「アウェーの場に出かけていって出会った、普通に生きてたら会えなかったふたりです」TBS Podcast「Y2K新書」 柚木麻子、竹中夏海、ゆっきゅん インタビュー 01

2023年3月31日にTBS Podcastでスタートした「Y2K新書」。小説家の柚木麻子(1981年生まれ)、振付師の竹中夏海(1984年生まれ)、DIVAのゆっきゅん(イマジナリー1989年生まれ【リアルでは1995年生まれ】)の、「Y2K(2000年代)のカルチャーが大好き」という一点で繋がったゆかいな3人が、Y2Kへの愛を語るという名目で始まったものの、回を重ねるごとに、Y2Kというテーマをひらりと飛び越え、気づけば3人のかまびすしいおしゃべりが毎回約1時間も配信されるという、ほかでは類を見ない番組に。ここでは、聴けば聴くほど混ざりたくなる「Y2K新書」のパーソナリティである3人にインタビュー! 気づけば番組1本分くらいの大ボリュームになったテキスト版「Y2K新書」をお届けします!

柚木さんの着用しているスカートはともさかりえさんのアパレルブランド「My weakness(マイ ウィークネス)」のもの

 

文/南波一海 撮影/米玉利朋子

 

 

『エブエブ』の日本版をやるなら主演は柚木麻子に決まってる

 

――番組が始まった経緯は第1回目で話していますが、TBS Podcastでの配信となったのはどんな流れだったのでしょうか。

 

竹中夏海 そもそもは、野良でやろうとしたんですよ。

 

ゆっきゅん そうそう。柚木さんとのトークイベントに竹中さんが来てくれて、楽屋で話して。でも、その時は具体的なことは言ってなかった。

 

竹中 でも、ちょうど柚木さんがTwitterをやめたところでね。

 

柚木麻子 イーロン・マスクのせいですよ。仕様が面倒くさすぎてやめたの。

 

竹中 コロナ禍もあって、柚木さんに会うのも2年振りくらいだったから、話がお互いに止まらなくて。それで渋谷で一時間半くらい立ち話をしてて。その時に、私だけこの話を浴びるのがもったいないから、「ポッドキャストやりなよ」って言って。でも、「なんか大変なんでしょ」みたいな感じで渋ってたから、この3人の座組みだったら柚木さんもやるって言いそうだなと思って。

 

――それがちょうどTBSがポッドキャストに力を入れるタイミングと重なった。

 

竹中 そうそう、そもそもポッドキャストのことがわからなすぎて。そういうことを相談できるのが『アトロク』(TBSラジオ『アフター6ジャンクション』)の構成作家の古川(耕)さんくらいしかいなかったんです。それで古川さんがぬるく見守ってくれる感じで、「僕も詳しくないので」とか言いながらアプリの使い方とかも調べて教えてくれたんですね。それに加えて、古川さんが橋P(プロデューサーの橋本吉史)と立ち話をしていたら、ちょうどTBSがポッドキャストに力を入れたいらしいと聞いて、私たちの話もしてくれて、「その話、一旦持ち帰っていいですか?」となった、という。でも、古川さんは「TBSだったらディレクターをつけられますけど、とはいえ3人がファミレスで喋ってる感じを出すなら自分たちでやったほうがいいかもしれないので、やりたいほうでいいですよ」と言ってくれたんですね。で、3人で相談したら……。

 

ゆっきゅん 面倒くさくないほうで。

 

柚木 喋るだけでいいの? それは楽そうってことで。

 

竹中 そういう感じで、わりとトントン拍子で始まりました。

 

柚木 その前に古川さんとZOOMでちょっと喋ったことがあって。アトロクの中で本を薦めるAudible絡みの企画の相談があって(『アトロク・ブック・クラブ』)、やりますよと思ったら、私の好きなものが全部Audibleになってなくて、「本は薦めたいんですけど、ごめんなさい」ってなったんです。古川さんはそれを覚えてくれてたのかもしれないです。

 

竹中 その時から始まってたのか…。『ユキナ飯。』(木下優樹菜初の料理本)はAudibleになかったんだね。

 

柚木 『ユキナ飯。』はないですねぇ。朗読するとしたら誰がするんだろう? でも、この番組でユッキーナの話ができてよかったですよ(※4月28日公開「出演してみたかった、あの頃のテレビ番組の話。」)。今はどこでもできないから。

 

竹中 良い話ばっかりですから。

 

――今回、インタビューに先立って第7回と第8回の収録を見学させていただいて、めちゃくちゃ楽しんでしまいました。僕はお三方の話を聞いて世界が変わると思いましたよ。

 

柚木 そう言われるとなんかそんな気がしてきた。南波さん(※当記事のインタビュアー)、『エブエブ(エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス)』の人みたい! 「世界が変わる」って言ってきてウエストポーチで戦う人だ!

 

――あはは。

 

ゆっきゅん 『エブエブ』の日本版をやるなら主演は柚木に決まってるんで。映画観ながらそう思っていて、それを(柚木に)伝えたら、そうだよねって。

 

竹中 そうだよね(笑)。

 

柚木 そうだよね、あれは私。

 

――話を進めます! これまで、大資本が投下されたもののハネなかった映画やドラマや音楽がたくさんあるわけじゃないですか。

 

柚木 ハネなかった? 『東京フレンズ』のこと? BeeTVは失敗だったんですか!

『Y2K新書』での語り直しが世界を変える?

 

――『Y2K新書』は、多くの人の目に触れてきたはずなのに内容を詳しく知っている人はあまりいない、というような作品をお三方が大好きで、それらに関して改めて語り直しているわけですよね。その語りがめちゃくちゃおもしろいから、きっとこの先、過去の作品が新たに認められたり、再評価されたりするのではないかと思ったんです。

 

柚木・竹中・ゆっきゅん ええ!?

 

竹中 そういう意味で世界が変わると。

 

ゆっきゅん でも、3人で集まったらこうなる、というのを配信しているだけですよ。

 

柚木 じゃあじゃあ、押尾学のせいでソフト化できなかったものもソフト化されるってわけ? 「人気者がCDを出す」という文化も押尾学が終わらせたんですよ?  Y2Kのカルチャーを愛した人間にとって一番の敵、それは押尾学です。名作が再放送をされなかったり、コンテンツ自体を終わらせた罪について今一度語りませんか?

 

竹中 『春ランマン』ね。

 

ゆっきゅん 収録で『春ランマン』って言い掛けたタイミング何回もあった。今週とかじゃなくて、毎週ちょいちょいある。押尾学は、報道された時に「鳴かず飛ばずの音楽活動」的なことを言われていて。笑い話とかでもなく、そういう感じで書かれてたのが忘れらない。

 

柚木 LIVね。そういうふうに言われるとちょっと庇いたくなるね。だって『マシュー(Matthew’s Best Hit TV)』に押尾学が出た時にさ、「マシューとプッシュ(押尾)はデトロイトの有名な走り屋だったんだよね」って言われてたのがよかったし。

 

竹中 あははは!

 

ゆっきゅん 私、泣かず飛ばずの音楽活動している人ってちょっと愛おしいからさ。

 

柚木 でも、外野が泣かず飛ばずって言っていいの? 押尾のことをけなしていいのはオレだけだから!

 

ゆっきゅん なんでなんだ(笑)。

 

柚木 桜沢エリカのことを上から目線で批判している、絶対にくぐってない感じの男の文化人とかいるけどさ、エリカ作品のことをどうこういっていいのはこの世界でオレだけなんだよ! 
昨日「Y2Kファッション」で検索したら、2000年代にできたものって、あの頃のポジティヴな色使いとか雰囲気が今の子にとって新しいとかで。2000年代のエンターテインメントってすごくポジティヴなんですよね。『小悪魔な女になる方法』とかもそうですけど、恋に仕事に大忙しで毎日頑張って生きてる、みたいな感じ。

 

ゆっきゅん みんな恋に仕事に大忙しだったよね。

 

柚木 ドジっ子の私でも毎日企画室でスケッチを描いてたら企画が通るからもしれないという世界観。無理めな相手でも、周りをうろうろしてたら気持ちが繋がるかもしれない、みたいな、今だったら茶々が入りそうなアメリカ主体のことがポジティヴに日本人で表現されていたんです。

 

最小限の努力で、ツッコんでる自分を知的に見せよう、みたいな“高見せ”はよくない

 

ゆっきゅん 今はツッコミの視点が入っちゃうんだよね、良くも悪くも。

 

柚木 ツッコミはいいのよ。『SUMMER NUDE』で死ぬほどツッコんでたから。おいおいおーいって。でも、最小限の努力で、ツッコんでる自分を知的に見せよう、みたいな“高見せ”がよくない。『SATC(セックス・アンド・ザ・シティ)』もあの雑な描写に傷ついたマイノリティやそれに寄り添う人たちが批判してるならわかるんです。だけど、『SATC』に何の関係もなく生きてきた男の人が偉そうに批判しているのを見ると、それはちょっと違うんじゃないかって思う。

 

竹中 カルチャーとは違うかもしれないけど、いわゆる”子宮系”の女たち……出産とか生理にまつわることを「子宮スピw」みたいに男の人が言ってるのはちょっと、って思う。私も体にまつわることは基本的にエビデンスのあるものしか信じていませんが、でも、そんなことにも頼りたくなるくらいの痛みを味わったことないやつが笑うなよ?と思う。

 

柚木 そうそう。あゆ(浜崎あゆみ)のこともそうですよ。あゆを批判してる人に「あの歌の気持ちを味わったことがある?」「そんな角度からの批判?」って思うことは結構ある。

 

ゆっきゅん てか、ちゃんと見て。

 

竹中 それ。知らないものとか知らない人だから悪口を言える文化がね。本当に批判したいなら、誰よりも見ないとダメだよねって思う。

 

柚木 しかも言いやすい対象を選ぶじゃん。辻希美のことを批判していた人たちもしっかり見てって思ったし、紗栄子を批判するなら『龍が如く 劇場版』をちゃんと見てと思います。『龍が如く』出てるんだぞ!

 

竹中 『First Love 初恋』の時も、人一倍見ないといけないと思ったし(※4月7日公開「柚木とN.Y.」)。ゆっきゅんが言ってたけど、柚木さんはハロー!(プロジェクト)と48の対比をしようとしていて、ハロー!派につこうとして……。

 

ゆっきゅん 「こっちを下げてこっちを上げるというわけじゃないんだけど」って言いつつ絶対そのつもりなんだけど、でも、48にめっちゃ詳しすぎる(笑)。

 

柚木 『JKニンジャガールズ』は素晴らしい映画で、あの時使いづらかったベッキーを出したこととかも含め、フェミニズムの文脈で語ろうとしていて。おじさんが女子高生になっちゃって、その中身が温水洋一というのは乗れない要因なんですけど、家父長制の上の方にいる人たちが主体的に女性をやり直すこととか、もうなんでもいいから擁護しようと思ったんです。で、その当時ハネているAKBのものを見て、「それに比べてさぁ」って言おうとした結果、やっぱAKB関連の作品はとてもよくできていた(笑)。

 

竹中 批判するならちゃんと見なきゃと思って見てみたら、それなりのよさを見出してしまった、というね。

 

柚木 『マジすか学園』シリーズを全部見たからね。

 

ゆっきゅん それが作品に対する誠実な態度だよね。

 

――第8回の番組内でも触れていましたが、マスメディアが黙殺したものというのは、付加価値がないであろうと判断されたものですよね。この作品を見ることで読者のプラスになります、みたいなものを薦めてほしいということじゃないですか。でも、『Y2K新書』はその付加価値の部分ではなく、作品そのものを見ようよ、という話をしていると思うんです。

 

柚木 そうそう、それが言いたかったんです。

 

――リスナーの方からお便りがたくさん来たというのは、同じ思いを持った人がじつはそこらじゅうにいるということで。文化的によさげな雰囲気であるとか、あるいはダサいとかの要素を一度剥ぎ取って、そのものを見ようとする姿勢がいいなと思うし、むしろ今の時代に合っている気すらするんです。

 

ゆっきゅん そのものを見ることで新たな文脈を作ろうとしているところはあるんですけどね(笑)。今って昔の知らない曲は全部新曲みたいな感覚で聴くから、特に若い人がFODでドラマを見るとしたら、ただこの作品がおもしろいと聞いたから見る、みたいに直線で行けるんですよね。

 

00年代のことを語っているけどエモくないところが「Y2K新書」の良さ

 

――たしかに。みなさんも昔の作品語りが単なるノスタルジーになってないのもいいなと思います。

 

柚木 うん、エモくない。

 

ゆっきゅん ただ、それは覚えすぎという問題もある(笑)。Y2Kのことを昨日のことのように喋れるから。そこは才能ですよね。柚木さんは話してる時も一切調べてないんだから。

 

柚木 見たドラマとか読んだ本とか、ちょっとした芸能人の記事とかは覚えてる。多分、好きなんだと思います。TV Bros.さんだと、キムタクがよく東京のことを「江戸」って言ったりしてた頃……。

 

竹中 あっはっはっは!

 

柚木 「メイビー」ってめちゃめちゃ使ってた頃よ。

 

ゆっきゅん 『プライド』の頃ね。

 

柚木 その当時、「メイビー江戸かもね」さんってペンネームの人がいたのを覚えてますもん。TV Bros.さんと言えばメイビー江戸かもね。めちゃめちゃセンスのいい名前だよね。

 

――すごすぎる(笑)。柚木さんだけじゃなく、みなさんの記憶力もすごいことになってますよね。

 

柚木 ゆっきゅんは若者だからさ。

 

ゆっきゅん 小2、3の頃に見てたのは覚えてないですよ。だから言われて、ああ、あったあった、ってなってますよ。

 

竹中 残るものってあるよね。マシューの言葉は残りやすいみたいに。ずっと残ってたけど今まで放ってこなかった言葉を初めて口に出してみたら、お互いが食い気味に「わかる」となったっていう。

 

柚木 ただ、今まで誰とも話せなかったと言うけど、誰とも話せなかった社会をまず一度疑うべきなのではないか、と。

 

ゆっきゅん それが6回収録してきて思い始めたことだよね(笑)。

 

柚木 私が選書で二度と呼ばれなくなったこととか、『バウンス ko GALS』の話をずっとしたこととか……これが『ラブ&ポップ』だったらまた呼んでくれただろうよ! 『バウンス ko GALS』はエモくないのがいいんですよね。

 

――正直、内容はよく覚えてないんですが、佐藤康恵の不思議な存在感は記憶にあります。

 

柚木 佐藤康恵はギャルとかじゃない、すらっとしたヴァガボンドな女の子で。演技に慣れてなかったから立ち姿の美しさを買われて、台詞もそんなになく、東京の街をふらふらしているのが素敵なんですけど、反対に佐藤仁美は援助交際をしていて、援助交際をする女の子たちが安全に働ける組織みたいなことをしていて。
のちにハリウッド俳優になる役所広司とガン詰めで戦うんだけど、仁美は言葉で戦うんですよ。社会構造を批判しながら、こっちだって安全がかかってるんですよ、みたいな。仁美がボスで、友達の携帯とか個人情報を奪ったやつを追いかけたりしてるんだけど。でも、そこに悲しい背景があるとかでもなくて。

 

ゆっきゅん そこがいいよね。

 

柚木 いいのよ。

 

――本当に何も調べず、25~6年前の作品をさっき見てきたように語るのが驚きです。

 

ゆっきゅん そう、感想が新鮮なんですよ。

 

竹中 いつも「今週のあれ見た?」みたいに語る。

 

柚木 佐藤仁美って最高の人間だなー。

 

ゆっきゅん この高校生の会話みたいな感覚のままでいるのがノスタルジーになってないんだと思います。

 

――普段からこんなふうに話しているんですか?

 

ゆっきゅん でも、Y2K新書が始まるまでは3人で話したことがほぼなかったんですよ。

 

柚木 私のブレーンの山内マリコがこのポッドキャストを数回聴いたんですけど、3人であんまり会うなって言われました。この場ではしゃいでる感じがいいんだ、と。

 

竹中 第3回、4回の収録は遊び尽くした後だったんですよ。単純に疲れてたんだよね。

 

柚木 古畑と夏海の回(「出演してみたかった、あの頃のテレビ番組の話。」)がすごくいいと山内が言っていて。山内さん曰く、「何も考えないで元気満タンにして、喋りたいことを喋ればあとはふたりがなんとかしてくれる。それが面白いんだ」と。
私にラジオ的な器用さや、放送作家の人に好かれること、お互いで目配せし合えるかどうかなんて全部不可能だし、うまくやろうとしたところでうまくいかないだろうって。

 

ゆっきゅん だって、マイクを外して喋り始めたりするから(笑)。

 

竹中 「これ邪魔なんだけど」とか言って暖簾をかき分けるようにして喋るもんね。

 

柚木 山内さんの今一番好きなポッドキャストがこれなんだって。第一回目のバカみたいなはしゃぎかたが本当にすごかったって。

 

ゆっきゅん 嬉しい。

 

竹中 だから、昔の芸人みたいにプライベートでは一切会わないで話すのがいいと。

 

ゆっきゅん 「人に聴かれてることを意識するとおもしろくなくなる」って言われたんでしょ(笑)。

 

竹中 山崎まどかさんが聴いていることを知ったりね。

 

柚木 それで私が明らかに動揺しているのを山内さんは声から感じ取ったみたいで。山崎まどかさんから「聴きました」ってメッセージが来た後なんかさ、(キョロキョロしながら)「ア、ア、ア……」みたいな。藤井隆さんからメッセージが来たあともそんな感じだったし。

 

竹中 藤井さんのメールを読み上げたあと、明らかに元気なくなってたね(笑)。

 

――柚木さんが本当にすごくて。さきほどの第8回目(「私たちがメジャーだと思っている作品が語られないワケ」)の収録で、ゆっきゅんと竹中さんが柚木さんは圧倒的センターである、という話をした流れで、柚木さんが「こんな自分を受け止めてくれる優しい2人がここにいた」という話をしていたじゃないですか。あのシーンはもう青春映画かと思いましたよ。

 

ゆっきゅん たしかに映画だったら泣くかも。

 

ふたりとはアウェーの場に出かけていって出会った。普通に生きてたら会えなかった

 

柚木 映画ですよね。夏海さんとの出会いはすごく変わっていて、アイドルの選考委員として会ったんです。

 

竹中 ミスiDね。

 

柚木 当時の、綺麗な子をひとりだけ選ぶみたいなものって、じつは私には合ってなくて。その時に、夏海さんはアイドル側の事情とか選び方もわかりながらこっちの気持ちもわかってくれる感じの人だったんですよね。商業のこともわかっているけど、人を消費することってこんなに簡単にしていいものなのか、みたいな気持ちにも寄り添ってくれる人だなと思って、それから仲良くなったんです。ゆっきゅんは、友達たちと「Clubhouseやろうよ! いえーい!」って始めてみたら「誰もいない! みんな飽きるの早くない!?」ってなってて。

 

ゆっきゅん あれって2~3人で会話するものだと思ってたけど、柚木さんはずっとひとりでやってましたよね。

 

柚木 いや、誰もいなかったのよ。

 

竹中 「今から家事する間だけ喋ります」とか言ってね。

 

柚木 そうしたら、ゆっきゅんが現れて、喋るようになって。

 

ゆっきゅん 初めて喋った次の日に、柚木さんが実写版『キューティーハニー』の話をしていて、「ちょっと待ってください」となったんです。

 

柚木 そうそう。その映画を薦めてたら雑誌に呼ばれなくなったな!

 

ゆっきゅん それで、「私、去年キネマ旬報で”2000年代の日本映画で印象に残っている女優について書いてほしい”と言われて、佐藤江梨子の『キューティーハニー』について書きました」って言って。そこから片瀬那奈の歌手活動の話になったりして、今に至る。

 

柚木 ふたりとはアウェーの場に出かけていって出会ったんです。普通に生きてたら会えなかった。

 

竹中 待って。ミスiDの審査員はわかるけど、Clubhouseはアウェーって言う? 勝手にやっといてさ(笑)。

 

柚木 もう誰もいなかったからさ。この結論から、アウェーには行ったほうがいい。それに、カルチャーとか小説の話をする時、どうしてもメディア華やかなりし時代をご存知の関係者さんは私が内向的で不器用な人であってほしいという感じでくるんですよね。これがもう。

 

竹中・ゆっきゅん あっはっはっは!!

 

柚木 もしくは、こじらせていて、自ら道化を買ってしまうタイプである、というキャラ付けが欲しいんですよね、どうしても。おもしろカルチャーの話をして、サービス精神で空回る、みたいな。ともさ会についてメディアから取材依頼があったときも……。

 

ゆっきゅん ともさ会って取り上げられたんだ!

 

柚木 それがさ、「ブスすぎる集い」みたいな、ニッチな趣味の子たちが集まったこじらせって文脈で語られていて。日本を代表する俳優を好きなことがなんでニッチなのかさっぱりわからない。そんな取り上げ方をするあなたの方がこじらせてるのであって、何を言ってるのかって思う。

 

ゆっきゅん 自分もそういう意識あるわ。自分は真っ直ぐだと思ってるから。

 

竹中 本当にそうだね。

 

うちらはニッチじゃない、誰よりも王道なんです

 

柚木 カルチャー語りで呼ばれると、王道じゃないよねって姿勢を求められるんです。「柚木さんのニッチな読書遍歴を……」みたいに言われても、「いや、ニッチじゃないですよ。『風と共に去りぬ』と『Machami Style』(久本雅美のスタイルブック)です」って。

 

竹中・ゆっきゅん ははははは!

 

柚木 「『風と共に去りぬ』は人種差別とかのトキシックな面があるんですけど、久本雅美にもトキシックな面はあるんですよ。だけど、何か惹かれるものがある。それが時代を越える強さなんだと思うんです。今の我々に必要なのは価値観をアップデートして読み解いていくということなんじゃないでしょうか」みたいなことを真顔で言ったら、全カット!

 

――おもしろい話なのに。

 

竹中 柚木さんに内向的な人であってほしいというメディア側の願望みたいなものがあって、だけどそれを打ち破っていくという話とまったく同じことを言っていた人がいて。それが藤井隆さんなんですけど。

 

柚木・ゆっきゅん へーー!!

 

竹中 昔の話だけど、じつは内気な青年が芸人の時だけスイッチが入るというイメージを付けたい、みたいな。それを求められているとバシバシに感じた上で、自分は全然器用だし、ネアカだしっていうのを出していて。

 

柚木 社会人になった時に、トイレに閉じこもって三浦綾子の本を読んでたっていうエピソードとかね。

 

竹中 そういうことをしても上の人に怒られずに器用にやってきた部分を隠す気はまったくありません、あなたたちのこうあってほしいという期待に応えるつもりもありません、という意志表示をすごくしていたなと思います。

 

ゆっきゅん わかる。「私は自分をうまく表現できない時期があって、何かを乗り越えてこれになっている」というストーリーを求められがち。

 

竹中 ああ! ゆっきゅんはそうじゃないから好きで。

 

ゆっきゅん 逆に生まれた時からこれなのよ、っていうのを説明しなきゃいけない。

 

竹中 ずっと学校の人気者だったんだもんね。

 

インタビューは02に続きます!

「8、9割はわからないけど10回聴きました、みたいに言われます(笑)」TBS Podcast「Y2K新書」 柚木麻子、竹中夏海、ゆっきゅん インタビュー 02

 

「Y2K新書」podcast

Apple
https://podcasts.apple.com/jp/podcast/y2k%E6%96%B0%E6%9B%B8/id1678964041

spotify
https://open.spotify.com/show/7CzmXMRCpfZJTju4yMHKTT?si=giMOmklRSSOCGjQZbTQKYg&nd=1

 

柚木麻子●2008年「フォーゲットミー、ノットブルー」でオール讀物新人賞を受賞し、2010年に同作を含む『終点のあの子』でデビュー。2015年『ナイルパーチの女子会』で山本周五郎賞を受賞。ほかの作品に『私にふさわしいホテル』『ランチのアッコちゃん』『伊藤くん A to E』『本屋さんのダイアナ』『マジカルグランマ』『BUTTER』『らんたん』『ついでにジェントルメン』、新作「オール・ノット」などがある。

竹中夏海2009年に振付師としてデビュー。その後、テレビ東京「ゴッドタン」の人気キャラクター”ヒム子“をはじめとする多くのアイドルから、様々なアーティスト、広告、番組にて振付を担当。コメンテーターとして番組出演、書籍も出版している。現在、"女性の身体も心も軽やかにしたい”という思いから「竹中夏海のココロオドル フェムケア日記」を連載中。最新著書「アイドル保健体育」(CDジャーナルムック)が発売中。演者の心と体をケアするアイドル専用ジム「i ウェルネス」を主宰。

ゆっきゅん●1995年、岡山県出身。青山学院大学文学研究科比較芸術学専攻修了。サントラ系アヴァンポップユニット「電影と少年CQ」のメンバー。J-POP歌姫の申し子として2021年にソロ活動「DIVA Project」を始動。ジャニーズWEST、でんぱ組.incへの作詞提供、映画批評の執筆など活動は多岐に渡る。松井寛プロデュースによる新曲『隕石でごめんなさい』が好評配信中。

 
 
 
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