【2023年3月号 爆笑問題 連載】『小さな声』『WBCって騒いでたけど…』天下御免の向こう見ず

シン・爆笑問題「ぼくたちYouTubeを始めました!」【前編】

シン・爆笑問題「ぼくたちYouTubeを始めました!」【後編】

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<文・太田光>
小さな声

 2023年。3月国会は紛糾していた。
 8年前の2015年。放送法の政治的公平について今までの解釈を変更するという議論を国会で行うことについて、当時の大臣に省の役人がレクチャーしたというやり取りの文書の中身に関して、文書の中に出てくる大臣が、自分の発言部分は全くの捏造だと言ったのがきっかけだった。
 野党議員が顔を赤くして質問している。
「大臣、それではあの文章は全くのデタラメだと。そうおっしゃるんですね?」
 名指しされた大臣が立ち上がりマイクに向かって答える。
「そうでございます。あそこに書いてあるようなことは私が言うはずのないことでございます。ありもしないことをあったかのように書かれた文書であり、私は捏造だと考えております」
 野党議員が再び聞く。
「それじゃあ、もしそこに書かれていることが捏造でなかったら、大臣、そして議員を辞職するということでよろしいですね」
 大臣が答える。
「結構です」
 野党議員は、当事者である官僚に聞く。
「この文書の作成者はこれを捏造であると言ってるんですか?」
 官僚が答える。
「お答え申し上げます。作成者に聞き取りをしたところ、いずれからも捏造という認識であるという発言はありませんでした。ただ他の者からは記憶にない。なにぶん8年前のことであり、個々の細かい内容までは覚えていないということもあり、正確性は確認出来ておりません」
 野党議員はもう一度確認する。
「つまりこの文書は捏造ではない。ということでよろしいんですね?」
 再び官僚が答える。
「お答え申し上げます。繰り返しになり誠に申し訳ないのですが、この文書に関しましては、作成者に確認しましたところ、捏造であるという認識はないということでした。また繰り返しになり恐縮ですが、その他の者からは、記憶にない、または、レクがあったとは思わないなどの発言もあり、正確性が確認出来ていない状況であります」
 野党議員が叫ぶ。
「ハッキリ言ってくださいよ! 捏造じゃなかったと言ってるんですよね! この文書は捏造ではない! 事実だ! ということですね?」
 官僚が立ち上がろうとするのを野党議員がさえぎった。
「もういいです! 同じことの繰り返しなんだから。大臣に聞きます。どうですか? この状況、あなたをかばってハッキリしたことが言えない状態になってるんですよ! この際ですから、キッパリと辞職なさった方がいいんじゃないですか?」
「私は、ありもしない事実の為に辞職するつもりはありません」
 野党側から一斉に野次が飛び、速記が止まり、時間も止まる。
「ケケケ、おれからの質問だニャ」
 証言台の前に立ったのは、ヘンテコリンな白くて小さい動物。耳が長くてウサギのようだが、顔は完全にネコのウサギネコだった。
 議員達は皆、議長席の前に集まって激しい口調で話している。誰もウサギネコの姿が見えてないようだ。
 ウサギネコはそんなことに構わず言った。
「ニャンだか、前にも同じようニャことがあったようニャ気がするニャ……。どうかニャぁ?」
 誰もウサギネコの声は聞こえてない。

 同じ場所。6年前。2017年。
 国有地売却問題。政府が関与していたかどうかについて。総理と野党議員がやりあっている。
「もし、私や私の妻がこの事件に少しでも関与してるようなことがあったとしたらですね、その時は私は、総理大臣も、議員も辞めますよ」
 その一言で国会は紛糾した。
「その言葉は本当ですね?」
「ええ、本当ですよ! 辞めましょう!」
 官僚は野党の追及に対して役所と学園側の交渉記録は一切残ってないと言ったが、数カ月後それがくつがえり、しかもその文書が改ざんされていたことがわかった。
 
 2018年、同国会。
 野党議員が追及する。
「もういい加減にしてくださいよ! なぜ文書を改ざんしなければならなかったのか? そんなのわかりきってるじゃないですか! 総理がこの問題に関与していたからでしょう! それ以外ないじゃないですか。ハッキリそう言ってください!」
 官僚が答える。
「お答え申し上げます。政治的な関与はなかったということに関する質問だと存じますが、普段から政治家含め、いろいろな問い合わせがあるので、あることであるというのが基本的な答えでありまして、要は不当な働きかけはなかったということでありまして……」
「何言ってるんだ!」
 と野党側から野次が飛ぶ。
 官僚は答弁を続ける。
「決裁文書の書き換えに関しましては誠に申し訳ないことをしてしまったわけですが、今になっては、当時書き換えなどをすることはなかったと言えるのですが、当時の雰囲気の中で、もちろん、不当な関与はなかったのですが、誤解を受けないようにするためにという部分が、これは申し訳ないのですが、今反省をして、謝罪を申し上げている部分であります」
 野党議員が厳しく言う。
「何言ってるんだ! 話にならないですよ! 関与があったから改ざんしたんでしょ?」
 官僚が立とうとすると野党議員が言った。
「もう結構です! 聞いても仕方ない!」
 各方面から野次。速記が止まり、時間が止まる。
 ウサギネコが質問にたった。
「ケケケ、みんニャ、興奮しすぎだニャ。おまえ達は本当に偉そうだニャぁ……政治家は与党も野党も、ニャンでそんニャに官僚に対して上から目線ニャンだニャ?……あと、官僚も、自分の下の現場の役人に対してはかニャり威張ってるニャぁ。この構造はニャンだ? ……この前、小さニャ小さニャ命が失ニャわれたのは知ってるニャ?」
 この数カ月前、役所組織の末端にいる一人の公僕。自らの雇い主は国民。と常日頃言っていた人が、公文書改ざんの作業を押し付けられ、その罪の意識に苦しみ耐えきれず自らの命を絶った。 
 ウサギネコは質問する。
「今おまえ達が話し合うべきニャのは、ここまでの過程で、ニャンで、真面目ニャ、小さニャ命が消えてしまったのか。その原因はニャにか? ということじゃニャイのかニャぁ? 国が関与したとか、誰かが辞任するべきとか、そんニャことより先に、誰が誰をどう責めて、誰が追いつめられて、誰が苦しんだのか? ニャンで人が死ニャニャきゃニャらニャかったのか? みんニャで話し合うべきじゃニャイのかニャぁ?」
 議長の回りに野党議員が集まっている。与党議員は、むっつりしたまま座っている。誰にも小さな白い動物の姿も、その動物の小さな声も聞こえてない。
 ウサギネコは総理に言う。
「おまえ、自分の言葉の影響力のこと、少しでも考えたのかニャ?」
 総理に声は聞こえない。
 ウサギネコは、官房長官に言う。
「おまえ、官僚を動すのが得意だそうだニャ? 官僚を動かして政治家が責任を取るって言ってるニャ? 今回の件はどうニャンだ?」
 官房長官に声は聞こえない。
 ウサギネコは、野党議員に言う。
「正義を追求するのはいいけど、正義の為に押し潰されちゃう小さニャ、弱いニンゲンもいる可能性があることは、ほんの少しでも気にかけニャくていいのかニャぁ?」
 野党議員に声は聞こえない。
「ケケケ、凄いニャ。政治家」

 2023年。国会。まだ時間は止まっている。
 ウサギネコが言う。

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