ライターになりたい! プロが教える、好きを仕事にするサバイバル術【01 〜吉田可奈〜後編】

いまや大人がなりたい職業1位となった“ライター”。とはいえ、ひと言でライターと言っても、資格はなく、名刺を持った人がその日からなれるこの職業が、どんなお仕事なのか、どうやってなるのか、生活はできるのかなど疑問に思う人も多いはず。少しでもライターという職業に興味を持った人が読み参考にするべく、ライターを生業としている人に志望動機から楽しみ方、苦悩などたっぷりインタビューしていく連載を開始!

フリーランスの仕事がない時のメンタルの保ち方や、コミュニケーションの取り方など、より深い部分に斬り込んでいきます!

文/吉田可奈  聞き手/編集部(加)

吉田さんがTV Bros.にて手がけた記事はこちら

前編はこちらから!

 

ギャランティはいくらで受けるのが妥当?

 

――フリーランスは、仕事のあるなしでメンタルがかなり変わってきますよね。吉田さんは仕事が思うように回ってこないときは、どうやってメンタルを保っていましたか?

最初のころは、仕事がないことに焦り、いろんなライターさんのクレジットを見ては悔しい想いをしたりもしていました。でも、それを同業の先輩ライターに話すと、「暇だから焦るんだよ」とバッサリ(笑)。それもその通りだと思い、悩む暇があるなら営業しようと思ったんです。営業の電話はたぶん、誰よりもしたんじゃないですかね。でも、私が相談した先輩ライターは一本も営業をしたことがないんですよ。営業命だった私からしたら、本当にすごいと思いました。その先輩は、一度仕事をしたことがある方から数珠つなぎのように繋がっていったことが多かったそうで、コミュニケーションは大事にしていると言ってました。

――ちなみに、ギャランティなどについてはどういう考えで動いていましたか?

お金の話はすごく大事ですよね。最初の10年間は、どんな金額でもすべて受けていました。ビックリするくらいの額でも…とはいえ文字単価1円以下はさすがにお受けしていなかったのですが。自分の中でラインを決めて最低限の金額をもらえないお仕事は、35歳くらいから思い切ってお断りするようになりました。

――断るのはすごく勇気がいりますよね?

とてもいりました。でも、そういった量をこなす系のお仕事は若手に譲るべきものでもあるし、まず自分の単価を上げていかないと、若い人に続いていかないと思ったんですよね。それに、そういった仕事をお断りしてスケジュールに隙間を作ったことで、適した金額の仕事をお引き受けできるようになったんです。捨てる神あれば拾う神ありと言うように、それまでちゃんと信頼関係を築いて誠実に仕事をしていれば、なんとかなるのも不思議で。本当によくできているんですよね。とはいえ、若い頃にたくさんやらせてもらった、量をこなす系のお仕事は、書く力や商業ライターとしての基礎を身につける上では本当に勉強になったと思います。

――ある種の筋トレというか、書いて、スケジュールを守って、納品するという一連の流れが身につくという意味では経験としてはすごく大事ですよね。一方で、ライターにとってはインプットの時間も必要です。

そうなんです。そこでさらなる知識や興味を持つことで、新しいジャンルの仕事が増えていくんです。なので、興味があること、好きなことなどをSNSで発信していくのはすごく大事だと思います。実際に、SNSを見て連絡をくれる編集さん、とても多いんですよ。ただ、そこでなんとなく見積もりを出してほしいと言われることもあって。そのときは安すぎず、高すぎない金額を提示するようにしています。ここで欲張ったギャランティを提示してしまうと、経験上、その先が続かないんです。それに、目先の金額も大事だけど、そこにとらわれて、ただ“安い金額だからやりません”というのは、チャンスを逃してしまう気がしていて。例えばその人が別の編集部や会社へ異動したときに、そこでお仕事をもらえることも多々あるんですよね。

――そこはお互い上手くコミュニケーションを取っておくことはすごく大事ですし、自分のなかの許容範囲を少し広げておくのは大事ですね。

あとは、仕事をしていくうちに、「この人とは仕事をしない方がいいのでは?」という第六感が生まれるんですよ(笑)。そこは自分を信用したほうがいいです。なんとなく違和感があったり、「?」と思う人とは、後々トラブルになりやすいので、断ったほうがいいですね。そこでメンタルを病む人もいるし。それがたとえ大手の出版社の人だとしても、絶対に辞めた方がいいと思います。

ライターとして大切なのは、“報連相”

――吉田さんが思う、ライターで大事なのは、どんなことでしょうか。

本当なら、文章力とか、企画力などと言いたいのですが、そうではなくて。当たり前のことすぎて驚く方もいるでしょうけど、“報連相”(報告・連絡・相談)だと思うんです。取材に遅刻しない、締め切りを守る、もし遅れそうな場合は連絡をする。そして絶対に飛ばない(連絡が取れなくなること)。

――その基本は本当に大事ですよね。

この業界は狭いので、一度飛んだら一気にその情報は広がるし、尻拭いをしたライターさんがいることもわかってほしいし、なによりも編集部と、クライアントの信頼にも関係してくるんです。以前は、良い原稿を書いてくれるならってことで目を瞑っていた編集さんもいたと聞きますが、いまは、WEB媒体も増えて、編集部も少ない人数で回しているケースが多いので、どうしてもスピード勝負になっているところはありますよね。あとは、初対面の方のお話しを聞く機会が圧倒的に多いので、清潔感を保つことが大事だと思っています。接客業のような感覚もすごく大事ですよね。逆の立場に考えればわかりますが、初対面で心を開いてもらえるような、話しやすい人であることは大事にしています。

正解も、不正解もないからこそ、いいと思ったことを参考にしてもらえたら

――媒体によって書き分けられる力も必要ですよね。

はい。これは本当にライターのタイプによりますが、自分語りが多いものを求められる媒体と、まったく求められていない媒体があるので、そこは自分がどちらに向いているのかを把握しておくのは大事だと思います。私は音楽誌で育ったので、思いきり自分語りをしたいタイプだったんです。でも、いざ情報誌やファッション誌で書き始めたときに、「あなたのことには興味ありません」と指摘を受けてひっくりかえったことがあります(笑)。まさにその通りすぎて!

――いまは、逆に個性を出す原稿も求められることも多い印象があります。

そうですよね。時代と共に求められることはどんどん変わっていくから、正解もないし、不正解もないですが、この連載では、「エンタメ系のライターになるには、こういう方法がある」と一つの方法として思ってもらえたら嬉しいですし、共感したものはどんどん取り入れてもらって、違うと思ったら省いてもらえたらいいですよね。それに、基本的にライターという仕事は楽しいから、嫌いになってほしくないんですよ。

――本当にそれに尽きるんですよね。経験上、締め切りが重なると大変でしたけど、やりがいも多かったし、辞めたいとは思わなかったです。

むしろ、やりたいことがたくさん出てくるんですよね。私の場合はエンタメで、それ以外のジャンルのライターがどう考えているかはわからないけど、私は中学生のときに、いい曲があったら「ねえ、聴いて! めっちゃいいバンドがいるんだよ!」ってみんなに教えていたのが、そのまま続いている感覚なんです。そこがずっとブレていないから楽しいんですよね。好きなものをオススメし合いたいし、私にもしてほしい。趣味が合わなければそれはそれで仕方がないし、全員が分かり合えるわけじゃないけど、また、楽しそうなことがありそうだなって思ってもらえたら最高!

――吉田さんはライター同士での横のつながりも多いですか?

人によると思いますが、私は横のつながりをすごく大事にしています。横のつながりが生まれることで仕事が増えることもありますし、同じ仕事をしているから悩みも分かち合えるんです。もし自分がお受けできないスケジュールのときも、信頼できるライターいますよって紹介も出来ますしね。もちろん内輪ノリみたいになりすぎるのも良くないとは思いますが、情報交換もできますし、フリーランスって同僚がいない分、そういう存在は貴重ですよね。

<吉田さんのライターお仕事一式を拝見!>

PC→Windows派。最軽量タイプを選択 。Bluetoothイヤフォン→安価なのに音が良いAnkerを愛用。PCカメラ→軽量かつ遊び心のある犬型カメラ。 歯ブラシ→取材前に磨くようにしてます 。充電器&USBコード→スマホで音を録るので必携! 名刺入れ→もう10年くらい同じものを愛用 。ICレコーダー →OLYMPUSのこの型が一番使いやすい。スピーカー→家以外でオンライン取材をする際は絶対必要 ※スマホ→取材はスマホのボイスメモ機能とICレコーダーの2台回し

インタビューに必要なことは?

――最近、“インタビューライター”という名称も目立つようになりましたよね。以前はあまり聞かない言葉でしたけど、SNSなどで肩書きに入れているライターさんをよく見かけるようになりました。

インタビューができるライターということだと思うのですが、たしかにインタビューができると単価は上がると思います。ただ、やっぱりインタビューってすごく難しいんですよね。

――先日、ロンドンブーツ1号2号の田村淳さんが、”インタビュアーがAかBという答えを用意してくる人が多くて、どちらかに寄せようとするのを見ていると、「僕、ここにいなくてもよかったですよね」って言う”とつぶやかれていて。インタビューのやり方って人それぞれだなって思ったんです。

以前インタビューしたアーティストさんも同じことを言っていました。もう、そのインタビュアーの頭の中で原稿ができちゃっているんですよね。もちろん、そのインタビュアーはものすごい下調べをしているから、“こうに違いない”と思い込んでしまったんでしょうけど、答え合わせ=インタビューではないです。その人の意見を聞きに行くのがインタビューですからね。

――インタビューって、そういったことも含め、ものすごくハードルが高いんですよ。だから、お願いできるライターさんが少なくなってしまうのかもしれませんね。

そうですね。きっと編集部からしても、しっかりインタビューができるライターさんにお願いしたいと思うし。自分はインタビューが出来ますよというアピールというか、セルフブランディングの一環で“インタビューライター”という言葉が生まれたのかもしれないですね。

――それに、各ジャンルのインタビューの暗黙のルールって、たくさんありますよね。これこそ、場数を踏まないとわからない。

それは今後、いろんなライターさんと話していくうちに、私も知りたいです。それに、この連載を読んでくれたライターに興味がある人たちが、少しでも参考になってもらえたら嬉しいですね。会いたい人にも会えるし、聞きたいことを自分で聞ける、とっても楽しい仕事なので!

次回は早速、現在活躍しているライターさんに話を聞いていきます! お楽しみに~!

吉田可奈●エンタメ系フリーライター。80年生まれ。CDショップのバイヤーを経て、出版社に入社、その後独立しフリーライターに。音楽、映画、声優、舞台、アイドル、タイドラマ、オタク事が得意。InRed、TV Bros.、NYLON、awesome、ダ・ヴィンチ、B=PASSなどで執筆中。著書『シングルマザー、家を買う』『うちの子、へん? 発達障害・知的障害の子と生きる』が発売中。Twitter(@knysd1980

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