第41回マンガにおける「オレたちは1+1で200だ。10倍だぞ10倍」って何だろう。

　『二階堂地獄ゴルフ』、福本先生の新連載タイトルを見て「とんでもないものが始まる！」と思った。借金苦の主人公・二階堂が戦う地下ゴルフホールの説明時、額に髑髏のマークが入った覆面を被ったキャディーが一本橋ゾーンの下にウサギを投げ込む。下に広がる濃硫酸の池に落とされたウサギはあっという間に骨だけになる。しかもこのコースでは一打ごとに「ショット権」として己の血を200㏄支払わなければならない。まさに地獄のようなこのラウンドから、二階堂は抜け出すことができるのか!?
　……という話が一向に始まらない！　勝手にタイトルから勘違いしていただけで、これは「ゴルフのカイジ」じゃなかった！　どっちかというと「令和の最強伝説黒沢」！　20歳の若者が言うから美しかった『キッズ・リターン』（監督・脚本／北野武）の最後の名言を、歳の人間がまだやってる地獄の物語。普通の大人は、他人に対して「お前はもう終わってる」とはっきり言ってくれないから、こうやって「次も頑張ってね」と言ってもらえることを諦められないまま、スタートラインにすら立てない中年が完成する。いたたまれない気持ちになることをマンガに求めるのなら読むべし……!!

福本伸行『二階堂地獄ゴルフ』（講談社）

　さて、カレー沢先生がマンガに出てくるかっこいい漢を取り上げる『カレー沢薫、漢を語る。』というエッセイマンガに話し相手として協力しています。過去の連載でも何度も言い続けている通り、私は「相撲マンガ」と「相撲マンガじゃないのに力士が出てくるマンガ」が大好きなんですが、この巻には『どす恋ジゴロ』（漫画／平松伸二）が紹介されているので「相撲マンガじゃないのに力士が出てくるマンガ」という条件を満たしているので客観的に見ても最高の一冊となっています。自分が特定のキャラを激推しする回では毎回異常な量のアピールポイント資料を送るのですが、『どす恋ジゴロ』回では各話のあらすじを書き出し、「ラッキースケベ的にファーストキスを奪ってしまった中国企業のお嬢様からいきなり結婚を申し込まれる恋吹雪。船上での酔拳使いとのバトルを制して水中でセックス。駆け付けたお嬢様の父親を絶望させて終わる回」「幽霊に毎晩精子を搾り取られ衰弱する恋吹雪。体中にお経を書いて幽霊から隠れようとするが、案の定陰茎にだけお経を書き忘れており結局セックス。気持ちを切り替えて前向きにやってみたら一発で成仏させることに成功した奇跡のような回。世界一面白い耳なし芳一」などの怪文書を作者に送り付け、使用率は2％ほどでした。
　このまま連載が続けばそのうち2巻が出ると思うので、それまでに意地でも力士が出てくるマンガを紛れ込ませようと目論んでおります。

漫画／カレー沢薫　協力／劇画狼『カレー沢薫、漢を語る。』（KADOKAWA）

　セックスと成仏の話といえば男性器がオットセイになるマンガの令和最新版『新やる気まんまん警視庁SEX捜査官』が一部の界隈で「動物マンガ・プロレスマンガ・警察マンガなど、複数のマンガジャンルのパウンドフォーパウンド」と言われておりますが、全巻通して何も知らない純粋な子供たちが膣内でプロレスごっこを繰り広げているとしか思えない内容で、「スピニングエンジェルウイング」「パワーブリッジ」「ゴールデンソニック」「サンドストーム」「スパイダーウェブ」「ダイビングベアープレス」「オットローリングチェイス」など、どう考えてもセックス中に叫ぶことがない技名が連呼され続けるので、完全に力技で「セックスファイトはセックスとは違うもんな」と納得させられます。霧隠サブロー先生は「サンダーファイヤーパワーボム」みたいな、強い言葉に強い言葉を足して「1＋1は2じゃないぞ。オレたちは1+1で200だ。10倍だぞ10倍」みたいな効果を出す才能に溢れているので、デジモンの必殺技を考える仕事に向いていると思う。膣内領域での『ゲームセンターあらし』（漫画／すがやみつる）であり、自我を持った己の部位と共に戦う『寄生獣』（漫画／岩明均）であり、逆転勝利のための機転がほぼ全て『闘将!!拉麺男』（漫画／ゆでたまご）。こんなマンガ面白くないわけがない。
　映画『エイリアンV Sアバター』の名キャッチコピー「勝手に戦え！」を思い出しました。

霧隠サブロー『新やる気まんまん警視庁SEX捜査官』（日刊現代）※電子書籍で全3巻発売中。