オカモトレイジ(OKAMOTO’S)、Yohji Igarashi、音楽ライター・宮崎敬太のチング(友達)同士による、K-POPをサウンド面から深掘りしていく連載。Kカルチャーに造詣の深い2人がサウンドの面からK-POPを分析しつつ、トラックメイカーYohji Igarashiと共に元ネタを探りながら理解を深めていこうという企画。
今回はK-POP界隈をざわつかせている買収にまつわるSMのお家騒動、アイドルを”推す”ということ、Yohji Igarashiの語るスクリレックスの新譜、先日大団円を迎えたKANDYTOWNの武道館ライブについてなど、幅広くおしゃべりしました。テーマは継承!
取材&文/宮崎敬太
- オカモトレイジ(OKAMOTO’S)、Yohji Igarashi、宮崎敬太 presents「レイジ、ヨージ、ケイタのチング会」20
- オカモトレイジ(OKAMOTO’S)、Yohji Igarashi、宮崎敬太 presents「レイジ、ヨージ、ケイタのチング会」19
- オカモトレイジ(OKAMOTO’S)、Yohji Igarashi、宮崎敬太 presents「レイジ、ヨージ、ケイタのチング会」18
SMとHYBEの内幕はドロドロの韓国ドラマみたい
ケイタ:今回はいま話題のHYBEとSMの買収劇について簡単に説明しようと思うよ(※取材時である3/15の情報です)。
ヨージ:SMってNCTがいるとこですよね? NCTまでHYBEに入ったら、まじでK-POP界のLVMHになっちゃいますね(笑)。
レイジ:すごい話題になってるけど、俺も実際よくわかってないんですよね。
ケイタ:新聞の経済面に載るような話だからわかんなくて当たり前だと思う。俺はたまたまそういう話が好きだからぼんやり理解はできてた。でも一個一個の要素を噛み砕いていくと、めっちゃエンタメで。韓国ドラマかってレベルで面白いんだよ。
レイジ:カカオ(※LINEみたいなインフラを持った韓国の大企業)がどうとかこうとかって話もありましたよね?
ケイタ:うん。SMといえば創業者のイ・スマンが有名だけど、今は会社を離れて別の会社・ライク企画を立ち上げてるのね。でもイ・スマンはどのアーティストにも関わってるじゃん? SMはイ・スマンの会社にプロデュース料を支払ってたの。でもそれが鬼高額で。SMの株主からめっちゃ不評だったのよ。
ヨージ:イ・スマンの会社との取引しなければ良いのではなく…?
ケイタ:切るに切れない存在だったのよ。イ・スマンはSMの創業者だし、大株主でもあるのね。しかも共同CEOの1人であるイ・ソンスにとってイ・スマンは奥さん側の叔父。韓国は儒教が深く根付いてるから、血の繋がりはないとはいえ、目上は立てなきゃいけない。現SM側からするとイ・スマンとの取引は利益相反とも言える。どうにかしたいけど、どうにもできない存在だったの。
レイジ:そこにHYBEはどう絡んでくるんですか?
ケイタ:その前にカカオが出てくるのよ。現SMのCEOは旧正月休みの初日(2月7日)にSMの持ち株をカカオに売却したの。これはイ・スマンには内緒で進められたっぽくて、ここでようやくHYBEが出てくる。HYBEはNAVERと協業してて、NAVERとカカオはライバル。イ・スマンは自分の持ち株をHYBEに売るって言い出したわけ。
レイジ:イ・スマンは寝首を搔かれてキレて、HYBEに行ったと。
ケイタ:そゆこと。HYBEとしてもSMを傘下に置けるのは悪い話じゃないと思ったんだろうね。俺としてはそっちの世界線も見てみたかったけど(笑)。でも今回のことって、結局SMのお家騒動みたいなもんで、HYBEは巻き込まれた感が強い。イ・スマンの思惑としては、自分の株をHYBEに売って、なんらかの影響力を維持したかったんだと思う。けどファンダムからの反発もあっただろうし、そもそもHYBEによる株式買収も思ったように進まなくて、結局SMはカカオに買収された。
ヨージ:結構ドロドロですね…(笑)。
ケイタ:ほんとだよね。イ・スマンがHYBEに持株を売った後、イ・ソンスがSMのYouTube公式アカウントから定期的に暴露動画挙げたりしててマジで泥沼感あった(笑)。現実にこんなこと起こってるんだって思ったもん。俺は長年SMを推してきたけど、本国の旧SMのスタンスには疑問を感じてた部分もあって。俺はSHINeeが本当に大好きで、ジョンヒョンが亡くなったことがものすごくショックだったの。ジョンヒョンが確か最初のソロ作(2015年?)を出した時に、テレビ番組でアイドルとしての自分と、本当の自分との乖離を感じるって泣きながら話してたんだよ。その頃からアイドルの個性について考えるようになったの。
レイジ:ケイタさん、よく言ってますもんね。
ケイタ:うん。アイドルを推すことは、最終的に人を推すこと。音楽も、アートワークも、コンセプトも、全部副次的な要素でしかない。だからNCTの無限拡張とか、メンバーは入れ替え可能というコンセプトも、最初に聞いた時は「正気?」って思ってた。「SMは事務所としてメンバー個人をなんだと思ってるんだ! コマじゃないんだぞ!」って。
ヨージ:意外ですね。
ケイタ:それでジョンヒョンが2017年12月18日に亡くなってから、以前のようにK-POPが聴けなくなっちゃったんだよ。しかもf(x)のソルリやKARAのハラも亡くなってしまって。しかもこの時期に世代交代もあったから、俺はBTSのブレイクもオーディション番組のことも全然知らないっていう。
レイジ:その期間に起こったムーブメントのことは面白いくらい知らないっすよね(笑)。
ケイタ:ほんと全然知らない(笑)。喪中だった。だけど不思議なもんで、俺がK-POPに帰還できたのはNCT127のおかげなんだよね。なんとなく応募してた日本ツアーのチケットが当たって、なんとなく見に行ったら、SHINeeの来日公演を見た時みたいな感動があって。しかも直後に最高すぎる「英雄」でカムバしたからまた夢中になれた。それが2020年。今後SMがどうなっていくかはわかんないけど、俺は結構期待してる。イ・ソンスってA&R時代に、自分でも音楽を理解しなきゃいけないって、作曲の勉強をしてたらしくて。そんな誠実な人なかなかいないじゃん。あと無名だけど面白いビートを作るトラックメイカーたちといっぱいコネを作って、自社でソングライティングキャンプできるスタジオを作ったり。経営陣も良い意味で世代交代して、所属アイドルや卵たちが幸せになれる環境を作ってほしい。
レイジ:ケイタさんはいつも安定して重くて最高に気持ち悪いっすね(笑)。
DJとして体に入ってない曲はかけられない
レイジ:つながるようでつながらないようでつながる話なんだけど、今日はヨージに誕生日プレゼントを持ってきたんですよ。俺とヨージは毎年誕プレ交換してて。ヨージは毎回俺のツボ中のツボをついてくるんです。今年もDJ MUNARIの『History』をくれてブチ上げてくれたし。
ヨージ:レイジが「何が欲しい」とか「これ探してる」みたいなことを日常会話でポロッと言うので覚えておいて、時間がある時にネットとか中古CD屋とかで探してます(笑)。
レイジ:俺もそういうプレゼントをヨージにあげたくて今日持ってきましたよ。
ヨージ:なんだろ?(レイジお手製の包装を開ける)……うわっ、ちょっと待って。D.Oさんの『なめんなよ』じゃん! 超嬉しい! D.Oさんが逮捕されたあと発売中止になっちゃったんだよね。
レイジ:やったー! ヨージを感動させられた! これ、なめ猫25周年を記念してメジャーが作ったいわゆる企画盤なんです。コロコロコミックの世界観なのに、普通にD.Oさんなんですよ。そこが超ヤバい。全然曲げてないんです。
ケイタ:回収されたってことは、2009年くらいの作品ってことだよね。俺はD.Oさんの自伝を手伝わせてもらった流れで、発売されなかった『JUST BALLIN’ NOW』を聴かせていただいたけど、マジであの作品が世に出なかったことで日本のヒップホップは10年遅れたと思う。USのサグをしっかり日本解釈して、しかもストリートカルチャーの文脈も踏まえて、ユーモアもある。マジで完璧な作品だった。今聴いても新鮮だと思う。
レイジ:そのバイブスがこれにもあるんです。『なめんなよ』はメジャーの座組でヒップホップをやるための教科書みたいなアルバムですよ。本物のヒップホップってこういう形でもできるんだなってすごく思いました。
ヨージ:ビートはBCDMじゃん! Gがつく前。このアルバムの存在は知ってたけど、実物を見るのは今日が初めて。
レイジ:相当レアだと思う。ヘッズの人たちですら当時はスルーしてたはず(笑)。見つけた時、絶対にヨージにあげようと思ったんです。というか、継承する感覚。
ヨージ:それはわかるかも。中古屋で小沢健二の『LIFE』と『球体の奏でる音楽』を100円とかで見つけたら“救出”の名の下に毎回買ってますもん。それこそレイジみたいな信頼できる人にあげればいいだけなんで。
レイジ:俺は基本的にフィジカルを手放さない。サブスクってめっちゃ便利だけど、もしなんからの事情で配信が止まったら聴けなくなっちゃうじゃないですか。デジタルでも継承できるようにしたのがNFTなんだろうけど、俺の感覚だとただ聴けりゃいいってもんでもないっていうか。ディグってそういうことじゃない。
ヨージ:確かに。サブスクネイティブの子たちと俺らではディグの概念が違うと思う。
レイジ:極端な例だけど、もし2ステップのDJになりたければ、適当に2ステップのプレイリストを探して全曲ダウンロードすればなれちゃうわけですよ。
ヨージ:でもDJってそういうことじゃないよね。
レイジ:そう。もちろん空気読むのはDJの基本だけど、同時にプラスアルファ自分の感覚を入れるのがDJなわけで。俺やヨージがCDやアナログをめっちゃ買うのは、かけたいけど、物が無いからかけられないって経験があるから。6年越しで探してたCDを偶然見つけた時の感動すごいじゃん。それくらい1曲への思い入れが強い。体に入ってない曲はかけられない。
ヨージ:そうそう。あと例に出たからついでに言うと、2ステップみたいなサブジャンルってめっちゃ探しにくいんですよ。ダブステップとかもそうなんだけど。ヒップホップやテクノのメジャーな棚じゃない、その他に入ってる。だから掘る以前にある程度知識が必要だし、掘りながら別の発見をすることもあったり。
レイジ:俺さ、岡村靖幸にハマってた時、レコ屋で「O」の棚を探すわけじゃん。そうすると必ずOKAMOTO’Sを見なきゃいけないんだよ。しかもそういう時に限ってファンの人に会っちゃったりして(笑)。
ケイタ:ちなみにレイジくんが「体に入ってない曲はかけられない」と言ってたけど、藤原ヒロシさんがDJを引退したのは「無意識のうちに思い入れのない曲をかけてる自分に気づいたから」って言ってた。あと坂本慎太郎さんが「ある程度量を聴かないと見えてこないものってあるじゃないですか。ガレージのレコードを1枚聴いたところでなんの意味もないわけで」(https://mikiki.tokyo.jp/articles/-/30535?page=4)と言ってたのにも通じる。音楽ってそんな浅くない。今は便利な世の中だからいろんな音楽を簡単に見つけられるけど、何を作ったり、表現する人はそこで止まったらダメかも。それだとただ音楽を消費してるだけ。
レイジ:そうですね。2ステップのプレイリストをそのままダウンロードしてるようなDJが実際にいて、しかもそれでお客さんが喜んでるって状況があるのも知ってる。それはそれで成立しちゃってる。ただ、俺はそういう人に継承はしない。
ケイタ:便利なのは最高だし、新しい感覚もまったく否定しないけど、好きなものには誠実でいたいよね。そうすると自然と継承の意味もわかってくる。それにみんなが大好きな現行のヒップホップだって継承に次ぐ継承の上に成り立ってるんだから。
D.O「悪党の詩」
ヨージが解説するスクリレックスのニューアルバム
ケイタ:で、その継承という面でヨージさんにスクリレックスのニューアルバム『クエスト・フォー・ファイヤー』について話してもらいたいんですよ。スクリレックスは特に日本で正当に評価されてない気がしてて。その見識を俺がヨージさんから継承されたい。あと今回のアルバムがめちゃくちゃかっこよかった。おそらく今後のK-POPのサウンドにも多大な影響を与えると思う。
ヨージ:シングルはここ最近も割とコンスタントにリリースしてたけど、アルバムとしては9年ぶりですからね。もう待ちに待った。結論から言うと最高。僕がスクリレックスを好きなのは、毎回新しい概念を提示してくるとこなんです。
ケイタ:スクリレックスというとすごい音圧のベースのイメージがあるけど、今作はめっちゃソリッドだった。
ヨージ:ブローステップですよね。ダブステップイコールみたくなってるけど、あれはスクリレックスが広めたサブジャンルなんです。いつもそう。スクリレックスが作って、徐々に広まっていく。EDMトラップとダブステップを融合させたり。それものちにめっちゃ一般化した。
レイジ:「Dirty Vibe」とかだよね。
Skrillex 「Dirty Vibe with Diplo, CL, & G-Dragon」
ヨージ:そうそう。ベースミュージック界隈では、あの曲からK-POPの存在を知ったというか、「そことやるのアリなんだ」と認識した人も多いと思う。あと「Dirty Vibe」は2014年くらいの曲なんですけど、このBPMでやる人はオーバーグラウンドでは当時あまりいなかったんですよ。みんなこれのハーフでリズムを取るのがどちらかというと主流で。いわゆるベースミュージックを毎度底上げしているのはスクリレックスだと僕は思ってる。今回もめちゃくちゃアップデートされててびっくりした。
レイジ:「Rumble」ヤバいよね。しょぼいサウンドシステムであの曲かけてもすごい音が出るんですよ。俺が知る限り、あの曲今一晩で20回くらいかかりますよ(笑)。
Skrillex, Fred again.. & Flowdan 「Rumble [Official Audio]」
ヨージ:「Rumble」ってよく聴くと構造はダブステップなんです。だけどあの音数がグッと絞られた感じはこれまでなかった。しかもスクリレックスらしさもあるんですよ。あれはなんて言ったらいいんだろう? ミニマルダブステップとかかな? アルバムにはいろんな要素が入ってるけど、根本にあるのはダブステップです。その混ぜ方というか、聞かせ方というか、処理の仕方というかがすべて新しい。
レイジ:ちなみに「Rumble」はいいサウンドシステムで聴くと、「進撃の巨人」の巨人に体を鷲掴みされた感覚になるんですよ。絶叫マシン。しかもスプラッシュマウンテンみたいに何回も体験したくなる。だからDJも一晩に何回もかけちゃうんだと思う。
ヨージ:「Rumble」単体にも新しいアイデアが詰め込まれまくってるし、アルバム単位でもすごいんですよ。
ケイタ:俺は完全にスクリレックス初心者だけど、前にヨージさんのビッグルーム系のEDMの話を聞いて以来、かなり感じ方が変わってきてて。そもそもダブステップってブリアルとかコード9とかマイナージャンルだったじゃないですか。でも気づいたらめっちゃメジャーになってた。それってなんでなんですか? 死語だけど、セルアウトみたいなことでもないと思うんですよ。
レイジ:スクリレックスはロックで言うU2みたいな存在ってことですよね。もともとはめちゃ社会派のバンドだったけど、気づいたら世界中に影響を与えるバンドになってて、カルチャーレベルでは誰も話題にしないけど、彼らがブレイクした背景にあること知る意味、みたいな。
ヨージ:それで言うとやっぱフェスだと思うよ。
レイジ:でもさ、例えばドイツの『ラブパレード』みたいのはずっとあったわけじゃん。ダンスミュージック好きな人が集まって町中が踊りまくるみたいな。でも、スクリレックス以降の盛り上がり方ってそことも全然違うよね。何が違うのかな……。俺が思うに、CDJを使うDJが増えたってのはひとつの要因としてあると思う。
ケイタ:どういうこと?
レイジ:俺、昔にフェスにバイナルをいっぱい持って行ってDJしたことあるんです。そしたら低音が出る曲だとすぐ針が飛んじゃってまったくDJできなかったんです。何万人規模の観客にまんべんなく届けるサウンドシステムで、スクリレックスみたいな音楽をかけたらステージ上はとんでもないことなってると思うんですよ。少なくともバイナルではDJできないはず。
ケイタ:低音の概念が変わったってことか。個人的にはスクリレックスのルーツにヘヴィロックの概念があったことも関係してるよね。スクリレックスと宇多田ヒカルが初めて出会ったのはメタリカのコンサート会場だったらしいし(笑)。そういう意味ではめっちゃ面白いな。ダブステップってそもそもはレゲエの派生で、ヒップホップもロックもドラムンベースも大好きな少年がまったく新しい解釈の音楽を作ってるってことでしょ。
レイジ:しかもG-DRAGONもCLもUSに引っ張ってきてますからね(笑)。今回のアルバムで俺もめっちゃスクリレックス気になってたんで、これからディグることにしました。
ケイタ:目新しいサウンドが好きなケーポペンたちもスクリレックスの『クエスト・フォー・ファイヤー』はチェックしといてほしいです! このアルバムは今後も継承され続けていくと思います。
すぐにヒップホップのビートを作りたくなった
レイジ:継承って話だと、最後にKANDYTOWNの話をしたいんですよ。
ヨージ:武道館、マジでヤバかった。
レイジ:セットリスト的にはすごく充実してたけど、あっという間に終わった感じ。めちゃくちゃ(観客が)入ってたよね。俺、バンドとして武道館のステージに立ったことあるけどセンターステージは経験したことなくて。上から下までびっちり。チケットだって9800円もしたのに。それが即完ですよ。着券率もハンパないはず。憶測ですけど、日本武道館単独公演をやった日本のヒップホップグループとしては過去最高に動員してんじゃないかな。もしかしたらKREVAとかリップ・スライムとかもこういう形でやってるかもしんないけど。
この記事の続きは有料会員限定です。有料会員登録いただけますと続きをお読みいただけます。有料会員登録はコチラ
投稿者プロフィール
- テレビ雑誌「TV Bros.」の豪華連載陣によるコラムや様々な特集、過去配信記事のアーカイブ(※一部記事はアーカイブされない可能性があります)などが月額800円でお楽しみいただけるデジタル定期購読サービスです。