ハマる人急増中! 最新韓国ドラマ「わかっていても」が描く ”あいまいな男女関係”の脱出法

コロナ禍での「おうち時間」増加でますます勢いづく韓国ドラマ。「愛の不時着」「梨泰院クラス」を筆頭に、昨年から人気タイトルが続々と日本で公開されている。そんな中で少し異色な作品がある。「わかっていても」(Netflix)という大学を舞台にしたラブストーリーだ。いや、ラブストーリーと一言で表現するのは間違っているかもしれない。ヒロインの美大生ナビ(ハン・ソヒ)と、彼女に急接近する男子学生ジェオン(ソン・ガン)は恋仲ではない。いわゆる身体だけの“あいまいな関係”。若い学生の性に対して保守的な意識を持つ韓国において、珍しいテーマだ。日韓の若い世代を中心に話題になっているドラマ「わかっていても」をオトナの目線から解説&オススメしたい。

文/K-POPゆりこ

●Profile●
K-POPゆりこ:韓国芸能&カルチャーについて書いたりラジオで喋ったり。雑誌編集者として働いたのち、1年半のソウル生活を経験。Twitter:@yurikpop0327


最近、韓ドラ仲間の友人から『わかっていても』という作品を勧められた。興奮気味に話す彼女の言葉をまとめるとこんな内容だった。

■超イケメン大学生とのセ○レ沼に堕ちた女子大生が主人公
■超イケメン大学生が本気で最低な男、でもイケメンでつらい
■かつて苦しんだ「曖昧な男女関係」を成仏できた気がする

「“イケメン”と“つらい”言い過ぎやろ…」――心の中でそうツッコミながら、どれどれとNetflixを開いた。

恋愛は面倒だけどトキメキは楽しみたいイケメン男子と、愛なんて信じないけど恋愛はしたい女子。同じ学校に通う2人は、互いに割り切った関係を始めることに。(『わかっていても』あらすじ・Netflix公式HPより)


「大学生の恋愛ドラマなんてターゲット外」とわかっていても

あらすじを読んで「私は(僕は)作品のターゲットではないらしい」そう感じた人も一旦待ってほしい。私自身も正直「見ないかもな…」と思った。まったく共感も理解もできなかったら…と心の老化を実感しそうで怖かったのもある。しかし2日後、本命ドラマ「賢い医師生活2」を見た流れでうっかり1話を再生。いつの間にか前のめりでハマってしまった。

まず音楽がオシャレ。出てくる若者たちが超リアル。こんな子がどこかに実在しそうと思わせる生きたセリフ。気軽にマッチングアプリをスワイプする女友達キャラ(ビンナ)が出てきた瞬間「今までの韓国ラブコメとは違うかも」という予感がした。結果的に「ラブコメ」ではなかった。しくじりの恋を笑いに変えて慰めるようなコメディー要素はない。かといって悲壮感もない。「割り切った男女関係」をテーマにすると、大抵はどちらかが結局割り切れずにドロドロしてゆくものなのに、不思議とカラっとしているのも今っぽい。2021年に生きる若者の恋物語なんて「三十路の私はターゲット外」と“わかっていても”イッキ見してしまった理由は、どの世代にもいつの時代にも共通する普遍的なテーマや問いが散りばめられていたからだ。


「恋愛する気がないと言う男は地雷」だとわかっていても

この物語は浮気性の彼氏と別れて傷心の美大生ナビが“恋愛する気がない”モテ男子・ジェオンと知り合うところからスタート。ダメすぎる元彼の次にさらなるダメ男にハマるという悲しいあるある…1話から不穏な空気だ。しかも「恋愛する気がない」と言いながら関係を深めようとする男はほぼ地雷である(著者調べ)。「今は~」とか「忙しくて」などという枕詞が付こうが意味は同じで、翻訳すると「本気で愛していない」だ。どちらの立場であれ、そのセリフに心当たりがある者は心の中で手を挙げよ。

意外にもジェオンがナビの前で「恋愛はしない」と断言するシーンはなかったと記憶している。が、「恋愛って…しなきゃダメ?」などと別の言い回しでそれとなく伝えているのが狡いof狡い。周りの友人たちが「ジェオンは恋愛する気がない」と言い切っているあたり、“獲物”ではない人間の前ではそう宣言しているのだろう。そこがジェオンという男の怖い部分なのだ。ある意味ホラーである。ではもし「その気がない」相手を好きになってしまったら?ーーその最適解は最終回に出てくる。(なお、答えは一つではない)

Netflixシリーズ『わかっていても』独占配信中

「本気で恋する男はキモくなる」とわかっていても

恋愛ドラマの「お決まり」は優しくて誠実な“当て馬男子”の登場だ。「花より男子」の花沢類ポジである。ナビに片思いするドヒョクは「お料理YouTuber」という今っぽい活動をしながらも行動、態度全てが古くから脈々と受け継がれてきた王道の2番手。ナビがジェオンに弄ばれていると知りつつ、彼女に寄り添い、尽くし、真摯に想いを伝えてくれる――しかもそこそこカッコもいい。身体目当てのイケメン・ジェオンのほうがむしろリアルで、ドヒョクの方がファンタジーだ。どう考えてもドヒョクを選んだ方が正解である。

が、ナビのような若い女子の目から見て、本気で恋する男はちょっとキモいのだ。ジェオンのような余裕ぶっこき男こそ、カッコよく見えたりする。前者の重さをも可愛いと受け入れ、本気で愛してくれる男性を見極めて早々に結婚していくような賢い女子もいるが、ハタチそこそこでは少数派だろう。余裕ぶっこき男の本音と正体に気づいた時、女は大人になるのだ(解脱する時期には個人差アリ)。

そして面白いのは物語の後半、まさかのジェオンも徐々に余裕がなくなってくる。ナビを本当に愛し始めたのか、それとも単なる執着なのか。ドヒョクとは違った「重さ」を発揮してくるのでぜひご覧いただきたい。

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「恋は盲目、お花畑フィルターON」だとわかっていても

『わかっていても』の強みは「無言でも伝わる画」にある。ナビとジェオンが一緒に居るシーンだけ“恋フィルター”がかかったように画が煌めきだす。しんしんと降る雪、舞い散る桜ーーすべてが美しい。カメラが完全に「ナビの目」になりきっている。アップで映るジェオンの憂いを帯びた目、本音を隠したズルい唇は本当に魅力的だ。ハタから見れば危険な地雷畑も、恋する当事者から見るとお花畑。相手が野獣だと“わかっていても”もしかしたら王子様なのではないかと期待してしまうもの。

天性のモテ男パク・ジェオンは、そんじょそこらの(?)俳優が演じてしまっては説得力がない。少女漫画から出てきたかのような俳優ソン・ガンの完璧なスタイル、ちょっと陰のある瞳、落ち着いたSexyボイスがあってこそ成立したキャラクターだ。ナビを演じる女優ハン・ソヒの主張しない色気もたまらない。根は真面目なのにどこかユルさが隠せない女子大生の生々しさを、絶妙なバランスで表現している。


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「自己肯定感が大事」とわかっていても

登場人物は20代のオシャレな美大生たち。一見リア充たちのお気楽な学生ライフを描いたように見える。ナビだって実はかなりモテるし、友人も多い。いわゆるスクールカーストの上位にいる子だ。にもかかわらず、心から笑うシーンは多くない。元彼に浮気された傷、美術の才能を認めてもらえない焦り、家族関係の悩み。そこに加えて「気持ちを押し殺す癖」が自分を苦しめている。きちんと断れない、怒れない、主張できないーー他人目線では受け入れてくれる、面倒臭くない存在。皮肉にも元カレとジェオンという2人の浮気常習者に連続して翻弄されてしまう一因でもある。失敗から学ばなかったのではなく“わかっていても”逃れられなかったのだ。それは「他人の意思に自分を預けたい」という弱さ故でもある。社交的に見える人、リア充や陽キャと言われる人の中にも少なからずナビの要素があるのではないか。生まれ持ったカリスマ性があり、多少過激な自己主張をしても愛される、なんて人はごく一部だ(劇中のビンナはそっち側)。

後半は搾取されがちなタイプのヒロインが、だんだん人生の主導権を取り戻していく物語に変わってゆく。同時にナビの目(カメラ)はどんどんクリアに、現実を映し出し始める。彼女は『わかっていても』見て見ぬふりをしてきたことに、どう向き合うのかーー物語の結末は見てのお楽しみだが、個人的には原作漫画よりも納得感があった。今を生きる女の子はこうでなくちゃ。

〜ここからちょっとネタバレ〜


実は一番グッとくるのは脇役カップル!「愛する人が同性だとわかっていても

『わかっていても』は群像劇でもある。主人公の友人たちも魅力的なキャラクターと物語を持つ。見る人によっては友人たちの恋愛模様に、より共感してしまうかもしれない。

少しネタバレをすると複数の脇役カップルが誕生する。彼女らの共通点は「友情から生まれた恋」。最初はそれぞれマッチングアプリを駆使したり、合コンをしたりと別のところでパートナーを探すのだが、結果的に1番近くにいた友人の大切さに気づく。

そして脇役カップルのうち1組が同性同士、というところもキーポイントだ。『わかっていても』が現代の感覚にアップデートされているなと感じた部分は、単にLGBTというテーマを入れてきたことではない。登場人物たちの「スタンス」だ。一昔前の韓国ドラマだったら「同性に恋してしまったこと」自体に苦悩したり、周囲の目を気にしたりするシーンが出てきただろう。しかし今作の女子カップルはジェンダーに重きを置いていない。純粋に「告白して親友を失ったらどうしよう」「想いを受け止めてもらえなかったら…」と作中に出てくる男女のカップルと同じことで悩むのだ。またナビをはじめとする仲間たちが女友達同士の恋愛を自然に受け入れ、祝福する様子も微笑ましい。

何気ないシーンや台詞を通して「異性間の恋」も「同性間の恋」も同じように心が躍り、悩むという至極当たり前のことを気づかせてくれる。恋愛において性別は身長や髪の毛の色と同じく「その人の特徴」でしかないのだと。

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結論、『わかっていても』の見どころはジェオンのイケメンぶりでもなく、ナビの悲劇のヒロインっぷりでもない。本当にどこかの大学にいそうな、もしくは過去の同級生にいたような若者たちのリアルすぎる日常と、生々しくも羨ましい恋を覗き見する面白さ。主人公と同世代には頷きすぎて首がもげるほどの共感を、Over30の大人には遠い目で「あー…」と郷愁の念を抱かせてくれるだろう。何より、恋愛も含めた人生の選択権は全て自分にある、ということを再び思い出させてくれる。

本能のままに恋してどっぷり想い患える、人生にたった数年しかない貴重な青春時代。ちょっぴり羨ましくもある。そしてジェオンのようなズルいイケメンに振り回される危険のない、安心安全のオバサンライフもまた悪くないと思えるのだ。



Netflixシリーズ『わかっていても』独占配信中

わかっていても
Netflix公式サイト:https://www.netflix.com/jp/title/81435649
韓国公式サイト:https://tv.jtbc.joins.com/nevertheless

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TV Bros.編集部
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