「怒りを表明してくれることが励みになっていました」戸田真琴×竹中夏海 対談「戸田真琴フォトブック Makolin is」刊行記念特集

「戸田真琴フォトブック Makolin is」(東京ニュース通信社)の刊行を記念して、戸田真琴さんと振付師の竹中夏海さんが対談!ラブコールを送り合っていたふたりの、念願の初対面。おしゃべりが永遠に止まらない予感さえする、濃密な時間をお届けします。

取材&文/羽佐田瑤子 撮影/米玉利朋子

 

戸田真琴から届いたラストラブレター♡ フォトブックMakolin is本日発売!

 

 

第三者的な立場から、気持ちを代弁することの意味

 

戸田真琴 念願の対面です……!

 

竹中夏海 ついにお会いできましたね。私もとっても嬉しいです。

 

──お互いに、どんな印象をお持ちですか?

 

戸田 世の中に対して理不尽に感じることをきちんと怒ってくれる。語彙力ゼロな言い方で恐縮ですが、大好きです。私自身、セクシー女優として活動してきて、アイドルの方と同じような悩みを抱えることが多々ありました。たとえばほぼ立ちっぱなしで長時間の握手会、生理の日でも小さな水着を着させられて、ローアングルから撮られてしまう。

その業界の当たり前を変えていけるように、モデルさんへの細かなケアについてなるべく事務所の人やスタッフさんたちに伝えるようにしていましたが、モデル本人が言うと「気にし過ぎなわがままな子」だと認定されてしまうこともあるんです。

 

竹中 自意識過剰だと思われますよね。そんなことまったくないのに。

 

戸田 なので、マネージャーさんとアイドルの間に立つ、竹中さんのような第三者的な立場の方が発言してもらえることはものすごくありがたくて。私はアイドルではないけれど、勝手に自分の活動の“アイドル”的な部分が竹中さんによってすごく救われていました。

 

竹中 私も1年だけ子役をやっていて、女同様に子どもの意見も「わがままだ」と意見を聞いてもらえないことがあり、フラストレーションがものすごく溜まりました。なので、近くにいる第三者が意見する大切さはものすごくわかる。本当は本人の声を聞いてもらいたいけれど、時代が追いつくまでは代理で怒っていこうと思っています。

 

「私の奇妙で健気な恋心でした」

 

竹中 私が最初にやりとりさせていただいたのは、me and youのポッドキャスト「わたしたちのスリープオーバー」にまつわる特集記事で、戸田さんが『アイドル保健体育』を紹介してくださったのがきっかけでした。

 

戸田 この本は女性の身体の仕組み、生理、肌荒れといった婦人科一般的な学びをわかりやすく書いてくれていて、読みながら安心して泣いてしまいました。

 

竹中 嬉しい……『神画』『Makolin is』どちらも送ってくださったんですけどひとりの女の子なのに印象が全然違って、とても素敵でした。

 

戸田 実は、この2冊の撮影期間って2日くらいしか空いていないんです。2022年5月に期間限定でピンクヘアにして、その間に『Makolin is』のピンクヘアパートの撮影をして、撮影が終わったその足で黒髪に戻して、2日後に『神画』の撮影へ行ってというスケジュールでした。

 

竹中 そうなんですか!

 

戸田 「見た目が全然違って見える」とファンの方からもよく言われました。おもしろかったのは、ある方から「この写真は結構前のぽっちゃりしていた頃のだよね」と言われたのですが、撮影時期は同じだったんです。

つまり、見た目の印象ってメイクやスタイリングや写真を撮られる角度や光の加減などでそれだけ変わるものだなと改めて思いました。その、写真だけではわかりきれない判断基準に振り回されて「太った」「痩せた」と言われたり気にしたりして一喜一憂しているんだな、と。そう思うと、ずっときれいでいることは相当難しいし、振り回されているのもおかしいなと感じました。なので、『Makolin is』で同じ女の子を被写体に、これだけたくさんのバリエーションを見せて1冊にするっていうことは、ある意味「私のことをわかった気になるなよ」という反骨精神なのかもしれません。

 

竹中 素敵です。あとがきにも、その感じが出ていますよね。

 

戸田 ああ……伝わっていて嬉しいです。「愛してくれてありがとう」と、キラキラした思いで締めくくることもできたんですが、それはできなかった……。私は演者側として、ファンの方々がどういうものを見たいのか、ということを感じ取り続けていました。たとえば「ありのままのあなたを見たい」と言っていただいても、それに対して演者側がすることは、よりナチュラルに見えるかわいいメイクを研究することなんです。

 

──あくまでも、ファンの要望を汲んだ上での、わたし。

 

戸田 どこまでいってもそうでしたし、それは仕方のないことでした。ファンの方たちに嫌われたくない。好きでいてほしい。そういう気持ちがあるからこそ、彼ら彼女らが何を望んでいるのかを無視することが最後までできなかった。そんな気持ちを「奇妙で健気な恋心でした」と、あとがきに正直に綴らせてもらいました。

ファンとアイドルが影響し合わないことは無理なので、その関係性が幸福なものであるといいなと思いますし、自分にとってはそうでした。好きだから頑張ってしまったという、微妙なニュアンスが残るといいなと思って書いた文章です。

 

竹中 この文章を読みながら泣きました……。

 

戸田 そうですか!

 

竹中 夫がビックリするくらい号泣しましたね。

 

戸田 世にあるどの写真集も例外なく、誰かの理想を映したものです。写されたすべてを「ありのまま」だと思って受け取るのは危険なことですし、望まれる存在だからこそ多様な姿が見せられる喜びもある。

私自身「これが私のすべて」とは、すべての作品において言い切れません。でも、だからこそ面白いのではないかと思う。愛のレベルがものすごく上がったとしたら、「自分の推しはなんてわかりにくいんだ、おもしれえ」って、「元気じゃない日もかわいいな」と思ってもらえたら嬉しいです。

 

竹中 悪気なくファンの方から「今日調子悪いの?」と言われると自覚して傷ついてしまう、という話を元アイドルの子のTwitterで読んだことがあります。『タッチ』でも、あるんですよ。

みんなは(浅倉)南が今日も元気で可愛いと思っているのに、たっちゃんだけが「保健室に行くぞ」と異変に気づく。みんな、アイドルにとってのたっちゃんになりたいんですよね。
ただ、医者でない限り実務的な対応はできないので、調子が悪いことを自覚させるだけだし、逆に調子が良かったら不安にさせてしまう。発信していた子は「思っていても言わないでほしい」とオブラートに包んで伝えていて、その考えに共感しました。

「遺伝子史上最高を目指そう」

 

戸田 多くの女の子は日常的に容姿について言われ続けてしまう。そこに苦しさを感じている子に、ぜひ手に取ってもらいたいです。ふだんはほくろもシミもほうれい線まで消されてしまうけれど、今回過剰なレタッチをしていないんです。それはこの業界ですごく珍しいと思います。

 

──竹中さんはアイドル専用ジムを運営されていて、ルッキズム的な観点で身体について課題に思うこと、気をつけていることはありますか?

 

竹中 ジムではなるべく「こういう身体になろう」と、理想の体型を言わないように気をつけています。身体は遺伝子の影響が大きいので、無理して変わろうとすれば身体を壊してしまいます。目標は怪我をしにくい身体づくり。モチベーションを上げたい人には、「遺伝子史上最高を目指そう」と伝えています。

 

戸田 いいですね。世間が評価する「痩せた状態」って、人によっては相当無理しないといけないと実感したことが何度もあります。たとえば私は、言葉や作品を発信する上で持たれる、何らかの神聖なイメージと、自分のリアルなビジュアルが合致していないらしいことにずっと悩んできたんですね。

 

竹中 見た目と中身にギャップがあるね、と言われたり?

 

戸田 よく言われました。黒髪ボブの親しみやすい女の子な感じなのに、映画や文章では乖離した内容を書いていると。私がこのビジュアルで生きていること自体、間違っているんじゃないかと憂鬱になり、言葉から想起される神に近いイメージになろうとして『神画』を作りました。『神画』の撮影にあたって“絵本を作ろう”くらいの気持ちで肉体改造にチャレンジしましたけど、同じようなメニューはもう二度とやらないほうがいいと思っています。やり続けたら死ぬと思いました。殆どプロテインしか摂らず、筋トレを続ける生活をしていて、この状態は人間の生き方として正しいとは思えなかったんです。理想に合わせて自分を鍛えていくことはある意味ですごく怖かったので、『Makolin is』ではナチュラルかつ多様な側面がある自分をあらためて見せられてよかったです。

 

日々の中で麻痺していってしまう自分の感覚みたいなものを、忘れずにいることで今の自分につながる。

 

──おふたりにセカンドキャリアについても伺いたいです。戸田さんはセクシー女優を卒業されて、映像作家・文筆家としてキャリアをスタートする決断にいたったのは、どういう理由が大きかったのでしょうか?

 

戸田 もともとこの世界で生きていけるのかわからない状態で、いまもまだ不安定ですけど、他者からの評価に合わせて生きるままでは限界があるんだな、と気づいたことが大きかったです。

セクシー女優をはじめた当初は自尊心が地の底で、自分には何もないからせめて人の役に立ちたいという思いでした。うまく言葉にできないのですが、何処に行っても場に馴染めないというか変に目立ってしまうところがあって、それなら目立つのが仕事というフィールドに行くのが良いかなと思ったのもあったのですが。(セクシー女優をやる上では)自我を出さずに望まれたことだけを返していく覚悟だったのですが、それだけでは生き残れないことを6年半で感じました。

そうして自分が努力できる方向や備わっているものについて考えて、二択を並べて選んでいく。この仕事では傷ついたから辞めておこうとか、感覚に鈍感になりすぎないようにしながら、手探りで生き延びていった先で、引退を決めた気がします。

 

──ファンに望まれることを返してきた戸田さんにとって、大きな決断でしたね。

 

戸田 それもすごく大事ですが、それだけだと行きたい方向がわからなくなってしまう。なので、ちょっとした不愉快や傷ついた経験など日々の中で麻痺してしまう自分の感覚を、忘れずにいることで、今の自分につながっている気がします。

あと、信頼できる相談相手を作っておくのは大事だと思います。自分のことを大事な友だちとして思ってくれている人なら、同業じゃなくても客観的なアドバイスをくれるのでその視点は大事だなと思います。

 

竹中 私が『アイドル保健体育』を書こうと思ったのは、周りから身体について相談される機会が多くなったからでした。生理痛があまりに重くて仕事に支障が出てしまい、ピルを飲むようになったんです。そうしたら、周りからピルや婦人科について聞かれるようになって、下手なことを返せないと思いました。同年代の友だちの子どもが初潮を迎える年齢になってきて、基本を学ぶためにこの本を手にしてくれる人もいます。そうやって、大切な存在が悩んでいることに少しでも力になりたいという気持ちが、私にとって仕事のモチベーションで、選択の決め手になっている気がします。

 

──アイドル専用ジムはどのような思いから、運営を決めたのですか?

 

竹中 本を出して、問題提起をして、それで終わらせたくなかったんです。自分のできる範囲ですがアイドル業界のムードを変えていきたい。ジムがすべて解決してくれる場所だとは思わないけれど、振付師という立場からできる最大限でした。本来は運営がケアして、この場所が必要なくなるのが理想ですけどね。

セカンドキャリアという意味では、ジムで働くトレーナーの多くが元アイドル。女優やソロ歌手とは違うキャリアのロールモデルとしてアイドルの近くにいることで、選択肢は無限大だよと伝えたい気持ちがあります。最近私から声をかけた子は、アイドル時代セカンドキャリアを聞かれるのがめちゃくちゃストレスだったと話していました。

 

──そうなんですね……!

 

竹中 私も抜けていた視点でした。すごく才能のあった子だったので、卒業後はアルバイトで生活しているという噂を聞いたときは、もったいないと思う部分もあったけれど、そんなの私の傲慢。いろんな仕事を試しながら将来を考える時間は誰しも必要で、アルバイトを経て、これまでの経験を活かしたいと自分から思って来てくれるならいいですけどね。「卒業後はどうするんだろう?」と勝手に心配していたけれど、一度ホッとさせてあげる時間が必要な子もいることは覚えておきたいです。

 

戸田 すごくわかります。引退を発表してからずっと、「次はなにやるの?」と聞かれること自体がプレッシャーになってしまうこともありました。いまも焦る気持ちもあるけれど、誰にも見られているわけじゃない療養的な時間は、セカンドキャリアを考えるためにも必要ですよね。

 

──残念ながらお時間が。

 

戸田 あっという間でした! いくらでも話せそうですね、またぜひお会いしたいです。

 

竹中 こちらこそ楽しかったです! また、たっぷりお話しましょう。

 

 

竹中夏海●数々のアイドルやアーティスト、広告、テレビ番組にて振付を担当。2009年に振付師としてデビュー。その後、テレビ東京「ゴッドタン」の人気キャラクター”ヒム子“をはじめとする多くのアイドルから、様々なアーティスト、広告、番組にて振付を担当。コメンテーターとして番組出演、書籍も出版している。現在、"女性の身体も心も軽やかにしたい”という思いから「竹中夏海のココロオドル フェムテック日記」を連載中。最新著書「アイドル保健体育」(CDジャーナルムック)が発売中。https://twitter.com/tknkntm

 

戸田真琴●元セクシー女優・文筆家・映画監督。2023年1月に女優業を引退。監督作に⻑編オムニバス映画「永遠が通り過ぎていく」、著書に「あなたの孤独は美しい」(竹書房)、「人を心から愛したことがないのだと気づいてしまっても」(角川書店)、写真集に「The Light always says.」(玄光社)「神画」(主婦の友 インフォス)などがある。愛称はまこりん。

 

「戸田真琴フォトブック Makolin is」
●定価:4,400円
●発行:東京ニュース通信社
全国の書店・ネット書店(honto<https://honto.jp/netstore/pd-book_32265210.html>ほか)にてご購入いただけます。

投稿者プロフィール

戸田真琴(とだ・まこと)
戸田真琴(とだ・まこと)
2016年からセクシー女優として活動開始。2023年1月の引退を発表。本業と並行してコラムや小説等の文筆業、映画制作などの創作活動も積極的に行っている。写真集に「The Light always says.」(玄光社)監督作に長編オムニバス映画「永遠が通り過ぎていく」(2022年4月1日よりアップリンク吉祥寺にてロードショー)著書に「あなたの孤独は美しい」(竹書房)「人を心から愛したことがないのだと気づいてしまっても」(角川書店)がある。愛称は まこりん 。
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