オダギリジョーが脚本・演出・編集に加え、まさかの警察犬・オリバー役で出演も兼ねたNHKドラマ『オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ』(2021)。主演の池松壮亮や、永瀬正敏、麻生久美子に加え、本誌連載陣の一人・細野晴臣も出演するなど豪華キャストが集結したミステリーコメディ。 2022年9月20日(火)から3週連続で放送されるシーズン2では、シーズン1の続投メンバーに加えて松たか子や高良健吾、黒木華、浜辺美波らが新たに登場する。
昨年放送されたシーズン1は、オダギリが着ぐるみ姿で登場し、本筋とはまるで関係ないギャグが入り乱れる面白さ、レギュレーション的にNGの固有名詞をピー音で表現したりモザイクをかけるなどの遊び心満載の演出が話題になり、2021年10月度ギャラクシー賞テレビ部門月間賞を受賞。
そんなシーズン1の特別編が9月17日(土)午前0:25(金曜深夜)に一挙放送される。昨年惜しくも放送には入り切らなかった未公開映像20分以上(※3話分)を含めたシーズン1の「特別版」を放送。オダギリ自ら再編集し、全く新しい作品として再構築した新生『オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ』。シーズン1を見逃した方も、今からシーズン2に追いつくことが可能だ。今回の放送を記念して、TV Bros.WEBではロングインタビュー収録の TV Bros.2022年11月号(9月28日発売)に先駆けて、オダギリジョーへの本誌未収録インタビューをお届け!
取材・文/SYO
【タイトル】ドラマ10『オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ』 シーズン2
【放送予定】
第4話 9月20日(火)
第5話 9月27日(火)
第6話 10月4日(火)
午後10:00-10:45(NHK総合)
<再放送>
9月27日(火)・10月4日(火)・11日(火) 午後3:10-3:55(総合)
<シーズン1「特別版」>
9月17日(土)午前0:25(金曜深夜)
第1話~第3話 一挙放送(NHK総合) ※全エピソードを NHK プラスでも配信します。
【脚本・演出・編集】オダギリジョー
【制作統括】柴田直之(NHK) 坂部康二(NHK エンタープライズ) 山本喜彦(MMJ)
【出 演】 池松壮亮、オダギリジョー、永瀬正敏、麻生久美子、本田翼、岡山天音、玉城ティナ、くっきー!(野性爆弾)/永山瑛太/川島鈴遥、佐藤緋美、浅川梨奈/染谷将太/仲野太賀/ 村上虹郎、佐久間由衣、寛一郎、千原せいじ(千原兄弟)、河本準一(次長課長)/高良健吾/坂井真紀、葛山信吾、火野正平、竹内都子、村上淳、嶋田久作、甲本雅裕、鈴木慶一/ 國村隼/細野晴臣、香椎由宇、渋川清彦、我修院達也、宇野祥平/松たか子/黒木華/ 浜辺美波/濱田マリ、シシド・カフカ、河合優実、佐藤玲/風吹ジュン/松重豊、柄本明、橋爪功、佐藤浩市 ほか
※葛山信吾さんの「葛」の下の「人」は正式には「ヒ」です。
【音楽】森雅樹
【主題歌】「The Hunter」(EGO-WRAPPIN’)
【制作】NHKエンタープライズ
【制作・著作】NHK、MMJ
公式サイト
「前提として、いい俳優しか
呼んでいないんです」
©NHK
――オダギリさんは『オリバーな犬』シーズン2の脚本をNHK連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』の撮影中に書き上げたそうですね。シナハン(シナリオハンティング。脚本を作成する段階で撮影地を取材すること)は難しかったかと思いますが、脱稿後にロケハンなどは同行されたのでしょうか。
オダギリジョー(以下、オダギリ):はい。ロケハンは必ず僕も同行します。逆に、いい場所が見つかるまでロケハンは終わりません(苦笑)。制作スタッフにとって、ロケハンが最初の苦難になるんじゃないでしょうか。本当に難しいんですよ。自分が想像している場所を見つけるのって。制作部さんが見繕ってくれた場所を見て廻って、シーンに適した場所を探し続けます。『オリバーな犬』の世界観を作り上げる大切な要素なので妥協は許されません。納得できる場所が決まれば、そこでの俳優の立ち位置やカメラポジションなどを考え、台本に反映します。本当は撮影が始まる前に全ての場所を決めておくのがベストですが、なかなか決まらないことが多いので、撮影の休みの日にロケハンを行う事もしばしばです(苦笑)。
――本作はカット割りも独特で非常に面白いですが、現場ではどのようにイメージ共有を行っているのでしょう。
オダギリ:撮影の前の日にカット割りをスタッフにお配りするようにしています。それを頭に入れてもらい、撮影当日に芝居を固めた後、改めてカット割りを整理する時間を作ります。そこで「カット割りにあるこのショットはやっぱり必要ありません」とか「その代わりこっちからのショットを追加させてください」といった細部を調整していきます。ただ基本的に、八割がたは前日に作ったカット割り通りに進めていますね。
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――オダギリさんご自身が編集もされるから、総合的に見られるのですね。
オダギリ:それはありますね。現場の時点で、編集を考える撮り方をしています。逆に言うと、「編集でここはこういう風にできるからここは省いて大丈夫」と思いながら撮影を進められるので、無駄な時間が少ないんじゃないかなと思います。
――撮影を見学させていただいた際、段取り等の打ち合わせ自体もスムーズだった印象です。サクサクと進んでいくというか。
オダギリ:前提として、いい俳優しか呼んでいないんです。キャスティングの時点でほぼ演出の仕事は終わっているので、現場で芝居を考え直すことがほとんどない。そういう質の高い俳優さんが集まってくれているので、むしろあまりテストを重ねたくないんです。
新鮮なキャッチボールのまま撮影してあげたいから、段取りなども動きくらいのスタッフ的な確認ができれば十分。そこであまり芝居を固める必要はないと思っています。
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――『オリバーな犬』の特長である“自由さ”は、そういったところからも生まれているのですね。かつ、スタッフ・キャスト全員が「遊ぼう」という精神で参加している。
オダギリ:そうですね。このお祭りのような出来事を最大限楽しもう!という雰囲気はありますね。そういう作品って昔はいくつかあった気がしますが、最近はあまり見ないように思います。
――オダギリさんの活動初期であるゼロ年代の日本映画は、ぶっ飛んでいるものも多かったように感じます。『オリバーな犬』には、その感覚もちょっとあるような気がして。
オダギリ:あの時代はまだ、無茶苦茶なものも受け入れる“懐の広さ”がありましたね。だから日本映画も多様性を持っていたし、その結果、海外の映画祭でも多くの日本映画が出品されていたように思います。映画祭に選ばれることが全てではありませんが、昨今、世界の映画人が認めてくれる作品が少なくなっているとしたら、残念ですよね。
――ただ、『オリバーな犬』には現代/現在に対するアンチテーゼや、カウンターカルチャー的な思想はあまり感じません。ただただ楽しそうにものづくりしている姿を観て、僕たちが不自由な現状と比較する/気づくという構造のように思います。
オダギリ:それはとても嬉しい言葉ですね。やっぱり、作品には作り手の考え方や感じ方がこぼれ落ちてしまうもの。だからこそ、真意はそこはかとなく香るくらいがいいと思っています。極端な例ですが、例えばあからさまに「地上波のテレビドラマ全部つまんねえぞ!」みたいに振る舞うとやっぱり観ていられないと思うんですよ。あくまでそこはかとなく、何かしらのカウンターが効いているところで抑えないと、作品として豊かなものにならないと思っています。作品は『気づかないうちにメッセージが届いていた』みたいな感じがベストだと思うんですよね。
シーズン1のときに色々な場で語ったことでもありますが、例えばドラマの現場でもできないこと/やろうとしないことが増えてきちゃっていますよね。そんななかでNHKはスポンサーを持たない強さだったり、自社のコンプライアンスで計算できる強さを持っています。
『オリバーな犬』はきっと、色々な意味で地上波だったら作れない作品なんですよ。他のどこでもないNHKと一緒に手を組んだドラマであるということが、面白いと思ってもらえる理由のひとつなんでしょうね。
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――セリフに込められているちょっとしたカルチャー系のネタも観る者をくすぐりますが、ジム・ジャームッシュはもちろん、マーティン・スコセッシにしてもパク・チャヌクにしてもオダギリさんが影響を受けた方々なのでしょうか。
オダギリ:そうですね。セリフってやっぱり自分からしか生まれてこないじゃないですか。やっぱり40代半ばの男が送って来た人生がベースにはなってしまいますよね。
何かの評で「『オリバー』の笑いは若い子には伝わりにくい」ということを書かれていた方がいて、「志茂田景樹さんにしてもいまの若い子にはわかるわけない」と。そりゃそうだなと思いますし、僕は自分のことを10歳から90歳まで楽しませる天才だとは思っていません(笑)。今の自分が搾り出してやっと出てくるものでしか勝負できないから、自分が興味を持って自分の中に残ったものが出てくるし、若い世代に合わせた脚本なんて土台書けないんです。それは他のドラマでやってくれればいいんじゃないかというスタンスではいますね。
――個人的には、仮に若い世代でネタをわからなくても『オリバーな犬』は十二分に楽しめるかと思います。そもそも僕たちも10~20代のころ、先輩方の作品を「細かいところはわからないけどなんだか面白い」と楽しんできましたし。
オダギリ:そうですね。『オリバー』にはほかの面白い要素も色々敷き詰めたつもりなので、それぞれが引っかかるところで楽しんでもらえればいいなと思います。
2022年9月28日(水)発売の「TV Bros.2022年11月号」では、本作の制作背景に加え、“食”をテーマにしたロングインタビューを掲載。約20年前に連載コラム「ジャンケンは後出しで」を執筆していたオダギリに、当時のバックナンバーを見ながら20年前に感じていた過去の想いと今の想いについて聞いた。
撮影/Tim Gallo
ヘアメイク/砂原由弥(Yoshimi Sunahara)
スタイリスト/西村哲也(Tetsuya Nishimura)
ジャケット¥ 45,100 シャツ¥19,800 パンツ¥35,200 ネクタイ¥9,900(すべてLAD MUSICIAN/ラッド ミュージシャン原宿) その他 スタイリスト私物 ※全て税込み価格です。
【Profile】
オダギリジョー
●1976年生まれ。岡山県出身。2019年に長編映画監督作品『ある船頭の話』が第76回ヴェネツィア国際映画祭のヴェニス・デイズ部門に選出され、トルコで開催された第56回アンタルヤ映画祭、インドで開催されたケララ映画祭の国際コンペティション部門で最優秀作品賞を受賞。
公式サイト
【商品情報】
TV Bros. 2022年11月号あいみょん特集号
●発売日:2022年9月28日(水)
※一部、発売日が異なる地域がございます
●定価:1,320円
●発行:東京ニュース通信社
全国の書店、ネット書店にてご予約いただけます。
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