吉野耕平監督「中村倫也さんはベジータみたいな存在」『ハケンアニメ!』インタビュー

 

                      

直木賞作家・辻村深月の小説を実写映画化した『ハケンアニメ!』が、5月20日より全国ロードショー。本作は、土曜の夕方枠で放送されるオリジナルアニメ作品2本の作り手たちを軸に、アニメ業界で働く人々の奮闘を描く“ものづくりエンターテインメント”だ。 

 

TV Bros.WEBでは、本作の公開を記念して3日連続インタビューを公開。中村倫也高野麻里佳に続く第3弾は、吉野耕平監督が登場。『君の名は。』のCGクリエイターであり、中村倫也が7役に扮した『水曜日が消えた』で長編監督デビューを飾った吉野監督。中村との絆、吉岡里帆や高野との共闘、作家性に影響を与えた先輩監督……。進化し続ける敏腕クリエイターのこれまでとこれからに迫る。 

取材・文/SYO
撮影/倉持アユミ

映画『ハケンアニメ!』公開記念 4日連続特集
 
DAY 1. 中村倫也 インタビュー
DAY 2. 高野麻里佳 インタビュー
DAY 3. 吉野耕平監督 インタビュー
DAY 4. 映画ライター・SYO コラム「中村倫也の沼落ちライターが2020年の『水曜日が消えた』から2022年の『ハケンアニメ!』までを語る」

 【Profile】

吉野耕平(よしの・こうへい)
1979年生まれ。00年『夜の話』でPFF審査員特別賞。11年『日曜大工のすすめ』が、第16回釜山国際映画祭・ショートフィルムスペシャルメンション受賞。CMやPVも手がけており、flumpool「解放区」、関ジャニ∞「涙の答え」、AOKI「AOKIのフレッシャーズ(CM)」などを制作。さらに、映画『君の名は。』(16/新海誠監督)ではCGクリエイターとして参加。次の時代を担う気鋭の映像クリエイター100人を選出するプロジェクト「映像作家100人2019」に選出されるなど、今注目の映像作家。

 

――前監督作『水曜日が消えた』から、バジェットが拡大。ご自身の中で大きな挑戦だったことは何でしょう? 

吉野耕平(以下、吉野):登場人物がすごく多くて、かつ入り組んでおりそれぞれが持っているドラマも多いため、どうやってバラバラにせずにひとつの筋が通った物語にしていくかは不安がありつつも頑張ったところです。 

――これまではご自身が脚本も書かれることが多かったかと思いますが、今回はドラマを中心に活躍されてきた政池洋佑さんが脚本ですね。 

吉野:はい。僕が初めて原作を読んだときに思っていた構成とはまた違っていて、斎藤瞳監督(演:吉岡里帆)を中心にしたもので、瞳監督と王子千晴監督(演:中村倫也)の対談シーンもあって。瞳監督の『サウンドバック 奏の石』と王子監督の『運命戦線リデルライト』の2作品・2チームの戦いにもっとフォーカスしていて、こういうやり方も面白いなと感じました。 

――『ハケンアニメ!』の劇中では、瞳監督がスタッフごとに最適な指示を出すために苦労するシーンがあります。パッションなのか数字なのか、どんな表現がいいのか。吉野監督ご自身の実体験も入っているのでしょうか? 

吉野:僕自身もそうですし、瞳のモデルになった松本理恵監督(『映画 ハートキャッチプリキュア! 花の都でファッションショー…ですか!?』ほか)に取材させていただいて「監督としての成長はどの辺でしょう?」とお聞きしたときにも、「時にエモーショナルに、時に理詰めで人によって伝え方を変える」というお話が出ました。それはぜひ入れたいなと思って、自分の経験と照らし合わせて膨らませていきましたね。 

©️2022 映画「ハケンアニメ!」製作委員会

――チームでの作品作りですと、コミュニケーションを円滑に進めつつイマジネーションを引き出さなくてはいけません。吉野監督はどのような点を心掛けていらっしゃるのでしょう。 

吉野:昔の僕は「こうしてほしい」という結果だけを伝えがちでした。でも「これはもうちょっと上・下」とか「明るい・暗い」ではなくて、根元にある「もう少し悲しく見せたいから」だったり、自分が何のためにそうしたいのかを伝えた方が受ける側もやりやすいと気づいたんです。 

――それは「ゴール」を提示することでもありますよね。そこが共有されていれば、方法論もまた変わってくる。「ゴールが見えている」は、中村倫也さんにお話を伺った際、吉野監督の特長として挙げていたことの一つでもあります。 

吉野:本当ですか。嬉しい(笑)。 

――あと「ト書きがものすごく細かいとも(笑) 

吉野:(笑)。 

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――そのお話を聞いて思ったのは、吉野監督の脳内では絵コンテを描く時点でゴールやビジョンが完璧に浮かんでいるのかな、ということです。 

吉野:そうですね。アニメーションは監督が完璧に画作りを決めてそこに向かうことが多いので、実写でもそういう考え方をする癖が付いています。ただ一方で、実写の場合は脳内のイメージ通りには絶対にならないし、それを超えた方が面白くなることが多い。そのバランスは気をつけなきゃと考えていますね。 

『水曜日が消えた』では「この画が欲しい」に固執しすぎたという反省があり、『ハケンアニメ!』では「この位置からこう撮りたい」は前日くらいに絵コンテを描きはするのですが、その中にいる人物がどういうお芝居をするかはある種の“揺らぎ”をもたらせられるよう、ちょっと膝を浮かせた感じでやろうと思っていました。 

――アニメーションは画面内をすべて作り上げるぶん、不確定要素が入り込みませんが、実写はそうはいかないですもんね。 

吉野:はい。そういった中で、実写でもこだわっているのは人の立ち位置。やっぱり立ち位置で関係性が見えてくるものなので、アニメーションではがっつり指定しますし、実写でも念頭に入れるようにしています。とはいえ、「このサイズに収まっていれば演技はお任せします」くらいに留めていますね。コンテはあくまで照明や撮影のスタッフ用のもので、役者さんには自然な演技をしてもらえたらと思います。 

――『水曜日が消えた』と本作で共闘した中村さんが「吉野さんは紙を降らせるのが好き」と話していましたが、吉野監督ご自身が「自分はこういう演出やモチーフが好き」というものはありますか? 

吉野:『水曜日が消えた』と『ハケンアニメ!』は冒頭シーンが曲の使い方含めてほぼ同じですしね(笑)。紙を降らせるのも、中村倫也さんのおっしゃる通りです(笑)。 

僕は自然物が動いているのが好きなんです。CGをやっていると、余計にそう感じるのですが、風で木々やカーテンが揺らいでいたり、光が反射していたりする光景がすごく素敵に見えるので、ついつい採り入れたくなってしまうんですよね。 

――吉野監督が影響を受けてきたクリエイターには、どんな方がいらっしゃるのでしょうか。 

吉野:宮崎駿さんとスティーヴン・スピルバーグ監督が原体験で、そこから黒沢清さんに傾倒し、中高大学生くらいでクエンティン・タランティーノ監督やクリストファー・ノーラン監督の作品を観てきました。庵野秀明さんや押井守さんの作品は言わずもがなで、中高生で触れたものがやはり大きいなと感じます。中学くらいに、実家がWOWOWに入ったんですよ。それで各国のさまざまな作品を観られるようになり、世界が一気に広がりました。 

――いま挙げていただいた方々だと、黒沢監督がちょっと異質ですね。それこそ、風でカーテンが揺れる演出や自然物の使い方の上手さは、黒沢さんの特長の一つです。 

吉野:黒沢さんの世界って、脚本に乗らない映画ならではの“何か”が映し出されているんですよね。あとレイアウトのセンスがすごい。「どうやってるんだろう?」っていつも思います。大学生の時などに黒沢さんの本やインタビューを色々漁って読んでいましたね。広い映画の歴史から凝縮されたものを、黒沢さんの作品越しにいいとこ取りで学ばせていただいている気がします。 

――昔から映画鑑賞の際、画作りの部分に注目されていたのですね。 

吉野:そうですね。ただ実際実写を撮るようになると、現場での芝居やエモーションがやっぱり大事なんだなと感じたので、また変わっていくかもしれません。 

――吉野監督は様々な映像表現の手段をお持ちですが、当時から映像の道に進もうという想いがあったのでしょうか。 

吉野:ありました。ただ僕が大阪の田舎育ちで、周りに映像の世界に行く人がいなくてどうしたらいいかわからなくて。大学生のときにAdobeのPremiereやAfter Effectsが素人でも手が出せるようになって、見よう見まねで作っていました。大学では「一番ビジュアル的」という理由で生物学を専攻し、その中で何とか映像の世界に足を踏み入れられないかと感じつつ……回り回って今に至ります。だから、幅が広いというよりまっすぐ来れなかったという感じです(笑)。 

ただ、映像は死ぬまでやりたいなと思っています。今後、20年とか経ったら今よりもっと作りやすくなっているだろうし、何とか死ぬまで映像を作れるような世界に引っかかっていたいですね。 

――劇場長編映画だと『水曜日が消えた』『ハケンアニメ!』と中村倫也さんと連続タッグ。今回新たに見えてきた中村さんの魅力はありますか 

吉野:『水曜日が消えた』は僕も初めての長編で、正面でぶつかり合うというかちょっと“対決”的な部分もあったと思うんです。でも今回はすごく力強い味方というか、『ドラゴンボール』のベジータみたいな存在でした。「味方になってくれるとなんて心強いんだ……。すげぇカッコいい」と思いながら撮影させていただきました。 

©️2022 映画「ハケンアニメ!」製作委員会

――今回の連載では、高野麻里佳さんにもお話を伺っております。吉野監督は高野さんとご一緒されてみて、いかがでしたか? 

吉野:声優という職業に対してすごく真面目な方で、こちらが言うことにすごく真剣に答えて下さるんです。声だけですべてを表現する声優の仕事から、声をちょっと抑えてでも体全体で表現していく実写の仕事のグラデーションはかなりやりづらかったかと思うのですが、さすが第一線で活躍されているだけあってこちらが1回「こうしたい」とお伝えしたらすぐ汲み取ってくださって。その速さが流石だなと感じました。 

アイドル声優的な役柄で、本人に悪気がなくても瞳からは若干いけすかなく見えているという見せ方をしなくちゃいけなかったんです。その微妙な塩梅をどう作っていくか悩んでいたのですが、高野さんのほうから「ここはこう思いますが」と提案してくれたので、すごく助けられました。 

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――高野さんとは、声優さんの服装についても意見を聞いたそうですね。 

吉野:ちょっと興味本位の部分もありましたが、面白いお話しでした。(収録中は)音が鳴るものは使えないけど役になりきるためにあえて飾りの多めの服を着ることもあって、例えばハイヒールを音が鳴らないように履いたりするそうなんです。高野さん演じる葵が登場するのは大半が録音ブース内のシーンで、いわゆるアイドル声優であることを表現するのに、佇まいや服装で表現する必要がある。とはいえ音が出る服を着るとリアリティが損なわれるから、どの辺まで行くとやり過ぎなのかをお伺いしました。 

そして行き着いたのが、『機動戦士Ζガンダム』のキュベレイのイメージ。髪にちょっと赤色を入れたり、肩がふわっとした服装にしたり、やりすぎない程度に「何かやりそうだぞ」と感じられるところを目指しました。 

――王子監督も人前に出る際と引きこもって作業をする際では服装にギャップがありますね。 

吉野:そうですね。シンプルな服が多かったので、なりふり構わずやっているときは服でも遊びを入れていいんじゃないかと思っていました。天才の服のセンスがわからなかったので、「こっちかと思いきやこんなのも着るよ」的ないい意味での雑多さを出せるようにはしましたね。衣装合わせのときに中村さんも「こっちなんだ」と意外そうに言っていた記憶があります(笑)。 

衣装全体でいうと、今回は登場人物が多いぶんある程度過剰にしていかないと見分けがつかない不安もあったので、ファインガーデンの人たちは南国っぽかったり、『サウンドバック』チームはバラバラだけど『リデルライト』チームはシュッとしているなど、スタジオの色も出せるようには工夫しました。 

――ファインガーデンのスタッフには『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』の地底人Tシャツを着ている方もいました。 

吉野:あそこは治外法権なのでみんな好きなものを着ています(笑)。とにかく大勢の人を登場させて、ちゃんと成立させるのが今回の挑戦。衣装面でも、試行錯誤の連続でした。 

――その中心にいるのが、瞳監督です。自分自身がアニメーションに救われたからこそ想いが強すぎて時に孤立してしまうという難しいバランスのキャラクターですよね。 

吉野:吉岡里帆さんと事前に話していたときに「ひたむきさですね」と言ってくださって、それで伝わったと感じました。それがちゃんと伝われば過剰なギャグもいらないし、瞳が目の前のことにテンパっている状態をしっかり見せればいい。幸いにして僕が初長編を撮った後だったので、「この時は周りが見えていません」とか「こんなことを考えています」など、テンパり具合のレクチャーには自信を持って臨めました(笑)。 

――瞳監督のセリフに「誰かの胸に刺さる」がありますが、吉野監督ご自身は「刺さる」作品の共通点をどう捉えていますか? 

吉野:作り手のある種の過剰さというか、思い入れが覗いたときに「真実を見た」という感じがします。面白い作品はいっぱいあるのですが、そういった部分が見えたときにグッとくるんですよね。 

これからますます「誰でも映像が作れる時代」になっていく中で、「刺さる」ものは作り手個人の個性だと思うんです。だから、どこにも落ち度がない綺麗な作品よりも、「なんかちょっと変な間(ま)があるな」とか「気持ち悪いギリギリを攻めているな」といったもののほうが、いち観客としては観たくなります。ちょっと臭みのあるラーメンのほうが癖になる、みたいな感じですね(笑)。 

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映画情報

ハケンアニメ!

2022年5月20日(金)全国ロードショー
■出演:吉岡里帆 中村倫也 工藤阿須加 小野花梨 高野麻里佳 六角精児 柄本 佑 尾野真千子
■原作:辻村深月「ハケンアニメ!」(マガジンハウス刊)
■監督:吉野耕平
■脚本:政池洋佑
■音楽:池頼広
■主題歌:ジェニーハイ 「エクレール」(unBORDE/WARNER MUSIC JAPAN)
■制作プロダクション:東映東京撮影所
■配給:東映
■公式サイト:haken-anime.jp
■公式SNS:@hakenanime2022
©️2022 映画「ハケンアニメ!」製作委員会


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