【2023年1月号 爆笑問題 連載】『ウサギ』『「うそ」のつけない性格』天下御免の向こう見ず

シン・爆笑問題「ぼくたちYouTubeを始めました!」【前編】

シン・爆笑問題「ぼくたちYouTubeを始めました!」【後編】

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  • <文・太田光>
    ウサギ

     2023年。初頭。
     ウサギネコは、大きなリンゴの木の下のベンチに座り、レモネードを飲みながら、ゆったりとくつろいでいた。
    「のどかだニャ~」
     ふぅっとため息をつく。
     目の前に広がるのは世界だ。
    「コココッココ……」とトリが鳴きながらウサギネコの前にやってくる。
    「コケ?……アンタまだココにいるのかい?」
    「フニャ?」
    「ココ……これは驚いた。もう特に今年は始まってるぞ。ココ、こんな所でレモネード飲んでくつろいでる場合じゃないよ。ココ……今年は、アンタの出番じゃないか?」
     ウサギネコは知らん顔でレモネードをゆっくり飲む。
    「フニャ? ニャンでおれの出番ニャンだニャ?」
    「コココ! ココ! ぶったまげた!」
     ポコッ。
     トリが驚いた拍子に白い卵を産んでしまった。
    「おっ、うまそうだニャぁ」
     ウサギネコが卵を取ろうとするとトリが騒いでウサギネコを突っついた。
    「ココココラぁ! コケー! コケー! 何やってるんだ! コケココエ、コケーー!!!」
    「いたたた、痛いニャぁ……一つぐらいいいじゃニャイか。レモネードに入れるとおいしいんだニャ。ケケケ」
    「信じられない!」
     トリは大騒ぎした。
    「このドロボウネコ! コケー! コケー! ココココケーッ!」
     トリは卵を抱いて行ってしまった。
     しばらくするとイヌがやってきた。
    「ワン! ワン! ワワン! びっくりだワン!」
     ウサギネコは迷惑そうに言った。
    「ニャんだよ、うるさいニャぁ」
    「ワン! 今、トリから聞いたんだけど、お前、まだこんな所でのんびりしてるのか? ワン!」
    「ケケケ、だからおれはイヌが大嫌いニャンだ。見ればわかるニャ」
     ウサギネコは世界を見つめる。
    「なんでだワン! もう今年はとっくに始まってるんだワン! お前ウサギだろ! お前の出番だワン!」
     ウサギネコはレモネードを飲みながら言った。
    「あれ? トリから聞かニャかったかニャ? おれはネコだニャ。ドロボウネコだニャ」
    「ワワワワン? ワンだって?」
    「ニャに?」
    「ワワワ、何だって?」
    「だから、おれはネコだニャ。ウサギじゃニャイ」
    「ワワワワワワワワワ」
     イヌは目を丸くしてオシッコを漏らしている。
    「どうしたんだニャ」
    「だって、お前いつも自分のことウサギだって言ってるワン!」
    「ケケケ、そんニャこと言ったことニャイニャぁ」
    「ワワワワワワワワワワワワワワワ」
    「ケケケ、うるさいニャぁ」
    「ウキー!」と声がしたと思うと、サルがやってきた。
    「ウキウキウキー! 大丈夫かイヌくん! さっきトリくんから聞いたんだけど、ウサギがとんでもないこと言ってるんだって? ウキー?」
    「ニャンだよ?」
    「ウキキキ! ああ! 本当だ! まだこんな所でのんびりしてる! ウサギくん! もうキミの出番だろ! 早くいかないと! 人間達が困ってるぞ! ウキー!」
    「ニャにが人間だよ。知ったこっちゃニャイニャ」
     ウサギネコは世界を見つめる。
     ここ数年の人間界の営みが目の前に現れる。
     新たな伝染病が突然世界に蔓延し、人類が大混乱に陥った。人々は混乱し、各地で暴動が起きた。病院は大騒ぎになり、スポーツの祭典は延期され、街から人はいなくなった。翌年スポーツの祭典は開かれるが、直前で多くの人が怒り、傷つけあい、人々に不信感が広がっていった。リーダーが辞任し、伝染病に対抗する薬が出来るが、まだなお病気の蔓延は続いた。持てる国と持てない国の差は広がり、対策の違う国々では、経済活動も生活も全く違うものになった。翌年、大きな国と小さな国の間が起きた戦争は、人類全てを巻きこみ、人間は何の解決策も見つけられず、大勢の人々が死んでいき、戦いは更に続いた。リーダーが突然暗殺され、小さな国の政界は、大混乱に陥った。宗教団体が大勢の人々を苦しめていたことがわかると、社会はさらに混乱した。この混乱の出口がどこにあるのか、小さな人間達は、誰一人見つけ出せないでいた。
    「フニャぁ~」
     ウサギネコはため息をついてレモネードを飲む。
    「ワン! ワン! ワン! サルくん! こいつは自分がネコだって言ってるんだワン!」
    「ウキキ? だっていつもウサギだって言ってるっキー!」
     そこにトリも帰ってきて加わった。
    「コココ! こいつは卵を取ろうとしたんだ! コケコケ! ドロボウネコだよ! コココケー!」
    「ウキキ、弱ったなぁ。それじゃあ、人間達がみんな困っちゃうよ」
    「ふん!」とウサギネコは言った。

「おれはお前たちの正義ヅラが大嫌いニャンだニャ。ニャにが人間達だ。あいつらニャンかどうだっていいニャ」
「ウキーーーッ!!」
「コケケケケ!」
「ワワワン!!」
 サル、トリ、イヌは大騒ぎし出した。
「ケケケ、おれはモモタロウじゃニャイニャ。お前たちみたいにきびだんご一つで、人間の為に戦ったりしニャイ」
 確かに、サルとトリとイヌは、人間を守るためにモモタロウの家来になって鬼を退治した。
「ケケケ、ニャにがモモタロウだ。モモだか、ヒトだかわからニャイニャ」
 ウサギネコだって、ウサギだかネコだかわからないのに。と、サル、トリ、イヌは思った。
 ウサギネコは世界を見つめる。
 過去二年間。世界は大混乱だった。
 その二年、人間を守ろうとしたのがウシと、トラだ。
 ウサギネコは、後ろを見る。
 役目を終えた、ウシとトラが瀕死の状態で横たわっている。
「モ……モォ……」
「ガル……ルルル……」
この二年間、人間を守るのがいかに大変だったかがわかる。
 ウサギネコは、サル、トリ、イヌに言う。
「ケケケ、見てみろ、この二匹。お前たちがモモだかヒトだかわからニャイやつと一緒にウシだかトラだかわからニャイやつをコテンパンにした時と一緒だニャ。あんニャことがあったのに、ヒトを守ろうとしてコテンパンにやられたんだニャ。おヒトよしにもほどがあるニャ。冗談じゃニャイ。おれはヒトにはもう関わらニャイニャ」
 その時、世界の片隅から人々の声が聞こえてきた。

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