本・監督/タナダユキ 出演/高畑充希 柳家喬太郎 大久保佳代子 甲本雅裕 佐野弘樹 神尾 佑 竹原ピストル 光石 研 吉行和子ほか

  • 福島県・南相馬の映画館「朝日座」に、茂木莉子(高畑充希)と名乗る女性が“映画館を立て直しに来た”と現れる。経営難で閉館を決めていた支配人の森田(柳家喬太郎)は驚くが、莉子の熱意に少しずつ心が動かされていく。実は莉子のその行動には、恩師(大久保佳代子)との約束があった――。

(2021年/日本/114分)

©2021 映画『浜の朝日の噓つきどもと』製作委員会
9/10(金)全国ロードショー
配給/ポニーキャニオン

 

殻に閉じこもっていた10代

――本作はタナダユキ監督のオリジナル脚本ですが、台本を読んだ感想は?

最初に台本をいただいた後、急にコロナの流行が始まったので、それを踏まえてコロナという要素が付け加えられ、お話も少し変わりました。そういう意味でも、今しか作れない映画だと思いました。撮影していた昨年の夏(2020年7~8月)は、まさか翌年も同じような状況のままだとは思ってもいませんでしたが、後々「こういう状態だった、こういう時代があったな」と思える日が来ると良いな、という希望も込めてエンタメに昇華されている。そういうのも、すごくいいな、と思いました。

――演じた茂木莉子は、結構ヘビーな人生を歩んできましたね。

学生時代と南相馬に現れた後では、口調からなにからガラッと違っていますが、私自身いろんな人と接する中で、相手によって違う自分になったりすることも結構ありますし、人って急に変わることがあると身をもって実感しているので、その差はあまり意識していませんでした。ただ、学生時代の彼女は、“閉じていた頃の自分”を思い出しました(笑)。私10代の頃、すごく閉じて殻に閉じこもっていて、人とコミュニケーションをできるだけ取りたくないタイプだったんです。あまり人の目も見られなかったし、いろんなことを思っても何往復も先回りして“じゃ、これでいいや”と一人で自己完結しちゃって。でも20歳くらいで、急にどういうわけか人とコミュニケーションを取ったり、触れ合ったりすることが好きになって。だから(その莉子の変貌も)すごく分かるな、と。莉子の場合は恩師の影響が大きいのですが。

――福島が舞台の本作には、いろんなテーマが盛り込まれています。高畑さん自身が最もピンと来たテーマは、どんなものでしたか。

コロナ禍で、それまで当然だったことが消えてしまい、明日どうなるのか分からない、というような気持ちに誰もがなりましたよね。人間関係も急に変わっていった時期でもあって……。私が個人的に好きだったのは、“みんな無くなると分かってから騒ぐ”ということでした。この町の人たちも、“朝日座”という映画館が無くなってしまうと分かったら、みんなで“無くしちゃダメだ”と言い始めるけれど、誰もそれまでありがたがっていなかったよね、と。読んで「本当にそうだよなぁ」と思いました。ちょうどいろんなものが破壊されたり無くなったりしていた時期だったので、すごく響きましたね。それまで普通に人とも会っていたことが、実はとても貴重だったんだな、とか。そういうことを風刺的に書かれているタナダさんの視線が、すごく好きでした。

――高校時代の恩師の遺志を継ぎ、莉子が南相馬の映画館“朝日座”存続のために奔走します。撮影は、実在の映画館・朝日座で行われたんですよね。

そこだけ別の時空かと思うくらい、歴史があって本当に素敵な空間でした。撮影時期は夏で暑かったのですが、中に入ると少し空気が冷たく感じられ、ひんやりしていて。映画愛がすごく詰まっていて、ここで撮影できるなんて本当に幸せだな、と思いました。また私がチケットを売る、あの小さなブースって、すごいロマンがありますよね。お客さんの顔が見えるので、この映画をこの人がチョイスしたんだとか、なぜこの人はこの映画を見たいと思ったんだろうとか、想像が膨らんで楽しかったです。

共演者の接着剤的な存在になれたら

――閉館を決意した支配人・森田を演じるのは、人気落語家の柳家喬太郎さんです。莉子と森田の掛け合いが、とてもリズミカルで面白かったです。

会話劇は本当に楽しかったです。でも、そうした掛け合いを一発で撮っていったりするので、かなり緊張しました。ただもう師匠がいてくださるので、胸を借りるつもりで臨みました。ところが師匠は「僕は普段一人で喋っているから、人との会話は迷惑をかけるかもしれないよ」とおっしゃっていて(笑)。師匠とご一緒出来て本当に嬉しかったです。

――恩師を演じるのは大久保佳代子さんです。役者業を専門とされていない方々とのお芝居は新鮮でしたか。

とはいえ普段もいろんな俳優さんとお仕事をし、皆さんそれぞれアプローチも演じ方も違うので、特別に何かが違うということはなかったです。ただ、当然だと思ってやっていたことに対して、大久保さんが「あ、こんなことがあるんだね」と新鮮に驚きながらやっていらっしゃって。それを見て、確かに私もデビューした頃はそういう気持ちを持っていたなぁ、私も新鮮に楽しんでやりたいな、と逆に思いました。

――莉子が恩師の遺志を継ごうとするように、高畑さん自身“何かを継ぐ”ということを意識されたことはありますか。

今までの人生、受け継ぐみたいな概念、私は持っていませんでした。というのも、家系的には親の職業を私が継ぐかも知れなかったのですが、地元を飛び出して芸能に入ってしまったのもあって……。ただ最近、特にミュージカルをやるときに、オリジナルがあるクラシックな作品をやることが多く、作品を受け継ぐためにやる、後世に伝えるためのピースになる、というチャンスも多くなってきました。それがすごく楽しいと感じている自分もいて。私はこれまで、何か新しいものを生み出すことが美学だと思っていたけれど、それを受け継いでいくという役割もある、そこに美学をすごく感じるようになってきました。

――映画の現場でも立場が変わってきていると思います。本作でも、座長ということを意識されましたか。

今回は先輩ばかりの現場だったので……(笑)。ただ、普段の仕事場とは違う映画の現場にいらして、最初みなさん少し緊張されていたようだったので、伸び伸び楽しくやってくださったら嬉しいな、というみんなの接着剤的な存在になれたら良いな、という気持ちはありました。でも主演をやるようになってまだ日が浅い私は、撮影中、逆にあまり自分のことに集中できなくなってしまったりもして(笑)。もう少し、ちゃんと自分のことを考えられたら良かったかも、と思ってます。

自分にとっての、無くなってほしくない映画館

――劇中、恩師からいろんな古典映画を見せられていましたが、実際にお気に入りになった作品に出合いましたか。

若尾文子さん主演の『青空娘』が、すごく面白かったです。映画というもの自体、今とは全然テイストが違っていて。皆さんかなり大きなお芝居をされていますが、それが本当に可愛くて、大好きで。思い切り見入ってしまい、あっという間に見終えていました。これまで昔の映画にはほとんど馴染みがなかったのですが、今も残っている映画って本当に良い作品が多いんだと、今回とても学べました。

――この朝日座のように、無くなってほしくない映画館はありますか?

福岡に、大洋映画劇場というメチャクチャ味がある映画館があるんです。先日舞台で福岡公演に行ったときにフラッと入ったのですが、やっぱりすごくいい映画館で、この先もずっと無くなってほしくないな、と思いました。丁度観たかった作品が観られたのですが、映画館の空気のお陰で作品も3割増しに感じました。

プロフィール>
高畑充希(たかはた・みつき)●1991 年大阪府生まれ。 2005 年、山口百恵トリビュート・ミュージカル「プレイバック part2 〜屋上の天使」のオーディションでグランプリを獲得し、デビュー。連続テレビ小説『とと姉ちゃん』(NHK/2016 年)でヒロインに抜擢。『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』(2018年)で第43回日本アカデミー賞優秀助演女優賞を受賞。近作に映画『明日の食卓』、『キャラクター』などがある。11月より、『連続ドラマW「いりびと―異邦人―」』(WOWOW)にて主演。2022年夏にはミュージカル『ミス・サイゴン』でのキム役が決まっている。

 

 

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