オカモトレイジ(OKAMOTO’S)、Yohji Igarashi、宮崎敬太 presents「レイジ、ヨージ、ケイタのチング会」17

Kカルチャーに造詣の深い2人がサウンドの面からK-POPを分析しつつ、トラックメイカーYohji Igarashiと共に元ネタを探りながら理解を深めていこうという企画。今回は、2023年10〜11月の出来事をプレイバックしながら、ヨージがくらったRed Velvetのあの名曲を語ります。

 

取材&文/宮崎敬太

 

オカモトレイジ、Zion.TのMV監督しました

 

 

Zion.T – ‘V (Peace) (feat. AKMU)’ M/V

 

レイジ:めっちゃ最近のトピックだと俺、Zion.TのMVを作ったんですよ。今日も朝の10時まで編集してた。寝てない。まだ完成してない(※編集部注:当記事の取材は2023年11月末)

 

ヨージ:Zion.Tって、あのZion.T?

 

レイジ:他にいないだろ(笑)。

 

ケイタ:どういう経緯で話が来たの?

 

レイジ:もともとHYUKOHのマネージャーをしてて今はZion.Tを手伝ってる友達から「東京に良い映像作家はいない?」って連絡が来たんですよ。言ったら誰でも知ってるベテランじゃないですか。だからある程度実績がある人がいいなと思っていろいろ当たってみたけど、みんなスケジュールが合わなかったんです。

 

ケイタ:年末に向かっていくタイミングはみんな忙しいもんね。

 

レイジ:うん。そんな感じで何も決まらず時間だけが過ぎていったんです。そしたらその友達が「レイジの友達はみんなかっこいいし面白いから、レイジが撮ったらいいんじゃない?」と言ってくれて。俺は映像のこと全然わからないけど、YAGIとしてなら受けられるなと思ったんです。

 

ヨージ:(ジョルジオ)ギヴンはいっぱいMV撮ってるもんね。

 

レイジ:そうそう。SIMILABの「UNCOMMON」とか。

 

ケイタ:レイジくんはどんなふうに関わったの?

 

レイジ:曲のコンセプトが渋谷系だったので、オマージュしてみたり。めっちゃ気合い入れました。こぼれ話としては、今回いろんな人にカメオ出演してもらったんですね。

 

ケイタ:野村訓一さんや菊乃さんも出てたよね。

 

レイジ:アイナ・ジ・エンドとかChilli Beans.とか、マジでいろんな友達に協力してもらいました。ほんとみんなありがとうございました。で、Zion.T が m-flo の大ファンだから 2 人にもカメオ出演してもらったんです。せっかくだから(Zion.T と m-flo の)3 人のカットを撮影しました。

 

ケイタ:想像を絶する世界線だな……。

 

レイジ:本当ですよ。俺らもびっくりしましたもん。超大変だったけどすごい楽しかったし、貴重な経験をさせてもらいましたね。

 

トラップのアンビエンスな面に注目したことがすごい

 

 

Metro Boomin – Red Bull Symphonic (Full Performance)

 

ヨージ:Metro BoominがRed Bullの企画でオーケストラと一緒にライブやってるの観た?

 

レイジ&ケイタ:知らない。

 

ヨージ:YouTubeに上がってるから時間のある時にでも観てほしいんですけど、すごく良い感じだったんですよね。指揮者がスニーカー履いてたり。基本ビートやラップはオケで、ストリングスが生って感じ。「Mask Off」(Future)みたいな有名曲やったり、ゲストにジョン・レジェンドが出てきたり。音楽的な驚きがあったというわけではないけど、あくまでプロデューサーをメインにこういうことをやらせてもらえるのがすごいなあって。

 

ケイタ:似たような企画で、昔DJプレミアがオーケストラと一緒に演奏してて。それはいまいちだった。プレミアってチョップ&フリップが魅力で、カットされた隙間とかズレにグルーヴがあると思ってるんだけど、それを綺麗に弾いちゃうのは違うかなと思った。

 

レイジ:確かにプレミアはもろMPCで作ったゲットーミュージックって感じですもんね。トラップにはゴージャスな雰囲気がある。

 

ヨージ:僕もこういうことやってみたいなって思いました。

 

レイジ:カルテットならできるんじゃない? 小袋(成彬)がN.O.R.K.の頃やってたよ。ヨージもやってみたら? バイオリンを3〜4人呼んで、DJとラッパーみたいな編成とか。

 

ヨージ:そうね。なんか絵としてすごく新鮮だったんだよね。プロデューサーとオーケストラっていう組み合わせの。

 

ケイタ:俺の中ではヨージさんはエレクトロミュージックのプロデューサーという印象があるけど、いろんな楽器の人と一緒にやってみたいって気持ちはあるんだね。

 

ヨージ:音楽的に純粋なプラスになることだったらなんでもやりたいです。ただ「バンドやりました」「オーケストラ呼びました」みたいのだと、僕はやらなくてもいいかなって感じ。Metro Boominのはトラップのアンビエンスな面に注目したことがすごく良いと思ったんです。あとベースは生じゃなくオケで出してたから現場で聴いたらかなり印象違うんじゃないかなとも思う。彼のトラックはすごいシンプルだし。

 

ピューロランドのハロウィンパーティが楽しすぎた

 

ケイタ:そういえばヨージさんがプロデュースしたHIYADAMの新曲(「Come! (feat. Only U)」)がすごいかっこよかった。

 

レイジ:あの曲、サンリオピューロランドのハロウィンパーティ(「SPOOKY PUMPKIN 2023 〜PURO ALL NIGHT HALLOWEEN PARTY〜」)でもやってたよね。

 

ヨージ:うん。ニューHIYADAMです。あの感じが好きなら、今作ってるアルバムも気に入ってもらえると思います。てかさ、あの日、いろんなステージでレイジを見かけたんだけど(笑)。

 

レイジ:なんかね(笑)。俺はあのピューロランドを含めた3日間で10現場くらいDJした。

 

ケイタ:ハロウィン近辺のレイジくんのスケジュールはとんでもなかったよね。前日の夜中に名古屋、翌日の夕方に東京、深夜に札幌みたいな。俺も9月くらいからつい最近(12月頭)まで自分史上最高に忙しいと思ってたけど、レイジくんは比べるのもおこがましいくらい上回りまくってた(笑)。それでもサンリオピューロランドのパーティは本当に良い感じだったらしいね。現地に行った友達も絶賛してた。

 

レイジ:そうなんすよ。大規模なイベントではあるけど、出演者も仕事っぽくないというか。めちゃピースな雰囲気で。そもそも会場がサンリオピューロランドだから非現実的な空間で楽しいし、さらに言えばキャストさんたちの人捌きも尋常じゃなくうまいんです。メインステージがパンパンでも他のステージに移動する動線は確保されてたり。トイレもフードコートもほとんど混まずしっかり回転してた。とにかく居心地が良い。お客さんもいわゆる音楽ファンだけじゃなくて、サンリオファンの人たちも来るからチケットは毎年即完なんです。

 

ケイタ:え、それはすごい!

 

レイジ:ナンパ目的で来るような人もいない。だからお客さんの雰囲気も最高。演者も普通に館内をフラフラしてるけど、お客さんもわかってるから変なことにはならない。あと都心からちょっと離れてて朝まで帰れないからみんな腹括って遊びに来てるっていう(笑)。

 

ヨージ:そういう雰囲気は楽屋にも伝わってきてて。あのパーティーはクラブと違って、館内が結構明るいんですね。僕はあまり外には出なかったけど、楽屋の雰囲気も楽しかったです。

 

レイジ:じゃあヨージはディズニーランド行ってもはっちゃけられないタイプ?

 

ヨージ:……うん。

 

ケイタ:……俺も。

 

レイジ:2人とも自意識過剰だなあ(笑)。でもヨージが楽屋にいたんだったら上ちょ(サイプレス上野)を紹介すれば良かったね。

 

ヨージ:いやいや。スチャダラパーさんとか、RIP SLYMEさんとか、サ上さんみたいなレジェンドと同じ現場ってだけですごい光栄でした。

 

レイジ:あまりにも最高だったんで、俺は主催の人に「来年は1ステージまるごとキュレーションさせてください」って直訴しちゃいました。実現したら激アツっすね。

 

ケイタ:来年は俺も行こう!

 

10〜11月は家で正座して「Red Flavor」を聴いてました

 

 

Red Velvet 레드벨벳 ‘빨간 맛 (Red Flavor)’ MV

 

ヨージ:ちょっと話は変わるんだけどさ、Red Velvetの「Red Flavor」って曲あるじゃん。

 

レイジ:パルガンマね。ヨージの口からレドベルの話が出るなんて珍しい(笑)。

 

ヨージ:あの曲、めっちゃすごいね。先月にハマって、それこそハロウィンの頃とかはずっと聴いてた。ところでパルガンマってなに?

 

レイジ&ケイタ:えっ!?

 

ケイタ:パルガンマは、「Red Flavor」の韓国語読みね。

 

ヨージ:なるほど。今、とあるアーティストと制作してて。その人からのレファレンスの中に「Red Flavor」があったからちゃんと聴いてみたの。そしたらもう曲としてすごすぎて。

 

レイジ:嬉しすぎる。

 

ヨージ:あの曲ってけっこう派手に聴こえるじゃないですか。でもトラックに全然コードがないんですよ。

 

レイジ:そうっすね。8小節の終わりにコード進行がついてるんですけど、Aメロは「ブワァンッ!」って鳴るホーンとビートだけです。Bメロにはちゃんとコード進行があります。それが効いてるんです。このトラックがすごいのはAとBを繰り返してるだけってとこ。たぶん歌がうまくないと成立しない。ほぼほぼゴスペルですね。

 

ヨージ:もうね。こんなの作るのはめちゃくちゃ難しい(笑)。

 

レイジ:しかもめちゃディプロじゃん。パルガンマは本当にすごいんすよ。

 

ケイタ:じゃあ今後ヨージさんがプロデュースの「Red Flavor」っぽい曲が出るの?

 

ヨージ:いや、この曲は似た感じにはなかなか作れないかもです。

 

ケイタ:というと?

 

ヨージ:ほぼ同じような感じになっちゃうってことですね。雰囲気や構成だけ取り入れるみたいなことが逆にけっこう難しい作りなんです。例えばあの「ブワァンッ!」ってホーンの音を、別のシンセとかに変えるのってなかなか難しくて。ホーン特有のポップさもインパクトの強さも他の音だとあれほどは出ないし、けっこう違う感じになっちゃう。この感じは「Red Flavor」でしか成立しないというか。

 

レイジ:ずっと同じなのにしつこさを感じさせないのもすごいと思う。

 

ヨージ:わかるわ、それ。

 

レイジ:たぶん最初はもっといろんなコードが入ってたんだと思う。そこからどんどん引いていって最終的に必要なコードだけを残したんじゃないかなと俺は推測してる。

 

ケイタ:それはヴォーカルの良さを目立たせるため?

 

ヨージ:それもあるだろうし、僕みたいなやつを喜ばせようとしてるとも思った。

 

レイジ:あと音数少なければ少ないほど、コンプの効きが良くなって一音一音に広がりが出るっていうのあるはず。

 

ケイタ:たしかにこの曲には開放的な印象があるもんね。

 

ヨージ:てか、なんでチング会で教えてくれなかったの?

 

レイジ:なんっかいも聴かせてたよ!

 

 

Chill Kill」はUSでもUKでもJ-POPでもない謎の音楽

 

 

Red Velvet 레드벨벳 ‘Chill Kill’ MV

 

ヨージ:この曲って最近のリリース?

 

ケイタ:いやいや全然前よ。たしか2018年の平昌オリンピックの入場曲に使われた記憶ある。2017年くらいの曲かな。

 

ヨージ:ええ……(笑)。なんで教えてくれなかったんですか!

 

ケイタ:2回言うな(笑)。チング会でも聴かせてたし、レイジくんもめっちゃDJでかけてるよ。

 

レイジ:ヨージの頑固な一面(笑)。興味ないことにはまったく興味ない。でもヨージは前に「Feel My Rhythm」には感動してたよね。レドベルが今年リリースした「Chill Kill」はもう聴いた?

 

ヨージ:「Feel My Rhythm」もすごかった。「Chill Kill」はまだ聴いてないけどもうすごいんだろうなって気はしてる。

 

ケイタ:俺も取材するアーティストの音源ばかり聴いてるから、まだちゃんとはチェックしてないんだ……。

 

レイジ:マジすか。「Chill Kill」はこれまでとは違うすごさです。ジャンルがわからない。それ以前に悲しい歌なのか、楽しい歌なのかもわからない。そもそもRed Velvetって少女時代の大衆性とf(x)の革新性をミックスするってコンセプトで結成されたんですよ。

 

ケイタ:明るいRed SideとシリアスなVelvet Sideで作品ごとに分けられてるよね。今回はティーザーやビジュアルの雰囲気からVelvet Sideっぽい印象を受けてた。

 

レイジ:そうそう。Redはさっきのパルガンマとかで、Velvetだと「Psycho」とか「Bad Boy」とか。でも今回は1曲で両方やってるんです。とりあえずみんなで聴いてみましょう。

 

ヨージ:(MV視聴中)最初は結構ダークで美しいVelvetな感じだね。あ、なんかだんだんRedみが出てきた。うわー、なんか変なコード。……スネア、スネア、ここで入んないんかい! なんじゃこりゃ。マジか。すご。新しいことやってるなあ……。ちょっともうレベルが違いすぎる。すごい!

 

レイジ:ヨージ・イガラシが今レドベルにくらってる(笑)。散々今まで言ってきただろうがよー!

 

ケイタ:(爆笑)。

 

レイジ:Red Velvetはもう別格なの。「Chill Kill」はUSでもUKでもJ-POPでもない謎の音楽。俺はこういうのを面白いと思う。最近のK-POPではめっきり減ってきちゃったけどね。もはや絶滅危惧種ですよ。

 

ヨージ:(MV視聴中)Cメロはちょっと80’sっぽい感じなんだね。ここで遊ぶんだっていう。ちなみにサビの頭でドラムを抜いてベースだけにするやり方はけっこうハウスマナーです。それこそ近年のSKRILLEXもやってたり。

 

ケイタ:今年の前半にしたSKRILLEXの話が「Chill Kill」で回収されるとは思ってなかった(笑)。

 

レイジ:じゃあYouTubeにKilling VoiceっていうK-POPアーティストの歌にフォーカスしたコンテンツがあるからそれも見てみよ。めっちゃいろんな曲を歌ってて最高ですよ。スルギはもっといろんな曲を歌いたかったってバブルで言ってた。

 

Red Velvet (레드벨벳)의 킬링보이스를 라이브로!ㅣ행복 (Happiness), Chill Kill, Oh Boy, Psycho, You Better Know, Bad Boy

 

ヨージ:(Killing Voice視聴中)歌うま……。こうやって聴くと超良いポップスだね。

 

レイジ:でしょ。「Chill Kill」は歌のうまさとトラックの変さがすごい高いレベルで融合してるんだよ。こういう変な曲って歌い手が乗りこなせてないと成立しないじゃん。

 

ヨージ:このKilling VoiceでRed Velvetの生歌聴いて、自分の中でさっきのMetro Boominと勝手に繋がっちゃった。観て良かった。ありがとう。

 

レイジ:これは2023年の締めくくりとしては最高の内容っぽくないすか?

 

ケイタ:完璧。2024年も良い年になりそう。

 

 

オカモトレイジ●1991年生まれ、東京都出身。ロックバンドOKAMOTO’Sのドラマー。2010年CDデビュー。幅広い音楽的素養を生かし、DJとしても活動中。ファッションモデルとしての活動やMVのプロデュースなど、クロスジャンルな活躍で現代のカルチャーシーンを牽引。その活動の勢いは止まることを知らない。

 

Yohji Igarashi●トラックメイカー、DJ、プロデューサー。主なプロデュース作にHIYADAM、新しい学校のリーダーズ、Daokoなど。

 

宮崎敬太●音楽ライター。オルタナティブなダンスミュージック、映画、マンガ、アニメ、ドラマ、動物が好き。

投稿者プロフィール

TV Bros.編集部
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