人間食べ食べカエルが選ぶ、2021年の映画3本【2021年12月号 映画コラム】

昨年はCOVID-19が猛威を振るったこともあり、多くの映画が公開延期を余儀なくされた。楽しみにしていた作品が軒並み後ろ倒しになり、映画好きには厳しい年になった。それと比べると今年は、終息とまでは行かないまでも、感染者数もある程度は落ち着きを見せ、それに伴い公開延期になっていた映画も続々とスクリーンで流れ始めた。それに伴い、今年は劇的に映画館に行く回数も増え、沢山の作品を劇場で観ることができた。今回はそんな中でも特に印象に残った3本を紹介したい。

【筆者プロフィール】
人間食べ食べカエル
●Twitterで人喰いツイッタラーをやっています。ID @TABECHAUYOで検索すると出てきます。他には、映画秘宝様やciatr様等にも寄稿しています。人が食べられる映画が大好きで、1番お気に入りは「ザ・グリード」です。これを観ると物凄く食欲が湧くんですよ。

まず1本目は『レリック 遺物』だ。今年は、アンソニー・ホプキンスがアカデミー主演男優賞を受賞したことでも話題になった『ファーザー』に、そこに居るだけで超速老化する恐ろしすぎるビーチが舞台の超常スリラー『オールド』と、老いをテーマにした作品が目立つ年だった。そして、本作も同じく老いをテーマにしている。不死でもない限り誰しもに平等に訪れる老い。抗いようのないそれは多くの人にとって恐ろしいものだろう。この映画は新鋭の監督ナタリー・エリカ・ジェームズが、自身の経験をもとに作り上げたホラーである。離れて暮らす母親が行方不明になったことで、娘と孫娘が母の暮らす生家に戻る。しかし彼女たちは、そこで想像を絶する体験をすることとなる。これがかなり怖い。幽霊の見た目が怖い!という直接的な恐怖よりは、理解を超えた事象がジワジワと迫りくる怖さがある。余計にたちが悪い。身近な存在であった母親が次第に人ならざる何かへと変貌していく。娘たちにそれを止める術はなく、ただその変貌を見守るのみ。恐ろしく、そして物悲しい。その変異の末に待ち受けるラストがいまだに脳に強く焼き付いている。彼女たちの姿を、嫌でも自身の人生に置き換えて観てしまう。後に引きずるという点においては群を抜いている作品だった。

続く2本目は『返校 言葉が消えた日』だ。これは、台湾発の同名ゲームを映像化した作品である。本国での公開は2019年。かねてからゲームファンとホラー好きには注目されており、ずっと日本公開が待ち望まれていたが、つい今年、2年越しの日本公開が実現した。配給会社さんありがとうございます!そして、その内容は高まった期待に応えてくれる素晴らしいものだった。かつて台湾では政府が国民に相互監視と密告を強制し、厳しい弾圧を行う「白色テロ」と呼ばれる期間があった。本作はその時代を生きる学生たちが体験する怪現象を描く。だが、真の恐怖の対象は超常現象よりもこの弾圧である。自国の暗部をここまで徹底して描いているのが凄い。もちろん政治的な要素だけでなく、純粋にホラー映画としても良くできている。校舎の不気味なビジュアルは満点。廊下を移動するシーンではちゃんと横スクロール風のカメラワークで描いてくれる。丁寧かつリスペクトに溢れた作りで、原作ゲームファンからの評価も非常に高い。異形の見た目も『サイレントヒル』を彷彿とさせるインパクトの強いデザインで、しかもそこにしっかりとした理由付けまでされている。明確なメッセージがあり、それを伝えるためのストーリーも文句なしの仕上がり。これは本当に素晴らしい作品だった。


最後に紹介するのはレイジング・ファイアである。私は一足先に試写で本作を鑑賞させて頂いたのだが、これがあまりにも面白かったので、紹介せずにはいられず3本目に選んだ次第だ。これまで数々の名作を生み出してくれた香港アクション映画界。そこからまた新たな傑作が誕生した。監督は『ポリスストーリー 香港国際警察』(2005年版)や、『インビジブル・ターゲット』などの激熱アクションを手掛ける名手ベニー・チャン。主演は銀河最強の異名を持ち『イップ・マン』シリーズなどで香港アクションのレベルを更なる高みへと引き上げ、『ローグ・ワン / スター・ウォーズ・ストーリー』を機に近年再びハリウッドでの活動も増えつつあるドニー・イェン。ドニーの前に立ちはだかる悪役を演じるのは、『かちこみ!ドラゴン・タイガー・ゲート』のキック使いの好青年から、『ビーストストーカー / 証人』でのアンダーグラウンドな汚れ演技、更には『新少林寺 /SHAOLIN』での闇落ち将軍など、幅広い演技と高いアクションスキルで人気を勝ち取ったニコラス・ツェー。この鉄壁の布陣で作り上げたのが本作だ。こんなの面白くないわけがない!もちろん、死ぬほど面白いです。タイトルの通り、非常に熱量の高い仕上がりだ。これを冬の公開にしたのは正解である。こんなの夏に観たらアツすぎて熱中症になっていただろう。本作のストーリーはシンプルだが濃密だ。正義感に溢れる刑事チョン(ドニー・イェン)は、何年も追い続けた麻薬組織の取引現場を抑える作戦の直前で任務を外されてしまう。更にチョン以外の現場に向かったチームが何者かによって麻薬組織もろとも惨殺される。この恐ろしい犯行を行ったのは、かつてチョンを慕う刑事でありながら、ある事件を機に悪党へと変貌したンゴウ(ニコラス・ツェー)だった。やがて二人は互いの正義と信念をかけて全面激突することとなる……。これですよ、この血の滾るようなストーリーが欲しかった!今回のドニーさんは、勢いあまって悪人をボコボコにすることもあるが、『SPL 狼よ静かに死ね』や『導火線』の時の異常なまでのオラオラ具合は鳴りを潜め、ギリ常識的な正義漢を演じている。一方のンゴウを演じるニコラス・ツェーは超ハジけまくりだ。信頼していた警察組織に裏切られ、チョンにも見放されたことで、完全に闇落ち。振り切った悪の演技を見せつつ、時には物悲しい表情も見せる。また、過去パートではビシッと決めた髪に眼鏡姿で見事な舎弟感を披露。これ一本であらゆるニコラスを拝むことができる。そう、本作はどちらかというとニコラス主演の映画なのだ。正義を信じていた刑事が耐え難い傷を受けて悪へと生まれ変わるまでを描いたストーリーが本作最大のキモである。ドス黒い怒りを滾らせて戦いを挑むニコラスは、やってはいけないことをやっているのに思わず応援したくなるくらいに魅力が爆発している。ドニーさんがイケイケな映画も最高だが、あくまでも脇に徹して総合的にキャラの魅力を引き出す本作も引けを取らないくらい素晴らしい。そして、見事なドラマの熱さを何倍にも増幅させる超一級のアクション!これがまた惚れ惚れするほどの仕上がりだ。ドニーとニコラス、互いの高い戦闘力を見せつける見せ場を重ねていき、クライマックスで遂に大激突!重厚な銃撃戦と狂った大爆発の嵐。通行人が巻き込まれてエライことになり、街はさながら戦場だ。そして最大の見せ場となるドニーVSニコラス……!!ここは最早語る必要はないだろう。香港タイマンアクションの最高峰がここにある。熱いドラマ、壮絶な格闘アクション、ポッと出てくるロー・ワイコン。どこを切り取っても純度1000%の香港アクション!これ以上求めるものは何もない。全てが完璧。This is 香港映画である。


というわけで、今年観た中でも特に心に残った3本を紹介させて頂いた。もちろんこれら以外にも取り上げたかった作品はいっぱいある。実写モンハンにアオラレにZoomホラーにワイスピ……。そう考えると今年は本当に豊作でしたね。COVID-19が再び猛威を振るわないように。そして、これからも沢山の傑作に出会えますようにと願うばかりだ。来年もよろしくお願いいたします。

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