疑心暗鬼が深まる恐怖の展開…それでも楽しみ方をご提案! 小栗旬(北条義時)&清水拓哉CPインタビュー【『鎌倉殿の13人』不定期連載第6回】

放送開始から4か月、いよいよ源氏の攻勢が目覚ましい展開を見せる大河ドラマ『鎌倉殿の13人』(NHK総合ほか)。派手な合戦とは対照的に、上総広常(佐藤浩市)の粛清のようなダークな描写も描かれ、ますます目が離せない状況だ。

 

このたび、北条義時役の小栗旬、CPの清水拓哉氏のオンライン取材会が行われた。現在の物語の展開で意識していること、視聴者の反応などを踏まえ、今後の展開をどう考えているか、両名にうかがうとともに、ドラマのさらなる楽しみ方も考えたい。

 

文/木俣冬
画像提供/NHK

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<プロフィール>
きまた・ふゆ●東京都生まれ。著書に「みんなの朝ドラ」、「挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ」など。「連続テレビ小説 なつぞら」、「コンフィデンスマンJP」などノベライズも多く執筆。そのほか「蜷川幸雄 身体的物語論」「庵野秀明のフタリシバイ」の構成も手掛ける。WEBサイト「エキレビ!」で「毎日朝ドラレビュー」連載中。

                         

上総を血の気は多いが気のいい人物に描いたことで粛正のシーンが一層残酷に

大河ドラマ『鎌倉殿の13人』(NHK)の第18回(5月8日放送)ではいよいよ「壇ノ浦の戦い」が描かれる。制作統括の清水拓哉CPは「本能寺の変、池田屋事変、桜田門外の変と並ぶ、大河ドラマらしい重要な見せ場」とVFX に力を入れたと自信のほどを窺わせた。

  

悲願・平家滅亡を果たし、次は朝廷との攻防になっていく。頼朝(大泉洋)と共に歩む主人公・義時(小栗旬)はどうなっていくのか。目下、義時は過酷な状況に目をうるませ続ける若き青年で、ダークヒーローっぽさは微塵もない。彼がいつ非情な人間に変貌するのか、その瞬間が気になる。

ここで少し復習しておこう。「鎌倉殿」の今後を考えるうえで重要だったのは粛正の血が流れた第15回であった。上総広常(佐藤浩市)の粛正が行われたエピソードには戦慄した。思えば、第1回放送前、テレビブロス本誌(TV Bros.2022年2月号)で小栗旬にインタビューしたとき「ザッツ大河」な場面はありますか? と聞いたら、「ザッツ大河がどういうものかわからないけれど……」と笑いながら、第15回がキーになると言っていた。

 

「第15回あたりから一気に物語が加速していく感じになるかなあ。15回まで見てもらったらきっと視聴者は、これ。どうなっていくんだ? と興味をもって見ていってもらえるんじゃないかなってことを、現場のみんなとはよく話しています」と言っていた小栗。なるほどこう来たかと第15回を見て膝を打った次第である。

 

クーデターを起こしたひとりとして上総の粛正を目の当たりにした御家人たち。しかも上総がクーデターに参加したのは頼朝の作戦だった。いつ陥れられるか、明日は我が身と戦々恐々と御家人たちが行く末を心配するように、視聴者である私たちもこれから先が読めずに頭が混乱している。

 

歴史はわかっている。源頼朝が鎌倉幕府を作って将軍となり、そのあと北条家が執権として確たる地位を築くまでの間、血なまぐさい出来事だらけだ。歴史に詳しい人に限らず、ちょっと興味をもって調べたら簡単にわかる。だが「鎌倉殿」では、そこに至るプロセスの描き方が不条理で酷い。もちろんそこがおもしろさである。極上なバッドストーリーだ。とりわけ第15回、上総を血の気は多いが気のいい人物に描いたことで粛正のシーンが一層、残酷に見えた。それを視聴した子どもが泣いたとSNSで話題になったほど。清水CPはこの反応に驚いたと語る。

   

「第15回の上総の死を見てお子さんが泣いたというツイートをはじめとして、局内や知人のお子さんが『上総のおじちゃんが死んじゃった』と悲しんだと言うのです。お子様にトラウマを植え付けたことは申し訳ないですが、大河を見て小さいお子さんが泣くことはなかなかないと思いますし、そこまで入り込んで見てくれた証と励みになりました」

 子どもたちを本気で震え上がらせる本格派の『鎌倉殿の13人』。この先もこわいシーンは続くとさらりと言う清水CP。「ツイッターを見ていると、上総の死は序の口で、これからひどいことしか起こらないと語られています」と言って、それを否定することはなかった。

 

第16回では木曽義仲(青木崇高)が話している途中で矢が刺さって死亡。第17回以降は義高(市川染五郎)、源義経(菅田将暉)の運命が気になる。その先には頼朝の顛末も。さらに、この時代、最大のミステリーである実朝にまつわる事件が待っている。

                                       

シビアなことをわざわざ描くことは歴史劇のもつ難しさ

悲劇、悲劇、悲劇といった感じの中、主人公・義時役の小栗旬の気分ははたしてどういうものだろう。オンライン取材会で質問してみた。

 

「義時が二十代くらいまでは若さゆえ感情が先に立って涙ぐむことも多かったですけれど、だんだんと義時の涙も枯れていきます。それだけいろいろな出来事を経験するんです。それを演じるのは正直なことを言ったらしんどいですよ。はじめのうちは“明るく楽しい北条一家”なんて言っていましたが、そういうところがだんだんなくなってきて……。義時は常に考え事をしている人物で、いついかなる局面でも次どうする? 次どうする? と考えを巡らせています。義時にとってそれは最初は楽しいことで、経験値を増やしていくことで成長していく自分を愛せた時期があったと思います。それがだんだんと次に行うこと=誰かをハメて貶す、という選択になってきて。そういう場面を演じるのはしんどくはなってきてますね。ただありがたいことに現場の雰囲気は楽しいので、そこまでドーンって気分が落ちることはなくやっています」

            

 俳優をしんどくさせるほど重厚な悲劇は見応えがある。とはいえ、今、世界は多くの、それこそ不条理な厄災や戦争の報道でお疲れ気味。なぜ、今、日曜のよる8時、団らんの時間に容赦のないトーンで描くのだろうか。清水CPに聞いてみると……。

 

「シビアなことをわざわざ描くことは歴史劇のもつ難しさです。勝者の物語の達成感を描くことはもちろん可能ですが、おそらく実際の歴史はそうではないでしょう。古典作品はそういうことを含め書いているはずで、その物語を逃げずに描きたいという想いがあります。頼朝は教科書的に言えば鎌倉幕府をつくり天下を収めた人物ですが、そこに至るまでにはものすごく厳しい決断があったはずで、ひとつの国の歴史を治めるためにはそうならざるをえない。単なる成功物語ではない部分を義時の目線を通して、現場で必死にもがいて逡巡したりもがいたり決断したり、がんばったひとがたくさんいることに焦点を当て、彼らの想いを突きつめる。それが三谷さんの描く『鎌倉殿』です。この後、源平合戦が終わると、若い世代が登場してきます。ひとつの象徴は泰時(坂口健太郎)です。第15回の終わりに泰時が生まれることを三谷さんは意識して書きました。北条泰時が生まれた寿永2年は義時にとって、天下分け目の源平合戦の前に大きな粛正があった年でもあります。厳しい粛正があったときに生まれた子ども・泰時、歴史に残る名宰相と言われる泰時が生まれたというとドラマティックですよね。大粛清にはからずも加担した義時が自分の息子に何を教え、何を期待していくかが今後の話になります」

 

義時の「どこまで迷ってどこから迷うことをやめたのか」という部分

 義時にも「親として……」というセリフも出てくるそうだ。オンライン取材会に現れた小栗旬はひげを生やしていた。だいぶ大人の義時になったところを演じているのであろう。

 

「ダークというよりはシビアな決断を毎回迫られ、北条が生き抜くにはどうしたらいいのか考え抜いてチョイスをした結果が残忍だったということだと思うんですよね。第18回、壇の浦を経てからの義時は、はたしてどこまで迷ってどこから迷うことをやめたのか……。そこは丁寧につくっています」

 

 小栗の言う「はたしてどこまで迷ってどこから迷うことをやめたのか」、ここが重要だと感じる。義時はどこで心を鬼にするのか。第15回までの義時は頼朝たちの言動に心から従っていない。むしろしぶしぶ働いているように見える。だがすでに義村(山本耕史)に「頼朝に似てきているぜ」と指摘される。「おまえは上総を救いに行かなくて済む、口実が欲しかったんだ」と見透かされる義時。それまで素直に感情を顔に出してきた彼が、徐々に保身のための方便を使うようになってきている変化は、義村が指摘しなければ誰もわからない。もしかしたら本人すらわかっていないのかもしれない。

 

予期せずそうなってしまったかのように状況を巧みに仕向けていく。それはオセロゲームの駒のようにくるりと白黒反転するよりもこわいことに思える。ストレートに悪人であると責めにくいからだ。白黒の差異がわからないまだらであることは、人間の豊かさであり、深さでもある。これを描くこと、演じることは、作家として、俳優としても極めて高いハードルであると同時に、おもしろさでもあるはずだ。今後、どこで義時がどう変貌していくか1秒も見逃せない。

 

『鎌倉殿』を見ていると、どの場面も額面どおりには受け取れず、疑心暗鬼になってしまう。このドラマを見て育ったお子様はきっと用心深く、いや、思慮深く育つに違いない。

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