シン・爆笑問題「ぼくたちYouTubeを始めました!」【前編】
シン・爆笑問題「ぼくたちYouTubeを始めました!」【後編】
<文・太田光>
ヒーロー
日本から遠く離れた国に誰にも見つからない一軒の家があった。
閉めきった暗い部屋の中、一人の男がスマートフォンに言葉を打ち込んでいる。
テレビでは日本の国のニュースが映っている。連続窃盗団の話題だ。画面によく知る男達の顔写真が映し出される。
「指南役はこの他にも複数人いると見られ、黒幕の存在が指摘されていますが、今どこにいるのかは、わかっていません」
「ふん!……わかってたまるか」
男が呟く。
大丈夫だ。蓄えはじゅうぶんある。この家は誰にも見つからない。ほとぼりが冷めるまでしばらくこの中にいて、ジッとしていよう。問題は、捕まった連中が自分の存在を話すかどうかだ。
男は再びスマホから指示を出す。……吐いたら許さんぞと伝えろ。しばらくして返信が来る。
……ウゲェ……吐きそうだニャ……。
男の表情が変わる。
……ふざけてんのか……。
「ウゲェェェ!」
すぐ近くで音がした。
見ると小さな生き物が腰を屈め、床に嘔吐している。
「何?」
男は驚愕してジッと見つめる。
「ウゲーェェェ! ゲー!!!」
「お前……」
「ハァ……ハァ……ハァ……もうしわけニャイニャ……ニャンだかさっきから乗り物酔いしたみたいに気持ち悪いんだニャ。ハァ。三半規管はいいハズニャンだけどニャぁ」
そう言って口を拭うのは、奇っ怪で白い小さな動物だった。
耳が長くてウサギのようだが、顔は完全にネコのウサギネコだ。
「何者だ! なぜここに勝手に入ってきた!」
「ケケケ……おまえこそニャに者だ?」
「俺は……」
「ケッ……言えるわけニャイよニャぁ……言っておくけど、先に勝手に入ってきたのはお前だニャ」
「……何?」
ウサギネコは男の周りをニヤニヤ笑いで歩きながら言った。
「……ケケケ……先に物語の世界に勝手に入ってきたのはおまえの方だって言ってんだニャ」
男は奇っ怪な動物が喋る意味も言ってることの意味もわからなかった。
「……物語?」
「そうだニャ。……おれたちは物語の世界に生きてるんだニャ……現実の世界でニャにをやるのも自由だが、物語の世界で好き勝手ニャことをされると困るんだニャ。おれはまだ温厚ニャ方だからいいけど、怒るやつは怒るニャ。本気で怒ったらニャにするかわからニャイやつもいるニャ……くれぐれも気をつけた方がいいニャ……その方が……身のためだニャ……ウップ……ウグ……また気持ち悪いニャ……ゲッ……おまえ、よく気持ち悪くニャらないニャぁ……ゲップ……」
男の顔は青ざめていた。
これは幻覚か?
今すぐ外に出たい。こんな状況は初めてだ。
そう言えば、さっきから気分が悪い。確かに乗り物酔いのような症状だ。ずっと前から部屋が揺れているような気がする。そんなハズはないのに。
ズシン!
「フギャ!」
突然部屋が振動した。
……地震か?……いや、そんなものじゃない。もっと、何か高い所から家全体が落とされ、地面に叩きつけられたような……。
「フギャぁ!」
ウサギネコは叫んで部屋を出た。
見るとそこは一面海だった。
家の周り、三六〇度。全部が海だ。
そこは孤島だった。ちょうど家が一つギリギリ建つような小さな孤島。
「ウニャぁぁぁぁぁ?」
ウサギネコは叫んでいる。
海の向こう。遠くに海賊船のようなシルエットが漂っている。