オカモトレイジ(OKAMOTO’S)、Yohji Igarashi、音楽ライター・宮崎敬太のチング(友達)同士による、K-POPをサウンド面から深掘りしていく連載。Kカルチャーに造詣の深い2人がサウンドの面からK-POPを分析しつつ、トラックメイカーYohji Igarashiと共に元ネタを探りながら理解を深めていこうという企画。
今回は年内最後の更新ということで、2022年を彩ったK-POP楽曲を振り返ります!
取材&文/宮崎敬太
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「ごめんだけど、もうLE SSERAFIM以外はない」
レイジ:ここで話してないLAこぼれ話があるんですよ。俺、向こうでDJやったんですね。そしたらDJ終わった後に女の子が声かけてくれたんです。「いいね」って。その時はInstagramのアカウントを交換しただけで別れたんですけど、あとで見てみたらMura Masaのアルバムに参加してて。Isabella Lovestoryってアーティスト。
ヨージ:あー、あのTohjiも参加してたアルバム(『demon time』)の「Tonto」って曲だっけ?
レイジ:あーそうそう。彼女のオリジナルもすごいかっこいい。でも何がビビったって(LE SSERAFIM)「ANTIFRAGILE」の作詞家のひとりだったんです(笑)。
ケイタ:え、すご! てかShintaro Yasudaさんに続いて、レイジくんは「ANTIFRAGILE」の製作陣とどんどんつながってくねー。
レイジ:一応Shintaroにも聞いてみたんですよ。そしたらIsabellaとは全然繋がりないんだって。俺はてっきりミュージシャンのコミュニティの中で声がかかったのかと思ってたけど、そうじゃないみたい。Isabellaのオリジナルを聴く限り、「ANTIFRAGILE」のメロディラインも書いてるんじゃないかなと思った。
ヨージ:いまパッと調べて聴いてみたけど、レゲトンぽいね。
レイジ:うん。なのにこの子自身はめっちゃK-POP好きなの。インスタ見たら2022年に一番聴いたアーティストの1位がSTAYCで、2位がNewJeans(笑)。ちゃんと好きな人だっていうのがわかって、マジめっちゃ信用できるって思いましたね。
ヨージ:どこで見つけてくるんだろ?
レイジ:見つけてくるっていうより、自然と繋がってっちゃうんじゃないかな。だって俺が繋がったんだもん。実績じゃなく繋がってく連鎖の中にいる人なんだと思うよ。
ケイタ:実はチング会で「ANTIFRAGILE」の音楽面をちゃんと取り扱ってなかったから、今回やろう!
LE SSERAFIM「ANTIFRAGILE」
レイジ:この曲って真っ当なK-POPらしいアイドルソングのアレンジじゃないんですよね。普通のK-POPってサビ前のドロップがあって、歌い上げパートがあるじゃないですか。あれってダンスミュージック的にはノリを妨げるんですよ。踊ってる足が止まるというか。曲の良し悪しという意味ではなくてね。「ANTIFRAGILE」が面白いのは、ダンスミュージックのアレンジなんですよね。Aメロ、Bメロ、サビがひたすら繰り返される。だから踊ってる足が止まらない。
ヨージ:レゲトンなのにオーケストラヒットが入ってる!
レイジ:年長の人ならジュリアナ東京の感じと言えばわかると思うし、日本のアイドルファンの人だったらV6「MADE IN JAPAN」のメインのシンセの音と言えばイメージしやすいかも。あの音が「オーケストラヒット」というんです。DTMでは「ヒット」とか「オケヒ」って呼ばれてます。
V6「MADE IN JAPAN(YouTube Ver.)」
ヨージ:ヒップホップ周りだとニュージャックスイングとかでよく使われる音なんです。でもこういうレゲトンみたいなサウンドでは普通はあまり使わないイメージ。それにそもそもオケヒ自体キワキワな音だから一歩間違うとダサくなっちゃう。だけどこの「ANTIFRAGILE」は絶妙にかっこよく使ってると思いました。2020年代の雰囲気がちゃんと出てるというか。なんか偉そうな言い方ですけど(笑)。あとレイジが言った通り、これまで聴かせてもらったK-POPの感じと結構違う気がしました。
ケイタ:ちなみに2020年代の雰囲気を感じたのはどこ?
ヨージ:一番顕著に感じたのはベースの音色ですけど、全体的に細かいところに今っぽい音を使ってるからバランスがとれてるんだと思います。
レイジ:「ANTIFRAGILE」は相当攻めてると思う。だってK-POPの定番アレンジを完全に無視してるから。
ケイタ:話を聞いて思ったのは、たぶんその攻めた音作りもLE SSERAFIMのコンセプトに沿ったものだと思う。俺は、彼女たちのコンセプトは「〜らしさ」に支配された旧世代の価値観を覆して、今の感覚で今を生きる人に向けたメッセージを発信することだと思ってるの。性別も年齢も国籍も関係ない。それを踏まえて、デビュー曲は「恐れない」で、2曲目が「弱くない」なんだよね。「〜らしさ」からの解放は今の感覚だから、セクシャリティを超えて俺もエンパワメントされちゃうんだと思う。ちなみに「ANTIFRAGILE」のMVの最後に「DO YOU WANT TO BE FORGIVEN?(許して欲しいの?)」とあったから次は強めのバラードかも(笑)。
レイジ:『REDUX YAGI』に出てくれたNUGAはMMAアワードの動画見て「もうルセラ一択」って言ってましたね。「ごめんだけど、もうLE SSERAFIM以外はない」って(笑)。その時、俺MMAの動画みてなかったんです。そしたらNUGAに「ジーくん、絶対観て!」って言われました。
ヨージ:ジーくんって呼ばれてるんだ(笑)。
レイジ:NUGAは俺をジーくんと呼ぶんだよね(笑)。
ヨージ:第73回NHK紅白歌合戦で何歌うのかな?
ケイタ:「ANTIFRAGILE」だったらブチ上がるけど、1月25日に日本語版が出る「FEARLESS」じゃないかなーと思ってる。
レイジ:OKAMOTO’Sのニューアルバム『Flowers』と発売日が同じなんですよ。……お店で一緒に並べてほしいなあ。
K-POPにおけるアイドルソングとダンスミュージックの違い
ケイタ:今回は2022年最後の回だから、チング会で取り上げなかったK-POPの話題曲をみんなで聴いてみようと思ってます。まずはStray Kidsの「MANIAC」。EP『Oddinary』がアメリカのBillboard 200で初登場1位になったのまじすげえ。
Stray Kids「MANIAC」
レイジ:これメンバーが曲作ってるんだよ。
ヨージ:え、すごっ。
レイジ:歌って踊れる天才プロデューサーがメンバーにいるって普通に考えてヤバいよね。さっきアイドルソングとダンスミュージックの話をしたじゃないですか。それで言うと「MANIAC」はアイドルソングです。DJ的な感覚でこの曲を聴くとバスドラを抜きすぎなんですよね。でもアイドルソング的にはそこが歌い手たちの見せ場なんです。かっこよくキメるパート。
ヨージ:この曲、DJ SnakeがDillon Francisと一緒にやった「Get Low」に似てるな。中東っぽい音ネタの使い方とか。
レイジ:あー、わかる。DJ Snakeっぽいね。てかK-POPのプロデューサーはみんなDJ Snake大好きだと思うわ(笑)。メンバーがプロデューサーも兼ねてる場合、そのグループは作り手の好みがそのまま出がち。あの人たちのライフスタイルって制作、練習、仕事じゃないですか。だから現場のトレンド感みたいのはさすがにキャッチできないと思うんですよ。遊びに行く時間ないだろうから。
ケイタ:やっぱ2人に解説してもらうと面白いなあ。実はこれまでチング会でスキズとかを取り上げなかったのは、俺自身がそこまでスキズに詳しくないから、ファンの人からしたらそんなのにスキズをあれこれ言われたくないだろうという俺なりの礼儀があったんだよね。推してる方たちに対して失礼というか。でもそれだと連載的に偏りが大きいし、2人はダンスミュージックの現場のトレンドも知ってるから、その視点からK-POPを話してもらうのならありだなと思ったの。それで今回は2022年のおさらい会にすることにしました。
ヨージ:あー、なるほどね。
レイジ:真面目か(笑)。そもそもヨージはこんだけ連載やってもいまだにアイドルに興味ないし、そのくらいの温度感がちょうどいいんじゃないですか?
ケイタ:なので解説回はこれから定期的にやっていこうと思ってます。で、次はBLACKPINKの「Pink Venom」。
レイジ:あれ? ケイタさん、これとイリチルの「2 Baddies」のカムバが被って悔しがってませんでした?
ケイタ:悔しがってたし、いまだに悔しい。でも同時にBLACKPINKのかっこよさはもはや認めざるをえない……。だからもう比べないことにした。それに今後ルセラやNew Jeansとイリチルのカムバがかぶる可能性だってあるし。その度にメンタルぐちゃちゃになるのは疲れる(笑)。
ヨージ:でもチャートは勝ち負けがはっきり出ちゃうじゃないですか?
ケイタ:そこはしょうがないよね。世の中はともかく、俺が好きならそれで良しと思うことにした。こういうのがあるから推しは増やしたくないんだよ。
レイジ:ちなみにこの曲のサンプリング元に関しては俺とヨージが出た「Red Bull RAP 賢者」で問題として出題されたんですよ。面白いんでぜひチェックしてください。
オカモトレイジ(OKAMOTO’S) & 極onThebeats vs Yohji Igarashi & HIYADAM|Red Bull RAP 賢者
ケイタ:BLACKPINKがデビューした時ってどんな感じだったの? 当時は全然フラットな目線で見てなかったから……。
レイジ:あー(笑)。世の中的なインパクトは今年のNewJeansに近かったんじゃないですかね?「やべーの出てきた」みたいな。もちろんテイストは全然違いますけど。リード曲もEPの曲も全部かっこいい、みたいな。なんかさ、Teddyってあんまパクってるイメージなくない?
ヨージ:わかるかも。
レイジ:「휘파람 (WHISTLE)」でやってるJuelz Santanaネタもパクってるというより、TeddyのルーツにJuelz Santanaがあるのが感じられるじゃん。Teddyはワールドクラスのトッププロデューサーと普通に肩を並べてるよね。彼の特徴は「Aメロ→Bメロ→サビ」が2セットあった後、最後に大騒ぎパートがあることなんですよ。
ケイタ:大騒ぎ(笑)。
レイジ:BIGBANGもiKONもTEDDYがやった曲は全部この形。その中でかなりいろいろなことをやってて。そこもすごく面白い。TEDDY印って感じ。そういえばYGの流れでいうと、TREASUREの「HELLO」って曲がめっちゃ良かったですね。ザ・K-POPでザ・アイドルソング! 大好きですね。
ケイタ:なんかレイジくんのツイートがバズってたよね。
レイジ:この曲はかなり胸熱ですからね。個人的には昔のiKONを思い出しました。そしたらなんかだんだんハンビン(B.I)とバビ(BOBBY)が一緒に歌ってるように思えてきちゃって。感情がぐちゃぐちゃになりながらこの曲の好き度はさらに増すっていう。
TREASURE「HELLO」
あえてもう一度「Feel My Rhythm」を聴いて欲しい
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