オカモトレイジ(OKAMOTO’S)、トラックメイカー・Yohji Igarashi、音楽ライター・宮崎敬太のチング(友達)同士による、K-POPをサウンド面から深掘りしていく連載がTV Bros.WEBでスタートします。Kカルチャーに造詣の深い2人がサウンドの面からK-POPを分析しつつ、トラックメイカーYohji Igarashiと共に元ネタを探りながら理解を深めていこうという企画。韓国の音楽を起点に、日本、アメリカ、ヨーロッパとその矢印はどんどん交わり、新たな気づきをきっと得られる。そんなチング会(仮)のキックオフ回です!
取材&文/宮崎敬太 撮影/佐野円香
目次
●2016〜2017年のK-POPはなぜヤバいのか?
※当対談は2021年12月頭に収録しました。発売中のTV Bros.2月号に掲載している企画の増補版です。宮崎敬太(以下K):レイジくんが田中絵里菜さん(「K-POPはなぜ世界を熱くするのか」著者)と対談していたとき、BLACKPINK「Whistle」の元ネタ(Juelz Santana「There It Go (The Whistle Song)」)の話をしてたじゃない? K-POPってビビンパみたくなんでもぶち込んでかき混ぜて韓国味にしちゃうカルチャーだから、意地悪に捉えると節操ないパクりだけど、クリエイターたちはこの曲にJuelz Santanaのバイブスを取り込みたかったって目線になると話は変わってくるじゃない? そういう感じでいろいろ話していきたいなと思って。
オカモトレイジ(以下R):最近Lil DarkieというUSのラッパーの「RAP MUSIC」を聴いて「K-POPが次にやりそー」と思っちゃったんですよ。
K:(「RAP MUSIC」試聴中)。ロカビリーっぽいヒップホップだね。トラディショナルな白人文化との融合で言うと、カントリーを取り入れたLil Nas X「Old Town Road」は衝撃的だったな。中年はBECK「Loser」を思い出したはず(笑)。時代背景が全然違うからまったく意味合いが違うけど。ただ「Loser」のゆるいミクスチャー感はめちゃくちゃ衝撃的だった。ローファイって言葉もBECK以降に広まった印象ある。俺ら世代のニューウェーブというか。「これでいいの!?」みたいな。
R:ちなみに「RAP MUSIC」は厳密に言うとロカビリーではなく、ネオロカの要素を取り入れたヒップホップなんです。
K:俺、ロカビリーもネオロカも全然知らない。Brian Setzerとか?
R:Brian Setzerもネオロカなんですよ(笑)。複雑なんですけどロカビリーはElvis Presleyを頂点にした50年代の音楽で、ネオロカは80年代のリバイバル版。
K:音楽的にはどう違うの?
R:ロカビリーの特徴は単音弾き。だから超難しい。パンクみたいにコード弾きだったら下手でも誤魔化せるんですけど、ロカビリーはそれができない。俺的には極める音楽だと思ってます。故に人口が少ない。でもネオロカはパンク後のニューウェーブの流れで出てきてるからもっと柔軟なんですね。俺が思い出したのはThe Rockatsですね。このビジュアルで「RAP MUSIC」みたいなスリーコードで進んでいくヒップホップをNCT127がやったら絶対にハマると思う(笑)。
K:(The Rockats「Make That Move」試聴中)このビジュアルでNCT127があの音やったら絶対にカッコいいでしょ(笑)。てか今調べたらThe RockatsはMalcolm McLarenとVivienne Westwoodがやってた洋服屋さんの客が結成したバンドなんだって。The Sex Pistolsに近い出自だね。
R:マジすか、知らなかった。
K:Malcolm McLarenがどういう人か、ニューウェーブとはどんなムーブメントだったかは、前に藤原ヒロシさんにインタビューした記事(https://book.asahi.com/article/12203057)を読んでもらうと、ニュアンスがわかると思います。
●BPM105〜110くらいのハウスにサイケトランスっぽいベースを乗せるスタイルが次キそう?
R:ケイタさんとはこういう話をDMでちょいちょいしてるんですよ。それこそNCT127「STICKER」のイントロで鳴る尺八みたいな音が、2014年に出したMura Masaの「Lotus Eater」にインスパイアされてるかもってヨージに教えてもらったときとか。ヨージ的に、K-POPに限らず「次これキそう」みたいのある?
Yohji Igarashi (以下Y):BPM105〜110くらいのハウスに、サイケトランスっぽいベースを乗せるスタイルかな。DJ SnakeとRick Ross、Rich Brianの「Run It」とか。ハウス的には遅いビートに、本来BPM145くらいのサイケトランスのベースを無理やり合わせてく感じ。クラブミュージックのメインストリームではEDMの熱が落ち着いてから主軸がない感じなんですよ。いろんなのが出てきては消えを繰り返しすみたいな。そんな中で、これは久々にフレッシュだと思った。もしかしたら自分が知らないだけで、すでにどこかでは確立されたスタイルなのかもしれないけど。
K:(試聴中)これは……。
R:NCTにもろハマるじゃん(笑)。俺的にはDJ SODA X LOST CHAMELEON「OKAY! feat. AHIN of MOMOLAND」のサビの入りのドロップが斬新だと思った。普通、サビの頭ってガツンといくけど、この曲はシンセをフィルターで沈めてブチ上がりを溜めるんですよ。ヨージ、なんか元ネタっぽいの聞いたことある?
Y:確かに不思議な感じだね。EDMっぽい溜め感だけど、シンセの軽さはナイトコアとかフューチャーベースとかの雰囲気がある。ナイトコアはインターネット界隈のアニソンのリミックスから派生したようなジャンルで、フューチャーベースはゴージャスなシンセがめっちゃカットアップされてる感じ。ハウスの流れじゃなく。
R:それだとYUC’e「Night Club Junkie」が好きだった。
Y:当時すごい騒いでたもんね。「Night Club Junkie」はスネアのちょっと変な金物系の音色が今のハイパーポップに通じるね。
K:ハイパーポップっていまいちわからないんですよ。
R:インターネット系のアングラな感じをCHARLI XCXとかがポップスにしていった感じですね。俺はSOPHIEの存在がデカいと思う。
Y:初期で有名なのだと「BIPP」とかですかね。この曲は「Numbers.」ってレベールから出てるんですけど、その後、A.G.Cookというプロデューサーたちのレーベル「PC Music」に入るんですね。そこから周辺の人たちもどんどん新しい音を作り始めて、徐々に「ハイパーポップ」って呼ばれるようになっていったんです。ちなみにA.G.Cookは宇多田ヒカルの新曲「君に夢中」にもクレジットされてた。
K:おお、宇多田先生の新曲はめちゃくちゃヤバかったす。(「BIPP」試聴中)これが2013年なんだ……。完全に今の音じゃん。てかaespaっぽい。
R:そうなんすよ。俺がSOPHIEを知ったのは2015年に出た安室奈美恵の「B Who I Want 2 B feat. HATSUNE MIKU」。偶然スペシャで見て「ヤベーな」と思ったんです。前半はベースのアタックと歌だけ。こんなの当時は全然聞いたことなかった。
そこから調べていったらSOPHIEにたどり着きました。今ハイパーポップがキテるけど、安室ちゃんはめっちゃ早い段階で曲作ってて。さすが(BLACK PINKの)JENNIEのロールモデルになってるだけのことはある(笑)。
Y:トラックメイカー目線で言うと、SOPHIEは曲の展開云々以前に音が意味不明すぎて。何にどういうエフェクトをかけるとこうなるかがわかんなかった。今はこういう音が入ったサンプルパックが売られてるけど当時はそんなものないし。
R:SOPHIEは2015年にMadonna「Bitch I’m Madonna feat. Nicki Minaj」をプロデュースしてて、たぶん安室ちゃんはそこで知ったと思う。で、このMadonnaのバイブスを大胆に取り入れたのがこれ。
K:EXIDの「L.I.E」だ。懐かしい。……あれ? 1番のサビの後。もろMadonnaだ(笑)。
R:そうなんですよ。俺がよく2016〜17年のK-POPがヤバいと言ってるのはこういうことで。安室ちゃんがSOPHIEと曲やってた頃、EXIDは「ウィ・アレ」だったのに、次の年にいきなり世界の最先端の音を取り入れちゃうんです。でも、この時期特有の取り込みきれてない感じがめちゃ愛しい。
K:フッ軽だなあ。
R:aespaの「Savage」は相当良い線いってるよね。ハイパーポップやれてると思う。
K:EXIDの頃はとりあえず形だけ真似したみた、みたいな?
R:ですです。たぶんどうやっていいかわからなかったんだと思う。いろいろ模索した結果、あのスタイルにたどり着いたんじゃないかな。今の音楽ってめちゃくちゃ複雑なんですよ。昔は使用機材とBPMである程度のジャンル分けができたけど、今はあらゆるジャンルにサブジャンルがあって、それらが互いに影響を受けあって新しい音が生まれてる。だから複雑で形容しがたくて、どうやって伝えていいかもわかんない。そこに無理やり名前をつけてる状況だから。
Y:それで言うと2011年に出たRustieの『Glass Swords』ってアルバムが重要だと思う。特に「Surph」って曲。このアルバムはハイパーポップでも、フューチャーベースでもないけど、それらの要素が全部入ってるんだよね。おそらくSOPHIEも、A.G.CookもSkrillexとかもみんなこれに影響を受けてる。ビッグルーム系のアゲアゲEDMが全盛だった10年前に、カウンターの種がWARPから蒔かれてたって思うと意義深い。
R:(「Surph」試聴中)これは来てほしいとこに来ないねえ(笑)。
Y:マッチョな音がこないんだよね。だからずっと変なノリ。
K:僕は超好きだなー、この感じ。
R:思うにSOPHIEがすごいのはめっちゃ変なのにめっちゃポップなこと。これ(「MSMSMSM」)とかさ。
Y:気持ち悪い音と気持ちいい音の塩梅が絶妙なんだよね。
R:そうそう。このスネアの感じなんかまんまaespaじゃん。てかこの曲、DJで「Savege」とつながるな。
●K-POP楽曲の王道フォーマットの源流はMajor Lazer「Original Don (Flosstradamus Remix)」?!
Y:僕から聞きたいんだけど、K-POPのAメロ、Bメロ、Bメロ後半ビルドアップ、ドロップ(サビ)みたいなフォーマットっていつから確立されたの?
R:00年代とかですよね?
K:うん。RAIN「It’s Raining」、SE7EN「PASSION」、東方神起「MIROTIC」が代表曲じゃないかな。でも似たような曲は超いっぱいある。さっきレイジくんが言ってた2016〜17年までのK-POPはあまりバリエーションがない印象。ヒット曲が出るとその劣化コピーが大量生産される。10年代初期はBIGBANG「FANTASTIC BABY」みたい曲ばっかだったし、EXO「Growl」がヒットしたあとの新人はみんな制服着てた(笑)。
R:事務所の色はあっても、基本あの形にぶち込んじゃうんですよね。でも個人的にはBIGBANG「BANG BANG BANG」のサビでガクッと落とす展開はかなりインパクトありましたね。ヨージ、これの元ネタわかる?
Y:この話は複雑だからかなり長くなりますよ……。
R&K:聞きたい!
Y:これは僕の推測的な部分も多いんですけど、2010〜2011年くらいからビッグルーム系のEDMがアメリカで本格的に流行ったんです。背景には「EDC」というフェスが2010年に会場をラスベガスに移動して、2011年に規模をより大きくでかくしたのが関係してると思うんですけど。
K:日本で言うところの「Ultra Japan」みたいな雰囲気のフェス?
Y:ですです。規模は何倍もデッカいですけど。と同時にアンダーグラウンドではクランクっていうサウスヒップホップのサブジャンルにEDMを混ぜた、今でいう”EDMトラップ”っていうのが流行りだしてて。
R:Dipset(The Diplomats)のやつ?
Y:あー、それもそう。Dipset周り のトラックメイカーたちがトランスやEDMをサンプリングしてトラックを作った「Dipset Trance Party」(https://www.datpiff.com/Your-boy-SK-Dipset-Trance-Party-mixtape.177770.html)というフリーのミックステープのシリーズ。Vol.1は2010年に出てるんですけど日本では僕のあいる限り全然話題にならなかったし、今もってあまり再生されてない(笑)。
R:だって俺、その単語(「Dipset Trance Party」)をヨージ以外から聞いたことがないもん(笑)。
Y:でも僕 はこれがEDMトラップの源流のひとつだと思ってるんだよね。特にAraab Muzikがでかい。あの人はMPCで曲を作るんですよ。YouTubeにもライブしている映像(https://www.youtube.com/watch?v=eglnhqUw_JU)もあるんですけど。
K:(視聴中)EDMの相当アヴァンギャルなヒップホップ解釈というか。
Y:そんなEDMトラップが一般的に認知されたのは2012年に出たBaauer「Harlem Shake」(https://www.youtube.com/watch?v=qV0LHCHf-pE)なんです。Diploのレーベル・MAD DECENTから出てめちゃくちゃバズりました。ドロップで落とすみたいな、こういうノリはすでにMajor Lazer「Pon De Floor」とかにもあったんですけどね。
R:レドベルの「빨간 맛 (Red Flavor)」の元ネタとしておなじみの(笑)。
K:「Pon De Floor」はリアルタイムで聴いてたけど、そこはレイジくんに言われるまで気づかなかった……。てか、さっきのAraab Muzikのライブ映像のクレジットをよく見たらMAD DECENTのパーティじゃないですか。
Y:そう。で、ようやく「BANG BANG BANG」のネタにたどり着くんですけど、このフォーマットを確立させたのはおそらく2012年に出たMajor Lazer「Original Don (Flosstradamus Remix)」(https://soundcloud.com/flosstradamus/major-lazer-original-don?utm_source=clipboard&utm_medium=text&utm_campaign=social_sharing)だと思う。
R:(Major Lazer「Original Don (Flosstradamus Remix)」試聴中)おー、一緒じゃん。
Y:このリミックスはサンクラにしかないけど界隈ではかなりバスりました。今聴いてもクソかっこいい。フックの前にビルドアップがあって落とす展開は、僕が知る限りこの曲からなんですよ。ビッグルームだとこのままドカーンと上がっていくのに。
R:驚きのノラせ方だよね(笑)。
Y:この曲の影響かわかんないけど、四つ打ちのEDMでもサビで落ちる曲が出てくるんですよね。
R:じゃあこの曲が落とす乗りの源流ってこと?
Y:断言はできないけどね。ただBaauerやFlosstradamusは初期EDMトラップの重要人物。あとBaauerは2016年にG-DragonとM.I.Aと「Temple feat M.I.A & G-Dragon」って曲をやってたよ。
K:「Dipset Trance Party」からの流れで聞いていくとかなり説得力ある。しかもDipsetと言えば、冒頭にも名前が出たJuelz Santanaもクルーだし。BLACKPINKもBIGBANGもYGだ。
R:まとめましたね(笑)。
K:こんな感じでこれからもやっていきましょ(笑)。
オカモトレイジ●1991年生まれ、東京都出身。ロックバンドOKAMOTO’Sのドラマー。2010年CDデビュー。幅広い音楽的素養を生かし、DJとしても活動中。ファッションモデルとしての活動やMVのプロデュースなど、クロスジャンルな活躍で現代のカルチャーシーンを牽引。2021年は、9月29日に9枚目のオリジナルアルバム「KNO WHERE」をリリースし、全国16か所18公演をまわるライブハウスツアーを開催するなど、その活動の勢いは止まることを知らない。
Yohji Igarashi●トラックメイカー、DJ、プロデューサー。主なプロデュース作にHIYADAMなど。DAOKO やAAAMYYY、ODD Foot Works、 Ryohuのライブサポートなどにも参加。
宮崎敬太●音楽ライター。オルタナティブなダンスミュージック、映画、マンガ、アニメ、ドラマ、動物が好き。ラッパーがお気に入りの本を紹介する「ラッパーたちの読書メソッド」も連載中
投稿者プロフィール
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