2021年、どんな音楽を聴きましたか? 音楽ライターの皆様に、昨年よく聴いた楽曲と、今年注目している楽曲やアーティストについて執筆いただきました。あなたの生活に寄り添い、心に機微や彩りを与えてくれる音楽との出会いが今年も訪れますように。全5回の連続企画でお届け!
文/高木”JET”晋一郎
「2021年によく聴いた楽曲3曲」というお題を頂いたので、そのテーマで書こうと思うのですが、予めお断りしておきますと、これから挙げる3曲は、日本でのリリースは2021年ではありますが、制作は2021年ではありません。
……う~ん、この記事で求められてるのは音楽ライターらしく、フレッシュな新作で、2021年を象徴したり、これからの時代を変えるような曲たちだというのは重々承知。もちろん昨年も音楽はこれまでと変わらずに豊作で、その部分は後半に書こうと思いますが、個人的にはこの大コロナ禍によって、呵責無く外に出歩けたり、心配なくライブに行けた時期なんて10月~12月の3ヶ月ぐらいしかなかったもので、完全にメンタル病み闇み。新譜も感銘を受ける作品が多かったのですが、「よく聴いた」となると新型コロナなんて全く無かった過去の音源に向かいがちでした。それは音楽ライターとしては本当に悪い傾向だなと思う反面、「自分の音楽の根源」に向かう良い機会でもありました。
隙きあらば自分語りな入り口で申し訳ない。そんな中でとにかく音楽ドキュメンタリーに感銘を受けることが多かったので、そこから3曲挙げさせていただきます。
目次
「Sing a Simple Song (Live at the 1969 Harlem Cultural Festival)」/ Sly & The Family Stone
ザ・ルーツのクエストラヴが監督を手掛けた映画『サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放映されなかった時)』がDisney+で公開中です。1969年にニューヨークはハーレム地区の公園で行われたフェス「ハーレム・カルチュラル・フェスティヴァル」の模様を、当時のライブ映像と、アーティストやスタッフ、実際に会場で観ていた観ていた観客の証言を交えて再構成された作品なのですが、登場アーティストがとにかく凄い!B.B.キングからスティーヴィー・ワンダー、デイヴィッド・ラフィン(元テンプテーションズ)、フィフス・ディメンション……と、とにかく綺羅星の如くアーティストが登場するのですが、そんなフェスはしっかり撮影されていたにも関わらず、今まで公開されること無く死蔵されていたというのは、本当に驚くことであり、こんな奇跡の映像が、映画の最後に語らえるように「ブラックミュージックに買い手がつかなかった」とは! いかに音楽の世界にも差別が根深かったかを考えさせられます。それはザ・ステイプル・シンガーズのローバック”ポップス”ステイプルズが「綿農園で1日14時間働いて50セントを稼いでいた」という、奴隷制は決して遠い過去ではないことを証言する生々しい言葉からも感じます。そういった社会構造を音楽をもって打ち破ろうとする意思と気魄をどのライブからも感じるのですが、やはりラストのニーナ・シモンの「Backlash Blues」や「Are You Ready」の持つ、「この音楽が世の中を変える!」というパワーには打つ震えます。またそういった社会を映し出しつつ、ラストのスライ&ザ・ファミリー・ストーンの「HIGHER」やレイ・バレット「Together」は、そういった対立や構造をアウフヘーベンするような希望を感じさせられ、胸を打たれました。
「Amazing Grace」/Aretha Franklin
アレサ・フランクリンがスタジオやライブ会場ではなく、ニュー・テンプル・ミッショナリー・バプティスト教会で2晩にわたって行ったゴスペル・コンサートを映像化した「Amazing Grace」も昨年日本で公開され、DVDもリリースされました。この音源自体は、このコンサートが行われた1972年に「Amazing Grace」として、1999年にも完全収録盤「Amazing Grace: The Complete Recordings」として音源リリースされ、アレサ・フランクリン作品の中でも名作と名高い作品です。しかし、その映像は「サマー・オブ・ソウル」同様、50年に渡って死蔵されてきました。それは公式サイトによると「アルバム発売の翌年に公開される予定だったが、カットの始めと終わりのカチンコがなかったために音と映像をシンクロさせることができないというトラブルに見舞われ、未完のまま頓挫することに」という、なんとも腰砕けな理由のようですが、映像中でも「機材に水がかかって中断」「カメラチームが映り込む」「ピントが合わない」と、結構乱暴な部分が多く、教会に機材を持ち込み、ライブレコーディング&シューティングというのは、現在の技術からは考えられないほど手間がかかる手法だったのだなと思わされます。
以降も、アレサの生前には一応の完成をみていたにも関わらず、アレサ自身が公開を差し止めていたなど、様々な曰く付きの作品であった本作ですが、実際に作品を見れば、そんな曰くや瑕疵は全く気にならない、アレサの圧倒的な歌唱力に打ちのめされるのは必然。当時29歳、歌い手として絶頂期を迎えていたアレサのヴォーカリストとしての凄味は、当然音源でも感じ取れてはいましたが、映像を通して感じるアレサのこの日の歌声は、聴いてるだけで涙が溢れるほどの、もはや神々しさすら感じるものです。無神論者且つ英語も不得手な僕でも魂が浄化されるような、歌声から感じるエナジーは、もはや神秘体験といってもいいでしょう。また映画「Blues Brothers」の中でもジェームス・ブラウンが牧師として歌う「Old Landmark」は劇中でも屈指のノリノリなシーンですが、「Amezing Grace」での「Old Landmark」も同じように観客が踊りまくっていて、ゴスペルの持つ宗教的法悦とダンサブルさのリンクは興味深いですね。
同時に、72年といえばアレサが最高傑作「Young Gifted & Black」をリリースした年であり(奇しくも「サマー・オブ・ソウル」に登場したニーナ・シモンのカヴァーを含め、大きな影響を受けている)、「そのバックグラウンドにあるゴスペル」という意味でも、味わい深いものがあります。観客として立ち会っているローリング・ストーンズのミック・ジャガーとチャーリー・ワッツがチラ見してるのも見どころ。
「Road To Nowhere」/Talking Heads
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