「漫画を雑誌で語る」の第3弾は、前回に引き続き青年漫画誌の登場。『ガロ』と『COM』が相次いで創刊され、ついに登場したのが『ビッグコミック』だった…という話題でスタートしかけたところ、あの訃報が舞い込んだのであります。
取材・構成/渡辺麻紀
漫画は時代そのものに影響を与えて、単なる娯楽を超えてしまった
――押井さん、今回は『ビッグコミック』です。いまだに健在な青年誌ですね。
『ビッグコミック』と言えば、今でも連載が続いているさいとうたかをの『ゴルゴ13』だよね。でも、彼は最初から……。
――お、押井さん、何と今、さいとうたかをが亡くなったって。
は? 何言ってるの、このコロナで『ゴルゴ13』が休載というニュースをNHKが流していたけど、死んじゃいないよ。
――いやいや、いまネットのニュースで流れて来たんですよ! 4日前に亡くなっていたそうです。すい臓がんだったようですね。
それはびっくり。いまから話そうと思っていたんだけど……さすがに終わるのかな?『ゴルゴ』。
――どうなんでしょうね。
でも、彼が『ビッグコミック』創刊のときに描いていたのは『何とかの鷹』という私立探偵を主人公にした漫画だったんだよ。ガタイだけはいいけど、頭のほうはイマイチの男で、その相棒みたいなのがグラマーで頭の切れる女性という組み合わせ。ふたりして事件を解決するんですよ。確かボクサー上がりの男だったような気が……。
――調べてみたら『捜し屋はげ鷹登場‼』という漫画ですね。確かに元ボクサーという設定です。
そうそう、そういうタイトル。私の記憶によるとさいとうたかをの久々のオリジナルだったんじゃないのかな。それまで『007』とか『ナポレオン・ソロ』のコミカライズばかりやっていたから。
この漫画には毎回、濡れ場があったんですよ。『ナポレオン・ソロ』なんて軽くキスして終わりだったのに、ここに来て濃厚なベッドシーンになった。ムッチムチのバタ臭い、さいとうたかを好みのおねえさんが出てくる。『ゴルゴ』でも毎回描いている濡れ場はここからですよ。
でも、やっぱり中途半端だった。というのも主人公の職業が私立探偵だから、人を殺すわけでもなく、アクションと言えば警備員のおっさんを殴るくらい。それってどうなのよ、なんて思っていたら突然、『ゴルゴ13』が始まった。それまでどんな紆余曲折があったかは知らないけど突然、『はげ鷹』が終わって『ゴルゴ』になったんですよ。
最初は「いまどき世界を股にかける殺し屋ってどうよ? 時代錯誤じゃねえの?」という反応だった。ジェームズ・ボンドやナポレオン・ソロのように大きな組織がバックについているわけでもない一匹狼の殺し屋、しかも東洋人という設定は、貸本屋時代に戻った感じ。さいとうたかをが貸本屋出身だったからね。
ところが、スタートしたらめちゃくちゃ面白かった。何がそんなに面白かったかというと、アクチュアルだったんですよ。とてもポリティカルで同時代性があった。CIAやMI6が入り乱れるエスピオナージの世界がちゃんと背景になっていたんだよね。テロ、実行部隊としてゴルゴを呼ぶという設定にとてもリアリティがある。しかも成功率100%なんだから。
――ということは、21世紀になっても連載が続いていたのは、そうやって時代を取り込み続けていたからですね。
そうです。だから連載がスタートしたときから『ビッグコミック』の看板作品というより、もう「顔」になったと言っていいくらい。ともに歴史を歩んだんです。
――ほかにはどんな作家が描いていたんですか?
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