【SmartNews】『マイ・ブロークン・マリコ』映画星取り& 衝撃的過ぎた巨匠の死 【2022年9月号映画コラム】

TV Bros.WEBで毎月恒例の映画の星取りコーナー。今回は「輝け!ブロスコミックアワード2020」大賞を受賞したほか、メディア芸術祭漫画部門新人賞などにも輝いた、平庫ワカによる人気コミックの映画化作品『マイ・ブロークン・マリコ』を取り上げます。

『ブロス映画自論』では、ジャン=リュック・ゴダール監督死去のニュースや、シリーズ初となる実写ドラマの製作が発表された『ブレードランナー 2099』、ロマンポルノ50周年記念プロジェクトの話題をご紹介。

(星の数は0~5で、☆☆☆☆☆~★★★★★で表記、0.5は「半」で表記)

 

<今回の評者>

渡辺麻紀(映画ライター)
わたなべ・まき●大分県出身。映画ライター。雑誌やWEB、アプリ等でインタビューやレビューを掲載。ぴあでは『海外映画取材といえばこの人! 渡辺麻紀が見た聞いた! ハリウッド アノ人のホントの顔』、ベストカーWebでは映画などに登場する印象的な車について解説するコラムを連載中。また、押井守監督による『誰も語らなかったジブリを語ろう』『シネマの神は細部に宿る』『人生のツボ』等のインタビュー&執筆を担当した。
近況:いまさらながら韓ドラにハマってます。みなさんがハマるわけがよーくわかりました、はい。

折田千鶴子(映画ライター)
おりた・ちづこ●栃木県生まれ。映画ライター、映画評論家。「TV Bros.」のほか、雑誌、ウェブ、映画パンフレットなどで映画レビュー、インタビュー記事、コラムを執筆。TV Bros.とは全くテイストの違う女性誌LEEのWeb版で「折田千鶴子のカルチャーナビ・アネックス」を不定期連載中。
近況:文句言いつつ見てた『ちむどんどん』が終わっちゃう寂しさ…。『鎌倉殿』『拾われた男』などNHKドラマづいてるな。

森直人(映画ライター)
もり・なおと●和歌山県生まれ。映画ライター、映画評論家。各種雑誌などで映画コラム、インタビュー記事を執筆。YouTubeチャンネルで配信中の、映画ファンと映画製作者による、映画ファンと映画製作者のための映画トーク番組『活弁シネマ倶楽部』ではMCを担当。
近況:意外にも日本初の正式ロードショー! 1979年の大名作『ロックンロール・ハイスクール』の劇場パンフレットに作品評を寄稿しております。

『マイ・ブロークン・マリコ』

監督/タナダユキ 出演/永野芽郁 奈緒 窪田正孝 尾美としのり 吉田羊 他
(2022年/日本/85分)

●鬱屈した日々を送る会社員のシイノトモヨは、テレビのニュースで親友のイカガワマリコが亡くなったことを知る。マリコは小学生時代から、父親にひどい虐待を受けていた……。自分ができることを考えた末、シイノはマリコの遺骨を実家から強奪し、逃亡。遺骨を抱いて旅に出るのだった。

9月30日(金)TOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開

(C)2022 映画『マイ・ブロークン・マリコ』製作委員会
配給:ハピネットファントム・スタジオ/KADOKAWA

渡辺麻紀
わりと普通のお話だった。

ブロスのコミックアワード大賞に輝いたという原作は未読。きっとスペシャルなんだろうが、映画ではそのスペシャルさを感じなかった。というのも、資料を読むと原作には「圧倒的な熱量と疾走感」とあるが、映画でそれを再現してないので、よくある話どまり。原作が大好きだったという監督の、その思い入れも伝わらない。
★★半☆☆

折田千鶴子
刺さる女の友情もの。よくぞ!

原作との相性抜群。かなり忠実で世界観を壊さぬまま、不愛想・無骨・ぶっきら棒な“3ブ”女子を描かせたら右に出るものなしのタナダ・ワールドが満開! 女同士の“友情以上恋人未満”の関係や、親友の死に直面した主人公の衝動がリアルで、涙がチョチョ切れつつ刺さる。永野芽郁のやさぐれ具合、奈緒の壊れゆく感じ、窪田正孝の飄々さ、みな素晴らしい。シリアスと笑いのバランス、その軽やかな語り口がお見事。しかも、潔い。よくぞ、ありがたや~、に近い心境。
★★★★

森直人
「あたしのダチ」の尊厳のために

内容は原作マンガに忠実で、ほとんど変えていない。それでもしっかり「タナダユキ監督の映画」になっていることに感嘆。トキシック・マスキュリニティ(有害な男性性)から生じる負の連鎖を断ち切ろうとする果敢な旅。エンディングを飾るThe ピーズの楽曲まで、社会の重力や抑圧に抗う者たちの確かな肉声が響く。
★★★半

気になる映画ニュースの、気になるその先を! ブロス映画自論

渡辺麻紀
『ブレードランナー』が実写ドラマに!

リドリー・スコットが『ブレードランナー』のTVシリーズ、題して『ブレードランナー2099』をプロデュースするという。

このタイトルから考えると『ブレードランナー』の続編、ドゥニ・ヴィルヌーヴによる『ブレードランナー2049』の50年後を舞台にしていることになりそうだ。その世界では人間とレプリカントの関係性にはどんな変化があるのか? そもそもどんな世界観を見せてくれるのか? スコットは『2049』をあまり気に入っているとは思えない。というのもとてもセンチメンタルになっていたから。スコットの辞書にセンチメンタルという言葉はないからだ、たぶん。なのでスコットは、今回のシリーズ化で方向修正をするつもり、なのではないかと思う。レプリカントが憧れる人間は、実はどうしようもない、という物語か、人間とレプリカントの立場が逆転している世界か。どちらにせよ、しょーもない人間が描かれそうな予感! 

最近のスコットは人間嫌いをまったく隠さなくなったので、どれだけ気が滅入る作品になるのか、めちゃくちゃ楽しみだ。

折田千鶴子
衝撃的過ぎた巨匠の死

やはり今月は、ジャン=リュック・ゴダールの死去以上に、衝撃が走ったニュースはないだろう。ゴダール作品に影響を受けなかった映画人なんていないだろうし(直接的、二次的、三次的に)、個人的にも初めて観た時の「な・ん・だ・これ、カッケ~」という鳥肌は忘れ難い。段々と難解を極めていって、“頑張って観る”姿勢になっていったのも否めないが、“もっと革命を、自由を、澄み切った表現を”と貫き通した反逆精神は、自分の慢心を人生の所々で反省するのに十二分に重すぎる。

「必ずしも出来る限り長生きしたいとは思わない」と発言していた巨匠の死については“自殺ほう助”によるというのも、多少の衝撃と腑に落ちるものが混じり合って受け止められる。そのスイスで正式に認められている制度は、何度も映画に登場してきたが、中でもステファノ・ブリゼ監督による『母の身終い』は、最も強く胸を打たれ、敬慕に似た感情を抱かされ印象に強い。老いと病から死を決意し、自殺ほう助制度にサインした母と、それを後から知ったミドルエイジの息子。揺るがぬ母の気持ちと、激しく葛藤し、なかなか納得できない息子の対照的な姿勢、各々の愛と信念が激しく心を揺さぶる一作である。合掌。

森直人
令和型ロマンポルノとは?

日活ロマンポルノ50周年記念プロジェクト「ROMAN PORNO NOW」(ロマンポルノ・ナウ)が始まっております。以前、45周年の時に「ロマンポルノ・リブート・プロジェクト」があって、計5作品が公開されましたが(その中で筆者が最も面白く思ったのは白石和彌監督『牝猫たち』でした)、今回は令和初のロマンポルノ。松居大悟監督『手』、白石晃士監督『愛してる!』、金子修介監督『百合の雨音』の計3作品が連続公開される運びになっております。

そもそも今、もう一回ロマンポルノをやるのって、本質的にすごく難しい。オリジナルの日活ロマンポルノが存続していたのは、1971年(昭和46年)から1988年(昭和63年)まで。まさに「昭和」の終わりと共に幕を閉じており、それは撮影所システムの実質的な終焉と重なっているわけです。

だから当時のシステムもない、ましてやジェンダーやセクシュアリティの認識に関しては急速にアップデートが続いている時代。「平成」は「昭和」のロスタイム的な延長だとよく言われますけど、さすがに今は反省もこめて「昭和」が急速に遠くなりつつある。その難しい枠組みの中で、男性監督たちがロマンポルノを手掛ける……なかなかハードルの高い仕事だと思いますが、さすが実力者ぞろいの精鋭三監督、各々健闘されているように思いました。

その中で筆者のいちばんのお気に入りは、白石晃士監督の『愛してる!』になります。これは怪作にして傑作。元レスラーの地下アイドルとして煮え切らぬ日々を送るミサ(川瀬知佐子)が、SMの女王様カノン(鳥之海凪紗)と運命の出会いを果たし、新たな世界に覚醒していくお話。SMマニアを公言する俳優・タレントの髙嶋政宏が本人役で出演しており、自身の個性をフル活用した怪演を披露します。

一見ふざけた内容なんですが、やがて「魂の解放」という主題がエモーショナルに高まり、澄明な領域へ突き抜けていくのが本当に見事。白石晃士監督はお得意のフェイク・ドキュメンタリー形式を駆使しつつ、異色のシスターフッドを描き出します。

今回の三監督の中で、金子修介監督は『OL百合族19歳』(1984年)や『ラスト・キャバレー』(1988年)など、新鋭監督としてロマンポルノの後期を担った「オリジナルの当事者」になります。最年少の松居大悟監督は、その80年代ロマンポルノの味わいに多大なリスペクトを払いつつ、現代的な視座からの批評性を加えながら、丁寧に引き継がれたように思います。

一方、白石晃士監督はさほど「ロマンポルノであること」を気にしていない感じ(笑)。いつもの特殊職人精神で、マイペースに企画の主旨を呑み込み、作家性を純粋にパワーアップさせた。それが結果的に「昭和」の文脈と切れた新しい映画を生んだように思えます。本作が掲げる「変態」の肯定は、人間の多様性に対する不寛容や欺瞞への明快な異議申し立て。これはロマンポルノと関係なく楽しめる娯楽映画であり、また逆説的な言い方ですが、令和型ロマンポルノの形として極めて冴えた回答の一例だと言えると思います。端的にめちゃくちゃ面白いので、本当におすすめ。爆笑、そして意外な感動!

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