今月の星取りは、『キングスマン』シリーズのマシュー・ボーン監督が描く痛快スパイアクション『ARGYLLE/アーガイル』をピックアップ。「今月の推し」では、星取りレビュアーのお三方がプッシュする作品を紹介!
(星の数は0~5で、☆☆☆☆☆~★★★★★で表記、0.5は「半」で表記)
◆柳下毅一郎さんと、渡辺麻紀さんによるYouTube生配信『月刊 映画言いたい放題大放談!(仮)』は好評配信中! 次回は3月26日(火)19時ごろ~の生配信を予定しています。詳しくはX(@tvbros) で告知していきます。
<今月の評者>
渡辺麻紀
わたなべ・まき●大分県出身。映画ライター。雑誌やWEB、アプリ等でインタビューやレビューを掲載。ぴあでは『海外映画取材といえばこの人! 渡辺麻紀が見た聞いた! ハリウッド アノ人のホントの顔』を連載中。また、押井守監督による『誰も語らなかったジブリを語ろう』『シネマの神は細部に宿る』『サブぃカルチャー70年』等のインタビュー&執筆を担当。最新刊は『押井守の人生のツボ 2.0』。
近況:最近は、実家の裏庭の育ちすぎた巨木、メタセコイアの件で頭がいっぱいです。これをどうにかしなきゃなんですけど、いろいろと問題が……ふう。
折田千鶴子
おりた・ちづこ●栃木県生まれ。映画ライター、映画評論家。「TV Bros.」のほか、雑誌、ウェブ、映画パンフレットなどで映画レビュー、インタビュー記事、コラムを執筆。TV Bros.とは全くテイストの違う女性誌LEEのWeb版で「折田千鶴子のカルチャーナビ・アネックス」を不定期連載中。
近況:『僕らの世界が交わるまで』『コットンテール』のパンフレットに寄稿。『身代わり忠臣蔵』では監督・原作者・音楽・キャストの皆さんに盛々インタビュー!
森直人
もり・なおと●和歌山県生まれ。映画ライター、映画評論家。各種雑誌などで映画コラム、インタビュー記事を執筆。YouTubeチャンネルで配信中の、映画ファンと映画製作者による、映画ファンと映画製作者のための映画トーク番組『活弁シネマ倶楽部』ではMCを担当。
近況:『落下の解剖学』『ネクスト・ゴール・ウィンズ』『ソウルメイト』『52ヘルツのクジラたち』などの劇場パンフレットに寄稿しております。
監督:マシュー・ヴォーン 脚本:ジェイソン・フュークス 出演:ヘンリー・カヴィル ブライス・ダラス・ハワード サム・ロックウェル ブライアン・クランストン サミュエル・L・ジャクソンほか(139分/2024年アメリカ)
●凄腕エージェントのアーガイルが世界中を飛び回り、謎のスパイ組織の正体に迫る大人気スパイアクション小説「アーガイル」。その作者であるエリー・コンウェイは、自宅で愛猫と過ごすのが至福の時という平和主義者だ。しかし、彼女の新作の内容が現実のスパイ組織の行動を言い当てていることが発覚し、事態が一変、命を狙われることになってしまう。
全国公開中
渡辺麻紀
これぞ斬新なスパイ映画!
一見、旧弊というかありがちなスパイアクションのふりをして、どんどん新しい趣向が積み重なり、さらにはストーリーも一筋縄ではいかないツイストの効きまくったもの。ちゃんと今の時代に合ったチャレンジングな作品になっている。しかもアクションにも工夫を凝らし、いままでにないものをみせてくれるから、さすがマシュー・ヴォーン! とりわけ“アイススケート・アクション”にはシビれまくった。問題は20分ほど長いこと。2時間以内だったら大傑作になったと思うんだけど。ご覧になるときは、基礎知識のみで観ることをおススメします。
★★★★☆
折田千鶴子
少々しっちゃかめっちゃか
冒頭から音楽&アクションでノリノリ! と思ったら…次第にその空気感とこちらの気持ちが乖離し始める。確かに色々てんこ盛りだし、小説家(現実)と小説の中身(虚構)が並行&交差する、そのアイディアや構成に捻りは効いている。でもキレ味が今ひとつ。最初は抜群だったネコの存在も微妙におざなりだし、そもそも陰謀の重大さが伝わって来ないから緊張感が途中でほどけてしまう。主演2人の人選は新鮮だが適役か微妙〜。オシャレ感が乏しいのもなぁ…。ただ終盤、カラフル&技ありアクションと、『キングスマン』への目配せで気分盛り返し。
★★★☆☆
森直人
スパイ映画の新しい主体
まさかの入れ子構造かつ荒唐無稽という力業だが、ジャンル映画を批評的に更新・拡張させる着想と手腕はさすがマシュー・ヴォーン監督。ブライス・ダラス・ハワード扮するベストセラー作家の妄想話みたいな作りなのだが、文系女性キャラがスパイ映画の真ん中に来ちゃうってのも今の時代だなと。昨年完成したビートルズの“新曲”「ナウ・アンド・ゼン」が使われるのも驚いたが、列車の乱闘シーンで流れるディスコチューンが「エレクトリック・エナジー」という書き下ろし曲なのにびっくり。アクションも冴えているし、猫も可愛い。
★★★半☆
<今月の推し>
渡辺麻紀…『妖怪巨大女』
バートンの新恋人、どう思います?
先日、フィルムセンターで上映されたジョー・ダンテのフッテージ集『ムービー・オージー』。50、60年代のCM、映画、TV等をコラージュしたものなのだが、そのなかに58年のC級SF『妖怪巨大女』が収録されている。宇宙人に遭遇した奥さんが巨大化し浮気夫をとっちめるという当時、流行っていた巨大SFものの一本だ。何と、それをティム・バートンがリメイクするというからびっくり。そのヒロインはもしかして現在の恋人モニカ・ベルッチ!? たしか巨大になったら大迫力だろうけど……。そもそもこのカップルはどうなんだろう!?
『妖怪巨大女』
監督:ネイザン・ハーツ 脚本:マーク・ハンナ 出演:アリソン・ヘイズ ウィリアム・ハドソン イヴェット・ヴィッカーズほか 66分/1958年アメリカ
●虐げられてきた人妻ナンシー(ヘイズ)が、地球外生命体により体を巨大化されたことをきっかけに、不倫している夫とその愛人を追いかけ復しゅうを果たすカルト映画。
折田千鶴子…『DOGMAN ドッグマン』
切なくて哀しくも血が騒ぐ…
あらヤダ、ベッソンなのに(もちろん初期作付近は大ファンでした)、意外に深くない!? 犬小屋で育った不幸な元少年が、街のクズどもを犬と共にブッた斬る! 対・権力も含め、いやはや痛快。
犬たちとの絆の深さも痛いくらいに切なくて。夜の街で生きる人々の連帯にも、彼のピアフの歌声にもホロリ。ケイレブ・ランドリー・ジョーンズって、確かにこれまでも唯一無二の個性をほぼ全作で放って来たけど、ここまで惹かれたの初めてかも!
監督・脚本:リュック・ベッソン 出演:ケイレブ・ランドリー・ジョーンズほか 114分/2023年フランス
●ある夜、警察に止められた一台のトラック。運転席には負傷し、女装をした男。荷台には十数匹の犬。“ドッグマン”と呼ばれるその男は、半生を語り始める。
新宿バルト9ほか全国公開中
森直人…『このハンバーガー、ピクルス忘れてる。』
クセになる面白さです
サリンジャーの小説『このサンドイッチ、マヨネーズ忘れてる』を彷彿させるタイトルの与太話メインな魅惑の恋愛会話劇。監督は要注目の奇才・木村聡志。今年頭に『違う惑星の変な恋人』が公開されたばかりだが、本作はTOKYO MXドラマの劇場版。これが『階段の先には踊り場がある』も含めた木村監督の過去作と同じ世界線で展開し、同じキャラクターが再登場する。人呼んでMCUならぬKCU(木村聡志シネマティックユニバース)!
監督・脚本・編集:木村聡志 出演:平井亜門 石川瑠華 森ふた葉他 80分/2024年日本
●観覧車の中で先輩はアキに告白するがあっさりフラれてしまい、気まずい会話の時間が続く。後日、バイト先のハンバーガー屋で先輩はなっちゃんに告白され……。
全国順次公開中
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