シン・爆笑問題「ぼくたちYouTubeを始めました!」【前編】
シン・爆笑問題「ぼくたちYouTubeを始めました!」【後編】
※本記事はTV Bros.10月号同居生活特集号掲載時のものです
<紙粘土・田中裕二>
「もし流行語大賞とったらタラちゃんと受賞式行きます~ハイ~」
今年最もブレイクした芸人やす子。「ハイ~」は流行語大賞の候補になってもおかしくない。
でもよく考えたら「ハイ~」はタラちゃんが半世紀前から言ってたね。
<文・太田光>
バービー
「あなたの本意じゃないことはわかってるわ」リカちゃんは鏡の前で洋服を体にあてがいながら言った。
「ねえ、これどう思う?」
「とても似合ってるわ。……さっきの方が私は好きだけど。それも好きよ」と、バービーが答えた。
「さっきの?」とリカちゃん。
「二つ前のチェック」
「え? あのベージュの?」リカちゃんは少し不満そうに言った。
「ええ、その派手なキラキラよりあなたらしくてよかったわ。……なんていうか、控えめで……それより、さっきの話だけど」
「ふーん……控えめね」リカちゃんは銀のスパンコールでミニでタイトなドレスを着たバービーをチラッと見て、少しムッとしたように見えた。
「それよりさっきの私の髪型の話だけど」とバービー。「あんな髪型を私が望んでるわけじゃないってことをこの国の人達にも理解してほしいの」
バービーが言っているのはSNSに上げられたミームのことだった。今回バービーの映画公開のタイミングで自分の髪型を原子力爆弾によって生じるキノコ雲に加工した悪ふざけの画像がアップされた。画像はファンが作ったものだったが、それをアメリカの公式Xが、「忘れられない夏になりそう」と言葉まで添えてリプライしたのだ。その後、そのリプライは削除されたものの、釈然としない空気が残ったままだ。その影響があるのかどうかはわからないが、映画はアメリカでは「スーパーマリオ」を抜く記録的大ヒットにも関わらず日本では今ひとつ伸び悩んでいるように思えた。バービーにとっては深刻な問題だった。
「大丈夫。理解してるわ、みんな。きっと」
「きっと?」
「あの髪型が最低だってことは誰が見てもわかるもの。……あなたの顔には似合ってない。キラキラの服でも何でも似合うあなたのゴージャスな顔にはね」
その言い方には明らかに険があるように聞こえた。
「……ねえ、リカ。もしもさっきの私の言い方が気に触ったのなら、謝るわ」
「え?……何のこと?」
この子、昔からこういうところがあるんだ。と、バービーは思った。二人は古い付き合いで、互いの性格はよく知っていた。リカちゃんは、不満があってもそれをハッキリと口にしない。しかし、その態度には不機嫌さが表れる。遠回しに責めてくるのだ。
「つまり……控えめって言ったこと」
「ああ」
「決して悪い意味で言ったんじゃないの。だって奥ゆかしさはあなたの最大の魅力の一つだもの……」
「うん。わかってる。私、あなたほど進歩的で自立した女性じゃないから。顔も童顔で、ガキみたいだし、キラキラな服とか着ないで地味めな格好してた方がみんな喜ぶし」
「そんなこと言ったんじゃないわ! あなたは派手な服も似合うわ!」
「ありがとう」リカちゃんは、ベージュのチェックを合わせながら言った。「あなたは凄いわ。映画化されて世界中の女性をリードしてるんだもの。きっと私が主役じゃ企画は通らないわね」
「リカ!」
「でもいいの、気にしないで。私やっぱりこれにする」
リカちゃんはベージュを捨て、一番派手な服を持ってクルッと振り返り、ニッコリ笑った。その笑顔はハッとするほど魅力的だった。
「と……とても似合うわ」
とバービーは言った。そうだった。この子の魅力はこの笑顔だった。そもそも私達人形の魅力って……。と、思わず考えた。
「私は別に映画にならなくてもいいの。私を部屋に置いてくれる女の子達が笑顔になってくれれば嬉しいわ。最近はスマホやゲームで遊んでばっかりで、売り上げが悪くて悲しいけど……あ、もちろん、女の子じゃなくてもいいのよ。男の子だって私を部屋に置いてくれたら嬉しいわ」と、リカは笑った。
「そうね、リカ……」と、バービーは言った。あれ? 今まで何を話してたんだっけ?
バービーは改めて聞いた。「あのね。リカ、私が聞きたいのは……つまり、戦争の終わらせ方についてなの……なんていうか、私の国とあなたの国では、戦争末期の出来事について、認識の違いがあるっていうか、考え方の違いがあるでしょ?」
「…………」
リカちゃんは変わらず鏡を見つめて洋服を選んでいる。
……そうだった。この子は政治的な話題に関しては絶対に口にしないのだった。「そういうところよ」という言葉が浮かんだが、言わなかった。
「ねぇ、バービー! あなた自身がどう思っているか、自分の言葉で表明するべきじゃない?」
「あなたは黙ってて、ジェニー」
バービーとリカちゃんが同時に言った。
「ここであなたが出てくると話がややこしくなるのよ」と、バービー。
「ふん! 何よ」
と、ジェニーはふくれっ面をした。
「ケケケケ」
その時、どこからかヘンテコリンな笑い声がした。
「誰?」三人の人形が振り返る。見ると、部屋の隅に奇っ怪な白い小さな動物がいた。耳は長くてウサギのようだが、顔は完全にネコのウサギネコだ。
ウサギネコはニヤニヤ笑いながら言った。
「ケケケ、あの髪型が気に入ってるとか気に入ってニャイとかいう問題じゃニャイ」
「……え?」
「おまえ達、大事ニャことを忘れてるニャ」
「な……何?」
ウサギネコはバービーに言った。