一番嬉しかったレース、悔しかったレース【藤田菜七子 2021年9月号 連載】

 9月18、19、20日に行われた3日間競馬で、7鞍に騎乗。2016年3月5日の初騎乗から数えて、JRA通算の騎乗回数が2992回となり、3000まで残り8となりました。

 3000回馬に乗って、3000回返し馬をして、3000回ゲートを出て、3000回勝負に挑む――。落馬事故などにより、3000頭すべての馬とゴール板を駆け抜けることが出来なかったことを思うと心は痛みますが…それでもやっぱり、デビュー当時は、想像もできなかった数字です。

 調教師の先生、厩務員さん、馬主さん、そして、応援してくださるファンのみなさん…わたしにチャンスをくれた、たくさんの方に、あらためて感謝です。

 初騎乗。初勝利。初めての重賞挑戦…馬に語りかけた言葉、息遣い、風の匂い…はっきりと思い出すことができます。

 女性騎手の最多勝利更新。通算100勝。夢にまで見たGⅠ初挑戦…鳴りやまない拍手と歓声。降り注ぐ、おめでとうのコール…ひとつひとつが鮮明に蘇ります。

 レースでは、嬉しかったこと以上に…というか、嬉しいことをはるかに超えて、悔しいことがたくさんありました。

 騎乗回数2992回の内、勝ったのは139回。引き算をすると、2853回は負けて、悔しい思いをしていたことになります。勝つことより、負けることの方が多いのが競馬…それはわかっていますが、負け続けるとやっぱり凹みます。

 もっとも、最初の頃は、レースに負けて悔し涙を流していましたが、最近は、よく言えば、すぐに気持ちの切り替えができるくらいタフに。ストレートに言ってしまうと、ヤジを聞き流せるくらい、だいぶ、ずぶとくなってきましたが(苦笑)。

 

 一番嬉しかったレースは、JRAのレースではありませんが、2年目…2019年6月30日に、スウェーデンのブローパーク競馬場で挙げた、海外初勝利です。ウィメンズジョッキーズワールドカップ2019の総合優勝というオマケまで付いたこの勝ち星は、私にとっては、大きな大きな1勝でした。

 コロナ禍の影響もあって、今は海外に行けていませんが、“世界”の2文字は、私にとって、やっぱり憧れであり、夢です。

 オーストラリア、アメリカ、香港、サウジアラビア、ドバイと単身、海外の競馬場をめぐり、技術と経験を積み重ねている同期の坂井瑠星騎手が今月、フランス競馬に参戦、初勝利を挙げました。簡単に真似できることじゃないし、心から、すごい! と思います。同期ですが、尊敬しているし、同期だからこそ、私も負けていられないという気持ちになります。

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