【連載】やま(Kevin’s English Room)のエッセー「言葉とリズムと」 #5 L.A.から帰ってきて思うこと・その3

【短期集中連載/月1回更新予定】

3人組YouTuber「Kevin’s English Room」の一員であり、magora(マゴラ)として音楽活動もするやまが、日々思うことを軽やかに綴ります。

第5回は、やまのL.A.滞在記のその3。L.A.で出会ったおもろい人たちシリーズ、「涙もろいホテルのフロントレディ」の涙の理由とは……!?

 

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撮影/Kazuyuki Sanada 撮影協力/Amazon Studio Tokyo

 

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プロフィール

やま

YouTuber、ミュージシャン。東京都生まれ。幼い頃より多言語環境で育ち、日仏英の3カ国語を話す。高校時代にフランスへの留学経験があり、大学では第二言語学習/教育を専攻。卒業後は訪日誘客事業に携わる。現在は大学時代の友人2人とともにYouTubeチャンネル「Kevin’s English Room」(※2024年9月現在、登録者数237万人)で活躍中。また、magora(マゴラ)として音楽活動もしている(※magoraの1stライブレポートはこちらをチェック!) 。11月6日にmagora 1stアルバム『kotohogi』発売! 初のツアー「magora 1st Live Tour “kotohogi”」が11月17日に京都、11月23日に東京にて開催!

アルバム、ツアーの詳細は、やまInstagram(magorayama)のコチラから

magora情報>>>@magora_staff

 

#5 L.A.から帰ってきて思うこと・その3

 

僕より涙もろい人に出会う!?

 

前回に引き続きL.A.滞在中に出会った人について書きたいと思う。

旅行をするとおもろい人に出会うもんだねー。

旅先でどんな人に出会うかというのはまさに運命。

おそらくもう2度と会わないであろう人と会話を交わし、互いの人生の束の間をともにしてひととき繋がり、そして美しく解散することに僕は深い喜びを感じるというのは前回書いた通り。

 

今回は2人目「涙もろいホテルのフロントレディ」との出会いについて書こうと思う。

 

まず言っておく。

僕も相当に涙もろい方だという自覚はある。

感動的な映画やドラマ、スポーツをみて涙するのはもちろん、親子の物語を描いた30秒のCMで涙したり、卒業式の予行練習で泣きそうになったり、おもしろバラエティーに一瞬挟まる感動シーンでさえグッときたりする。

正直生きていくのに不便だと思う時もあるくらいだ。

自分よりも涙もろい人間にはあまり会ったことがない。

 

しかし世界は広いものだ。

とんでもなく涙もろい人間が、L.A.にいた……。

 

前にも書いた通り、KER(Kevin’s English Room)の撮影でL.A.に行った後、僕は一人延泊してL.A.で数日を過ごしてきた。

その延泊の初日。

宿泊予定のホテルへチェックインしようとフロントへ。

フロントにはカウンターが2つ。担当の女性が2名並んで立っていた。

朝早かったこともあり他にロビーにお客さんはおらず、2人はワイワイ楽しそうに喋っていた。

 

金髪の女性と黒髪のアジア系と思われる女性の2人である。

僕はとりあえず、どうもーとか言いながら近くにいたの金髪の女性の前へ進む。

するとワイワイ盛り上がっていた2人がチラッとこちらをみて、金髪の女性の方が何やら黒髪の女性に伝えた。するとそのアジア系と思われる黒髪の女性が少し訛った英語でこちらへどうぞー! と声をかけてきた。

あれ、そっちのカウンター? と思いながら黒髪の女性の方へ。

まあいいけど。

金髪の女性は素敵な笑顔で僕の方を見ている。

僕はああどうもーなんて言いながら挨拶をして、女性はチェックイン作業に入る。

名前、予約の確認、パスポートの提出など一連の手続き。

作業をしながら彼女がいろいろな質問をしてくる。

 

フロントの女性が会話中に突然……!

 

どこから来たんですか? とか、なんでL.A.に来てるんですか? とか、今日はどこに観光しに行くんですか? とか、まあ他愛もない会話だ。

僕は日本から来たんですよとか、まあ仕事と観光でとか、このあとは美術館にとか、まあ普通に会話をする。

会話の流れで彼女は台湾出身だということがわかり、僕はあー台湾ねー! まだ行ったことないんだけれど行ってみたいなあ、なんて話をする(関係ないけどこのやりとりって、初めて会う外国の人との会話で出てくるフレーズランキングTOP3に入ると思うんだけど、どう?)。

 

すると彼女が、いや実は私日本に留学してたことがあるんだよね、と語り始めた。

大学生の頃に半年ほど留学をしていたというのだ。

えーー、いいねー! 何が一番記憶に残ってるー? という質問に対して、突然黙る彼女。

和気あいあいとした会話が突然完全に停止する。

(あ、え? あれ……? なんか変なこと聞いちゃったのかな……)

 

「あ、いやその全然、なんていうか言いにくかったらいいよ! その、ね……!」

必死に謎のフォローをする僕。

しばし下を向き沈黙の後、彼女はぼそっと言う。

「……いぬ」

想定外の角度から飛んできた返事に目が点になる僕。

「え?? あ、犬??? その、ペットとかの、あの犬?」

(あ、怒らせちゃったわけじゃないんだ、よかった……。ってか犬? 噛み合ってる? この会話??)

彼女はなおも下を向きながらポツポツと喋り出す。

「犬の……犬の映画なの。話題になってたから日本人なら知ってると思うんだけど……。その映画がもう……」

俯きながら喋る彼女の目がみるみるうるんでいく……。

(あ、え、あのーーー、な、泣いてる???)

「その映画が本当に感動的なの……!」

顔を上げると同時に彼女の目から涙がスーッと流れ、その映画がいかに感動的か、すごいスピードで語り出す彼女。

そして彼女は次第にポロポロと泣き出したのだ!!!

(う、うそーーーーーん…!)

 

謎の状況に戸惑い続ける僕……

 

自分のスマホを取り出して映画の宣伝画像や、予告の短い動画を僕に見せ始めるフロントの女性。

主人公と思われる犬と人間。それぞれのキャラクターの名前、設定……。

 

改めていうが、ここはホテルの入り口。

フロントでチェックインをしている瞬間である。

ちらほら他のお客さんも入ってきて、チェックインをするためにスーツケースをガラガラと転がしてこちらに向かってくる音も聞こえている。

 

フロントカウンターのこちら側にはスーツケースを持った男。

カウンターの向こう側には涙を流しながら何事かを早口で訴える女性……。

 

(ちょ、ちょっと待ってくれよ、これじゃあなんか俺が泣かせているみたいじゃないか!?)

 

僕はどうにか彼女を鎮めようと会話を続けるが、どんどん興奮が昂っていくらしい彼女は、すでに映画のあらすじの解説に入っている。

 

おいおいどういう状況だよ、と困ってもう一人のフロントの方の方をチラッと見ると目が合い、微笑みながら頷いていた。

(おいっっっ! どういう表情なのよ、それは……! 助けろよっっ)

 

黒髪の女性はなおもアツく映画のプレゼンをしてくれている(この時には映画のロケ地についての説明に入っていた)。

次第に涙も乾き、何かしらの大きな山を越えた人間だけが発する、何かしらの決意をたたえたような目で僕の感想を待つ彼女。

や、やり切った感がすごい……。

 

あまりの迫力に気圧されつつも、日本に帰ったら必ず見るからねと約束をし、チェックイン手続き(?)は終了。

 

黒髪の女性は、何度も鼻から深く息を吐きながら、何やらぶつぶつ言いながら小さく頷いていた。

僕との間に何かしら特別な絆が生まれたと思ってくれているらしく、彼女は何度も「よかったわ、あなたに会えてこの話ができて……」と言っていた。

「そ、そうだね! ありがとう」と伝えながらスーツケースを手に取る僕。

「また会うと思うからその時は別の映画も紹介するね!」となおもアツく声をかけてくれる黒髪の女性。

 

そして去り際に、全てのやり取りを黙ってずっと横目で見ていたもう一人のフロントの金髪の女性が一言、声をかけてくる。

「やっぱりね……あなたたちは話が合うと思ったのよ……!」

そう言って彼女は謎の微笑みを浮かべながら何度も頷いている。

「はははっ……!」となんとなく笑い返しておいたが、いやあんたの立場と表情が一番わかんないのよ……と思いながらエレベーターに乗り込む僕だった。

アジア人同士だから共通の話題も多くて盛り上がると思ったのだろうか?
そういう問題じゃないんだけどね……笑。

 

そういうわけで、ホテルのチェックインで恐ろしく涙もろい女性と出会った話。

旅先でたくさんの人と喋ってきたが、流石に初手でいきなり泣かれるのは初めての経験であった。

 

うーむ、世界は広いなあ……。

 

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TV Bros.編集部
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