「いつまでもあると思うな、好きなラジオ」【2021年12月ラジオコラム】

2021年も残すところあとわずか。ラジオ界でも数々の番組が誕生し、数々の番組が終了した。
リスナーにとって好きな番組を推すことは、番組を聴くことと共に楽しみなこと。SNSが存在する今、さまざまなかたちで番組を推すことが、リスナーが主体的に、能動的に番組と関わる動機になっていると言える。そこには、番組の存続に関わる数字なども存在する。
今回、2021年を振り返り、番組を推すこと、番組が推されるきっかけなどに焦点を当て、今のラジオ界をコラムニスト・やきそばかおるが総括する。

<プロフィール>
やきそばかおる●山口県生まれ。ラジオコラムニスト、インタビュアー。TV Bros.をはじめ、さまざまな媒体でラジオに関する取材、執筆を行う。
https://twitter.com/yakisoba_kaoru

「いつまでもあると思うな、好きなラジオ」

文/やきそばかおる

尾崎世界観がダイアンに捧げた曲『二人の間』(クリープハイプのニューアルバム『夜にしがみついて、朝で溶かして』に収録)が素晴らしくて何度も聴いている。ダイアンと尾崎世界観のコラボのきっかけは、尾崎が『ACTION』(TBSラジオ)でダイアンの魅力を語ったことだった。尾崎はダイアンが『爆笑オンエアバトル』(NHK総合)に出演していた頃からのファンだ。ABCラジオで放送されていた『ダイアンのよなよな…』(現在は『ダイアンのラジオさん』として6回限定の番組を不定期で放送中)を聴いていたほか、二人のYouTubeチャンネルも観るほどだ。

尾崎は『ACTION』にて「ダイアンの二人は力が入っていないのが良いんです。しかもどこかにズレがあるんです。野球に例えるとカットボールで相手の芯を外す感覚。そのトークに対してこちらも聴きながら振りにいくけど『当たった』と思ってもなんだか当たらない感じがします。めちゃくちゃ面白いんだけど、なぜ笑っているのか分からないんです」と語った。さらに「曲をつくらせていただきたい」と話すとすぐにダイアンの耳に入り、後日ゲストとして登場。尾崎はダイアンのことを尊敬しすぎていて申し訳ない様子だったが、完成した曲は二人がラジオで感じさせる独特の間を見事に表現していた。

いわゆる“推し”について話すことはコミュニケーションをとるための潤滑油となっている。「キッズ@nifty」が小中学生に「2021年を漢字で表すと何がふさわしいと思うか」というテーマでアンケートをとったところ、1位は「推」だった。ちなみに2位は「恋」、3位は「楽」「新」が同票だった。“推しに恋をすることで楽しい気持ちが新たに生まれる”と解釈すればなんと素敵な結果だろうか。とあるラジオパーソナリティーは学生に街頭インタビューをする時に「緊張していた子でも、『推しについて教えて』と聞くと一気に緊張が解けて話してくれる」と言っていた。実際に、Webや雑誌の企画で「好きなラジオ番組を教えてください」とSNSで呼びかけるとたくさんの反応があり、膨大な数の番組が勧められる。

「いつまでもあると思うな、好きなラジオ」
人は思い入れのある番組があればあるほど、春と秋の改編が近づくと針のむしろに座らされているような不安に襲われる。なかには番組のスタッフに「どうすれば好きな番組が終わらなくて続けられますか?」と質問をする人もいる。

最も分かりやすいのは「スポンサーがつくこと」。ラジオが好きな人なら一度は「自分が大金持ちだったら、番組のスポンサーになるのに」と思ったことはないだろうか。もちろんスポンサーについてもらうことは容易ではない。しかし、なかには積極的にラジオを応援してくれるありがたい会社もある。そのひとつが「ブレインスリープ」だ。芸人のラジオが好きな人なら一度は耳にしたことがあると思われる。芸人がパーソナリティーを務める数々の番組のスポンサーを務めていて「謎の会社」などとネタにされることも。そもそも同社がラジオ番組での宣伝に力を入れるようになったきっかけは文化放送の番組『ロンドンブーツ1号2号 田村淳のNewsCLUB』で田村淳がブレインスリープの商品の魅力を話したことだった。それもラジオショッピングで取り上げたわけではなく、ブレインスリープの商品を使っている田村から出た話だった。その際の反響が大きかったことからラジオでのPRに力を入れるようになったわけだ。同社は『さらば青春の光がTaダ、Baカ、Saワギ』(TBSラジオ 毎週土曜深夜3・00〜3・30)のように深夜3時から放送されている番組にもついている。ただでさえスポンサーがつきにくい時間帯に「ブレインスリープ」がついただけで番組が活気付く現象が起きている。先日はブレインスリープの商品を買ったというパンサーの向井慧のCBCラジオの番組『チュウモリ「#むかいの喋り方」』(毎週火曜午後10・00〜深夜0・30)と『Taダ、Baカ、Saワギ』がコラボを果たした。

とある放送作家は「スポンサーについてくれるかどうかは、決定権をもつ人が、ラジオを楽しんでいるかどうかで、かなり左右される」と話していた。東京で個人で経営している飲食店が放送エリアとは全く異なる地域の番組のスポンサーになったユニークな例もある。東京・文京区音羽にあるイタリアンレストラン「SPERANZA (スペランツァ)」のオーナーでラジオネーム「ひらがなてんちょー」さんは、今年の秋から鳥取と島根をカバーする放送局、山陰放送の番組『森谷佳奈のはきださNight!』(毎週月曜午後8・00〜10・00)のスポンサーになった。ひらがなてんちょーさんは東日本大震災がきっかけで、地震が発生した時にお客様にすぐに情報が分かるようにと店内でラジオを流している。およそ700キロ離れた番組を知ることとなったきっかけは、TOKYO FMの番組『山崎怜奈の誰かに話したかったこと。』(毎週月曜〜木曜午後1・00〜2・55)が音声配信している『だれはな裏トーク』(AuDee)で山崎が『〜はきださNight!』をおすすめしているのを聴いたことに始まる。すっかりハマってしまったひらがなてんちょーさんは月に一度、料理コーナーのスポンサーとしてつくことを決めた。これは非常に珍しいことである。「SPERANZA」では店内でラジオを流しているため、その時間にお店を訪れる関東リスナーもいる。radikoがなかった頃には考えられない出来事だ。こうした動きが広まればもっと面白いことが起きそうだ。

新潟のBSNラジオ『スーパー・ササダンゴ・マシンのチェ・ジバラ』(毎週日曜深1・00〜2・00)のように自分で番組を立ち上げるのもいいかもしれない。この番組は以前、本サイトでインタビューをしたことがあり、覆面レスラーのスーパー・ササダンゴ・マシンが番組にかける意気込みをアツく語った。手作り感満載であるものの、トークがとにかく面白い。12月4日には番組初のイベント「ナマ・ジバラ」も開催された。

音声配信アプリにも注目したい。アプリを立ち上げて芸人をあと押ししているのが「GERA」だ。ヒコロヒーやトンツカタン、ママタルトなど、人急上昇中の芸人から、まだあまり知られていない芸人によるGERAのオリジナルの番組が並ぶ。2021年のM-1グランプリで優勝した錦鯉も『錦鯉の人生五十年』を配信しており、プロダクトオーナーの恩田貴大氏は優勝が決まった瞬間、大いに喜んでいた。

恩田氏は兄から『アルコ&ピースのオールナイトニッポン0(ZERO)』(ニッポン放送)を勧められたことがきっかけでラジオにハマった。氏はGERAの方針をnoteに綴っている。それによると「求められ続けるコンテンツを作る」「本気でラジオが好きな人がより制作に関与し、チャレンジできる」「もっと自由に応援できる」という3つの柱を掲げているとのこと。ただし、芸人ラジオを後押ししているとはいえ、番組の存続に関しては意外とシビアだ。オリジナルグッズの購入や応援チケットで番組を支援できる一方、『少年ジャンプ』の連載のように聴く人が少なかったり、反応が薄いと番組は終わってしまう。それでも番組自体が削除されるわけではなく、基本的に残してあるところに愛を感じる。時を経て人気が高まってくれば番組が蘇る可能性もあるのだ。

今、芸人のラジオ番組は増え続けている。2021年の秋の改編では全国の民放とNHKをあわせて約30本の芸人ラジオが始まった。もちろん、芸人によるラジオだけがラジオではない。アナウンサー(フリー含む)やラジオDJ、アイドル、ミュージシャン、地元で活躍する人々がパーソナリティーを務める番組も多数始まった。ファンにとっては続いてほしいものだ。

では、リスナーはどのようにして応援をすればいいのかというと、番組のコーナーやイベントに参加したり、番組のグッズを購入する方法がある。リスナーのなかには大好きな番組で起きたことをイラストや漫画に描いてSNS にアップしている人もいる。朝の連続テレビ小説『あまちゃん』(NHKほか)が放送された時にファンアートが話題になったが、まさにそのラジオバージョンだ。番組に直接お金が入るわけではないにしても、第三者にラジオの楽しさをにおわせることは大事だ。

radikoを使っている人は「友達に教える」機能を使ってツイッターで広める手がある。radikoで聴いている人の人数を、ラジオ局はリアルタイムで把握できる。聴取率に加えてradikoの聴取者の人数は番組の存続を決める判断材料となる。よく「自分はフォロワー数が少ないから効果がないのでは」という人もいるが、番組の制作側にとっては拡散する行為自体が大きな励みとなる。SNSで推しをさらけ出すことに恥ずかしさを感じる人がいるかもしれないが、番組の存在を知ることで遠く離れた誰かが番組のファンになってくれるかもしれない。もうすぐ今年も終わる。年が明けると春の改編が近づいてくる。改めて書くが、
「いつまでもあると思うな、好きなラジオ」
である。

 

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