ラムネ瓶のビー玉みたいなのがマニキュアの瓶の中にも入ってること、しっていますか? 銀色の重りみたいな小さい玉が入っていて。特にラメとかハートのパーツとかが入ってるものには必然的に入っているんです。満遍なく中身が取り出せるような工夫だと思うんですけど、それがすごくすきで。私の中からも、ペッて唾を吐いたらふと銀色の玉がでてきて、それが私の一つの人格だったりして、その一つが外に出ていくたびに私の要素がひとつ逸れてしまったら愉しいなぁなんて。多分、「核」みたいなイメージがあるからアレが好きなんだと思うんですよ。冒頭のラムネ瓶のビー玉よりも好きですもん。アニメなんかでもよく、化け物みたいな敵を倒したときに、体が溶けてしまって、中のソウル的な何かだけが残ったりするじゃないですか。あの感じ。命のイメージ。
あらゆる画家がだんだん手数が少なくなって、晩年だんだん大きいものを描き始めて、一筆の丸や線で描き切れるようになるけれど、それもその、虚無というひとつの丸に堕ちてゆくイメージと共通していて、それは「完成する」「正解する」というニュアンスにも酷似しているから、人生を完成させることが死なのだろうか。それでも私はたくさんの手数で、情報で、通り過ぎるものを全て受け流さずに受け止めてはねつけながらものをつくって、満ち満ちとした捉えきれない言葉の海の中で人生をまだまだ完成させないまま息絶えるようなところまでやり尽くせないかなと目論んでいるのです。
嫉妬することがあるとすれば、ロマンチックに生きていることを、キザに隠してしまう素性について、それを零れ出るものだけ感じてもらいたいななんて、セクシーぶりたい欲が邪魔をして、明け透けとロマンチックを暴力的に晒している人間に対して、もしかしたら「ずるいなあ」とか少しばかり思ってしまうかもしれないけれど、でももう、あんまり、そんな相手はいなくなってしまいました。
「やってる風をやってる」がわかることはとても苦しくて、同じステージでやってる風と同等にやりあわなきゃいけないことにとてもげんなりしながら、それでもやってやるしかない毎日を、どれだけの人にまだ届くかな、少し諦めていた、続ければ続けるほど、すごく諦めた、諦めたからこそもう、手段を選んでなんかいられないんだ。
誰も届かない場所にいつもいて、特に理解されなくて、こちらからはなぜわからないのかもわからなくて、それでも伝える価値のあるものを、そうだねもはや身を削っているとすら思われないんだろうな。
尊敬している人が今まで作ってきた1800曲、それをアーカイブしようとしているっていう話をきいた、それは完成じみているけれど、もっとやってほしい、もうないのかな。
ライブや風邪で声が枯れてしまったときいつも思う、アリエルについて。あんなにたくさんのものをもっていて、歌声くらいくれよっていつも、いつも思ってしまうのでした。やなやつ!
どうしてもやなやつのときの自分を嫌いになれなくて、君に嫌われてしまった私を、何かを隠すべき私を、そこが好きなんだけどなって自分で自分を抱きしめることが、人に優しくなれる一手なのだろうな。
だろうな。今どのような言葉が年老いた言葉、若い言葉、古い言葉、流れた言葉、これから流れる言葉なのか、全くわからないままその全てを混合させて、インディーズのときの、いなたい弾き語りガールな私だけ私って思ってるシンガーソングライターおじさんたちは、コロナ禍で全員政治の話しかしなくなったの知ってる? みんな。
たのしいね、楽しい権利とか、グダグダする権利とか、こんな時代でも、あるのよ。
書籍『超歌手大森靖子の超一方的完全勝利』4月15日(金)発売🌸
なかったことにされたくない、何も。
超歌手・大森靖子が、自身の音楽制作について、普段の生活について、ざっくばらんに綴るTV Bros.連載「超一方的完全勝利」が待望の書籍化。真理や本質に向き合うシリアスな言葉たちと、ほのぼのとした出産~育児日誌が同居する、およそ7年間の過程/家庭の記録。
※全国の書店、またはコチラほかネット書店にてご予約いただけます。
【発刊記念サイン会 開催決定🌸】
⽇程:4⽉24⽇(⽇)16:00〜
会場:SHIBUYA TSUTAYA 特設イベントスペース
その他詳細はコチラ(SHIBUYA TSUTAYAサイト)をご確認ください。
おおもり・せいこ●’87年生まれ、愛媛県出身。超歌手。美大在学中に音楽活動を開始し、弾き語りライブが口コミで話題となる。’14年、エイベックスよりメジャー・デビュー。’15年10月に出産を経て、同年末より活動再開(その間も本連載の休載はナシ)。’18年に結成されたグループ「ZOC」では、メンバーと共にステージに上がりながらプロデュースするなど、自身の音楽活動は元より、執筆や楽曲提供、プロデュースと活動は多岐にわたるが、全プロダクトにおいて精力的な活動を展開中。
大森靖子公式サイト(https://oomoriseiko.info/)
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